エピローグ「世界で一番、幸せな誕生日」
白石紬改め、一条紬になってから一年が過ぎた。
私と蓮さんの結婚は社内でも大きな話題となった。最初は「あの地味な白石さんが、まさか専務と!?」と驚かれたが、プロジェクトでの私の働きぶりを知る人たちは温かく祝福してくれた。
結婚を機に、私は会社を退職した。蓮さんが「君には、もうあくせく働いてほしくない。これからは、俺が君を一生守るから」と言って、どうしても譲らなかったからだ。
今は専業主婦として、穏やかで幸せな毎日を送っている。
蓮さんはどんなに仕事が忙しくても、必ず夕食までには家に帰ってきてくれる。そして、「紬の顔を見ると、一日の疲れが吹き飛ぶよ」と言って私を優しく抱きしめてくれるのだ。
彼の愛情は結婚してからも深まる一方で、私は毎日その大きな愛に包まれて溺れそうになっている。
そして今日。
私は二十七歳の誕生日を迎えた。
朝、目を覚ますと、ベッドの隣に蓮さんが優しい笑顔で座っていた。
「おはよう、紬。誕生日おめでとう」
そう言って、彼は私の額にそっとキスを落とした。
「ありがとう、蓮さん」
「今日は、君のための特別な一日だ。一日中、俺が君を世界で一番幸せにしてやる」
彼の言葉に、胸が温かくなる。
リビングに行くと、テーブルの上には彼が早起きして作ってくれた豪華な朝食が並んでいた。不器用だけど、一生懸命作ってくれたことが伝わってくる。
日中は、二人で思い出の場所を巡った。
初めてのデートで行った水族館。彼が私に告白してくれたホテルの屋上庭園。
どこへ行っても、彼は私の手をしっかりと握り、決して離そうとはしなかった。
そして、夜。
家に帰ると、部屋の電気が消えていた。
「あれ……?」
不思議に思ってスイッチを入れると、その瞬間、パンッ!とクラッカーの音が鳴り響いた。
部屋はたくさんの風船とガーランドで可愛らしく飾り付けられていた。
そしてテーブルの中央には、大きなバースデーケーキ。その上には二十七本のロウソクが、きらきらと輝いている。
「わあ……!」
驚いて言葉を失う私に、蓮さんは少し照れくさそうに微笑んだ。
「喜んでくれたか?」
「うん……! すごく、嬉しい……!」
涙ぐむ私を、彼は優しく引き寄せた。
「紬。君と出会えて、俺は世界一の幸せ者だ。毎年こうして君の誕生日を一番近くで祝い続けたい。いや、祝い続けさせてほしい」
「蓮さん……」
「プレゼントがあるんだ」
そう言って彼が私に手渡したのは、小さな、小さなベビーシューズだった。
真っ白で、ふわふわの、天使の靴。
「これ……」
「医者から聞いた。おめでとう、紬。そして、ありがとう」
彼は私のお腹にそっと手を当てた。その手は温かく、そして力強かった。
そう、私のお腹の中には今、彼との間に授かった新しい命が宿っているのだ。
まだ誰にも言っていなかったのに。彼は私の体調の変化に、誰よりも早く気づいていたのだ。
「生まれてくる子と、君に、俺の持てる全ての愛を注ぐことを誓うよ」
涙が、もう止まらなかった。
嬉しくて、幸せで、胸がいっぱいだった。
二年前の、二十五歳の誕生日。
私は人生の全てを失ったと思っていた。世界で一番不幸だと思っていた。
でも、今は違う。
私は、世界で一番幸せだ。
この腕の中にある温かい愛情。お腹の中に宿る愛おしい命。
これ以上の幸せなんて、どこにもない。
「愛してるわ、蓮さん」
「ああ。俺も愛しているよ、紬。永遠に」
私たちは二十七本のロウソクの光に照らされながら、固く、固く、抱きしめ合った。
これから先、何があってもこの人と、そしてこれから生まれてくる私たちの子供と一緒なら、きっと乗り越えていける。
私の人生は、これからもたくさんの幸せと輝かしい光に満ち溢れている。
そう、確信できる。
だって、私の隣には世界で一番私を愛してくれる、最高の王子様がいるのだから。




