ペースを乱すヤツ
「大変です!またお坊っちゃまが窓から出られました!」
大広間に響くお手伝いの声。
「『大変です』じゃないでしょ?あなた凛の身の回りのお世話係よね。」
「鈴言い過ぎだ。凛も4階からよく逃げるもんだ。」
神経質そうな父親が呆れた様に呟いた。
「元気な証拠じゃない。さぁ、お食事を初めましょう。」
三人は無言で広すぎるテーブルで朝食を食べ始めた。
野球日和な朝。バッティングセンターに行ったらまだ営業してなかった。
今日のファッションポイントは、腰パン気味な紺と白のドット柄ズボン。パンツは1センチが限界だったりする。ちなみに蛍光ピンクのパンツだ。上は、適当に部屋に掛かってたカラフルグラデーションなTシャツを着た。ちなみに野球する時は、ズボン上げるから意味ない。
かなりイタくね?一人で自分のファッション確認とかダサい。暇すぎんだもん。
「あー!凛せんぱーい!」
キツネ…いや、キヨっちがこっちに向かって走って来た。
「キツっち。」
「キヨっすよ。日曜なのに珍しく朝早いすねー。」
「キャッチボール手伝ってー?」
「キャップを握ったトコロ見ると、本気っすねー。じゃ、俺んちの近くの空き地でいいすか?」
「えー。いいよ。」
「どっちすか!」
とか、キヨっちをからかいつつわりと近くにあるキヨっちの家から、グローブとボールを借りて空き地に向かった。
「ふーん。ガキがうろちょろしてるねー。」
「そりゃ、日曜すから。」
ボールを手に馴染ませながら、空き地の奥に移動した。ガキんちょらに怪我さしちゃダメだからなー。
「よーし。いくぜーい!」
「っす!」
ヒュ、バシッ。
「キヨっちー会話のキャッチボールもしよー?」
ボスッ。
「会話すかー?」
キヨっちが腕で大きな丸を作った。俺は右手でボールをポンポンと軽く上に投げながら、考えた。
「そのジーンズ高いっしょー?」
バスッ。
「ウチのオリジナルなんでー、分からないっす。先輩のTシャツはブランドすよね!」
ボスっ。
「そうなんだー。そういえば、野球部で話題になってたけど、キヨっちの首の赤い模様は何かのおまじないー?」
ぼろりとキヨっちがボールを落とした。俺は真相を確かめるべく、近づいた。
ガシリとキヨっちの肩を組んだ。
「そろそろ白状しようかー?」
「う。…女が付けたんすよ。」
「何をー?」
「帰ります。」
俺の手を振り払うキヨっち。あーあ、怒らせちゃったー。
「キヨっちー。また遊ぼうねー。」
シカト。ちょっとムカついて、置いてったボールを頭に投げた。軽く命中。
「あーもー!なんなんすか!!」
「女といてそんな楽しい?」
「…べつに。凛先輩には関係ないっしょ。」
ボールを拾って、俺めがけて全力で投げて来た。
「今日はもう遊べませんから。」
…。スゲー迫力。反抗期かな。さっきの球はとっさに避けたけど、良い球だった。キヨっちのヤツ部活でマジで投げてねーな。遠慮?まさか、偶然…?
面白いのみーっけ。
「…おい凛。人んちの木の上で何してんだ?」
「日光浴ー?」
「葉が影になって日光は当たってないように見えるが?」
「竜ちゃんの屁理屈ー。堅物親父ー。」
ちらっと竜ちゃんを見ると、木を蹴ろうと構えていた。
「このまま蹴っていいのか?」
「はいはい。」
木から飛び下りた。
「ご機嫌だな。また何か見つけたか?」
「まぁねー。竜ちゃんにはまだ言わないよー」
「…興味ないがな。」
「顔に出ちゃってるよー。」
「フン。」
竜ちゃんの部屋と俺の部屋は近い。まぁ、塀を越えなきゃ来れないけどー。竜ちゃんに報告とかある時は塀の近くの木にいるってわけだ。お世話になってる木は、樹年百年とかの大木だ。雷が落ちないのを願ってる。
「椿の事なんだが、最近悩んでいてなかなか話してくれないんだ。」
「竜ちゃんが俺に相談?」
「茶化すな。」
「分かったよー。聞いてみてあげよっかー?」
「まぁ、凛に言う訳もないがな。」
竜ちゃんがフッと笑った。朱楽とはまだ1度しか会ってない。しかもブスと言ってしまう始末。俺は自分ちに帰る為に塀を登りながら、柄になく人の為に考えていた。
「お坊っちゃまー!危ないです!」
「うるさい。黙れ。そして、退け。」
「申し訳ございません。」
ロリロリのメイド服に吐き気がする。俺の物に触る手を壊したくなる。存在を消したい。ただ、お世話なんてしてほしくない気持ちが暴走するんだ。
俺はスタン…と俺の屋敷に着地した。
「なんで辞めてないわけー?」
「っ!」
「部屋に勝手に入ってたら、犯すからー。」
なんて、いつも口だけだけどねー。
「いい…ですよ?お坊っちゃまに気に入られるなら。何でもします!」
「そこが嫌だっつってんだろ!近づくな!」
ヤバい。何ムキになってんだろ俺。らしくねー。
「嫌です!もうめげません!」
分かんねーよ。
「勝手にしろ。」
睨みつけた。名前も興味ないメイド。聞いたけど、忘れただけかも。その日から、屋敷ではアヒルみたいに後をつけられた。