2-4.飴と鞭
事態の推移がますます自分の想定から逸脱していることに私は気づきつつあったが、それでもまだその贈り物の効果を信じる気でいたために、言葉を重ねた。
――それに……今回だけじゃなくて、これからも続けてくれれば、このくらいの気持ちは、いつでも見せてあげられるんだけどなぁ。
伏せていた顔を上げて、彼女が私を見た。私はそこに、すねた子供がアイスクリームに釣られて機嫌を直すような様子を予想した、あるいは期待した。しかし彼女が浮かべていた表情は、きょとんとしてから、引きつったように曖昧に笑う、微妙なものだった。その手の中では、封筒が相変わらずこね回されている。たとえて言えば、オフの日に街中を歩いていたアイドルが、ファンに声をかけられ、それに対する愛想笑いだけでは済まされず、サインか何かを要求されたことについて、どうすれば穏当に断ることができるかを考えながら、ぎこちなく愛想を見せ続けているかのようだった。
これは異様なことだ。単にこの場での私の思惑が外れただけでなく、今まで彼女が私に見せてきた様子、示してきた感情に、そして私たちの間にあった思い――たとえその強さが非対称であったとしても――に、反していたのだから。
背中に汗がにじみ、鼓動が早まるのを感じながら、私はもう一つの隠し球を出すことにした。それの決定的な力を信じていたから、私は望みを捨てる気が起きなかった。しかし、一つ目の方もまた、そのくらいの力があると確信したはずだがすでに裏切られたという真新しい記憶が、胸の奥に、とげのように冷たく突き刺さっているのを私は感じた。
だがそれでも、私は行動に移ることにした。そうするしかなかったのだから。この目の前にいる彼女、一年近い付き合いの間の莫大な投資を、みすみす不良債権にすることなどできるはずがない。だから私は、差し押さえのような強硬手段を執るしかなかったのだ。
私の言葉も彼女の返事も曖昧なものになり、やがて沈黙が流れた。そんな中で、私は携帯電話を操作し、一枚の写真を探し出した。
――でも、こっちにはこういうものもあるんだし、もう少し会うのを続けた方が、君のためだと思うんだけどなあ。
その写真を画面に映して示しながら、私は言った。それを目にして、さすがに彼女の封筒を弄ぶ手も止まり、あの笑みも消えた。内心では、あるいは実際に冷や汗をかきながらも、私はこの瞬間、勝ったと思った。いわば、当たると分かっている馬券に大金をつぎ込み、結果が出るまでは戦々恐々としていたが、終わってみれば何の波乱もなく狙い通りに大儲けをしたというように、動揺があったとしても、それは実態のないものだったはずなのだから。
しかし続く彼女の反応は、そんな私の安堵を粉々に破壊した。また、あの困惑と軽蔑と哀れみの混じったような、微妙な笑い方をしたからだ。
私は何か、自分が見当違いの写真を見せてしまっていたのではないかと、羞恥心を感じながら、携帯電話の画面を急いで確かめた。そこには私の用意した写真が確かにあった。つまり、今目の前にいる少女が、裸になって自分を撮った写真で、表情はうつろだが、そのすっきりとした化粧っ気のない整った顔立ちは多少加工されてはいてもまさに彼女のもので、その膨らみすぎていない旨の均整のとれた形や先端の鮮やかな色はまさしく彼女のものだが、肌は加工のせいか色が白すぎて実物のもつ生々しく危うい魅力が失われている――というのはどうでもいい。ともかく、そんなあられもない姿の彼女が、そこに書かれた名前や顔写真をはっきりと読み取れる学生証を手にしているという写真だった。一年近く前、この関係を始める時に、いわば身分の担保として私に送らせたものだ。彼女は他の機会にも写真を撮ることを絶対に許さなかったから、私が手にしている唯一の写真だった。そして、決定的な写真のはずだった。




