1: クワイエット・プレイス(2018年、アメリカ)
視覚がなく、聴覚のみに頼ってハントするクリーチャーの襲撃によって荒廃した世界で、沈黙を守りつつサバイバルする家族のお話です。
・よかった点
① クリーチャーの設定
感覚を聴覚に全振りという設定が、「音を立てたら終わり」という緊張感を作り出しています。この「○○したら終了」というルール付けは漫画だけでなく小説やゲームでもストーリーを面白くするエッセンスの一つとして王道のものでしょう。
② 家族の立ち位置
反抗期で聴力障害を持つ長女。
それに手を焼きつつも家族を守ろうとする父親。
優しくも強く、しかも妊娠している母親。
内気だが家族の緩衝材になっている長男。
そして序盤にクリーチャーに殺されることで家族にトラウマと後悔を植え付けることになる幼い次男。
それぞれの立ち位置が比較的明確なので、言うならば役割分担が分かりやすかったと思います。
さらに言えば長女が聴覚障害があるという設定のお陰で、沈黙の中でも「手話」でコミュニケーションが取れるということの裏付けになっていて良かったです。また長女のために父親が人工内耳を自作していることがクリーチャー討伐のヒントになるという伏線になっているだけでなく、父親の死後もその開発品によって家族が守られるという「死して尚家族を守る」という象徴的なシーンにもつながるという仕掛けは綺麗だなと思いました。
③ 静と動のバランスのよさ
息を吐く間もない展開、という訳ではなく、程よい日常シーンと程よい襲撃シーンのバランスがよかったと思います。
④ 希望を持たせるエンディング
もともと三部作で予定していたようなのでどうしても若干中途半端な終わりにはなりますが、クリーチャーの弱点を手に入れ、反抗する手段を手に入れた家族が今から反撃するぜ!という含みを持たせて終わっています。漫画でいう「引きで終わる」というやつですね。これは次回作への期待などを持たせる良い終わり方のように思いました。
・イマイチな点
① 葛藤の表現が甘い
尺の問題もあるんでしょうけど、末っ子の次男を家族一人一人の不注意からクリーチャーに殺されてしまうというショッキングな出来事があったのですが、家族が懊悩しているシーンがめちゃくちゃ少ない気がします。取ってつけたように「誰のせいでもない」というセリフを挿入したりしていますが、もっと懊悩しているセリフやシーン、演技が欲しかったです。
② 長女の行動が唐突過ぎてリアリティに欠ける
末っ子がクリーチャーに殺される直接の原因は長女が内緒で末っ子に音のなるおもちゃを与えてしまうことになるのに、それに対する後悔に苛まれるシーン描写が希薄なので、自棄なのか自責からくるやるせない怒りなのか分からず、父親に対する反発もただの聞き分けのないガキにしか見えません。「長男の方が可愛いんでしょ」的なセリフも浮いています。もっと自分を責めて苦しんでいるシーンを挿入した方が良かったように思います。
また、その反抗心から家出して末っ子の墓参りに一人で行っちゃうシーンがありますが、「え?聴覚障害なんだよね?自分の出してる音のボリュームとか分かるの?」というツッコミをしたくなります。それもクリーチャーがうろつく危険なフィールドを、耳の悪い子が恐れる様子もなく一人でずんずん歩いていくというのもリアリティに欠けます。いや、もしかしたら父親の作った人工内耳が比較的機能していて、ある程度の音なら分かるという設定をしているのかもしれませんが、父親の作った人工内耳はたびたび不具合を起こしていて(そしてその不具合のお陰でクリーチャーの弱点が分かるのですが)、長女がどこまで聞こえているかの描写がないので余計に「どういうこと?」という疑問が湧いてしまいます。
それなら人工内耳は普段はちゃんと機能しているんだよという描写をもう少し入れた方がいいと思うし、もう少しクリーチャーに対する恐怖心を表現した方が良かったように思います。
③ 滝のシーン
長男と父親が食料確保のために滝の近くまで釣りにいくシーンがあります。
滝の音がカモフラージュになるので普通に話していてもクリーチャーに聞きつけられることはない、という理由で長男と父親が普通に会話を始めるシーンです。まぁ、普通に話す程度ならその設定はまだ許せるのですが、あろうことか父親と長男は今まで押さえつけられていた感情を爆発させるように滝壺の近くで思いっきり大声で叫んでみるという蛮行に及びます。それが本当に大丈夫なのか実験したこともないだろうに、「大丈夫だ」って何を根拠に……という疑問が残るシーンでした。正直蛇足なシーンだと思いました。
④ 結局、クリーチャーはどこまで聞こえてるの?
クリーチャーは聴覚全振りモンスターなので耳がいいという設定はいいのですが、じゃあ何dBまでなら大丈夫で、何dB以上なら聞きつけてくるの?という線引きが曖昧でした。
主人公達家族が草原を走るシーンもありますが、草を踏み分ける音ってまあまあでかいと思いますし、生まれたての赤ん坊の声をマットで防音しても結構でかいと思うんですよね。でもクリーチャーはその程度の音も聞きつけられません。かと思えばランプをひっくり返した音はめちゃくちゃ遠くから聞きつけて突っ込んできます。
どうせならちゃんと色んな音のデシベルを計測して何dB以上なら襲ってくるなどのこだわり設定が欲しいなと思いました。
◯総評:
設定は面白いし、家族愛をテーマにして「子供を守る親の姿」を描くという点では十分に評価出来る作品だと思います。ですがこだわりがなおざりで細部の作りが甘いので、リアリティに欠けるなと思いました。もちろん映画なので基本的にどんな話でも「ファンタジー」なのですが、その中にも「リアリティへのこだわり」があった方が、特にこういうシリアスなホラー・パニック系の映画では大事なのでは?と思いました。




