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地獄を駆け抜けろ‼︎

番外編一つ目。

 灼熱の太陽が燦々と降り注ぐ夏真っ只中。照りつける太陽で肌がこげ茶に変色する季節に、俺は暑苦しいだけの夏が実はパラダイスであった事を知った。


 真夏の太陽は唸るような暑さを作り出す。するとどうだ。服が薄くなるではないか。目に気合いを入れれば透けて見えてしまいそうな程に、魅惑的な容姿の女性がその素肌を曝け出し薄着になる。

 しかしだ。そんな事は物心ついた時から当たり前に見てきた。俺が今語りたいのはそれではないのだ。


 み・ず・ぎ‼︎


 あぁ、なんて甘美で素晴らしい響きであろうか。この言葉と水着を生み出した稀代の天才には、名誉賞を贈らねばなるまい。

 そして、もう一人。名誉賞を与えるに相応しい奴がいる。


 その名はレイ。

 こいつは俺の親友でありながら、先の功績にも並ぶ成果を上げた現代を生きる天才だ。


 皆知っているか?

 この世界の海と川には魔物が蔓延っている事を。そのお陰で、俺達が水着というものを見る機会が皆無に近い事を。

 しかし、我が心の友は、これを解決に導いた!


『そんなもん全部狩っちまえば終わりだろ』と超ゴリ押しな方法を発案したのだ。レイの発想力に俺は感激したね。


 そうして、解放された海には水着美少女、美女がたわむれポワンポワンしてる。何が? 聞くな! 察しろ!

 更に、砂浜にはフニュと『俺が地面になろう』と思わず声を大にして言ってしまった光景が広がっているのだ。

 それはまさしく神秘。神の作り出しし至高の果実が実りを見せていた。

 もちろん俺はその中に飛び込んださ。飛び込む度に夢へ旅立つ事になっても、何度だって禁断の果実を求めたさ。俺はそれだけで天に召される気分だったのさ。この時ばかりは、すべてを捨てて童心に返ったね。全てを捨てなければ辿り着けないユートピアが存在したのさ。そこに。


 しかし、この世には更なる神秘の場所が存在するのだ。そこを人は天国と呼ぶ。あらゆる苦難を乗り越えた男にのみその天国への道は開かれる。

 その名も、男達の永遠の夢、女湯‼︎

 数多の勇者達が挑戦に挑戦を重ね、そこへ辿り着けた者はごく僅か。女湯への道は苛烈を極めているのだ。


 だからこそ、行かねばなるまい。桃源郷を我が目に焼き付けねば。夢半ばで散った先人達の野望を俺が叶えるのだ!


 水着? そんなものは海苔に包んで、海に沈めて仕舞え! ならば、見に行こう。

 そうでないのなら、女湯と同列に語るなど愚の骨頂。布切れに隠された秘密に、思いを巡らす必要などない。


 見えるか見えないか、その微妙なラインがいい?

 馬鹿野郎っ‼︎ 見える方がいいに決まってるだろ! 秘匿され続けた禁断の花園を視界に収めずして、満足出来るか!

 秘匿領域にこそ、真の楽園が存在するのだ! それを見ずして何を血迷っているのだ!

 奮い立て全男性諸君よ! 秘境に隠された秘密を今、解き明かすのだ!


 ひた走れ! 一直線に!

 数多の障害を越え、目指すのだ!

 天国(ユートピア)をっ‼︎


 〜〜〜〜


 赤。

 無意識下で警戒を覚えてしまう。真っ赤である程に、危機の代名詞とも言える血が脳裏に浮かぶ。それは、本能に刻まれた危険信号。恐れが身震いに変わり、自らに危機を通達する。


 そんな赤に染まる地獄は、その色に恥じない危険を内包し、俺の行く手を拒み続けていた。信号は常時鳴り続け、時の流れさえ危険へと変わる。


 超高温の室温。沸騰した水が、高温の蒸気へと変わりまるで霧の様な現象を作り出す。その水を沸かす業火が、蒸気を更に熱し、肌が焼けるような室温に。そして、灼熱の地獄を彩っている。

 しかし、恐るべきはそれだけではない。


天国への道(蜘蛛の糸)』と名付けられた出口へと通じる唯一つの道。そこは迷路の様に入り組み、通るだけで、槍が降るわ、雷が落ちるわ、熱湯に叩き落されるわ、障害に事欠かない。

 何度死ぬ思いをした事か……


 生傷……ではない裂傷、火傷の跡が絶えない。だが、俺が歩みを止める事はない。地獄に入る事を止めない。

 何故なら、この先には天国が待っているのだから。


「ぬぉぉぉあ‼︎ もう慣れたわっ‼︎」


 地獄はまず急落下からの熱湯という洗礼で始まる。本来なら、落下中に悲鳴をあげ、熱湯に落ちてから別種の悲鳴をあげるコラボレーション。しかし、もうかれこれ10度目近い洗礼に俺は猛る気持ちを爆発させ、雄叫びをあげた。


 ガバッとフツフツ水泡が浮き立つ池から飛び上がると、赤熱した石畳の上に降り立つ。靴の底が焼けるような熱にさらされジューと悲鳴をあげるが、それを無視し、ずぶ濡れた服を脱ぎ捨て、一歩踏み出した。

 その瞬間、足に伝わるポチッというスイッチ音。


「いきなりか‼︎」


 俺はその場から飛び退いた。その瞬間、地面から火が吹き出し、俺の脱ぎ捨てた服が蒸発音と共に炭となって崩れ去る。

 これを作った奴はきっと俺を殺す気だったのだろう。容赦がない。何度か俺も火に焼かれ、その度に熱湯に飛び込むを繰り返したのだが、もう慣れたものでスイッチの音が聞こえると瞬時に、逃げる事が出来るようになった。


 しかし、これはまだまだ序の口。洗礼の続きでしかない。本当の地獄の試練が始まるのは、ここからである。


 まず初めに立ち塞がるのは壁。しかし、単なる壁と侮るなかれ。壁は灼熱の岩で作られ、その内には爆発魔石が埋め込まれているのだ。

 逃げ場のない爆発が壁に張り付く事しか許されない挑戦者を噴煙と共に叩き落す。そして、地に落ちてからも狙ったかのように爆発が連鎖し、大爆発を引き起こす。

 何度この壁で力尽きる事になったか。鮮明としない意識の中で、やはり殺す気だと感じたのをよく覚えている。


 しかしだ。この壁には一つ如何ともし難い弱点が存在した。それは、度重なる爆破により頼りなくなった障害を見れば一目瞭然である。

 耐えられなかったのだ。壁の方が俺よりも先に根をあげた。


 崩壊した壁など恐るるに足りない。もうお決まりとなった安全な道筋を辿れば、爆発に晒されずそこを通り抜けられる。

 俺は、迷う事なく壁の亀裂に一歩踏み出した。


 ポチッ


「…………あの鬼畜野郎っ‼︎」


 俺はないなずの場所に設置された地雷に、飲み込まれた。


 〜〜


 容赦の無さが代名詞の友の策略にはまり、油断仕切っていた俺は爆殺されかけ、既にボロボロとなった状態で、次の試練に差し掛かる。


 そこは、この地獄の中の楽園と名付けられた、命の水が存在する場所。灼熱に喉を焼かれた挑戦者達にとってそれは救いの水であり、一方で地獄の水である。


「……あいつには優しさの欠片もないな」


 俺は目の前の黒光りする看板の前で、嘆息しながら呟いた。


『よぉ、元気にヘルズってる?』


 そんな軽い調子で始まる黒い看板には、


『そんなヘルズってる君を更にヘルズらせるヘルズ運動いってみよう!』


 やたらとヘルズを押すうざい文が刻まれており、


『喉乾いたろ? ヘルズ体操やったら水やるぜ?』


 灼熱地獄でカラッカラとなった喉を思わず唸らせる言葉が書いてあった。だがしかし、俺は知っているのだ。


 これは罠だ。


 体操とか生易しい運動を仄めかしておいて、その実、苛烈な労働を強いるそれは、逆に体の水分を奪い去っていくのだ。

 しかも、水をやると書いてありながら、やってみればわかるが自分で作らされるのだ。


『まず初めに熱湯をここに注ぎましょう。熱湯は入り口にあるからね?』


 鬼だ。

 ここまで死ぬ思いをして来たというのに、戻れとあるのだ。しかも、タチの悪い事にここで魔法を唱えれば、何処からともなく雷が落ちてきて、意識を持っていかれる。つまり、看板の横にひっそりと置かれている桶に熱湯を注ぎ、ここまで持って来なければならないのだ。しかも、桶が鉄製という鬼畜仕様。殺る気しかない。


『お湯を注いだら、この団扇で冷ましましょう』


 団扇がどこにある?

 あるのは馬鹿でかい鉄板のみ。手が焼けるわ、重たいわ、こちらを消耗させにきている。

 しかも、それだけ必死に作っても、水が温いという無慈悲な結末が待っている。あの男に優しさはないのだ。


 二度同じ轍は踏むまい。俺は、誘惑を断ち切ると、次の試練に向かった。


 そこは白かった。雪の様な白さの霧が、そこを覆い尽くしていた。その白煙は濃く、視界の一切を阻害する。わずか数十センチ先が見えぬ様な、霧は全て蒸気が作り出したもの。

 一度その霧に手を伸ばせば、湿っぽさと暑苦しさに苛まれる。


 そんな霧が、この先の道全てを覆い尽くしていた。水滴が付いた壁伝いにそこへ足を踏み入れる。すぐ様、霧に囚われる事になった俺だが、恐る事なくただ足を前に進める。

 手に伝わる湿っぽい壁の感触が唯一の頼りであり、壁に沿って道を進む。


 しかしだ。それだけでは一向にゴールは出来ない。ここは、いわゆる迷路のような作りになっているのだ。どこへ行けども道は開けず、行き止まりに差し当たるのみ。

 だから、勘を頼りに壁を移り、迷路の中を進むしかない。するとどうだ。自分がどこにいるかもわからなくなるではないか。偶に踏み抜いてしまう罠のお陰もあり、どんどん泥沼にはまっていく。


 先の見えぬ迷路に精神を削られ、蒸し暑い蒸気に体に疲労が蓄積する。

 ここは憔悴地獄。徐々に挑戦者を追い詰めていく、意地の悪い地獄なのだ。しかも、抜けられるかは全て運という希望のなさ。精神の弱い者から脱落していく事は間違いない。


 だが、俺は違う。そんなひ弱な男共とは違うのだ。俺には、雲に閉ざされても光り輝く希望(女湯)がある。


 早くおいでと、麗しの天使達が手を振っている。魅惑的なポーズをきめて、俺を誘っている。

 もう少しで豊満な果実が見える。くそっ、煙が邪魔だ。天使の双丘が拝めないではないか!

 俺は何を立ち止まっているんだ。ゴールはすぐそこだ。見える。見えるぞ。そこが女湯か!


 俺は霧の中で微笑む天使に向かって走った。そして、その胸にダイビングした。


「ウヒャッホーイ‼︎」


 …………天使が壁だったとは最後まで気が付かなかった。


 〜〜〜〜


「くそっ、あの頭のおかしい鬼畜め。幻覚まで見せてくるとは」


 そんな風に鼻から出る血を押さえながらも、迷路を抜けた俺は、とうとうこの広大な地獄部屋の天井が見えるところまで来ていた。そして、そこから見える確かな明かり。間違いない、あの先が天国だ。

 それを見て思わず笑いが溢れる。


「ふはははっ! もはやゴールは目前だ‼︎」


 この一週間に及ぶ苦労と熾烈な試練を思い出し、よくやったと涙が溢れる程に。

 だが、俺は知っているのだ。この数年の経験から、希望を持たせておいて、それを打ち砕くのはあいつの常套手段である事を、身をもって熟知しているのだ。


 油断なく見詰める先には、これまでの試練が嘘のようなだだっ広い通路と階段。一見したところ何もない。

 しかし、それが逆に怪しさを引き立てていた。

 面白として鍛え上げられた勘が、ビンビンと反応し、罠を感知する。その勘によれば、そこに存在するもの全てが罠であった。


 床、壁、天井、果ては階段までもが、俺の勘を刺激する。

 だが、それが俺の歩みを止める理由にはならない。俺はこれまでの地獄の試練をクリアしてきた。これ以上、どんな地獄があろうと止まる事はない。

 何故ならこの先には、夢があるのだから。


 ビリッ。

 足を一歩踏み入れた瞬間、雷鳴にしては静かな、けれど全身を震わせる雷が地面から流れた。


「にゃんだひょれは」


 口が上手く稼働しない。全身が痺れる。動けないわけではないが、背筋が痒くなるようなそんな痺れが足を通じて全身に広がっていた。


 やはり、罠だらけであったようだ。それも今までとは比較にならない量の魔石がセットされている。どこに足をおけど消えない痺れ。

 この状況で、前に進むのは精神的にやられそうだ。まるで長時間正座した後、時間を置かず歩いた時のような、全身を貫く如何ともし難い痺れが常につきまとう。もはやそれは痛みと言って差し支えない。ツーンとくる痺れが一歩踏み出す事に、俺の精神を削り取っていく。


 ーー進みたくない。


 そう心より先に本能が折れそうになる。決して耐えられないわけではない。だが、それは毒のように少しずつ俺の精神を蝕んでいくのだ。

 そんな時、俺は思い出す。自分が進む理由を。

 楽園が俺を呼んでいる。こんな所で立ち止まっている暇はない。入浴時間が過ぎてしまうっ!


「ぉぉぉぉお‼︎パリャリャイス‼︎」


 足を動かせ。痺れなど恐れるな。

 一分一秒でも早く、辿り着け。

 駆けろ。駆け抜けるのだ。地獄を。


 一歩踏み出す度に走る電気。それを諸共せず気力だけで足を動かす。

 そして、ようやく通路を渡りきり、階段に差し掛かった時、それまでとは比べ物にならない電撃が走った。

 それはもはや雷そのものであった。天井と床が光の線で繋がり、雷鳴が轟いた。


「おおぉぉお‼︎」


 だが、そんなもの猛り狂う俺の前ではゴミ同然。もはや地獄の雷ですら俺を止めるには至らない。強く踏みしみた階段が、スイッチ音を奏で、さらなる雷鳴を轟かせようと、突如現れた業火に身を焼かれようと、爆破が行く手を遮ろうと決して怯まない。


「こんな事で今の俺を止められると思うなッ‼︎」


 全身を駆け巡る雷など、ボンキュボンの美人との出会いと比べれば、蚊ほども効きはしない。この身を焼く業火など、魅惑的な女性の体温だと思えばむしろ気持ちいい。爆破など、絶世の美女に投げキッスされた衝撃に比べれば、可愛らしいものだ。


「さよなら地獄‼︎こんにちは、天使達‼︎」


 とうとう俺は、天国の扉へ手を掛けた。この扉の先に待つ一糸纏わぬ天使達へ、対面の挨拶を叫びながら、勢いよくその先へ飛び出した。


 ーーこの時の俺はすっかり忘れてしまっていた。


 俺の友は希望を持たせて落とすのが得意な奴だったという事を。


「…………はっ?」


 空を切る足。遥か下に見えるお湯溜まり。そう、天国への扉はお風呂場の天井近くに備え付けられた扉だったのだ。

 そこから勢いよく飛び出した俺に待っていたのは、真下の床への落下であった。


「うぉぉお⁉︎」


 急に吹き出した真下に吹き抜ける風に煽られ、初速から高スピードで落下し始める。これもレイの計算通りであったのだろう。まだ試練は続いていたのだ。


 だが、この何もない空中で出来る事など限られている。何か出来るとすればあいつだけだ。

 俺は早々に対処を諦め……


 ーーじっくり女体を眺める事にした。


 落下に伴い、視界が晴れる。湯気が立ち込める中、真っ逆さまに落ちる俺の視界は真下ではなく、その湯気の中に固定されていた。


 風呂場に大きな音が響く。全身を撃ち抜く衝撃が俺の意識を奪おうと暴れまくり、視界まで奪おうとする。

 激しく明暗する視界。その中で俺はしかと見た。

 フサフサ揺れる揺れるあれを。フリフリなカーブを。


 もはや後悔はない。


 俺は天に召される気持ちで目を閉じた。


 ナイス、パラダイス…………

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