第8話 ベルーガ討伐①
「さて、それじゃあPT編成をしていこう」
ネームレスさんのその言葉から討伐PTの編成とボス討伐に関する説明が始まった。
まずボスの注意を引いて、ボスからの攻撃を一身に受けるメインタンカーとしての役割を務めるのが姫。そしてそのPTはサブタンカー1人、ヒーラー3人、バッファー1人で構成される。また、同じような構成のタンカー班がもう一組編成され、姫の回復が間に合わなくなったところでそちら側がボスの攻撃を引き受ける。
その他の者達はアタッカー4人、ヒーラー1人、バッファー1人でPTを構成し、ボスへダメージを与えるアタッカー班という役割が与えられた。
そして最終的に今回の討伐は、タンカー班2PT、アタッカー班6PTの計48人で行われることとなった。ちなみに前衛アタッカーは俺しかいないらしい。きっとネームレスさんが掲示板で散々脅していた所為だろう……。
今回のボスであるリザードマンジェネラル『ベルーガ』は遠距離攻撃をしてこない代わりに範囲攻撃をしてくるらしい。武器を大きく振りかぶったときと、全身から赤いオーラが放たれたときは要注意らしい。それとボスモンスターはHPが四分の一以下に達すると行動パターンが変化するらしいのでそれも要注意だ。
そして俺は当然ながらアタッカー班へと誘われた。
《『晶』からPTに誘われています。承諾しますか?( YES / NO )》
くぅ!苦節一ヶ月……、このゲームにログインして以来初めてPTに誘われた。
感極まって目から涙がこぼれ落ちそうになるのも仕方がないというもの。
答えは決まっている!もちろんイエスだ!
左手でシステムメッセージの『YES』と書かれた文字に触れると、左上に表示されている自分のステータスバーの下に次々とパーティーメンバーの名前とステータスバーが追加されていった。
パーティー申請を送ってきた魔法職らしき人が片手を上げながら俺に近づいてくる。
「よう!久しぶりだな。忍」
「え…………えッ!?晶ってもしかしてあの晶さん!?」
晶という名前を聞いて思い出せるのは一人しかいない。
そう。前作のヴァルキリーヘイムでぼっちだった俺をギルドへと拾い上げてくれた人こそが俺の知る晶さん、いや、師匠だ。師匠は俺がネットゲームを始めたときに一番お世話になった人で、姫以上に頭の上がらない人物である。
「そうだよ。まさか噂の忍が本当にお前だったとはなぁ……。そうと分かってたらすぐに誘いに行ったのに」
ここでも噂が……。
「それ、ずっと疑問だったんですけど、一体どんな噂が流れてるんですか?それ本当に俺ですか?俺、今までずっとソロだったんですけど……」
「ああ、あれは多分本当にお前のことだと思うよ。雄たけびをあげながら狂ったように戦い続けるお前の目撃証言が度々掲示板に書きこまれてたからな」
狂ったようにってそんな馬鹿な!?あんなにも格好よく魅せプレイを意識しながら戦っていたっていうのに!
しかもそれだけで俺と断定するだなんて師匠の中で俺は一体どんなイメージになってるんだ……。
「最初は戦闘狂とかバーサーカーとか呼ばれてたけど、生産職の人たちですらお前と関わった人はいないっていう話だし、いつの頃からか近づいた奴は皆殺しにされてるんじゃないかって噂が掲示板で流れはじめてな。今ではこのデスゲームの世界でプレイヤーにすらも刃を向ける『狂刃』っていうありがたくもない二つ名が付けられているよ」
なにそれ怖い!?
というかそれだけでPK扱いってどういうこと!?
これだから匿名掲示板は恐ろしい……。
「そのせいで俺はギルドにも入れなかったのか……」
「まぁそのおかげでまた俺たちと組めるんだからいいじゃないか。それにしてもお前何も変ってないな」
「それ姫にも言われましたよ。師匠こそ、相変わらずエルフのサマナーをやってるみたいじゃないですか」
前作でも師匠はエレメンタルサマナーとして精霊たちを使役していた。
そんな師匠に何度助けられたことか……って助けられてばっかりだな俺。
「師匠、か。その呼び方も久々だな。まぁ俺は後ろから高みの見物をしているほうが性にあってるからな」
師匠はおどける様にしてそう言った。
しかしそんなことを言いながらも常にみんなから一歩から引いたところで死人が出ないように戦闘バランスを調整してくれるのが師匠だった。ただ、ときどきわざと周りの敵を巻き込んで大混戦にしてスリルを味わわせてくれたりするお茶目な一面もあったけど、それも今考えると良い想い出だ。
「お前中身は全く変わってないけど外見は…………完全に別人だな。違和感が凄いんだが」
「ああ!これですか?これめちゃくちゃ格好良くないですか?!ダークエルフで女で色気で露出の高い金属防具を身に付けてしかもこの細腕に大きな両手剣!最強の組み合わせですよ!!!」
「一体何が最強なんだか……。あの頃のお前はあんなにも初心で純心だったのに、こんなスケベに育ってしまうなんて、俺の教育が悪かったんだろうか……」
そう言って本気で落ち込む師匠。
「ひどいっ!」
「まぁいい。今回ボス狩りが初めてだっていうのならとにかく死なないように気をつけるんだぞ。今集まっているメンバーの中で蘇生魔法『リザレクション』が使えるのは一人しかいない。もしアタッカーが死んだとしてもリザレクションの使用は当然タンカーが優先されることになるから再利用時間の関係でアタッカーにはかけてもらえない可能性が高い。再開していきなりさよならなんてのはさすがにごめんだからな」
「任せてください!今度は俺の方がみんなを助けて魅せますよ!」
「ははっ、言うようになりやがったなこいつ。楽しみにしてるよ」
うっは!テンション上がってきた!
仲間のために戦えるなんて最高のシチュエーションじゃないか!
最初からアクセル全開だ!ぶっ千切っていくぜ!
PT編成と作戦の伝達が終わると俺たちは街を出てボスのいるフィールドへと出陣した。
さながら行軍パレードのようである。
これだけ人数が集まっていると、道中の雑魚敵は全て遠距離アタッカーが瞬殺してしまい残念ながら俺の出る幕はなかった。
うん!ボスで頑張ろう!負けるな俺!
ザルツベルグの沼の奥地へと到着すると今回のターゲットであるリザードマンジェネラル『ベルーガ』が遠目で見えてきた。これはかなりでかい。三メートルを越えるような長身。ずんぐりとした太い腕。そして金属製のスケイルメイルで身を固められた体躯は見るからに硬そうだ。手は俺の持つ両手剣よりもさらに大きな曲刀と巨大なタワーシールドを持っている。そしてその横には二匹のリザードマンガードが守りを固めている。その二匹ですら道中にいた雑魚たちと比べたら比べたら一回りも大きい。
俺たちは作戦通り姫たちタンカー班を前に配置し、横長の陣形を組む。
そして討伐隊の先頭に立った姫がゆっくりボスへと近づいていく。そしてある範囲を超えたところでボスも姫に、いや、俺たちに気が付いた。
その瞬間オーケストラヒットから始まる激しい戦闘音楽が響き渡り、ついにボスとの戦いの火蓋が切られた。
リザードマンガードたちが槍を構えてベルーガを守るように展開する。
ボスまでもう10mと迫ったところで姫がボスに剣を突きつけスキルを発動した。
「『タウント!』」
ボスが頭上に赤い煙エフェクトが発生する。
タンカーが敵の注意を自分へと向けるヘイトスキルの一つ『挑発』が発動した証だ。
本来PT狩りでは、敵に与えたダメージや味方へ回復量などによって敵愾値が蓄積するシステムになっており、基本的に敵は最も敵愾値の高いプレイヤーへと襲い掛かってくる。
しかしそれだと防御力が高く攻撃力の低いタンカーは自分に敵の注意を向けることができない。
『ヘイトスキル』とは、そんなタンカーが自分へ注意を向けるために使うスキルのことである。『ヘイトスキル』は習得しているだけで、各行動に対する敵愾値の上昇率が上げることができ、少ない攻撃ダメージでより多くの敵愾値を稼ぐことができるようになる。
さらに『ヘイトスキル』のレベルを上げることで、『挑発』などのダメージは与えない代わりに敵愾値を飛躍的に上昇させるアクティブスキルも使えるようになる。
そのため『ヘイトスキル』を持つタンカーの実力が集団戦での安全性へと直結することとなる。
そして『挑発』を使われた『ベルーガ』も例に漏れず、姫の方へと向かって真っ直ぐに歩みはじめた。
作戦の第一段階は、姫がボスの攻撃を耐えている間にその取り巻きであるリザードマンガードを倒すこと。
そのため、姫とは別パーティーのタンカーたちが『挑発』を使ってリザードマンガードたちの注意を引き付ける。
そして俺たちアタッカー班の仕事は、少しでも早くリザードマンガードを倒して姫のところへと駆けつけることだ。
俺は横目でタンカーたちが挑発を使ったのを確認すると、『ダッシュ』を発動してリザードマンガードに向かって走り出した。
「ダーッシュゥゥスラァァァァァァッシュ!!!」
敵の懐へと飛び込みながらも手に持った両手剣を『ダッシュ』の勢いに任せて思い切り斬りつけた。
いつもよりも少しだけ重い手応えがずしりと剣を通して伝わってくる。
だが、この程度ならば問題ない!
敵の肩口へと切りつけた剣を力の限り振り抜くと、リザードマンガードは仰け反りながら多々良を踏んで後退した。
やっぱり!コイツ相手なら十分ノックバックでゴリ押せる!
「ハッ!!せいっ!トライッ、スラッシュッ!!!」
トライスラッシュという名のただの三回斬りが敵に襲い掛かる。
しかし、さすがに『ダッシュ』の勢いを乗せてないような攻撃では相手を上手くノックバックさせることができずに、反撃の余地を与えてしまう。
リザードマンガードが攻撃の合間を縫い、手に持つ片手槍で突き攻撃を繰り出してくる。
だが……。
「止まって見えるぜ!ターンスラッシュッ!!」
『ターンステップ』のシステムアシストにより、身体を回転させながらサイドステップすることでリザードマンガードの馬鹿正直な突きを回避する。
『ターンステップ』発動によるシステムアシストは水平移動の速度向上と身体の回転速度上昇だ。
ターンスラッシュとはその回転力を利用して横一文字に斬りつける攻防一体の我流奥義だ。システムアシストを利用した一撃に相手が再びノックバックする。
「ハッ!ハッ!オラオラッ!」
そこへ暴風のように舞いながら華麗に(※自称)斬撃と蹴り技を繰り出していく。
ノックバックから立ち直った敵が懲りずにまた馬鹿正直な突きを放ってきたので、跳びあがって回避する。
「頭がガラ空きだッ!天空唐竹割り!!!」
気持ちよく叫んでいるが実はただのジャンプからの兜割りである。しかもジャンプのスキルなんてないから大したジャンプ力もない。
ここでようやく敵の半分以下に入った。
ちっ、さすがにボスの取り巻きだけあって硬い。早く倒さないと……、姫が俺を待ってくれているっていうのに!(※妄想です)
集中力が研ぎ澄まされていくのを感じる。
相手のガードの隙間を縫い、間髪入れずにひたすら攻撃を叩き込んでいく。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!」
敵の攻撃を紙一重で回避し、止めの一撃を敵の首下へ放つと、遂に敵のHPバーがゼロとなり、事切れた死体となってその場に崩れ落ちた。
すぐさまもう一匹のリザードマンガードのいる方へと目を向けると、弓と魔法の集中砲火により一瞬にしてHPが吹き飛んでいくのが見えた。さすが討伐隊メンバーだ。まさか取り巻きを瞬殺するとは……。
よし!これで後顧の憂いなく姫の下へと駆けつけることができる。
その姫の方へと振り返るとちょうどボスが姫に向かって曲刀を振り下ろさんとしているところだった。
「『ファランクスッ!!』」
姫がガードスキルを発動させると利き手に持つ盾に青いオーラが宿り、ボスの攻撃を大きくはじき返した。
さすがは姫。相変わらず鉄壁過ぎる。
「取り巻きの殲滅は終わったッ!全アタッカー班ターゲット変更『ベルーガ』ッ!!!」
ネームレスさんの指揮が飛ぶ。
作戦ではこのままボスに集中砲火を行う手筈になっている。姫以外のタンカーたちもボスへと向かっていく。
俺に与えられた使命はボスを背中から強襲することだ。
『ダッシュ』を発動して大きく後ろへと回り込んでいく。
「ダーッシュゥゥスラァァァァァァッシュッッッ!!!」
もう俺の十八番となっているダッシュ斬りが炸裂する。しかしボスは全く怯んだ様子を見せない。
さすがはボスといったところだ。簡単にはノックバックはしてくれないらしい。闘技場で格上装備のプレイヤーを相手にしていたときのことを思い出す。
そう!これだ俺の求めていたものは!
俄然面白くなってきたッ!
「ハッ!せいッ!切り返し!クロススラッシュ!」
左右に切り払ったところで後ろの飛びのき、剣を腰溜めに構える。
姫がボスの狙いを取ってくれているおかげで敵は完全に無防備だ。
これならば十分あの技を使うことができる!
「我が剣の錆となるがいいッ!」
『ダッシュ』を発動して弧を描くようにボスへと駆け寄り『ターンステップ』を発動する。
「我流滅殺奥義!秘剣ッ!かざぐるまあああああああああああああああ!」
今まで使う機会がほとんどなかったダメージを与えるためだけに組んだ防御度外視の攻撃技。
『ダッシュ』の勢いに乗ったところから自分の身体を軸に『ターンステップ』の連続使用することでシステムアシストを補助を得て回転力を増し、両手剣の遠心力を駆使してひたすらコマのように回転して何度も何度も斬り付けるだけの、『おれのかんがえたさいきょうのわざ』である。
仕組みは単純であるが、実は非常に制御の難しい技だ。特に『ベルーガ』のように重くて硬い敵に使った場合、斬り付ける度に衝撃を受けた両手剣が剣筋を変えるため、その都度微調整しなければすぐに軸がずれてしまい、本来の性能を発揮することが出来ない。
これはこの馬鹿みたいに現実離れしたアバターの筋力があってこそできる技だ。一撃一撃はそれほど大したダメージにはならないが、一秒間に三度も切りつけることができる。『両手剣』のアクティブスキルを除けば現在最も高いダメージ効率を見込める技だ。
もちろん『ターンステップ』の連続使用により俺のSPはゴリゴリ削れていくが、ボスのHPも目に見えて削れていく。
「ヒャッハアアアアアアアアア!!!」
ハハッ!すっげぇ!今の俺ボスと戦えてるよ!!
「この馬鹿!馬鹿力!自重しなさい!タゲが飛んだわよ!」




