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145.囚われし英雄

 

 ──勇者送還大作戦〜とにかく上手い言い訳を考えろ!〜


 春樹の名付けたそれは長いので、送還作戦と略すが、その概要はこうだ。


 まずはじめにセシルが超頑張ります。馬車馬の如く働かせて、帝国内の世論を誘導します。

 具体的には、勇者が可哀想と同情させ、最終的にある思考に誘導します。

『召還出来たら、送還できるはず』と。


 やり方は至極簡単。まず勇者が無理矢理拉致られて、まだ子供なのに無理矢理魔物と殺し合いさせられているという噂を広めます。するとあら不思議。おば様達の井戸端会議で、噂は瞬く間に街中に広まります。それがメディアのないこの世界の特徴です。俺もよく悪さをしては、その日の内に噂を聞き付けた母さんに怒られました。この世界の奥様方はとても耳が早いのです。


 次に、セシルが思考誘導をしている間、俺たちは俺たちで足場を固めます。

 固める足場は主に二つ。


 一つ目は、帝国側。こちらは、皇帝に頼めばいいでしょう。送還方法を知った春樹が、俺が残ると宣言するだけで済む、簡単な土木工事です。


 二つ目は、勇者達。こちらは、少々難易度が高い。何故なら、春樹が残るというと先生と如月は必ず反対するからです。先生である私が残りますと言うに違いない。如月も必ず何らかの抵抗は見せてくる。二人の抵抗を押さえるために、春樹は頑張りますが、敢え無くやられるでしょう。


 そこで、いよいよ俺の登場。アーシェという駒を使い、今全力で捜索中である事を話す。しかし、帝国側の緊張はピークで、すぐにでも送還しないとまずい。だから、この中で一番強い春樹だけを残し、他は帰ってくれと。

 それでも無理なら、俺が責任を持つとか、縛って送り返すと脅す。最悪、眠らせよう。


 そして、全てが上手くいけば、勇者送還が行われるという計画だ。若干破綻しそうな要素があるが、そこはギリギリになるまで、実行するのは止めておこう。最後は力技だ。


 ……というのが、表の計画だ。


 実際には……


「主、呼び出しとは珍しいではないか」

「来たか、セシル」


 俺の中の計画はもっと複雑なのだ。


「セシル、世論操作はどうだ?」

「大方、終わりが見えていると言ったところだ。そろそろ最後の火薬を放り込もうかという段階だ」


 ふむ、つまり今の民意は『勇者って不憫……』って事なんだな。


「サンキュ、今回の報酬は弾むぜ」

「クククッ、期待しておこう。して、私を呼び出した理由は、何なのだろうか。また、良からぬ企みでも思い付いたと解釈して良いか?」

「おい、いつ俺が良からぬ事したんだよ! 最近、いい事しかしてないよ、俺?」


 こいつの中の俺はいったいどんな悪人なんだ。いや、善人だとは言わないが、そこまで良からぬ事をしてきた記憶はねぇぞ。

 特にここ最近は善行を積んでいると俺は思うのだ。奴隷国解放の手伝いをしたり、帝国内のゴタゴタにも手を貸した。その際に、ちょっと街を破壊したりしたが、情状酌量の余地はあるだろう。なかったらビックリだ。


「はぁ……まぁいい。話を進めよう。……今回の仕事の内容は、皇帝とコンタクトを取って欲しいって事だ。直接な。それと、勇者送還に加わると思われる魔法使いともコンタクトを取って欲しい。全て内密にだ。それと、皇帝には俺の名を出せばいいけど、他はこの金を使ってくれ。最終的に、その全員と送還の際の打ち合わせをしたいんだ。それを、誰にも漏らさないでくれと、理由を適当にでっち上げて頼んでくれ」


 今回の依頼内容を、ババっと纏めて口に出し、細かいところはセシルに任せるつもりで、お願いした。


「ククッ、了承した。内密に、だな? その基準を聞いても良いか?」

「そうだな……勇者の誰にも気取られるなってとこか」


 他は別に気取られても構わない。もう覚悟は決めた。


 俺は友として、何としてもあいつらを送り返すと。



 〜〜〜〜



 ──後日。


 皇帝とコンタクトを取ってきたセシルに連れられ、空き家にやってきた。そこは明かりが灯っておらず、真っ暗な部屋の一室で皇帝が待っていた。セシルの話では、この場所はわざわざ皇帝が用意してくれた場所らしい。


「内密な話とはなんだ?」


 顔を合わすなり多忙な皇帝は、早速本題に入る。


「勇者送還についての話があってさ。殺人鬼の捕縛には失敗しちゃったからさ」

「……なるほど。しかし、民衆も少し落ち着きを取り戻してきたところだ。焦る必要はないと思うが?」

「いやいや、それはどうかな?」


 確かに今の状態ならば、国は安定しているから、何も問題はない。だけど、火薬庫に灯す火はあるのだ。


「……私を脅す気か? 勇者に対する風潮を変えたのも其方だろう?」

「あらら、お見通しか。そうだよ、全部俺の手の内だ。だから、その手の上にあんたも引き込みたいんだよ」

「わからんな。何故そこまで勇者に肩入れする? 思えば、初めから妙だった。其方の目的はなんだ?」


 俺の目的か。


「ふぅー」


 俺は短く息を吐き、心を落ち着ける。

 大丈夫だ。何一つ問題はない。


「……俺は勇者達と同じ世界から来た転生者だ。そして、前世ではあいつらと同じ学校に通っていた」


 この世界に生まれて、初めて正体を明かした。いつかの予行演習だ。皇帝に知られたところで、俺の生活には何も影響はない。

 そうわかっていても、何処かで恐れが残っていた。それはたぶん、これまで誰にも打ち明けなっかった引け目みたいなものを感じていたからだろう。


 俺の告白に皇帝は片眉を上げるだけで、それ以外に反応は示さなかった。けど、後ろにいたセシルは、堪えきれなかったかのように笑い声を漏らす。


「ククッ、主は生まれた瞬間から既に面白かったのだな」

「……俺の覚悟を馬鹿にされてる気がするのは気のせいか?」


 俺が半目でセシルを睨むと、セシルは帽子をクイっと下げて、顔を隠すようにして流す。しかし、隠せていない肩は、プルプルと震えていた。


 笑ってやがるっ……!


 思わず手が出そうぐらい腹が立ったが、内心変わる事がなかったセシルの態度が、嬉しかったのは秘密だ。墓まで持ってくな。

 その気持ちに気が付いていたからか、俺はすぐに溜飲を収め、ため息を一つ吐くと皇帝へと向き直った。


「これで、俺の目的はわかっただろう?」

「……一つ聞こう」


 腕組みを崩さず、少し顔を上げた皇帝は、闇の中でも強く光る目を俺に向けた。


「殺人鬼が其方に執着していたのは、それが理由か?」

「嬉しくない好意だけどな。あの男は、向こうで俺を殺した奴だ。逆に……俺に殺された男でもある。俺たちは互いに仇みたいなもんだよ」


 自分で自分の仇を討ちというのも、なんだかあれだがな。結果的に生きてたようなもんだから、恨み自体が湧いてこないんだ。

 ただ、この世界の人を殺した罪は償わせないといけないと思う。出来れば、その原因を間接的にでも作った俺の手で。


「では、其方が去れば殺人鬼の脅威は去るという事か」

「…………」


 俺は今とても貴重な経験をしました。

 お前は生贄だ的な事を面を向かって言われたのは初めてです。こんな時、俺はキレたらいいんでしょうか? それとも、泣いたらいいんでしょうか?

 どなたか、生贄の経験がある方教えて頂けないでしょうか?


 俺は自分のユニークスキルに問いかけた。


 ──……がんば。


 答えあんのかいっ!てか、誰だよっ、今の!


 ──…………。


 答えろや!


 ……落ち着け。所詮は死人の言う事だ。気にするな。

 惑わされちゃいけない。


 俺は一つため息をついて、心を落ち着けさせると、話を戻す事にした。


「まぁ、とにかく、俺は勇者達に正体を明かさずに全員送り還したい。けど、春樹に正体がバレて、あいつはこの世界に残るって言い張ってる。だから、春樹の裏を掻く必要がある。協力してくれ」


 俺はスッと右手を差し出した。皇帝は一度、その手に視線を落としてから、もう一度正面を向いた。


「協力しなければ、どうなる?」

「しないなんて選択肢はないね。あんたはじきに俺たちに協力せざるを得なくなる。それが、国民の意思となれば」


 元から他に選択肢など用意していない。俺は今、皇帝を脅しているのだ。


 俺と皇帝の視線が交錯する。にらめっこではないが、そのまま暫くの間どちらも口を開けずに睨み合う状態が続いた。


 先に根負けしたのは、皇帝だった。睨み合いの最中、様々な事がその瞳を過ぎ去り、結果として出して答えは、


「……ならば、こちらとしても条件を出そう。その条件を受けるというのなら、先程の話はこの場から持ち出さぬと約束しよう」


 というものだった。


「チッ……そう来るか。条件を受けなければ、春樹や、他に漏らすつもりか」

「そもそも、先に脅しをかけ、自らその足を取らせたのは貴様だ」


 皇帝の言い分はもっともで、俺の配慮が足りなかったと自らの浅慮さを恥じるしかない。正体を明かす心配に気を取られて、それを利用される可能性に考えが及ばなかった自分が愚かなのだ。


「それで、あんたはどする気だ? まさか、勇者を送還させる気はないなんて言わないよな?」

「勇者送還の話は、別に構わない。そもそも彼らを召喚した事さえも、アイリスの策略であったことも周知の事実だ。この国の不安要素を潰すというのならば、反対はしない。協力もしよう。だが、そうすると勇者が居なくなる。これ以上の勇者不在は好ましくない」


 勇者不在は好ましくない、か。しかし……


「そもそも、勇者軍制度なんかいるのか? 俺には国を不安定にする原因にしかならないとおもんだけど……」


 俺は何故そうまでして勇者に拘るのか理解できなかった。皇帝が一言、勇者制度を廃止すると言えば終わる事だと思うのだ。


「それは出来ない。何故なら、勇者の存在はこの国の、ひいては世界の希望となるからだ」

「逆にしかなってないと思うけどなぁ」

「確かに、今はそうだ。だが、いずれ来る災厄の日に勇者の存在は不可欠なのだ。我々皇帝は代々、その勇者を探してきた。災厄を払う力を持つ者を」


 災厄を払う力を持つ者?

 それが、勇者なのか?


「へぇ、面白そうな話だな。それは、どっからの情報なの?」

「初代皇帝だ。災厄の時代を生き残った皇帝の残した言葉だ。『いずれ現れる災厄を払う英雄に、全てを捧げろ』とな」


 全てって……何を思ってそんな言葉を残したのやら……

 にしても、災厄を払う英雄か。つい最近どっかで聞いたような言葉じゃないか。


 闇を払う剣と災厄を払う英雄。

 闇と災厄を同一視していいのなら、災厄を払う剣と人はセットにしていいように思える。

 もしかしたら、真にあの遺跡が待っていたのは、その英雄だったのかもしれないな。


「つまり、勇者制度は、その災厄を払う英雄を探し出し、支援する事が真の目的なのか?」

「そうなる。おそらく過去の皇帝は、そのような意図で、勇者制度を作ったのだと私は考えている」


 だから、無くすわけにはいかないわけか。確かに、国が滅ぶかの瀬戸際でも、災厄が来るとわかっていて、廃止したくはないって気持ちはわからなくもないが……


「それでも廃止すべきだと俺は思うけどな……」

「廃止したところで、非難が集まるのは目に見えている事だ。たが、国民の同意が得られる真に強い勇者ならば、国が荒れる事はない」

「って事は、条件って言うのは……」


 嫌な条件だな……


「そう、其方が勇者となる事だ」


 結局、自分で自分の首を絞めてしまったらしい。この条件を飲まなければ、勇者送還は叶わない。けど、この国に縛られるなんて冗談じゃない。

 だが、受けなければ、この計画の秘密諸共全てを話される。


 要は、どちらかを捨てろと言う事だ。


 しかし、俺が勇者になったところで、真に災厄を払う者とやらになれるのか?

 そもそも災厄ってなんだ?

 魔物が大発生なら、倒せばいいだけだし、犠牲が出ようとそれぐらい出来る戦力はあるはずだ。初代皇帝がわざわざそんな事を言い残すのか?

 なら、災厄とやらは並みの人間じゃどうしようもない事態って事だ。そして、災厄を越えた人間なら誰もが知っているはずの英雄が、二人。

 初代皇帝がその二人に並ぶ英雄が現れると言っているのなら、災厄とは邪神の事だ。


 邪神が災厄だと仮定すると、それを払う英雄とはつまり、邪神を殺し世界を救う者の事。


 ……世界を救う?

 言葉のあやか? 気のせいか、それも最近聞いた事があるぞ。


『俺の目的はこの世界を救う事だ』


 …………いや、まさかな。だってあいつは……


『……いいや、死んでる』


 だから……そんな馬鹿な話が……


『……とうの昔に終わった筈なのに、俺は完全に死ぬ事を許されない。だから、お前を呼んだんだ。全部終わらせるために……』


 だけど……全て繋がる。

 俺が見た物、聞いた物。全てが繋がる。


 考えれば考えるほど、俺は一つの答えへと近付いていく。その答えを裏付ける要素はたくさんある。だが、否定する要素がない。


 お前なのか……?


『世界の滅亡を止めるのは、俺の仕事だ』


 ノルド、お前の正体は──神殺しの英雄だったのか……?


 心臓がバクバクと激しく鼓動する。ランニングしてきたかのように、息が荒くなる。


 何だこれ……? 体が物凄く熱い。

 けど、すごく気持ちいい。


 俺は知ってる。この気持ちを。


 親父に連れらて、初めて湖に行った時。

 ウェアリーゼの背に乗って、竜の谷を空から見た時。


 俺は同じ気持ちだった。

 けど、それよりも、もっと激して、熱くて、今すぐ叫びたい。体がねじ切れそうなほど、心が高鳴る。


 なんて言ったらいいんだろう。

 興奮してるだけじゃない。求めてる。もっと、もっとと、俺の心が欲しがってる。足りないと叫んでる。


 これが、世界を旅するって事なのか?


「どうかしたか?」


 心臓は胸から飛び出んとばかりに、激しく興奮している。

 今、きっと俺は笑ってる。どんな顔で笑ってるのか、俺にはわからないが、けど、今まで誰にも見せた事のない顔をしているに違いない。


 もう少しだけ、これを味わっていたい。だけど、この興奮を誰かに伝えられずには、いられない。


「……真の勇者は……死の都にいるんだ」

「……? 何を言っている?」


 皇帝はわけがわからないと言った顔をしていた。けど、俺は誰かにわかってもらいたくて、セシルの顔も見て、叫んだ。


「だから、そこにいるんだよ! そうか、あいつが邪神を倒した英雄だったんだ!」


 二人は、ついていけないとばかりに、俺の気持ちをわかってくれない。けど、俺の興奮はそんな二人の冷めたような態度を見てもちっとも冷めなかった。むしろ、そんな二人に理解を求め、声を張り上げた。


「セシルっ! 死の都の生き方を調べてくれ! どんな小さな事でもいい。……そうだ! 妖精神が知ってるかもしれない。ちょっと聞いてくる!」


 俺はいても立ってもいられず、そこを飛び出そうとした。しかし、ガッと皇帝に肩を掴まれ、動きを止められた。


「少し落ち着け」

「これが落ち着いていられるか⁉︎ 5千年も前の英雄が生きてるかもしれないんだぞ!」


 今すぐに死の都に行きたい。他の何もかもぽっぽりだしてでも。

 そんな俺の興奮を知ってか知らずか、皇帝は強く俺の肩を掴んだまま、静かに告げる。


「だとしても、そこは誰も辿り着いた事がない場所だろう? 落ち着いて考えなければ、辿り着く事など出来るはずがあるまい」


 皇帝の落ち着いた態度が、俺にはカッコ良く見えた。

 これが、大人なのか?

 と、思った。俺みたいに我を見失って、興奮したりしない。いつも冷静に物事を考え、先を見据え続けている。


 ふと、視線を横に逸せば、セシルも顔はニヤついているが、取り乱してはいなかった。


「……わかった」


 俺は、一度深呼吸してから、そう呟いた。

 俺もこの二人を見習おう。慌てるだけじゃ、何も出来やしないというのは、同感だ。


「……俺が気が付いたのは、もしかしたら『神殺しの英雄』の一人が生きているかもしれないって事だ」

「ククッ、主は本当に私を楽しませてくれる。それが事実ならば、面白過ぎる展開だ」

「だろ? お前と感情を共有する日が来るとは思わなが、最高に面白いし、ワクワクする。しかも、そいつは誰も行った事がない死の都にいる。これは間違いない。そして、そこから出るには俺がそこに行かないといけないらしい。やべぇ……俺死の都に辿り着いた時、興奮し過ぎて死んじまうかもしれない」


 この興奮をセシルはわかってくれたのか、いつもより声が弾んでいる。俺は仲間がいたとばかりに嬉しくなって、ペラペラとノルドの事を話す。


「ふむ、意味がわからない。根拠を教えてもらってもいいか?」

「根拠は俺に起こった摩訶不思議な出来事だ。変な夢を見たり、転生したり、幻聴を聞いたり、死に掛けた時にはそいつと話した事もある。はっきり言ってわけがわからない。けど、それが根拠だ。俺たちにとってわけがわからない事を、そいつは簡単にやってのける。それこそが、『神殺しの英雄』の力だとは思わないか?」


 付け加えるなら、あのなんとも言えぬ怖さだ。奪われる事に対してではない。

 存在感の強さが、神と同等なんて奴なんて早々いるもんか。けど、神を殺した奴なら不思議でも何でもない。


「些か根拠と言うには弱いが……まぁよかろう。其方の言う事が事実だとすると、初代皇帝の遺言の意味もわかる」

「なら、俺が勇者になる必要はないな」


 じゃあそういう事で、と早速妖精神のところへ向かおうと、踵を返したら、またガッと肩を掴まれた。


「待て。まだ話は終わっていない。其方の目的は、勇者送還における私の協力であろう? ならば、条件は変わらない」

「いやいや、話聞いてたか? 俺が勇者になったら、死の都探せないじゃん」


 別に名前だけなら構わないが、勝手に世界旅行させて貰えないんじゃお断りだ。


「わかっている。其方は好きにすればいい。だが、真の勇者が現れるまでの間、代わりとなる者が必要だ。必ずしも何も勇者が其方である必要はない」

「代わり……?」


 代わりかぁ……正直、本気でどうでもいいけど、俺の代わりを見つけろって事か?

 ディクに手紙でも書くか?

 いや、幼馴染の夢は邪魔したくないな。シルビア達は……不可になったんだけ? ルーシィは……あれは勇者って柄じゃないな。

 後は……グールぐらいだが……本人が望まない事をさせるのもなぁ……


「主、一ついいか?」

「何だ?」

「勇者選抜試験を開いてみてはどうだろうか?」


 勇者選抜、試験……?


「……それだ!」


 そうだよ、実際に大会みたいなのを開いて、勝ち抜いた強い奴なら、誰も文句ないじゃないか。現状、それがこの国最強なんだから。


 ……いや、待てよ?

 それ……毎年したらよくね?

 そうしたら、常に強い人が勇者になるし、一年で交代だから、批判も一年で終わる。

 たまにはいい事言うじゃねぇか、セシル。俺はてっきり怪しいだけが取り柄かと思ってたよ。


「決まりだ。毎年一回勇者選抜試験をやろう」


 これが、勇者選抜試験──十年後には別名で呼ばれる事になる一年に一回、武闘大会を超える熱狂の渦を巻き起こす大会の始まりであった。


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