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暴剣娘の傍見的冒険  作者: 軌条
邪教の虜
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叢樹

 フェリックスは舌打ちした。パメラを都市まで送り届けたらもう知らぬ存ぜぬを決め込むつもりだったのに、都市まで送ることさえできずにサツメ教に拐

かされてしまっては、放っておくわけにはいかない。


 自分が干渉するのはここまで。と線引きしてしまったのが間違いだったのかもしれない。問題なくパメラをグラント市まで送れていたら、もう自分は関係ないと突っぱねることもできただろうに。


 もしかすると、フェリックスがそう考えると読んで、コーラはわざとパメラを敵の手に渡したのかもしれない。一瞬だけそう思ったが、まさかそんなことをあの少女が考えるはずもない。きっと偶然こうなっただけだ。



 フェリックスが森の中を疾駆し、踏み込む。黒い道衣を来た男女が気付いたときには、彼らは膝裏を剣の平で打ち砕かれ、まともに立つこともできなくなった。


 ひぃひぃ悲鳴を上げる彼らを見渡す。パメラの姿がない。


「おい、お前ら、パメラをどうした」

「な、なんだきみは……! 追い剥ぎか? 偉大なるサツメの天譴を受けるがいい……!」

「戯言はよせ。時間がない。パメラはどこに行った?」

「罰当たりな奴め、今に見ていろ、我らが偉大なるサツメが……」


 フェリックスが剣を意味もなく振った。その剣風が彼らの信仰心をいとも容易く吹き飛ばしてしまったようだ。彼らは膝を押さえながら森の奥を指差した。


「パメラは生贄となる運命……。ギボンズ司祭長が連れて行った……」

「司祭長? それはギボンズの弟のほうか、それとも兄?」

「弟のほうだ……。兄はいまや教団の有力者……、司教である」


 ろくに統制も取れていない小さな教団のくせに、そういう序列はしっかりつけられているのか。フェリックスはそれを滑稽に思いつつも、教徒たちが指差した方向へ進んだ。


 グラント市近くにあるこの森に名前はつけられていない。グラント市の所轄領なので、グラントの森とでも言えばいいのだろう。数十年前に大規模な手入れが行われ、その際に生息していた魔物を一網打尽にした。そのとき入手した魔物の形質エキスが他国に大量に流出し、一時問題になったことがある。


 この森に魔物はいないはずだった。だからフェリックスの死神の形質エキスに反応して敵が湧くということもないはずだった。


 だが、


「お前か! 我らが崇高なる儀式の妨害を企む悪漢というのは!」


 サツメ教徒と思われる戦士の一団が森の中から現れた。彼らはフェリックスを待ち構えていたのか、あっという間に四方八方を取り囲んでしまった。


 フェリックスは頭を掻いた。


「いや、俺としては、お前らの邪魔をするつもりは毛頭ない。ただ、パメラという女を取り戻しに来ただけで」

「パメラは生贄に捧げられることが決まっている! 既に神の御許にその首を晒している状況である! 取り戻すなんて、なんと恐ろしいことを……」

「彼女は生贄になることを望んでいない。そんなことも分からないのか」

「偉大なる神の御意志の前に一個人の思いなど塵芥ほどの価値もない! そんなことも分からんとは浅はかな奴!」

「別に浅はかでも何でもいいがな。俺は俺の責任を果たしにきた。お前らもお前らなりの思いがあって俺を叩きのめそうとそうやって武器を持ち出してきたんだろう」


 フェリックスは抜き放ったままの剣をゆったりと構えた。


「武力で解決することには賛成だ、俺の得意分野なもんでな……」


 サツメ教徒の中には魔人トレイターもいた。恐らくそれで気が大きくなっているのだろう。だがフェリックスの相手ではなかった。


 一人倒すたびに数を数えていた。25人を数えたところで敵が撤退した。最初はもっと多かった気がしたが、所詮は戦いの素人、まともな連携を見せる前に及び腰になって、早々に退散してしまった。フェリックスは嘆息し、まともに話ができそうな男に近付いて話しかけた。


「パメラはどこだ。儀式場か? 儀式場はどこにある。そう言えば、儀式の前に聖なる泉で身を清めるとか何とか言っていた気がするな」

「誰が言うものか……、ええい、殺せ!」

「あいにく、人殺しに抵抗のある人間ではない。殺せと言われれば本当に殺すぞ」


 フェリックスがまたもや意味もなく剣を振った。早々に折れるかと思ったが、その男はふんぞり返っていた。


「脅しているつもりか! 私は敬虔なるサツメ教徒である!」

「立派なもんだな……」


 フェリックスが剣を振りかぶる。その男の足の甲に剣を突き刺した。


「あっ、ぐわああ!」


 男が悲鳴を上げる。目が血走り、フェリックスを信じられない、とでも言わんばかりに睨んだ。


「お前らの儀式では、生贄を串刺しにするんじゃなかったのか? 殺しを是とした教義だったはずだ。これくらいで音を上げるなんて、お前、本当に敬虔なサツメ教徒なのか?」

「馬鹿をっ……、言え! クソがっ!」

「自堕落で刹那的な教義を掲げているらしいな。結局のところ、お前らは好き勝手やりたいだけなんだろう? 気に喰わない奴を仲間内で血祭りに上げて、それで言うわけだ、サツメ神万歳」

「黙れ……! 殺せ! 殺せぇっ!」

「儀式はどこの拠点で行われるんだ、言え」


 フェリックスがもう片方の足に剣を突き刺そうとしたとき、その男はやっと観念した。殺せ殺せと喚きながらも、とある地点に行けと小声で言う。恐らく、他の信者の手前、おおっぴらにフェリックスに屈服するわけにはいかなかったのだろう。信仰心というよりも他の信者からの軽蔑が怖かったのだろうか。


 きっと男が屈服したことは、他の信者は気付いていない。殺せ殺せと連呼するこの男の声だけが届いているはずだ。


「そうか、そこまで言うなら仕方ない、殺してやる」


 フェリックスがそう言うと男は驚愕の眼を見開いた。教えたはずだろう、お前は鬼か、とでも言いたげだった。フェリックスは苦笑した。


「ああ、すまん、ちょっとふざけただけだ。教えてくれてありがとう、儀式の場所をな!」


 フェリックスは敢えて大声で礼を言い、その場を走り去った。我ながら、悪党だな、と呆れた。


 森を走り、たまに空を見上げるが、コーラが暴れている気配はしない。あの女は暴れて欲しいときに暴れてくれないのだな。フェリックスは忌々しく思いながらも、教えられた拠点に凄まじい速度で近付きつつあった。


「そこまでだ」


 声が降ってきた。フェリックスは一歩飛びずさった。巨大な炎球が上方から飛来し、地面を焦がした。


 フェリックスはつと視線を持ち上げる。大木の枝の上に立つ長身の男を見る。褐色の肌に赤い瞳。全身に刺青を施し、牙が生え出ている。


「……ギボンズ兄弟の兄のほうか?」

「弟が世話になったようだな。死神のフェリックス」

「俺を知っているのか」

「当然だ。お前は有名人だからな。内向的な男だと聞いていたが、随分積極的に動くじゃないか。どういう風の吹き回しだ」

「別に。ちょっとした気紛れだ」

「そうだろうな。だがその気紛れが原因で命を落とすことになるとは。同情するよ」

「司教猊下の慈悲を賜り光栄だ。……いくぞ」


 フェリックスは跳躍した。ギボンズは枝の上で身構え、口から炎を吐いた。それは渦を巻き、姿を変えながら迫ってくる。炎蜥サラマンダーの能力。フェリックスは剣を払いそれを突破しようとしたが炎がバラバラに四散し様々な角度から襲ってきた。


「燃えろ! 死神!」


 ギボンズ兄が笑っている。フェリックスもまた、笑っていた。近くの枝に掴まり、攀じ登りながらギボンズを見据える。


「良い火力だ。どうだろう、俺は今、家を建て直しているところなんだが、新居が出来たら風呂焚き係で雇われてみないか? なかなか良い加減だった」

「ほざくな! 死神よ、お前は賞金稼ぎなのだろう? この首を取ってみろ! 最近は骨のない奴らばかり相手して、退屈していたところだ」

「ほう……、俺は今、その退屈ってやつが恋しくなりかけているところなんだがね」


 フェリックスとギボンズが樹上で激突した。空から舞い落ちる火の粉が湿った地面に触れて白い煙を立てていた。







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