表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【新版】転生帰録 - 鵺が呪う輪廻に終止符を  作者: 城山リツ
第一部 四章 新たな仲間とともに

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/39

第33話 目くらまし

「それで(はるか)、これからどうするんだ?」


 感傷的になってしまった場に少し恥ずかしくなった蕾生(らいお)は、気を取り直してそう問うた。

 永は机に体重を乗せて、前のめりになりながら一同を見回して言う。


「ここには銀騎(しらき)研究所の身内が一応二人もいる。これを大いに使わせてもらおう」

 

 それにいち早く反応したのは鈴心(すずね)だった。

 

「研究所内の詳細が必要ということですね」

 

「そう。リンは研究所に顔パスなんだろ? 最初に会った時も公開されてない場所にいたしね」

 

「ああ、あの温室ですね。確かにあそこはお祖父様から特別に許されて出入りしていましたが……」

 

 鈴心が少し考えている間に、星弥(せいや)は自嘲するように笑って言った。

 

「私は役に立たないかも。研究棟の方にはほとんど行ったことがないの」

 

「まあまあ、それでも僕らよりは情報持ってるでしょ。どんな小さなことでもいいから」

 

「うん……」

 

 あまり乗り気ではない星弥の気持ちをわざと無視して、永はカバンから薄い冊子を取り出す。

 

「で、これが一般に向けて銀騎研究所が出してるパンフレットね。これが表向きの見取り図。実際はどうなんだい? リン」

 

「ここに書き足してもよろしいですか?」

 

「もちろん」

 

 永の承諾を得ると、鈴心はパンフレットを自分の机に引き寄せてボールペンで四角形をいくつか足したり、線で囲ったりして見せる。

 

「このA棟からF棟の建物は図の通りで間違いありません。研究員だったら自由に出入りできるエリアです。秘されているのはこう……」

 

 書き加えた四角形をボールペンで指しながら鈴心は説明していく。

 

「まず、ハル様とライが最初に立ち入ったのはここの温室です。ここには研究途中の植物標本が植えられています」

 

「なるほど」

 

 永の視線はパンフレットに注がれているので、星弥もそこを指さして丸くなぞる。

 

「それから自宅はこの辺かな。薮の中を隔ててね」

 

 星弥の説明を受けて、鈴心が代わりに自宅の場所を書き加えた。



 

「後は私も場所は知らないのですが、お祖父様専用の研究施設があると聞いたことがあります」

 

「……じゃあ、そこだろ?」

 

 今までの図解が茶番だったとでも言うような鈴心の決定打に、蕾生は反射的につっこんでいた。

 永もそれに賛成して頷く。

 

「確かに。他人が往来できる場所に萱獅子刀(かんじしとう)を保管してるとは思えないし。場所に心当たりは?」

 

「そこに出入りできるのはお兄様とお祖父様の秘書だけで、お兄様をつけた事も何度かありますがいつも見失ってしまって……」

 

 鈴心の答えに蕾生は訝しんでまたつっこむ。

 

「ええ? 広いったって街の中じゃねえんだから」

 

 すると星弥が真面目な顔で蕾生の疑問に答える。

 

「結界が張ってあるのかも。兄さんを見失うっていうことは目くらましの術かなんか使ってるんだと思う」

 

「皓矢を見失うのはどの辺?」

 

 永が聞くと、鈴心は首を振って申し訳なさそうに答えた。

 

「それが……いつも場所が違うんです」

 

「──念が入ってるなあ」

 

「さすがに敷地内のどこかにはあると思うんですが……」

 

 言いながら鈴心はパンフレットの地図を睨みながら考えていた。だが星弥が身も蓋もないことを言う。

 

「結界の中なら多分目視はできないと思うよ」

 

「じゃあ、やっぱりそこに刀があるのは確定だな」

 

 蕾生がそう結論づけると、鈴心はまた考えながら控えめに別の可能性を提示した。



 

「そうとも言い切れないかもしれません」

 

「というと?」

 

 永が関心を持ったので、鈴心はまたボールペンを持ってパンフレットに書き加える。

 

「温室から少し薮の中に入った──この辺りなんですが、大きな倉庫があります」

 

「あ!」

 

 思い出したように星弥も声を上げた。

 

「温室には研究員は入れますが、こちらの倉庫は立ち入り禁止で周りを有刺鉄線が囲んでいます」

 

「何か重要なものを保管している?」

 

 永が問うと鈴心は大きく頷いた。

 

「──という噂が研究員の間では言われています。身の危険があるので確かめようという人はいませんが」


「なるほどね……萱獅子刀がそこにはないとしても、その倉庫も無視できないな」


「なんで?」


 蕾生が聞くと、永は「そもそも」と前置いてから、更に続けた。


「僕らは、未だに鵺の呪いの本質がわかっていない。情けない話だけど、今までの経験から『多分こうだろう』っていう事しかわからないんだ」


「経験則から推測しているので、全くの間違いではないと思いますが、私達の推察が正解であるという証拠がまだありません」


 鈴心が口を挟むと、永はそれを引き継いで更に言った。


「まあ鵺が自ら『お前達をこうこうこうして呪ってやるからな』とか言うはずないからね。それも含めて苦しめたいんだろうから」


 それを聞いて、星弥は呆れたような顔で溜息を吐く。


「タチが悪いね。五里霧中で迷いながら苦しめたいなんて……」


 星弥の不快感がこもった反応に、永は少し眉尻を下げて持論を展開する。


「だからさ、銀騎が今までの僕らとのいざこざで、何か鵺の呪いについて掴んでないかなって思うワケ。なにしろあっちの方が呪いとかの専門家だからね」


「つまり、銀騎の情報を盗みに行くってことか?」


 蕾生が聞くと、永は大きく頷いた。


「そう。僕らは何百年も付き纏われてるんだ。鵺の情報くらい還元してもらわなくちゃ、割に合わないよ」


「そういう事なら、刀の事は後に回しても、そっちの倉庫に忍び込む意義はあるな」


 蕾生が納得したように頷いて、鈴心も同意を示す。

 永は少し考えてから星弥に尋ねた。



 

「そこは警備のレベル的にはどれくらいだと思う?」

 

「そうだね……わたしでも存在を知ってるくらいだからお祖父様の研究室程じゃないかも」

 

「ただ、確実に皓矢(こうや)の監視下にある、か」

 

「うん。忍び込むなんてできるかな……」

 

 星弥が率直に不安を口にすると、永は極めて冷静に言ってのけた。

 

「まあ、バレずに忍び込めるとは思ってないよ。重要なのはバレてからどれくらい猶予があるか、だね」

 

「お兄様が駆けつけるまでにハル様とライだけでも逃げることができれば、後は私と星弥でなんとかします」

 

 鈴心の言葉に蕾生は驚いた。

 

「いや、お前らも危ないだろ?」

 

「兄さんはわたし達に危害を加えたりしません! ただ、キッツーイお説教と……お小遣いが減らされるくらい、だと、思う、うん」

 

 勢いよく否定した星弥も、言いながら段々と声の調子を落とし希望的観測を述べるに至り、最終的には困っていた。

 うーん、とまた考えてから、永は星弥に別の質問をする。

 

「皓矢は研究所の外に出たりしないの? 出張とかさ」

 

「あるよ。お祖父様が外出しないから、所長代理でいろんな所に行くの。なんとか省とか、なんとか会社とか」

 

 星弥の答えに永は膝を叩いて結論を出した。

 

「じゃ、それだ。皓矢が研究所を留守にする日を狙って、まずはその倉庫を探ってみよう」

 

「わかった。兄さんのスケジュール調べてみる」

 

 役目を与えられた星弥は両手を小さく握ってやる気を出した。それを後押しするように鈴心も頷く。



 

「それが分かり次第決行だな」

 

「──だね」

 

 蕾生と永もやっと見えた行動指針に少し気持ちを昂揚させる。


 永の探す宝刀・萱獅子(かんじし)

 当初からこれを探していたはずなのに、いつの間にか違うものを追っている。

 最初は鈴心。

 次は鵺の情報。

 まるで刀を隠すように現れる事柄。


 偶然なのか、それとも誰かが仕掛けたものなのか。

 その絡繰の糸の先は、まだ見えない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
刀を探す場所が決まりましたね。 当てもなく探すより見つかるかもしれない。 でも危険ですよねぇ。絶対待ち構えてそう。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ