添寝
時計が午後十一時半を指していた。インターホンが鳴った。私はタイプする手を止め、玄関へ向かった。
今日も、彼女は来た。僕の薬を持ってきてくれた。ドアの小さな穴からそう確認し、僕はチェーンを外しカギを開け、彼女を迎え入れた。黒いよれよれのフードジャケットの袖の中に手を隠しながら、彼女は眠そうに僕の部屋へ入っていった。そんな彼女を片目に、僕はカギをかけ、チェーンをかけてからあとへ続いた。
「布団、ここでいいんだっけ。」デスクトップをシャットダウンしていると、彼女はふとんを広げていた。「ええ、そこでお願いします。」彼女は何も言わず、枕のカバーを伸ばしていた。毛先が少しはねた茶色の髪が、眠そうに揺れていた。
彼女はふとんを敷いた後、そのまま寝袋に入る。それはただの習慣にも見え、決めていることにも見えた。いずれにしろ、僕は嬉しかった。僕がふとんに入るまでに水を飲んだり、トイレに行ったりして、少し時間が経っても、必ず彼女はいてくれた。顔は見せずとも、少し色落ちした茶色の髪が、いつも柔らかい匂いで僕を迎え入れた。
「おやすみなさい。」彼女の寝言のような声で、部屋の電気は消える。掛け布団がこすれる音、柔らかい香り、寝息。暗闇の中で、僕には様々な安らぎが与えられた。まるで、幼稚園の帰り道、母親の自転車の後ろで寝たふりをしていたあのころのように。彼女の寝息に合わせて、ぼくの呼吸も落ち着いてくるのを感じる。背中合わせの僕たちの身体が、ひとつに重なって、とけていくように。言葉が見当たらなくなってきた。彼女の体温で、僕の意識はとけていった。




