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ワンダーティース!  作者: 梢田 了
白黒つけるぜ武闘祭!
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第五十一話 馬鹿、この馬鹿! ~喧嘩するほど仲が良い?~

 まだ日も昇らぬ時間を確認して、少女は机に開きっぱなしのノートパソコンと向き合っていた。

 力が欲しい。

 少女がそれを明確に意識したのはいつからか。

 廉城(れんじょう) (とばり)は画面に写る顔に、嫌気が差して目をそらす。なにかに追い詰められでもしているかのような、余裕のないその顔。帷は自身の顔が嫌いだった。

(力が欲しい。誰にだって立ち向かって行けるような、そんな力が)

 ワンダーランド。少女が夢見て、夢想する姿へ近づこうとするその場所は、現実と繋がっている。

 それは帷にとって、ワンダーランドの中の自分が現実にも変革をもたらしてくれるのではないか、という甘い期待にも繋がっていた。

 その為にまずすべきこと、それは力を得ることだ。

 今でも目を閉じれば瞼の裏に浮かび上がるあの光景。地へと落ちる巨大な怪物を、地上からただの一撃で粉砕せしめたあの男。

 地に這い蹲って見上げたその光景は、正に彼女にとって神の見せた奇跡だった。

 力の象徴であり、正義の証である、ヒーロー。その言葉を口にするに相応しい姿を、夢の世界でクロイツは示していた。

(みんなみんな、最初は弱かったんだ。……それから強くなっていく……フューやクロイツさん、案内人さんみたいに。

 だからあたしだって、強くなっていけるんだ)

 力を得る為に帷が選んだ第一歩は情報の収集である。ここ、レイトが運営するワンダーランドのサイトには数多の情報が載せられている。

 以前は流し見た〝登場キャラクター〟は必要ないだろうとしながら、〝流通アイテム〟のボタンをクリックする。表示された項目から防具を選ぶ少女は、ううむ、と声を零した。

 ワンダーランドに普及している防具として、革や鋼製の鎧が紹介されているが、いわゆるクロイツが装備しているようなマジックアイテムについての記載がない。一般的な流通価格が紹介されているのは参考になったが。

「マジックアイテムは、やっぱり人によって大きく値段が違うのかなぁ」

 思わず呟いて、〝魔法〟のボタンを選択。紹介される代表的な攻撃魔法として、火や水といったファンタジーゲームによく見る魔法の説明に目を通す。

(火は相手を燃焼させる効果が高く、一般的に流通するモンスターの油などを使ったアイテムと相性が良い。武器に使用して攻撃力を高めることも。

 水は近距離、中距離の相手を狙撃したり、魔力を伴って氷結させることで強固な壁として使用することも可能。重量を伴うものの、鎧として使用するキャラクターもいる、か)

 魔法の技術。それは戦士として始めた帷にとって無用の長物と考えていたものだが、フューのようにマジックアイテムを使用することで魔法を扱えるようになるのであれば話は別だ。

 度重なる戦闘で着実に自分の実力が伸びているのは感じているのだが、少女の知り合う人々と比べれば微々たるものだろう。ならばこそ、魔法を使用することで一気に戦力の強化を図りたいのだ。

(あたしも筋力が大分伸びてるようだったし、重い氷の魔法で防御力を上げたり、あのでかい剣にも炎をつけて攻撃力を上げたり、クロイツさんのようにはいかなくても、あのバハムートと渡り合うことができるようになるんじゃないかな?)

 よし。

 やる気を込めて両手を握る。

 あの日、巨敵を圧倒せしめた男の勇姿は少女の中で赤々と燃えていた。



   ◇ ◇ ◆ ◇ ◇



「お~い、フュー!」

「はいはい……うげっ、どったの気持ち悪い笑みを見せてからに……」

 酷い言い様だ。

 呼びかけた声に対して辛辣な言葉を浴びせるフューに、トバリは怒りを含めて頬を膨らませた。

 未だ橋の町に滞在する少女らは露店の並ぶ目抜き通りに居た。

 数ある店を偵察するフューに対して、機嫌を損ねてしまったトバリが持つのは、食べ物の詰まった皮袋だ。

 フューは少女に悪かったと謝り、美味しいものが見つかったのかと次いで質問する。

「ふっふっふ。実は良い買い物をしちゃったんだよね~」

「……え……か、買い物……?」

 嫌な予感を覚えたフューに、ご満悦のトバリが見せたのは兜や手綱を付けられた小型化ヤモりんだ。その背には人が乗るための鞍と丸められた敷き布が装着されている。

 おそらくは小型化解除後に快適な移動をとトバリが購入したのだろう。魔法により丈夫になるよう強化されているそれらの品、サービスにまけてもらったと言うその値段は五万メダルだ。

「あ、あ、あ、阿呆っ! 五万っつったらカンナの依頼の報酬金もブッ飛んでるじゃないの!」

 怒りに肩を震わせ、声を張り上げたフュー。その剣幕にトバリも驚きたじろいで、目を丸くしている。

「えっ、……でもまけてもらったし……」

「馬鹿、この馬鹿! 手綱なんて要らんでしょ、シートなんて要らんでしょう! 要らんもんに金を突っ込んでるんじゃないわよ、きちんと考えて行動しなさい!

 五万って何? そんな価値ないでしょう、それ! そんな無駄遣いして、あんたの残金六万程度しかないんでしょ!?」

 こちらの金を当てにしているのだとしたら、それは甘すぎる目論見だ。

 憤慨するフューに対して、そんな訳があるかとトバリも肩を怒らせる。自分の金を好きに使って何が悪いのだ、という少女の言い分としては、以前のように依頼をこなして金を稼げば良いではないかとの考えからだった。

 それをやはり甘いとするのはフューだ。

「いい、トバリちゃん。この世界で金を稼ぐっていうのは大変なことなの。高い金を必要とすれば危険に身を投じなきゃいけないし、安全なものばかり受けていたら費用に収入が間に合わなかったりするし、知識がなければ簡単な任務にすら落とし穴にはまることだってあるの。

 簡単に金を使っちゃいけないし、その金は自分が強くなる為に使わなきゃあならないのよ」

「その強くなるって、何! あたしはどんな危険な任務でだって戦うし、そうやって強くなっていくよ」

 あたしは、ヒーローになるんだ。

 声を張り上げる少女にフューは顔を険しくした。

 何がヒーローだ。そう、言葉は出さずともその顔が語っている。一歩も引かずと睨み上げる少女に対して、フューは呆れたように視線を外して溜息を吐くのだ。

「はいはいはい、ヒーロー! ヒーローね。戦うだけで強くなれんなら誰も苦労しないわよ。戦って、レベルが上がって、ステータスが上がって、だから何になるワケ?

 生き残ることも出来ない奴が、強くなれるわきゃないし、ましてや英雄のように活躍することだってできやしないわよ。

 トバリちゃん、あんたのその考え方はムカつくわ」

「…………!」

 淡々と言い募るフューに思わず言葉が詰まる。彼女は、少女が思うよりも余程の修羅場を潜り抜けているのだろうとは感じていた。

 だからこその言葉だろう。そしてそれは的を射ていると少女自身も感じたからこそ言葉を返せなかったのだ。フューの、嫌悪を顕とする言葉に対してもショックを受けたからこその沈黙でもあるが。

「……で、でも……それでも……あたし、フューと一緒なら、なんでも出来る気がするんだもん」

「…………、はあ?」

 虫のいい言葉だ。

 不機嫌に声を漏らして視線を戻すフューだったが、怒られた子供のように伏し目がちでこちらをうかがうトバリの姿。

 険しいその顔でそれをしばらく睨みつけていたが、いつもと違い所在ない少女の様子に思わず苦笑する。

 毒気が抜かれてしまったと肩を竦めて、いつもの笑みを浮かべるのだ。

 こうしたい、ああしたいと思うのは自由だし、それが叶えられるのがこのワンダーランドであるのは間違いない。彼女はそうしながらも、だからこそ、その力を手に入れるまで、この世界から消えてしまうのは勿体無いのではないかと少女に問うのだ。

「……勿体無いね……」

「でしょ? だから私たちは生き残る術を学んで、確実に生き残って、強くならなきゃならないの。生き残らなきゃあさ、どんなに成長した所で意味なんてないんだから」

 トバリの頭に手を乗せて、すっかりいつもの調子になったフューに少女は素直に謝った。どれもこれも、自分の身を案じての言葉なのだから申し訳ないという想いが強いのだろう。

 こういう時ばかりは素直なものだとその頭をわしわしと撫でて、フューはとりあえず腹ごしらえだと目抜き通りの外を指差す。

「いちおー言っとくけど、いつまでもお金の面倒なんてみないんだからね? きちんと働けるようになったら、美味しいもの奢ってちょーだいよ」

「……うん……! 任せてよ!」

 無い胸を張って拳を当てたその仕草にくすりと笑い、フューはトバリの手を握って早足で通りの外を目指した。

 慌ててついていくトバリから見える彼女の後姿は、まるで妹が出来て嬉しくて堪らないといったような、幼い姉の姿にも見えた。

ようやく更新できました。

まだまだ仕事が忙しくまともに執筆できませんが、ぼちぼちやっていこうかと思います。

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