毒針サボテン
とある高校の実験室。
生徒が帰った放課後、一人の男がコソコソと何かをやっていた。
名前を沼田、この学校の生物の先生であり、自他ともに認めるマッドサイエンティストだ。
24歳独身で、田舎の大学を卒業後、この学校の教師として働いている。
もともとは植物の突然変異などに精通していたが、ここでは機材もないため、実験の規模は縮小している。
それでも熱意が衰えることはなく、放課後に残って実験を行っている。
最近の研究テーマは、毒をサボテンの針に持たせられるか?というものだ。
現在、DNAの組み換え技術によって、害虫などに強い食物などが作られるようになったが、結局はこの応用だ。
DNAとは体を作るための設計図であり「手を作る」というDNAがあれば、「足を作る」というDNAもある。
この設計図の配置は、意図的に組み替えることはできず、逆に組み替えることができないからこそ正しい形を持った生物や植物が生まれる。
それらの法則に逆らって行われるのが、今回の実験である。
将来サボテンの針となる細胞に、何らかの毒の染色体を取り込むことで、毒を持つ針の形成が行われるはずというのが、沼田の考えである。
スライドガラスの上に針のもととなる細胞(分子細胞)を乗せ、非常に小さな毒の染色をピンセットでつまみ、細胞の上に落とす。
これらの細かい作業は肉眼では困難なため、顕微鏡の上で行われる。
その分子細胞内に、染色体が取り込まれたのを確認した後、試験管の中に落として、成長を待つのである。
沼田は、あらかじめこの方法で育てておいた針を取り出し、実験用のラットに刺した。
「さあて、これでラットが死ねば成功だ」
すると、ラットは瞬く間に青白く変色し、その場に息絶えた。
「……素晴らしい!」
実験は成功であった。
ここに来るまで実に1年。
色々な毒を試したが、サソリの毒でようやく成功した。
これで次の段階に移れる。
今度は、サボテンの種子に毒の染色体を入れて成長させる。
これで同じように針を刺して、ラットに毒が回れば成功。
研究は終了だ。
早速沼田は、実験室の隣の物置に行った。
ここには、実験器具や、さまざまな種子が保管されている冷蔵庫がある。
冷蔵庫を開けると、種子が入っている透明な容器がたくさんあり、それぞれに名前が書かれてある。
「サボテン」という容器と、「サボテンウォーカー」の2種類があったが、沼田は気づかずに後者の容器から種子を取った。
沼田はこのサボテンの種子に、「サソリの毒」と「成長速度アップ」のDNAを組み込んだ。
これにより、1年で1センチ程度しか成長しないサボテンが、およそ半年で10センチ程度の大きさに育つ。
毎日水やりをし、その成長を楽しみに見届けていた沼田だったが、ある日助手の栗山に妙なことを聞かれた。
「沼田先生、僕の貰って来たサボテンの種子知らないですか? 10個あったのに1個足らないんですよね」
「何の話だ?」
「いや、親友の研究者から変わったサボテンの種を分けてもらってたんです。 歩くサボテンなんですけど」
その時、沼田はまさか…… と思ったが、黙っておくことにした。
歩くサボテンなんて面白そうだ、このまま育ててみよう、と心の中で思ったためだ。
しかし、事態は思わぬ方向へと進んでいった。
しばらくたって、歩くサボテンのことも忘れ、水をやろうと霧吹きを持って実験室にやって来た。
そこで、鉢植えにサボテンがないことに気が付いたのである。
「あれっ」
そこには、サボテンが掘り出されたような痕跡と、土が床に散乱している光景が広がっていた。
「栗山っ!」
沼田は最初に栗山を疑った。
自分の実験を横取りしようとしたのでは?と考えたのためだ。
「しっ、知りませんよっ! まさか先生!」
「そ、そうかっ」
栗山と沼田は同時に閃いた。
あのサボテン、もしかして以前1個足りないと言っていた種子から育ったサボテンウォーカーじゃないのか?と。
「だとしたら非常にまずいな…… あれはサソリの毒を持っているぞ!」
時刻は朝の7時30分であった。
生徒が来る前に見つけなければ、大変なことになる。




