エキシビジョンマッチ前編
前編後編の2話構成です。
冬の寒々として気温の中、押しくら饅頭をして暖をとるかのように詰め寄る人々。武闘大会が開催されてから常に満員であった闘技場に、入り切れない程の人が詰め寄せ、所狭しと詰め込まれていた。
「なんじゃこの人の数は……」
俺はその人々を真上から見下ろしながら、唖然と呟いた。その横で、ハクが同意を示すかの様に小さく鳴いた。
「ピィ……」(飛べばいいのに……)
そうナチュラルに人間と竜の種族の壁を超えろと無茶を言うハクであったが、その横に超えてしまった奴がいるのだから、何も言えない。
俺は眼下の人達から、闘技場の中心へと目を向けた。俺の目線の先には、数十人の性別、年齢様々な武装した集団が一列に整列していた。
「思ってたより、騎士様ってのは人気があるんだなぁ」
この人集りは、本戦直前に開かれるエキシビジョンマッチを見に来た人々だ。彼らの目的は、本場の騎士相手に子供達がどこまで対抗できるかと言うところにある。
エキシビジョンマッチには各学校から毎年数人の代表者が選ばれ、本戦出場者の休暇も兼ねて、丸一日開催される。うちからは、アンナ、ゴルド、シャルステナ、それから出場者でもなんでもないが、面白そうだから面白三人衆も放り込んでおいた。初代に関しては、学生ですらないが、所詮は勝敗に関係ない交流試合。そんな我儘も許される。
因みにだが、この交流戦の出場者は俺の独断と偏見で決めた。そもそもこれは、本戦出場者の依頼争奪戦での疲れを癒して、ついでに明日からの本戦を更に盛り上げよう的なものなので、本戦出場者が決まるまで保留になっていた案件だ。つまり、事前に申請する必要がない。
あとは誰が出るかだったのだが、ギルクの野郎は何をトチ狂ったか、俺を出場させようとしてやがった。何のためのエキシビジョンマッチだ。
そのため、致し方なくギルクを縛り上げて用紙を奪い、一部始終を見られたシャルステナの誤解を解いてから、俺が見たいなと思う人材をピックアップした。
だから、俺は今日とてもワクワクしながら、観客席の頭上で浮いていた。
『長らくお待たせ致しました‼︎ 騎士団vs学生連合! エキシビジョンマッチを開催致します!』
司会者の開催宣言に伴い、学生連合と呼ばれる各学校から代表者が入場してきた。
王立学院からは、先程も言った通り、シャルステナ、ゴルド、アンナと続き、何故か首輪を付けられたリスリットとそれを引くライクッド。そして、最後にお前はどこの戦場に向かう気だと言いたくなる程の武装を施したギルクが入場して来た。あの透かし顏が非常に腹立たしい。もう俺の勝ちは確定だとでも言いたそうだ。
『まずは騎士学校と騎士団の勝負を始めます!』
このエキシビジョンマッチの流れはこうだ。10人の現役騎士相手の勝ち抜き戦。ただし、一応は敵校同士。一致団結とはいかない。そのため、各学校で順番に騎士を相手取っていく。学生が全員負けたら、次の学校へと順番を回し、最終的に全ての騎士を倒せば学生連合の勝ちだ。
「騎士vs騎士の卵。これは見ものだな」
という俺の期待を他所に、結果は騎士の圧勝。代表選手が予選敗退者もしくは、トーナメントに出場していない事を考えると当然の結果かもしれないが、さすがに現役騎士は一味違う様だ。
ディクが出てれば結果は変わってきただろうが、いかんせん昨日あいつの保護者に縛られてるとこを見たからなぁ。
たぶんあいつもギルクと同じでトチ狂っていたのだろう。
しかし、そのトチ狂った奴が出なかったために、試合は騎士の圧勝続き、流石に数で疲れを見せたところで、一人だけルーシィが倒したが、そのルーシィも次の相手にはなす術なくやられてしまった。
そうして、順番的には最後となる王立学院の出番がやって来た。
『さぁ、今年も騎士の圧勝で終わってしまうのか⁉︎最後を飾るのは王立学院だーー‼︎』
残る騎士は9人。対して、シャルステナ達は6人。しかも、そのうち三人はただのギャグ要員である。
「これは流石に厳しいかな」
そう思いつつも、人はどうしても逆転劇を期待してしまう。俺のワクワクは最高潮に達しようとしていた。
『王立学院最初の刺客はこの2人‼︎ 王立学院の3年生、リスリットとライクッド‼︎』
二人でやんのかよッ‼︎
いや、まぁあいつら2人だけ歳下だし、当然の措置かもしれないが……これも何でもありのエキシビジョンマッチだからいいのかな…?
「いやぁぁぁあ、私帰るぅぅ‼︎」
「駄犬、さっさと来てよ」
「最近レイ先輩に毒されてない⁉︎」
ライクッドの辛辣な言葉にリスリットは涙目ながらも、反論する。だがしかし、これだけ大勢の前で逃げ出そうものなら、ブーイングの嵐が彼らを襲うだろう。
ライクッドの首輪は非常に正しい選択だったかもしれない。
「ほら、やるよ?レイさんに修行の成果見せないと」
「見せる前にボコボコにされるよぅぅ」
泣き言しか言わないリスリット。情けない弟子だ。首にしてやろうか。
一方、真の弟子、ライクッドは俺と同じ様な気持ちでため息をついてから、首輪から繋がったリードのボタンをポチッと押した。
「やっぱりもどどどどどど⁉︎」
バチチッという音とともに、リスリットが丸焦げになった。首輪型雷撃魔石の効果が十二分に発揮されたようだ。リスリットはプスプスと煙を立てて、動かなくなった。
そんなリスリットを見て観客は若干引き気味で、ライクッドは驚愕しながら、宙座する俺の方に顔を向けた。
「強力過ぎません⁉︎」
その言葉に闘技場にいた全ての人が俺へと視線を向けるが、俺は素知らぬ顔で、
「起きろ」
「うげっ⁉︎」
リスリットに魔力塊を打ち付けた。
『おっと、流石はキッチック! その名に違わぬ鬼畜の諸行‼︎ 流石の私もドン引きだ!』
「うるせぇ‼︎ 弟子の鍛え方なんて俺次第だろ!」
そんな思わず出た反論に賛同してくれる者は残念ながらいなかった。
なぜだ……
ライオンは自分の子供を崖から突き落とすんだろ?
俺はそれに倣ってるだけだというのに……
そんな納得出来ない視線を集めながら、それを霧散させるため、俺は勝手に開始の銅鑼を鳴らした。
『あぁーー⁉︎ 私の仕事が⁉︎』
そんな司会者の叫びは空耳のように通り過ぎていった。それは俺だけでなく、観客達もだ。何だかんだで、試合の方が気になるようだ。
「うぅぅ、最近私の扱い、ギルク先輩と同じなんだけど……」
そんな泣き言を漏らしながらも、リスリットは剣を抜いた。その剣は見事Aクラスに上がれた彼女に俺が買ってあげた剣であった。俺が普段から無駄に持ち歩いている安物ではなく、そこそこのものだ。
もちろんライクッドにもだ。中距離が適任の彼には、短剣としても使える投剣と投げナイフを買ってあげた。
これは頑張った2人へのご褒美だ。鞭と飴を使い分け、弟子を育てる。こんないい師匠はいないだろ?
「それじゃあ、行くよ! リスリット!」
「うん‼︎」
リスリットに何か耳打ちしたライクッドがリードを手放すと同時に、彼女は走り出す。飼い主と、その飼い主のいう事を素直に聞く犬のようだ。
「バブルボム!」
リスリットが騎士に迫る中、即座に魔法を完成させたライクッドは、弾ける水球を騎士へと投げ掛けた。まるでリスリットの左右を守る様に通り抜けた水球は、騎士の動きを制限する。
左右から挟み込む形で、騎士に襲いかかったそれは、騎士に当たる直前で弾け、水飛沫と衝撃をばら撒いた。そこへ肉薄したリスリットの突きが放たれるも、相手は現役騎士。この程度では崩れない。
騎士は左右へ逃げる事を瞬時に諦め、真っ直ぐにリスリットを迎え撃った。交錯する二振りの剣。騎士の剣もそこそこの値段はしそうだが、彼女の剣も負けてはいない。
剣同士は互角。だが、使い手はそうではない。
「キャッ!」
短い悲鳴をあげながら、押し切られたリスリットはバランスを崩しよろけた。そこへ、騎士の一撃が迫るも、投剣が実にタイミングよく投げつけられ、リスリットが体勢を整え直す時間が作られた。
投剣を弾かざるを得なくなった騎士から、リスリットは瞬時に距離をとった。パッパッと二回後転し、距離を置くと、腰から小さなナイフを抜く。
「何する気だ?」
見た事のないリスリットの動きに俺は興味深く目を細めた。また新しい戦法でも考えたのか?
ただ、あいつの考える戦法は大概碌でもないものばっかり何だよな……
そんな心配を他所に、リスリットは変則の二刀流で騎士へと迫る。騎士はそれを先程より若干押され気味で捌いていく。時折、投げられる投げナイフを気にしてか、先程より少し動きが鈍い。それに加えて、リスリットの変則的な二刀流は珍しく功を奏していた。
恐らく彼女自身気付いていないだろうが、長さの違う刃を相手取るのは中々に面倒なのだ。
剣を振るう時、最も見えにくいのはその刃だ。それは、速さと言うのもあるが、刃が薄いため見ようによっては線にしか見えないからだ。
だから余程相手の実力差がない限りは剣を目で追うなんて出来ない。手の動き、体の位置。それから経験から来る予測で剣を捌くのが、普通だ。
そして、その場合剣の長さが剣を捌く上での一つの指針となる。しかし、今回のような長さが違う刃では、瞬間的に受ける位置を調節し続けなければならない。
それが騎士を苦戦させるに至っている理由だ。
そんな奇しくも苦戦を強いられていた騎士は、行動指針を変えた。実に的確な判断で、先にライクッドを倒そうと、リスリットを引き離し、ライクッドへと迫る。
悪くない手だ。だが……
「来ましたね」
それを特に慌てる事なくライクッドは、投剣を二振り揃える。騎士はそれを接近戦に持ち込む好機と捉えーー油断した。
ライクッドだけを視界に収めていた騎士の動きが突如停止した。見れば、彼の足は先の魔法でばら撒かれた水によって凍り付いていた。
「いつの間に⁉︎」
驚愕に顔色を染めた騎士にライクッドは、少し悪い笑みを浮かべながら、教えを語った。
「自分より格上とやる時は、確実に攻撃を当てる道筋を作れ。僕の先生が教えてくれた事ですよ」
そんな事を語りながらも、彼は騎士が抵抗出来ないよう、更に冷気を込めた。パキパキと凍り付いていく騎士の足。それが腰にまで達しかけた時、
「捕まえたーーッ‼︎」
リスリットが騎士へと勢いよく抱き着いた。その振動で騎士の足を覆っていた氷が砕け、二人は一塊となって前へと倒れこむ。
何やってんだよ、あの駄犬は……せっかくライクッドが捕まえたっていうのに……
「これでいいんだよね⁉︎」
「うん、ありがと」
騎士を捕まえながら、ライクッドへ笑顔で確認をとったリスリット。ライクッドはそんな彼女にお礼を言いながら、彼女のリードへと手を伸ばす。
ポチッ
「「アババババババッ‼︎」」
情け容赦皆無の電流が彼らを襲う。それをニッコリと笑って見ているライクッドは、流石は俺の弟子であった。
あいつには免許皆伝を与えよう。もし俺があいつでも同じ事をしたと思う。
しかし、俺が感激を寄せる一方で観客達からの歓声はなかった。そんな観客達の反応に不思議そうに首を傾げたライクッドはプスプスと煙を上げて横たわる二人を見てーー
「……?『ポチッ』」
もう一度ボタンを押した。
「「アバババババッ‼︎」」
先程の巻き戻し映像の様に、手足をまるで陸に上げたばかりの魚のように震わしたリスリットと騎士さん。流石の俺も、若干同情を寄せる。そんな俺よりも観客の反応はもっと顕著だ。明らかにドン引き状態。
それを見て、ライクッドはまたポチッと。
「「アバババババッ‼︎」」
はにかみながら首を傾げ、そして、繰り返される惨劇に、俺たちは悟りつつあった。
あいつ、声援が出るまで続ける気だ……
ポチッという音はその後5回なった。
もうやめてあげてッ!
そう誰かが言っていた。
〜〜
『え〜、ゴホン! 気を取り直して、続いてはギルク王子です!』
先程のドン引き事件の後ではギルクの登場に向けられる拍手も疎らだ。
先の試合を勝利で収めたライクッドとリスリットのペアであるが、方や度重なる電撃で戦闘不能。そして、ライクッドも嘘か本当かわからない魔力切れを言い訳に辞退した。
そうして、完全武装王子の出番となったわけだが……
「はっはっは‼︎ 俺が地獄の試練を突破し、手に入れたこの魔道具を早くも使う時がこようとは!」
先の試合で凍り付いた空気を笑い飛ばすかのように、高らかに武器を持ち上げたギルク。彼の手には、銃型の武装、『火炎放射』が握られていた。
あれは地獄部屋に隠された宝の一つで、名前の通り火炎放射をぶっ放せる一品だ。俺と王都の魔石屋のおっちゃんの力作だが、ギルクが手に入れたのはそれだけではない。
通称ビリビリ君。これは鞭型の魔道具で、まぁ、リスリットの首についついるやつと同じ様なものだ。
後はジェットナイフ。ナイフの先に噴射口と風撃魔石が取り付けられており、勝手に加速するナイフだ。
残りの装備は知らない。無駄に多いが、果たして上手く扱えるのだろうか?
『試合開始‼︎』
今度は横取りされなかった司会者は満足気に開始宣言をした。やってやったぞ的なドヤ顔を向けてくる司会者に魔力塊をバンッしてから、試合へと向き直る。
「燃え尽きろ‼︎」
試合開始直後、早速ギルクが放った火炎放射は、舞台を真っ赤に染めた。それは地獄の業火の様に轟々と視界全てを燃やし尽くす。
「……調子に乗り過ぎたか?」
初めて見る火炎放射の威力に俺は少々言葉を失いかけた。どうやら俺と魔石屋のおっちゃんはとんでもない一品を作り上げてしまったらしい。
やたらと無駄に大きい発射口の奥に30もの最高級の炎撃魔石を敷き詰め、更にはこれまた最高級の風撃魔石をその後ろに並べ、押し出す様に作られた火炎放射は、それはもうS級でも炭にしてしまいそうな威力があった。
しかも、ギルクは面白のくせに火炎放射を使いこなしていやがった。実は火炎放射は、敵を倒す為に作った一品ではない。業火を発すると同時に、強い風が吹くため、反作用で吹き飛ばされるというものであったのだ。
しかし、ギルクは無駄に見える装備の重さと、ジェットナイフを利用し、その反作用を打ち消していた。初代にあるまじき失態である。
だが、見事な機転としか言いようのない利用方だ。
『しょ、勝者ギルク王子‼︎』
観客が皆唖然とする中、ギルクは透かし顏でポーズを決めた。物凄く魔力塊を撃ち込みたい。
『さぁ、まさかの快進撃を続ける王立学院! 残る騎士は後8人‼︎ このまま勝ち抜けるか⁉︎』
これはヤバイな。面白が厄介なもの手にしてやがる。自分で作っといてなんだが、やり過ぎ感がいなめない。誰でも使えるというのが危険極まりないな……
量産計画は白紙に戻そう。
「次はこのデビルウィップの出番だな」
「それはビリビリ君だ」
作製者の付けた名前を勝手に変えてくれるなと、聞こえないツッコミを入れつつ、後で全部没取しようと決める。あいつに持たせておくのは危険極まりない。
ドーン‼︎
俺がしばし没取法を模索していると、試合開始の銅鑼がなった。えてしてドヤ顔を見せる司会者に、こちらも同じ対応策を取りつつ、ギルクの試合を観戦した。
「うぉっ⁉︎」「げっ⁉︎」「ギャァー‼︎」
と悲鳴をあげながらも、紙一重で攻撃を避けるギルク。その手には、ビリビリ君が握られていた。そのビリビリ君を悲鳴をあげながら逃げつつ、振り回すも相手も先の2戦で魔道具の怖さを思い知ったのであろう。触れもせずに、鞭を回避し続ける。
騎士の主武器が槍というのもあり、鞭を回避し易い距離が転じて、ギルクは徐々に逃げ場をなくしていく。ただ、それでも紙一重に躱していく様は、流石地獄クリア者である。
突発的かつ、容赦ない地獄の罠を掻い潜ったギルクの回避性能は、もはや獣の本能に近いものがあった。
しかし、そんな『おおっ!』となる回避能力を持っていても、本人は涙目である。早くも『火炎放射様ーー‼︎』と、鞭で挑んだ浅はかな挑戦を後悔していた。
「が、学生相手に本気を出すなど、卑怯だろ⁉︎」
お前学生じゃないだろ。
「ギルク王子ご容赦を」
とうとう闘技場の壁へと追い詰められたギルク。背中は壁に、正面には槍を深く構えた騎士の姿。普通こういう時は、王子に勝ちを譲るものだろうと思わなくもないが、この国は存外王族に対する扱いが酷いようだ。俺だけでなく。
騎士の重心が前へと移動し始める。それに伴い腰の力を乗せた一撃が、ギルクを貫かんと急迫。その槍の先端が、ギルクの腹へと触れかけた瞬間。
「「アバババババ‼︎」」
まさかの自爆攻撃。
鞭を己に向け、槍を通じて騎士もろとも電撃に包まれた。今日は偉く痙攣する奴が多いなと俺はどこか他人事のような感想を浮かべた。
やがてバリバリッという電流音が収まると、これまた黒焦げたお二人さんが姿をあらわす。騎士は天を仰ぎ、白目で口から煙を吐いていたが、一方でアフロへと髪型を変えたギルクは、黒焦げながらも立っていた。
「ふっ、地獄より軽い」
そんな恐らく俺以外に同意は得られないであろう事を呟き、まさかの2人抜きを敢行した初代。番狂わせも程がある。
そんな快進撃を見せた初代だが、髪が乱れたとか調子こいた事を抜かした上、棄権しようとしたので、鳳凰で連れ去ってやった。
街の外で、燃え尽きたギルクを見かけたら、皆さん埋めてあげて欲しい。墓石には、初代と刻んで。




