目覚め
サボテンはむくりと起き上がった。
甲羅の皮膚を手に入れ、ほぼ無傷であったが、衝撃で多少なりのダメージはあったようだ。
よろよろとおぼつかない足取りで廊下を歩いて行く。
「栗山、アルコールランプとマッチ持ってこい!」
「は、はいっ」
なぜ打撃が通用しなかったのか。
サボテンの処理が優先なため、とりあえず次の手は考えたが、その理由も気になるところではあった。
沼田が思考を巡らせていると、ある一つの可能性に行き着いた。
数日前、水槽のカメとカエルが死んでいた件。
あれは単に与えたエサが悪かったものだと考えていたが、もし、この目の前のサボテンが殺したのだとしたら……
そして、カメの血からDNAを採取したのだとしたら……
恐ろしい考えではあった。
意思のない植物だと思って侮っていたら大変なことになるかもしれない。
「いや、ありえん……」
サボテンがそんなことまで考えるわけがない。
考え過ぎだ、と沼田は自分に言い聞かせた。
「先生っ!」
その時、栗山が戻って来た。
沼田は栗山からアルコールランプを受け取ると、それをサボテンに投げつけた。
パアン!
ランプが命中し、サボテンにアルコールがかかった。
シュ、とマッチを擦ると、それをサボテンに放り投げた。
ゴウッ、とあたり一面が炎で覆われる。
「せ、先生、これはやりすぎじゃないですかっ」
「たたきつぶせないのなら燃やすしかあるまい。 消火器を準備しておけ」
サボテンに引火したオレンジの炎が舞う。
頃合いを見計らって、栗山は消火器を吹き付けた。
辺り一面が真っ白になり、消火器の粉が煙のように視界を覆った。
「ごほっ、もう少し加減しろ、栗山」
「す、すいません」
煙が薄くなり、ようやく視界が晴れてきた。
が、目の前の光景を見て愕然とした。
「なっ、サボテンは?」
そこにあるはずのサボテンの残骸が消えていた。
「何デ、先生ハアンナコトヲ?」
サボテンは生きていた。
危険を察知した瞬間、皮膚の表面に粘膜が作られたため、炎から身を守ることができたのだ。
カエルのDNAを手に入れたことが幸いした。
外の校舎の脇にやって来た。
なぜ、沼田先生が自分を殴りつけ、火までつけたのか?
「モシカシテ、アノ水槽ノコトデ怒ッタノカナ?」
大切に育てていたカメとカエルを殺したことがバレて、あんなに怒っていたのだろうか?
それならば自分が悪い。
一度「握手」で仲直りしなければならないかも知れない。
しかし、その「握手」で、2匹を殺してしまったのだ。
「ヤッパリ、僕ハココニハイラレナイ」
そう思い、校舎から離れようとした時だった。
「よう」
そこにいたのは、研究室のラットだった。
「君ハ? 戻ラナイト先生ガ心配スルヨ?」
「戻ったら殺されちまう。 俺は逃げてきたんだよ」
「逃ゲテキタ?」
ラットはサボテンに事情を説明した。
自分は実験用のラットで、あの沼田はイカレていると。
自分の趣味のために今まで何匹ものラットが犠牲になってきたらしい。
サボテンは初めてそんな話を聞いた。
てっきり、沼田先生は善人であると思い込んでいた。
「お前のその針も、あいつが面白半分でやったことだ」
「……!」
サボテンは自分の針を見た。
この針には毒が仕込まれていたのだ。
しかも、その毒は必要があったからではない。
ただ単に、面白そうだから、という理由で備えられたものだった。
「サボテン、頼みがある。 あの野郎を倒してくれ。 仲間がやられちまう前に」
サボテンの中で、何かが切れた。
「命ヲ弄ブナンテ、許セナイ…… 僕ハ…… 俺ハ…… アイツヲ許サナイ!」
沼田は実験室にいた。
手には注射器を持っている。
「先生、何を!」
「もう時間がない。 この注射器には「犬の嗅覚」のDNAが入っている。 これを注射し、匂いでサボテンを追い詰める」
まだ人間には試したことがなかったが、もはや打つ手はなかった。
時刻は7時45分。
あと15分でサボテンを見つけなければならなかった。
沼田は、注射器を腕にさし、DNAの能力が発現するのを待った。
すると、沼田の嗅覚がさえわたり始めた。
あらゆる匂いをかぎ分けることができる。
沼田はサボテンの植えてあった鉢植えの匂いを嗅ぎ、それと同じ匂いが辺りにないかを調べた。
「こっちだ!」
沼田は走り出し、サボテンの追跡を開始した。
サボテンサイドはない方がホラー感は増しますね




