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異世界魔王は世界を壊したい  作者: spiegel
2章
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ヴィクトーリア


◇◇◇


【???視点】


 私の幼い頃の記憶は、研究所での両親の笑顔から始まっている。


 書き込まれては消される黒板。様々な薬品。実験器具。白衣。両親は研究者だった。


 なぜ子供の自分がそこにいたのかはわからない。ただ両親が夢中になって研究に明け暮れていたことは覚えている。私はそんな両親を見ているのが好きだった。


 学校に行く年齢になっても、私は両親の研究施設にいることのほうが多かった。学校の勉強は簡単すぎて退屈で、周りの人間たちも稚すぎてつまらなかった。

 学校に行くよりも両親の研究資料を読みあさっているほうが楽しかった。


 両親は「魔王」について研究していた。

 魔王とは何であるか? 制御は可能なのか制御できるとするならどうすれば制御できるのか?

 マイナー分野だったが、王の代替わりと共に国からの支援を得られたような話をしていた記憶がある。

 資金が増え、人が増え、研究所は活気に溢れるようになった。

 気付けば両親の研究資料に「グランツヴェルト」という言葉が増えていた。

 魔王をコントロールし、人の力を引き出す魔具。資源としての魔王の利活用。機能の活用。不死性の研究。魂と肉体の可能性。被検体リスト……?


 あの時、何か違和感を覚えたような気がする。何故だろう。


 忙しいながらも両親は、私を愛してくれていたのだと思う。

 特別な人しか入れないという、研究施設のカプセルに入れてもらったこともあったくらいだ。


 ある日訪れた魔王観測の情報に両親たちは沸き立ち、魔王確保も目的として、これまでの研究成果を活かしたたくさんの生物が作り出された。


 でも、そんな日々はある日突然終わった。


 対立する奴らが研究所を襲撃。

 両親を含む研究者達は全力で抵抗したが、皆殺しにされた。


 私だけが辛うじて生き残った。




◆




 生き残った私は、魔王崇拝派に拾われた。


 しかし、待遇は最底辺。文字通り「拾われた」に過ぎなかった。


 両親は、資金を提供していた王家と、魔王利用派、魔王崇拝派を天秤にかけていて、それが露見したことでどの組織からも憎まれていたからだ。

 一番高く買う相手を探して何が悪い。お前らだって両親を利用していただけだろう。


 憎まれ蔑まれつつも、両親の研究をただ一人受け継いだ私は結果的に重宝された。


 私は、私を蔑む奴らを見返したかった。畏怖されたかった。



 己の力を示す為には力が必要だ。


 自分の戦闘力を高めるために過酷な訓練も進んでこなした。私は周りの誰よりも強くなった。

 研究に必要な法術も医学も独学で身につけた。法術を駆使して自分の体さえも研究材料にした。私の体……? ここにも何か違和感があった気がする。まあ、大したことではなかったと思う。


 やるべきことがあった。


 両親を殺した奴らへの復讐だ。


 奴らの素性は思いの外すぐに分かった。たった一つだけ気に入らなかったのは、奴らの一人が魔王崇拝派の組織メンバーだった事だ。


 そいつの名はファランクス。


 反射的に殺そうとしたが叶わず、返り討ちにあった。

 ファランクスは、両親が研究していた「グランツヴェルト」に認められ契約していたからだ。不愉快だ。認められるなら私のはずだ。


 私にもグランツヴェルトが必要だ。復讐と並行して別のグランツヴェルトを探さなくては。


 やることが増えた。


 襲撃の主力となった残りの四人のうち、一人は死に、三人は行方不明だったが、ようやく一人の居場所を突き止めた。


 そいつの名前はゼータ。

 魔王を捕らえていた国の王子だったらしい。

 国を滅ぼされた王子は、山の中で世捨て人のような暮らしを送っているそうだ。


 罪の意識でも感じているのだろうかと思うと嬉しくなった。


 私は、ゼータと接触することにした。

 癒しを意味する「ラファエラ」と名乗り、髪色も変えて穏やかな見た目を作った。組織の聖病院を足がかりとして無害な医者としての背景も用意した。


 別人のように振る舞い、すんなりと評価されるのは楽しかったが、一人になるとどうしようもないほどの違和感が募った。評価はされている。でもこれは私ではない。


 下準備が功を奏したのか、うまくゼータと接触できた。

 しかも新たな魔王候補とグランツヴェルト、更には行方不明のニ人目、ロキシーにまで出会えるとは。ロキシーが女装していたのは流石に予想外だったが、幸運に感謝した。

 ゼータに剣を向けたノートメアシュトラーセ騎士団長、シャルロットをうまく利用して信頼も得られた。


 ゼータは、死んだと思われていた仲間の一人、婚約者だったエアリアルの時を止めていた。治療はうまくいかず、精神的に限界を迎えていた。


 狂気の行為に同情する気持ちも少し湧いたが、不愉快だと思った。理由はわからない。


 どうやらエアリアルは、肉体と魂の接続に問題が生じているようだ。

 こんなところで両親の研究成果が役に立つとは思わなかったが、私ならきっとどうにかできる。

 この状況は使える。

 婚約者を助けるとゼータを唆し、ロキシーと殺し合わせてやろう。グランツヴェルトも手に入る。

 ファランクスがどんな顔をするのか楽しみだと思った。


 しかし、シャルロットの動きは想定外だった。

 聖病院としてクレームを入れて謹慎させたところまでは良かったが、身一つでゼータに再び関わり、そのまま行動を共にしている。


 宰相の粛清部隊の分際で何が騎士だ。ただの人殺しだろう。明らかにゼータと敵対していたくせに、何故受け入れられているのか。


 改めて観察してみると、シャルロットはまっすぐな馬鹿だった。こんな性格でよく裏の仕事などできたものだ。

 いや、違うな。無理に無理を重ねた結果、こいつも心が限界を迎えているのだと気付いた。


 元の部下を相手に戦うことを躊躇している姿を見て、思わず助けてしまった。何故そんなことをしたのか自分でもわからなかった。


 そんなシャルロットは奴らに私よりも受け入れられているように見えた。シャルロットを止めてゼータを守ったのは私だし、ノートメアシュトラーセ軍との戦いでも役に立ったのは私のはずだ。その立ち位置は私が狙っていた場所だ。


 あいつには私には無い何かがあるのだ。何だ? この私にわからないということが不愉快だ。脅威ではない。だが、目障りだ。


 ……待て。何故私は苛立っている? 


 まあいい。

 ゼータを堕とせばすっきりするはずだ。


 そうだ、私なら彼女を助けられると言った時のゼータの戸惑いっぷりは見ものだった。誰を信じていいのかわからなくなったのが手に取るようにわかった。

 もっと戸惑わせたいと思う反面、手を差し伸べたいような思いも湧いた。

 奇妙だ。ラファエラとしての演技をする私はこいつらに情が湧いているとでもいうのか?


 ゼータは予想通り私に助けを求めてきた。


 そこからはうまくいった。


 目障りなシャルロットを追放し、エアリアルに三重の術式を仕込んだ。

 首につけたのは実効性はありつつも見え透いた囮だ。

 二つ目は魂の引き寄せ。この規模の術式をファイル化できるのは私くらいだろう。

 三つ目は負の気持ちを増幅する呪い。これもファイル化しておき、囮の術式を実行しながら同時並行で起動した。


 助けたければ仲間を皆殺しにするよう、ゼータを唆した。


 ここまでは完璧だった。


 ここまでは。


 ゼータは時間をかけ過ぎ、弱点は見抜かれた。

 挙句、追放したはずのシャルロットが現れて私を刺した。


 完全に想定外だった。


 後ろめたさを感じるほどに、まっすぐなシャルロットの瞳が私を見ていた。


 そんな馬鹿なことがあるか。


 こいつらはシャルロットが来るのが分かっていたとでもいうのか。


 私以外、誰も本気で驚いていないことに愕然とした。


 何故こいつを過小評価していたのだろう。私の計画を狂わせたのはこいつだ。他の誰でもない。


 何故シャルロットは信頼された? 何故私は疑われた? 


 私はシャルロットに何を感じていた……? 


 嫉妬……?


 何に目を逸らしていた……?


 何が……




 くそっ、傷が深い……。法術での治療に必要な集中力が得られない。


 意識が遠のいていく……



◆



 私は失敗した。


 復讐は出来ず、誰も見返せず、何も得られず、ただ死ぬ。



 ふと、幼い頃に見た両親の笑顔が浮かぶ。


 そうだ、私は愛されていたはずだ……




 愛……?




 何故二人は笑っていたんだっけ……


 非検体リスト……?


 カプセル……?


 私の中に埋め込まれていた何か……




 それでも私は……




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