第四十八話 根性あるね、君は ~フューの名推理?~
傷の癒えたトバリから謎の人影の話を聞いたフューは、ふむ、と小さく唸った。カンナは傷跡の残る足を見て、ダンジョン探索の経験がない少女を先行させていたことに酷く後悔しているようだった。
その様子を見て、とても腹の傷のことは話せないと少女は外套をきつく閉じる。
「根性あるね、君は」
なんの話だ。
こちらの隠しごとに気づいたであろうフューの言葉に、トバリは目を泳がせた。彼女はくすりと笑い、カンナにヤモりんの様子を見てくるように言う。
一人で大丈夫かと戸惑う少女へ、異名すら持つ熟練者は伊達ではなかろうとするフュー。実際に、ダンジョンについても調べようとするプレイヤーだ。それらの知識はトバリの比ではないだろう。
戦闘に対しても。
「すぐ、戻りますね」
心配する少女の頭を優しく撫でて、笑みのままに明かりの道を進む。フューによる魔法はまだ続くだろう。
フューは女を見送った後に、周囲の床を大きく抉った傷跡と彼女が辿り着く前に払われた暗闇を確認する。
一体、なにがあったのか。
彼女の問いにトバリは軽い調子で大剣を手渡す。フューはなんの気なしに受け取り、その重さに慌てて両手で持ち直していた。
「これ、かなり頑丈な剣だと思ってはいたけど、こんな威力さあ……出せるもんだとは思えないんだけど……」
ちらと床を見て眉を潜める。一筋の亀裂に、それが大剣によりつけられたものだと気づいたのだ。
「剣で斬ったんじゃない、魔力で切り裂き破砕したのね」
「……さあ……?」
頬をかく少女にフューは肩の力を抜いた。
そこらのマジックアイテムのように術式が表面に描かれている訳ではない。ならばこの武器には内部に術式が描かれているのだろう。
となれば、ダンジョンで見つかるような不規則的に術式が施された代物ではない。これは意図的に製作されたマジックアイテム。
「――レイトのクラフトアイテム……!」
思わず引き攣った唇を正し、少女に剣を返す。
フューは、抵抗するトバリから手早く外套を剥ぎ取り穴の開いた服を見つめる。新たな肉が盛り上がって塞がれたその腹は、まるで不器用に溶接されたが如く。
「こりゃまた、ハデにやられちゃったねー」
「はうっ」
指で優しく触れられて、少女は縮こまり腹を押さえた。フューは再び笑って、なにごとか唱えると少女の服が修復される。
フューの魔法だ。もしくはマジックアイテムの力か。すっかり元通りになった服に、カンナの視線を気にする必要もなくなったとお礼を言うトバリ。フューは唇を歪めて手を振ると、本番はこれからだ、そう言った。
直後、猛進するトカゲもどきの尻尾に跳ね飛ばされて格好がつかなくなったと喚いていたが。
「で、だけどさ。
今しがた囮のカンナさんが戻って来たワケだけど」
『えっ』
フューの言葉に驚く二人をさておいて、フューは説明を始めた。
襲撃を受けたトバリが暗闇の中に居たこと。しかし、ヤモりんと共に退却したカンナに被害はなかった。
両者の違いとしては移動速度と光源にある。
「仮に少数、一体として、攻撃した対象であるトバリちゃんを狙う為に居残ったのは分かる。
けど、トバリちゃんに撃退されてから一人行動するカンナさんを狙わなかった理由が分からないわ」
「…………、トバリさんから逃げて、遠く離れちゃったんじゃ?」
「違うかな。この子の話だと、相手は壁の中に消えている。なら、どこからでも襲撃できるはずだし、獲物の反撃を受けたからってそれで諦める相手が、トバリちゃんに二撃目を入れる為に長々と闇に潜むとは思えないわね」
二撃目。
驚いて少女に目を向けたカンナ。トバリはそれから目をそらし下手な口笛などを吹いている。
それらを踏まえたフューの考えによると、ここに存在する魔物は闇に潜み光を嫌う傾向を持ち、徹底的なほどに獲物と正対しない習性がある。
「てことでカンナさん、魔力、感知してみて」
「……それなら先ほどからやってますが……、ここら一体の魔力が消失しています。暗闇魔法の魔力すら。まるで、ここにバリアーが張られているような」
「破魔の効果があるのかな? その剣」
面倒なことだとはフューの言葉。
暗闇を発生させる魔法の中では、僅かとはいえ発生する魔力が魔物の捜索には邪魔だろう。
その大剣、今まで通常の武具として使用していただけに魔法の効果を得る方法はわからないが。魔力の放出はダンジョンにも影響を与える。そこでの使用は控えるようにと注意を添えた。
「相手は陰気なストーカー。闇を消しながら進みさえすれば、壁の中から追って来る。そうすりゃ今度は、こっちも追える」
結界の外ならば。
ウインクするフューに、カンナは任されたと真剣な顔で頷いた。
トバリはフューの言葉に大剣を背負い、腰元の短剣と盾裏の剣を確認する。
ぶちかましてやる。今度は、さっきの比じゃないものをぶちかましてやれる。
両の拳に力がこもる。それは傷が癒えたからでも、敵に対する闘争心からでもない。仲間が居ること、さきほどの暗闇と違う温かな光に包まれて、トバリは思うのだ。
「ほんじゃま、行こっか」
底抜けに明るい笑顔に、少女もまた笑顔で返す。
そうだ、仲間だ。仲間が居るからこそ戦える。そしてこの笑顔が、少女の旅路を照らしてくれる。
「ダンジョン・モンスターなんてぶっ倒して、お宝ゲットだ!」
拳を突き上げた少女にカンナも続き、ヤモりんも咆哮し。
目を丸くしていたフューも苦笑してそれに倣ったのだった。




