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千年一夜 一万日

二千年目-現世では二日目。

登校した俺は、教室に入った瞬間勇者から土下座されていた。

「すみません。許してください!」

「お願いします!」

星輝や敦などの男勇者も、さやかや夢美たちの女勇者もそろって身を震わせながら土下座を続けている。

そんな彼らを、俺とダニエルは冷たく見下ろしていた。

「ほう。ずいぶん殊勝な態度をとるじゃないか」

「ようやく神の偉大なお力がわかったようですね。いまさら手遅れですが」

俺たちにあざ笑われても、勇者たちは真っ青な顔をして土下座している。

そんな姿を、クラスメイトたちは不気味そうに見つめていた。

「お、おい。星輝。田村なんかなそんなこと……」

星輝と親しかったある男子生徒が声を掛けるが、彼は必死な顔をして拒絶した。

「うるさい!邪魔するな!俺たちはこの機会を逃したら、また千年も生き地獄に落とされるんだ!」

そう怒鳴りつけると、星輝は土下座を続けた。

「頼みます。許してください」

「もう二度とあんな思いはしたくないんです。田村様。許してください」

哀れっぽい声で訴えかけるので、俺は優しく声をかけてやった。

「どうやら、本当に反省しているようだな」

「はい。俺たちが悪かったです!」

「あなたを苛めたこと、生贄にして闇の世界に落としたこと、謝ります!」

「なんでもします。だから、もうやめてください」

涙と鼻水を流しながら、床に頭を擦り付けて俺を拝む。

しかし、俺は冷たく拒絶してやった。

「いや、許せないな。俺と同じ苦しみを味わってもらわないと」

「そんな!俺たちは充分苦しみました!」

「あんな所に千年も放置されるのはいや!」

敦と恵が懇願してくるが、俺は拒絶する。

「甘えるな!たかが千年がなんだというんだ。俺は一千万年も闇の世界にいたんだぞ」

「一千万年……」

それは人間の時間感覚では途方もない時間である千年を経験した彼らにも想像がつかない長期間だった。

言葉を失った勇者たちに、俺は畳み掛ける。

『お前たちの魂にインストールした『呪い』はこれからも続く。体感時間で一千万年が経過するまでな。これから毎晩、千年の幽閉が繰り返されることになるんだ。一万日-30年間の間な」

「一万回!?」

「いや!これから30年もこんなことが繰り返されるなんて」

勇者たちは泣き喚くが、俺は知ったことではない。

「俺はどれだけ謝っても許したりしない。こんな所で時間を無駄にしていいのか?千年も我慢を続けて、ようやく一日だけの時間解放されたんだぞ。また眠りについたら、闇の世界に逆戻りだぞ」

それを聞くと、土下座していた勇者たちははじかれたように立ち上がった。

「うわぁぁぁ!」

叫び声をあげながら学校を出て行く。

「神よ。彼らはどうしたのでしょうか?」

ダニエルが首をかしげながら聞いてきた。

「幽閉から解放された囚人が、まず何をしたいかというと、美味い食事だ。その次は性欲の解消、それが済んだら、片っ端から本や漫画を読んで情報収集ってところだな。とても学校でおとなしく授業を受ける気にはならないだろう」

「では、学校でやつらの不快な顔を見ることはなくなりますね」

ダニエルはうれしそうに言う。

「ああ。好きなだけ飲んで食べてを繰り返し、立派な引きこもりが出来上がるだろうな。ま、奴らにとっては有意義な人生を送ることになるんじゃないか?一日一日が宝石のように大切な思い出深い日になるんだから」

俺はこれからの奴らの人生を想像して、小気味よくわらった。

その後、勇者たちは学校に来ることはなかった。ダニ人たちに調べさせた所、予想通りひきこもりながらの食欲とお互い相手をとっかえひっかえにしての性欲解消にふけり、どんどん太って姿が醜くなっていく。

途中自殺を計ることもあったが、その度に魂に刻まれた緊急停止プログラムが作動して防止する。

そして30年後、ひきこもったままの彼らは親の死と共にホームレスや犯罪者へとなるのだった。


一ヵ月後

俺とダニエルは、無事に二年生に進級した。その際に理事長に命令して、なるべく一年の時と同じクラスの人間はクラスメイトにならないようにしている。

新しい環境で心機一転、高校生としての生活を楽しむつもりでいたら、教師が入ってきて告げた。

「今日から転校生が来る。あの大会社であるソウルバンクのオーナーのお嬢様だ。学園にも多大な寄付をしてくださった。みな、失礼のないようにな」

教師はそう釘を刺し、二人の生徒を招きいれた。

一人はストレートの清楚な美少女。もう一人はポニーテールの活発そうな美少女。

二人ともまったく同じ姿形をしているが、アイドルをやってもおかしくないほど美しい容姿をしていた。

「は、はじめまして。藤岡舞です。ちょっと前まで病気で入院していたんだけど、元気になったので転校してきました」

ストレートのほうの美少女はそういってペコリと頭を下げる。

「舞の姉の、藤岡明です。妹と一緒に転校してきました。仲良くしてね」

ポニーテールのほうの美少女は明るく笑いかけてきた。

可愛い少女の転校に、男子生徒のテンションが上がる。

「うぉぉ!すっげえ可愛い」

「しかもソウルバンクのオーナーのお嬢様だって?これはぜひともお近づきにならなければ!」

欲望のこもった視線を向けられて、舞がおびえた顔になる。

「こら!舞はずっと入院していたんだから、脅かさないの。人になれてないんだからね!」

明はそんな舞を後ろにかばって威嚇してきた。

「明ちゃん、大丈夫だよ。私がんばるから……あっ」

舞は俺を見つけると、うれしそうに手を振ってきた。

「良樹くん!」

「まさかと思っていたけど、本当に高校生の格好して学校に通っている。なんだかシュールよね」

明も俺を見つけると、呆れたように苦笑してくる。

「き、君たちは田村君と親しいのかね?」

その様子をみた教師は、恐る恐る聞いてきた。

「ええ、友達なんです」

明るく答える二人に、教師は恐怖の目を向ける。

「また田村の関係者なのか……わかった。君たちの席は田村の両隣に……」

「センセイ。隣の席はワタクシがいます」

席を奪われそうになったダニエルが、立ち上がって首を振った。

ダニエルと二人の視線が交差する。なぜか火花が散ったような気がした。

「ダニエルさん?なんであなたがいるの?」

「カミ……こほん。ヨシキ様のおわす所にはどこにでも着いていき、おそばに侍るのがメイドであるワタクシの使命でございます」

ダニエルは腕を組んで堂々と言い放った。

「まさかダニエルさんがいるなんで……」

それを見て舞はちょっとひるんだ顔になり、逆に明は闘志をもやす。

「いい?良樹君は人間としての生活をしたいって言っているの。あなたが側にいたら、邪魔になるでしょ。メイド付の学園生活なんて漫画の世界にしかないわよ!」

「カミ……良樹様の偉大さは、漫画などの物語などに収まるものではありません」

一歩も引きそうにないので、仕方なく俺が仲裁した。

「ま、まあ、舞や明は転校してきたばかりで不安なんだから、友達である俺がいたほうがいいだろう。だから、お前は俺の後ろの席にいけ」

「……カミの命令では仕方ありませんね」

ダニエルは俺の後ろに席を移り、両端には舞と明が座った。

「良樹君。これからよろしくね」

舞は親しみがこもった笑顔で俺を見つめてくる。

「ここなら良樹君が変なことしないように監視できるわね。自重しなさいよ」

明はちょっと警戒した表情を浮かべていた。

「……お二人は神の友人……。でも、神のご寵愛は子である私のものです。とられないように見張っておかないと」

後ろからダニエルがガン見してくるの感じる。

「うらやましい。あんな美少女に囲まれて……」

「なんで?なんで田村なんかに?」

美少女たちに囲まれた俺を見て、男子女子かかわらず嫉妬の視線が向けられるのだった。


新しく転校してきた舞と明は、その美しさと日本最大IT企業のお嬢様という噂が広まって、あっという間に人気者になった。

「舞さん。ぼくは新日本鉄鋼産業の社長の息子です。付き合ってください」

「ずるいぞ。俺は警視総監の息子です。俺と友達になろう」

「……あ、あの……困ります」

大企業のお坊ちゃんや高級官僚の息子などが、おとなしそうで清楚な舞を取り囲んでいる。

しかし、舞は迷惑そうにおどおどとしていた。

「あの……明様。私は大都銀行の頭取の娘なんだけど、友達になりませんか?そうしたらうちと良いお付き合いが」

「いえ。明さまは私の大日本立エンジニアのお嬢様である私と友達になるんですのよ。私たちのお茶会に参加なさらないこと?」

活発そうな明は、大企業のお嬢様たちから人気があった。

「あ、あはは……そのうちね」

あまりお嬢様の雰囲気に肌が合わないのか、明は愛想笑いを浮かべてかわす。

休み時間の度にそんな光景が繰り広げられて、俺とダニエルは呆れていた。


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