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破滅の始まり

同様の事態は、シャングリラ世界のあらゆる場所で起こっていた。

この世界に存在するすべての国や民が、各地で勇者を祝う式典を開いていたのだったが、そこに不気味な触手が降って来たのである。

「こ、これはなんなんだ!」

ありとあらゆる町や村に設置されていた女神イホワンデーの像が、一体も残らずに破壊される。そして各地に根付いた触手は、大地からあらゆるモノを吸収し始めた。

触手が触れた部分は、みるみるうちに液状になり、触手を通じて上空の巨大な惑星に吸い上げられていく。土地も、水も、生き物たちも。

豊かな理想世界だったシャングリラ世界は、瞬く間に生気を失っていった。

「くそっ!この化け物め!」

「俺たちが切り倒してやる!」

斧や剣、ノコギリを手にとって、人々は触手を切り倒そうとする。

しかし、そのとき全世界に「声」が響き渡った。

「な、なんだこれは……」

それは大魔王と化した存在の、魂の訴えだった。

何一つ罪のない少年は、ある日いきなりシャングリラに召喚され、勇者の荷物もちとして無理やり戦いに駆り出される。

そこに待っていたのは、英雄となった六人の仲間から馬鹿にされ、虐げられる日々だった。

それでも荷物もちが必要とされたのは、絶対に倒せない魔王の寄り代とさせるためだった。

死のない世界に生まれた異物を取り除こうと、女神イホワンデーは何の罪もかかわりもない少年を世界の犠牲に魔王を世界の外に放逐しようとした。

その計画はまんまと成功し、彼は暗黒の世界に落とされる。

そこで待っていたのは、限りなく永遠に近い生き地獄だった。

そして、このシャングリラに生きている者すべてに復讐するために戻ってきたのだった。

真実を知らされた民たちは、それでもあざけり笑って少年を否定する。

「……何をふざけたことを言っているんだ。女神様がそんなことをするわけねえ!」

「荷物もちの分際で、大魔王だと!思い上がるのも大概にしろ!」

「そうだ。帰れ帰れ!」

大魔王に真実を知らされても、信じない民がほとんどだった。

「愚かな……これで私の腹も決まった。女神イホワンデーに作られたすべての存在よ。お前たちに一片の存在価値もない」

冷たい言葉によって、断罪される。

「貴様たちに、滅びを!」

その意思と共に、何百万もの巨大な円盤が魔王星からやってくる。

円盤から降りてきた生物は、奇妙な姿をしていた。

全体的な形は人間のものだが、白い光沢のあるスーツに身を包み、おまけに背中に銀色の羽が生えている。そして何より顔には鋭い牙がついたホースのようなモノがついていた。

「我らは神に仕える忠実なる下僕、ダニ人。貴様たちの遺伝子をもらおう」

人間の言葉ではっきりと告げると、いきなり近くにいた村人の娘に襲い掛かる。

「いやっ!離して!」

娘は死に物狂いでもがくが、その奇妙な人間の力は強く、どうやっても離れない。

腕でがっしりと少女を拘束し、鋭い牙がついたホースを首元に突き刺した。

「痛い!い、いやぁ。私の血をすわないで!」

そう叫ぶ少女の声が小さくなっていき、やがて完全に途絶えた。

拘束を話すと、娘は力尽きたように倒れこむ。

「美味かったぞ……。ふふふ。いくらヒトになったからといって、太古の習性はなくならないものだな。神からいただける人工人血にも旨いが、やはり天然モノの味は格別だ」

その人間はそうつぶやきながら、ヘルメットを脱ぐ。その下からは巨大な複眼と触手のような口が現れた。

「うわぁぁぁぁ!化け物だ!」

それを見た村人たちは、一目散に逃げ出していく。

「ふふふ。せいぜい逃げるがいい。この世界にいる限り、我々はどこにでも現れることができる。じわじわと追い詰めて、滅ぼしてやる」

そのダニ人は倒れた娘の体を抱き上げると、彼らの故郷である大魔王の星に還って行った。


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