第1章 Ep10(最終話):衝突、そして強制終了(システムクラッシュ)
ノクターン領の入り口、舗装されたばかりの「スーパーハイウェイ」の上に、一人の少女が降り立った。
マリエル・ブラン。
全身を伝説級の装備で固め、その周囲には王都から持ち込んだ「処理落ち(ラグ)」の瘴気が漂っている。
「へえ、ここがノクターン領……。なんか、テクスチャの解像度高くない?」
彼女が足を踏み出した瞬間、異変が起きた。
バヂヂヂッ!!
空間が火花を散らしたのだ。
「えっ、痛っ!? 何これ、見えない壁?」
マリエルは後ずさった。
彼女の体を、この領地の空間(最適化されたサーバー)が異物として拒絶しているのだ。
『対魔断熱材』が正常に作動している証拠である。
その時、前方の丘の上に、優雅に扇を広げる金髪縦ロールの姿があった。
「ようこそ、我が要塞へ。歓迎しないわよ、バグ聖女」
レティシア・ノクターン。
彼女の背後には、賢者の四重奏(AI)たちがホログラムを展開し、厳戒態勢を敷いている。
「あ、悪役令嬢だ。……ねえ、ちょっと通してくれない? ここ以外、世界中が重くてカクカクしてて気持ち悪いの」
「お断りよ! 貴方を入れたら、私が徹夜で整備したインフラが汚染されるでしょう!」
「ケチ。じゃあ、無理やり通るね」
マリエルは「聖女の杖」を構えた。
攻撃力9999オーバーの、論理崩壊兵器。
「食らえ、ヒール(即死攻撃)!」
「展開! ファイアウォール(物理)!」
レティシアが叫ぶと同時に、地面から巨大な防壁が競り上がった。
土魔法による多重構造の遮蔽壁。
マリエルの放った極大魔法が直撃し――。
## 2. 処理落ちの果てに
ドォォォォォォン!!
世界が揺れた。
いや、揺れたのではない。
止まった。
**FPS: 0**
空中で爆発のエフェクトが静止する。
飛び散る瓦礫が、空中でピタリと止まる。
レティシアの叫び顔も、マリエルの無邪気な笑顔も、すべてが凍りついたように動かない。
『警告。処理負荷が限界を超えました』
『警告。論理矛盾を検知』
『解決不能なエラーが発生しました。強制終了します』
世界に、無機質なシステム音声が響き渡る。
誰の声でもない。この世界を管理する「運営(神)」のエラーメッセージだ。
(……え?)
レティシアの意識だけが、動かない体の中で辛うじて機能していた。
視界が砂嵐に覆われていく。
紫色に染まる空。
剥がれ落ちる地面。
(落ちる……! サーバーが落ちる……!)
マリエルの「最強の矛」と、レティシアの「最強の盾」がぶつかり合った結果、この世界の方が耐えきれなかったのだ。
『セーブデータの破損を確認』
『バックアップからの復元を試みます……失敗』
『ニューゲーム(強くてニューゲーム)モードで再起動します』
文字が視界を埋め尽くす。
『引継ぎ要素を確認中……』
『・レティシア:領地インフラデータ(マップID: Nocturne_v2.0)』
『・マリエル:所持品データ(Inventory_All)』
『・ユリウス:初期化(Reset)』
(ちょっと神様!? 初期化ってどういうこと!? せっかく道路作ったのに、また入学式からやり直し!?)
レティシアの魂の叫びは届かない。
世界はホワイトアウトした。
## 3. 2周目の朝
ピピピッ、ピピピッ。
目覚まし時計の音が鳴る。
「……はっ!」
レティシアは飛び起きた。
そこは、見慣れた実家のベッド……ではなく、王都のタウンハウスの寝室だった。
窓の外を見る。
美しい王都の街並み。インフラは未整備で、石畳はくすんでいる。
「戻ってる……」
彼女は呆然と鏡を見た。
完璧な金髪縦ロール。
日付は、学園の入学式の当日の朝。
「……嘘でしょ。またあのドリル装着の儀式からやるの?」
絶望しかけたその時。
枕元にあった「賢者の石板」が震えた。
『お嬢様、朗報です!』
ジェムの興奮した声。
『領地のマップデータ、生きてるよ! あの泥沼に戻ってない! 舗装されたままだ!』
「えっ!?」
同時に、ロキの声も響く。
『悪いニュースもあるぜ。あの聖女、レベル99のままリスポーンしてる。懐に「聖女の杖」持ったままだ』
レティシアは天を仰いだ。
状況は、前回よりも悪化しているかもしれない。
最初から最強装備のバグ聖女 vs 最初から要塞持ちのインフラ令嬢。
「……やってやろうじゃないの」
レティシアは不敵に笑った。
2周目のゴングが鳴った。
今回のターゲット(被害者)は、誰だ――?
(第1章 完 / 第2章へ続く)




