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龐統が転生したら、諸葛亮は中原を統一できるのか?  作者: 鳳啼西川


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第十五章:風還び舞う

建興七年の春、長安・灞橋の柳は新緑に萌えたれど、別れの荘厳なる殺気を隠しがたし。「共に成都に帰り、正道を以て邪を破る」の大計を定め、諸葛亮と龐統は未央宮前にて留守の諸将に綿密なる布令を施した。


諸葛亮は穏重堅固にして父の風を継ぎ、夷陵と北伐の磨きを経た関興に、長安留守諸軍事を仏り領し防務を総覧させ、機敏にして謀略に長けた馬謖を参軍となし関興を補佐せしめた。一武一文、一穏一奇、これは諸葛亮が深く慮り練った均衡の策なり。


龐統はこの布令に異議なかりき。出発する前夜、麾下にて潜伏追跡に最も能き斥候の頭目を密かに召し、機宜を面授し、特殊なる資源を動かす令牌を手渡した。灯火の下、その瞳は深く、「李厳が敢えてこの挙に出るには、必ず凭すべきものがある。外界と言い知れぬ結びつきもあらん。成都の邸に彼が何を隠すか、知らねばならぬ。代価を問わず、必ず隠密に、痕跡は塵の下に消せよ。」


旌旗は東に向かい、車駕は南へ向かう。諸葛亮と龐統は中核の僚属と護衛を率い、帰路に就いた。馬超も隊列に在り。これは龐統の計らいであり、諸葛亮も黙許せり。あまりに鋭きこの剣を長安に置けば、噂と猜疑より変事を生ずる虞あり、眼前に置くがよかろう。魏延は協防のため残され、その勇悍は関興を助け外敵を震慑するに足れど、性格の欠点は関興・馬謖が慎んで調和せねばならぬ。


諸葛亮の車駕、秦岭の棧道を抜け行くその時、幾人もの鬼魅がとして龐統が早年に布き極めて用いぬ密路を頼り、ひそかに成都に潜入し、尚書令・李厳の邸の陰に潜伏した。


成都、皇宮・武担殿。


雰囲気は暴雨前の雷の如く重く籠もる。劉禅は御榻に高く坐し、若き天子特有の不安より強いて威厳を装う。黄皓ら近侍は手を垂れ侍立し、眼光は儚く動く。李厳を首とする益州系の官吏は面色厳粛なれど、眼底には忐忑と期待が秘められた。他の朝臣は息を潜め、嵐の来らんを待つ。


諸葛亮と龐統は旅路の塵にまみれ、礼を以て拝謁した。礼の済みしや、諸葛亮は寒暄を俟たず身を起こし、眼光は電の如く李厳を掠め、ついに劉禅に注ぎ、声は穏やかなれど雷霆の力を湛えて曰く。


「陛下、老臣と士元は長安に遠く在り、日夜、北伐を計り、先帝の恩に報い国仇家恨を雪がんと欲す。然るに近頃、朝に奸佞の輩あり、心を一つに力を合わすことを思わず、逆に君臣を離間し国事を梗阻し、甚だしきは噂を密かにまき、我々を『兵を擁し自重す』と汚す。この言論は前方の将士の心を冷やすのみならず、国本を揺るがし自ら長城を壊すものなり。臣、今日この朝堂に於いて尚書令・李厳に問わん。この言は何れより出ずるか?この心は何を企つるや?!」


切って核心に迫り、矛先はまっすぐ李厳を射る。


李厳は前もって備え、班を出で奏曰く。「丞相、言い過ぎなり。厳の為す言う所、全て国と君のためなり。丞相と軍師将軍は功高く世を蓋すれど、久しく外鎮に在り重兵を握り、関中は遠く隔たる。これは客観の勢いなり。厳はただ陛下に慰めを加え、早く還朝を召して君臣の義を全うせよと勧むのみ。何ぞ離間の説あらんや?逆に丞相、焦って詰問するは、もしや外界の疑う如く心中に鬼あり、権を解くを嫌うなりや?」


逆襲を仕掛け、言辞は鋭し。


龐統は冷笑し一歩踏み出で曰く。「李尚書、実に口先が巧みなり!陛下に勧むと?禍心を包み隠すと見える!北伐は肝要なる時節にあり、司馬懿は潼関に兵を陳じ虎視眈々と狙う。汝は糧秣を保障し後方を安んずるを思わず、ここに妖言をもって衆を惑わし、我々自ら柱石を壊さんと企む!問おう、昨年の冬春、漢中より関中に運ぶ糧は屡々遅延し、損耗は定例を遠く超えり。これを如何に弁ずる?誰かが私腹を肥やし、或いは故意に遅延させ前線を困らすなりや?!」


「龐統!血口に人を喷ぐな!」李厳は面色を変えた。この件は確かに彼が暗に手を回せるも、始末は完璧と自負し。「糧運は困難にして天時地理の所為なり。妄りに憶測をなすべからず!汝らは前線にて国力を虚耗させ寸進なく、逆に後方を責むるは何の道理なりや?!」


「寸進なし?」諸葛亮の声は忽然と高まり、羽扇を天に指して曰く。「長安を克復し旧都を回復せしことは、光武帝以来の未有の大功なり!これを寸進というや?李厳、汝の眼中に漢室は在りや?先帝の遺志は在りや?口々に国と君のためと言いながら、為す所は我が軍の糧を断ち、君心を惑わし、将士の気を懈かす。この行いは敵に通ずるに何ら異なるなりや?!もしや汝は洛陽の司馬懿と早已に結託せるなりや?!」


最後の一言は雷鳴の如く、諸葛亮の怒りの極みと確かな証拠を持っての鋭き反撃なり。


「諸葛亮!汝…… 忠良を陷れんとするな!」李厳は驚き怒り、心の内はふと虚しくなる。


朝堂の諍いは白熱し、劉禅は惑いを浮かべ、衆臣は囁き合うその時、殿外に龐統の親衛頭目が謁見を請い、緊急の密報ありと告ぐ。龐統は廷にて許し、親衛は入りて視線を惑わさず、火漆で密封せる書状一巻と往復の書状副本一疊をまっすぐ龐統に捧ぐ。


龐統は公に火漆を破り速読し、眼光に寒気が漲る。その副本を掲げ、声は氷の如く冷たく大殿に響く。

「陛下、諸公!これは麾下の者が命を賭して李厳邸の密櫃より奪い取りし書状の抄本なり。中には魏の降人と私に交わり朝廷の虚実を探る記録あり。更に甚だしきは、荆州の旧商路を経て魏側と『事変あらば如何に富貴を全うせん』との隠微なる言辞まで交わされり。李厳!何の弁明あらんや?!」


「あり得ぬ!偽造にて、陷れんとするものなり!」李厳は雷に打たれたかの如く面色蒼白となり、龐統の手がこれほど速く鋭く、真に証拠を掴むとは夢にも思わざりし。幾度かの連絡は極秘と自負したれど、龐統の諜報網は、不審なる者と接触せし初めから既に狙われていた。


諸葛亮は勢いに乗じ進み出で、劉禅に深く揖し痛心疾首にて曰く。「陛下!先帝は臨終に李厳を臣らと共に陛下を補佐せしめ、同心協力せんことを望まれたり。思うに外は忠勤を装い、内は奸心を抱き、国に報いるを思わず、私利を図り、北伐を梗阻し、君臣を離間し、敵に通ずる嫌疑まであり。この国賊を厳しく罰せずんば、如何に先帝を慰めん?将士を励ましん?天下の衆生に対面せんや?!」


証拠は目前にあり、諸葛亮の正義は凛とし、龐統は步步と迫る。劉禅も愚かなりといえど事の重大を知る。死灰の如く地に崩れる李厳を眺め、怒りに身を奮わせる両人を見つめ、趙雲の臨終の願いを思い起こし、ついに震えて曰く。


「李厳を…… 官職を剥奪し、天牢に入れ、有司に…… 有司に厳しく査察せしめよ!」


心を奮わせる朝争は、李厳の敗北と投獄を以て終わる。諸葛・龐は大勝を収めたれど喜色なく、深き疲労と警戒のみ残る。朝堂の粛清は必ず行わねばならず、後方の糧秣と人事は速やかに立て直さねばならぬ。

蜀漢の内紛が稍々治まるその時、北方に激震が伝わる。魏帝・曹叡、壮年にして病死す!曹真・曹休ら宗室の名将は早已に亡く、輔政の臣にて権勢を日増す司馬懿を制衡せる者なし。迅雷の如き一連の政略の後、司馬懿は相国に加封され安平公に進み、黄鉞を假し朝政を総覧し、軍中の将校は悉くその腹心となる。魏の軍政は実質的に司馬氏の手に帰す。


絶対の権力を握りし司馬懿、眼光は再び西方に注ぐ。蜀漢は内紛を経、諸葛亮・龐統は勝てど朝局は動揺し、後方の調整には時日を要す。彼が相手に喘息の暇を与える道理なかりき。


冷酷なる命令、洛陽より発せられる。鎮西将軍・雍凉都督・郭淮、速やかに兵馬糧秣を整え、長安に圧力を加え試験的に攻撃せよ。必ず蜀軍主力を城下に牽制せよ。同時、密令は南中(益州南部)に飛ぶ。蜀漢の注意が北線と内治に集中する隙を衝き、黄金と官爵を以て蛮王・高定・朱褒らを誘い、直ちに兵を挙げ乱を起こし、郡県を攻め略奪せよ。腹地に最大の混乱を生じ、首尾相いれぬようにせよ!


狼煙は、北の潼関と南の瘴気の地よりほとんど同時に立ち昇り、内憂を鎮めたばかりの蜀漢に襲い来る。真の試練は、今や始まりたるばかりなり。


(第十五章 完)

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