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第2章 Ep7:騎士団進軍


 王都からノクターン領へ続く街道。


 500騎の重装騎兵が、整然と行軍していた。


 その行列の長さは、優に2キロメートルを超える。先頭から最後尾まで、『うねる竜』のようだ。


 王国最強と謳われる『近衛騎士団』。その称号は伊達ではない。全員がミスリル合金製の最高級装甲を身に纏い、馬も『戦闘用の純血種』。騎士の平均身長は185センチを超え、馬との合計高さは3メートルを優に超える。


 その上、聖女マリエルの『ヘイスト』魔法が全員に付与されている。通常なら3日かかる行程が、わずか『半日』で達成される。


 先頭を走る騎士団長『グレン』は、愛馬の首を撫でながら、心中で『違和感』を感じていた。


「(……おかしい)」


 彼は『武人』だ。十数年のキャリアで、数百の戦場を経験している。その『勘』が、何かを告げていた。


 それは『速度』についてではない。『道路』についてだ。


「(この路面……)」


 グレンは視線を下げた。


 馬の蹄が踏みしめる『道』を眺める。


 茶色い土ではない。黒い、硬い、滑らかな物質。かつて、王都郊外で見たことのある『舗装された道路』と同じだ。


 だが、異世界の『田舎領地』に、こんな『先進的な道路』があるはずがない。


「(築造時間は……少なくとも『数ヶ月』。規模から判断して、『領民全員を総動員しても』『1年はかかる工事』のはずだ。『なぜ』『こんなことを』……)」


 グレンは『武力』では測れない『脅威』を感じた。


 組織力。計画性。実行力。


 つまり、ノクターン領の悪役令嬢『レティシア』は、『戦略家』である可能性が高い。


『わあ、すごい。この道路、キャスト時間ゼロだ』


 隣を並走する『空飛ぶバケツ』の上から、聖女マリエルが声を上げた。


 彼女は『感動的に』舗装道路を眺めている。だが、その目は『感動』ではなく『冷たい分析』を映していた。


「『ロード時間(地形移動の処理時間)』がほぼゼロ。フラットで、かつ『キャスト・スピード』が最適化されてる。この道路、『誰が設計した』のかな?」


 マリエルは上空300メートルから、『空間把握』を行っていた。


 道路の『幅員』。『勾配』。『カーブの角度』。『排水溝の配置』。


 すべてが『最適化』されている。


「(この整地技術は『魔法』じゃなくて『土木工事』だね。しかも『レベルが高い』。現地の文明レベルじゃ『絶対に不可能』。となると……)」


 マリエルの表情が『冷たく』なった。


「(この領地の主『レティシア・ノクターン』は、『私と同じ』『あちら側』の知識を持つ存在……という仮説が『確実度95%』に上がった。ふーん。なるほどね。こいつは『格上』かもしれない)」


 だが、彼女の唇には『薄い笑み』が浮かんでいた。


 それは『危険を認識した時の笑み』。『強敵に出会った時の武人の笑み』。


 グレンは、マリエルの『顔色の変化』を見逃さなかった。


 聖女の『マスク』が、一瞬『外れた』。


## 2. グレンの矜持——利用される自覚


「ねえ、グレン団長」


 マリエルが呼びかけた。


「この領地の悪役令嬢『レティシア・ノクターン』、どう思う?」


 グレンは返答を『慎重に』選んだ。


「……『狂人』だと聞いている。領民をこき使い、奇怪な『土木工事』に熱中しているらしい。『王家の安全保障』という『正当な理由』すら無視して」


 彼の言葉は『正確に』『客観的に』選ばれている。


 グレンは『常識人』だ。十数年の武人経験は『感情』ではなく『理性』を優先させることを教えている。


 マリエルのような『規格外の存在』も恐ろしいが、レティシアのような『理解不能な行動』をとる貴族も同じくらい『警戒対象』だった。


「ふーん。『狂人』ね」


 マリエルは『鼻で笑った』。


 その笑顔には『明らかに』『相手を見下した感情』が含まれていた。


「グレン団長。『縛りプレイ』って知ってる?」


「『縛り』……? 『拷問の一種』か?」


「違うよ」


 マリエルはバケツの上で『身体を回転』させた。


「『わざわざ不便なルール』を『自分に課して』『苦労することを楽しむ』『変態の遊び方』。例えば『魔法で一瞬に移動できるのに』『わざわざ物理的に道を作る』とか『上下水道を整備する』とか『市役所の行政改革をやる』とか」


 マリエルの『分析』は『正確』だった。


「全部『仕様通り』『正攻法』『地道に』『システムに敬意を払いながら』『最適解を目指す』。……バッカみたい」


 彼女の声には『明確な軽蔑』が含まれていた。


 それは『圧倒的な優越感』に基づいた『軽蔑』。


「私にとってね、『ゲーム』とは『攻略する』ものなの。バグだろうがグリッチだろうが『使えるものは全て使う』。『物理法則を無視する』『システムバグを悪用する』『想定外の手段で目標を達成する』。それが『RTA走者の正義』」


 マリエルは『杖をくるくると』回した。


「対してね、『このお嬢様』のやり方は『古い』の。『懐古厨』。『レトロゲーマー』。『古臭い攻略法に固執して、新しい技術を否定する人間』」


 グレンは『沈黙』していた。


 だが、彼は『気づいていた』。


 マリエルの『この言葉』には『大きな危険性』が隠れていることを。


 相手を『完全に見下すこと』は『戦場では致命的な判断ミス』となる。


 だが、『聖女に忠告すること』は『グレンの立場では不可能』だ。


 彼は『騎士団長』であり『聖女の護衛』であり『王家の代理人』。だが『聖女の『判断』には逆らえない』。


「『まじめにレベル上げして』『まじめに装備を作って』『まじめに戦う』。そんな『正当法』で『システムを無視する』『私に勝てると思うのかな』?」


 マリエルは『前方』『ノクターン領の防壁』を眺めた。


 その防壁は『見た感じ』『標準的な領地防御施設』だ。


 何か『特別な魔法的加工』があるわけでもなく『ただの石造りの壁』。


「『努力は裏切らない』? 『嘘だ』。『バグ(理不尽)』は『努力を凌駕する』。それが『このクソゲー化した世界』の『真理』」


 マリエルの『思考回路』は『確かに』『正しい』。


 彼女は『システムの矛盾』を『その身で理解』している。


 『物理法則を無視するバグ魔法』によって『ヘイスト』を得た。『通常3日の行軍を半日に短縮』できた。


 『システムの『バグ』によって『努力の人間』は『敗北する』。


 だが『バグの人間』である『マリエル』は『必ず勝つ』。


 それが『彼女の確信』だった。


## 3. グレン・矜持を砕かれて


 グレンは『馬上』で『静かに』『マリエルの言葉』を聞いていた。


 だが『心中』では『激しい葛藤』が起きていた。


「(『マリエル様』の『言葉』は『論理的に正しい』。『バグは努力を凌駕する』という『世界の真理』も『認めざるを得ない』)」


 グレンは『武人』として『潔い』男だ。『勝てない相手』に対して『負けを認める』ことができる。


 だが『同時に』『彼は気づいていた』。


「(『俺は『マリエル様』に『利用されている』『ただの駒』。『護衛』『戦力』『王家の代理人』という『肩書き』で『縛られた』『操り人形』)」


 グレンは『十数年の武人生涯』で『初めて』『深い自己嫌悪』に陥った。


 彼は『強い』。『騎士団長』として『500人の信頼』を集めている。『王家からも厚い信頼』を寄せられている。


 だが『聖女マリエル』の『前には』『完全に無力』だ。


 『魔力の差』『システム理解の差』『戦略的思考の差』。


 『あらゆる面』で『圧倒的に』『負けている』。


「(『俺たちは』『この聖女の『下位互換』『オプション機能』『背景キャラクター』にすぎない)」


 グレンは『その苦い現実』を『ひしひしと』感じていた。


 それでも『彼は』『先頭を走り続ける』『リーダーとしての使命』を『果たし続けなければならない』。


 『500人の騎士たち』は『彼に信頼している』。『グレン団長は強い』『グレン団長は正しい』『グレン団長について行けば勝てる』。


 だが『その信頼は』『詐欺に等しい』。


 『グレン』は『単なる駒』『マリエルの『附属品』』。


 『真の戦略者』『真の力を持つ者』は『聖女マリエル』だ。


「『教えてあげるよ、お嬢様。『真の攻略』ってやつをさ』」


 マリエルは『前方の防壁』を見つめながら『呟いた』。


 『彼女の顔』には『勝利の確信』が満ちていた。


 『戦いは既に決まっている』『『レティシア・ノクターン』『どんな『隠し玉』『準備』があろうとも』『バグの力の前には無意味』『そう彼女は思っていた』。


 グレンは『その全てを』『黙って見守る』『どうすることもできない』『武人としての矜持も砕かれた』『完全に利用されるだけの存在』。


 『防壁への距離』『残り8キロメートル』。


 『時間』『残り30分弱』。


 『戦場の時計』は『不可逆的に』『刻み続ける』。


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