第四十一話 忙しいんですねー ~夢の世界のアルバイト!~
しばしの騒ぎの後、フューに回復された少女を挟んで座る三名。
いつもの優しい笑みを浮かべながら自分の料理をトバリの口元に運ぶカンナに対して、これには恥ずかしさから遠慮する。
フューはそれらを気にするでもなく料理を注文していた。
「それにしてもカンナさん、こんな所でどうしたんです?」
「お仕事ですよ、ふふふ」
「二人はどういった知り合い?」
のんびりした笑みを浮かべるカンナに対して、その視線は未だに乳にあるフューが質問する。
先程のこともあってか警戒するように少女の影に隠れたカンナであるが、その肉体を隠すにはトバリの薄さでは役に立たずフューの視線に晒されたままだ。
少女はそれに気づくでもなく、シート荒野の一件の後に出会ったメンバーだと紹介した。これにはフューも失礼この上ない男と、この少女の伝言とを思い出して頬を引きつらせている。
「ま、まー、いーわ。
それよりカンナさん、仕事って言うのは?」
「ギルド活動の一環で。……ただ……」
ここで表情を曇らせる。
どうやら彼女は、自分の所属する初心者支援ギルドの活動を行う為にこの町にやってきたらしく、ついでに個人的な目的を果たそうとしているようだ。
が、重なる依頼によりその目的に割く時間が取れず困っているとのこと。
「忙しいんですねー、カンナさん」
「ふふふ、これでもギルドの皆から〝破壊力は歴代四位〟って言われて、頼りにされてるのよ」
「え、なに、乳の話?」
魔法です。
机に頬杖をついて疑問を投げるフューへ、顔を赤らめて訂正するカンナ。
その外見に反してリーダー・ヘイズ率いるパーティ内では攻撃の要とされる程の魔術師カンナ。それをトバリは直接見てはいないが、ヘイズが大きい組織の偉い人に対して、カンナは大きい組織でそれなりの地位の人という認識となった。
そしてシート荒野での恩返し。困っているのならば手伝うとしたトバリの口を押さえてフューが身を乗り出した。
「それ、私たちでも手伝える? 手伝えるんなら金額次第で面倒見るよ」
「報酬、ですか」
思案するカンナ。
なにをするのかと呻くトバリに対し、いつまでも面倒を見切れんのだから金を稼ぐことを覚えろとフューは呆れ顔だ。
トバリにすれば行き倒れた荒野で一宿一飯の恩義を感じる相手であるが、フューにとってはただの行きずりに過ぎないので遠慮はしない。
なにより、少女の頭にある恩義などとビジネスは別物であることを意識させたかったようだ。そんな少女の様子にもカンナは大丈夫だからと笑って優しく抱き寄せる。
余程、先の出来事が身に応えたのだろう。
「報酬は前金と成功報酬に別けても?」
「全然オッケー」
「では、前金として五千メダルとここの食事代、成功報酬に一万メダルでどうでしょうか」
内容を言わずに先に報酬とは。
思わず口笛を吹いたフュー。この女、どうやら少女が考えているようなただのお人好しではないらしいと、腕置きにしているトバリを見下ろす。
少女と言えば報酬にすっかり魅了されているようで反対する気配はない。依頼内容も聞かずに餌に釣られた様子、これも勉強かとフューは苦笑して了承した。
「で、なにをすれば?」
「実は掲示板、あ、リアルのネットの話なんですが。そこでここ、キャンディロードの第三ダンジョンで新しいマジックアイテムを発見したという情報があったんですよ」
要はそれを確認して欲しいということか。
しかしフューはここで眉を潜めた。そもそも番号の振られたダンジョンというのは帝都で公式に探索踏破された場所だ。ならばそこから新たなマジックアイテムが出るとは考えにくい。
それも発見されて未入手とは。
「確認した人はダンジョンのモンスターに味方が相打ちとなってしまったため、慌てて逃げ出したそうです」
「やーっぱ、胡散臭い話ねぇ。それ、調べる必要あるの?」
しかし、カンナの関心を引いたのはマジックアイテムではなかった。踏破されたはずのダンジョンに新たな場所があったという事実だ。
その言葉にフューも頷く。大抵の人間はマジックアイテムであるかも知れないが、これは重要な項目なのだ。
同じく現実世界に存在するサイト、ワンダーランドにおいてレイトが提唱している〝ダンジョンの成長性〟を裏付ける事実のひとつとなるからだ。
もちろんそこが、未確認であっただけの既存の場所という疑念が晴れる訳ではないが、他の踏破済みダンジョンの再調査が行われることになるだろう。
「もしこの事実が確認されれば、帝都によるダンジョン規制がより強くなる結果になるでしょう。私たちとしては願ったり叶ったり、といった所ですね」
「あ、そうか。あんたらからしたら初心者が近づかないほうがいいもんね~」
その代わり、こちらがやりづらくなるが。
じっとりとした目でカンナを睨みつつ、忙しそうに歩き回る店員を捕まえて飯はまだかと催促する。
少女といえば、ダンジョンという単語に目を輝かせるばかりだが。カンナは微笑ましくその様子を見てフューへと視線を戻す。
「発見したマジックアイテムは、私に役立つようなら頂きたいですが。特に魔術師に関するものではなければ、そちらが頂いてくれて構いませんよ」
「えぇ? そりゃまた豪勢な話ね」
目を丸くしたフューへ、ただしとカンナは付け加える。ダンジョン未探索箇所を発見した場合は必ずカンナに連絡を入れること。
もし時間が合うのであれば共に探索しようと言うのだ。
「構わないわよ。ま、掲示板情報なんてアテにゃならんけど」
お冷のグラスに歯を立てる。カンナはその行儀の悪い行為を指摘しながらも、もう時間だと席を立った。
トバリの頬にたっぷりと頬ずりした後、連絡のやりとりをする為のマジックアイテムをその手に握らせる。支払いを持つという言葉通りに会計では、ギルドの名を使いツケにするという豪気なことをやってみせた。
というのも、トバリをギルドで全面的にサポートするというヘイズの言葉を聞いていたからこその対応であるのだが、仲間内で捻じ曲がったか、サポートの条件を満たしている訳ではないがカンナはそれを行っている。
トバリ、フュー双方の与り知らぬ所ではあるのだが、彼女がギルドマスターから折檻されるのは間違いないだろう。
「……いやー……色々とでっかい人ねー……」
「……だね……」
名残惜しげに何度も振り返って手を振るカンナを見送って、トバリとフューは視線を交える。
まずはダンジョンの説明かとフューは得意満面の顔で人差し指を立てた。
「ダンジョンってのは、良くあるRPG的な洞窟を歩くようなもんじゃなくて、この世界の裂け目として点在するポイントのことよ」
「裂け目、ですか?」
「そう。この世界の情報の欠片、もしくは現実世界との接点。そこにあるものは現実世界にもあるような場所が切り貼りされたみたいに存在しているって感じ」
その言葉にイメージがつかないのか、小首を傾げる少女の頭に手を乗せて、小さいお頭に理解しろというのが酷かとあからさまに見下してくる。
悪かったなとばかり不機嫌に手を払う少女に、実際に見ればわかるものだとフューは笑った。




