特訓!まともに戦えるようになれ!?
キャラクター紹介
【出本 一】
主人公、極度のルーティン遵守癖があり。あだ名はロボット。
等級プリズム。
【虹宮 雨】
出本の幼馴染でライバル。自信家で絵に描いたような「エゴイスト」である。
等級プラチナ。
【風見 華】
2人の幼馴染。仲裁役。科学オタク。
【阿瀬 レイド】
一と雨のクラスメイト、女性には紳士的な態度を取るモテたいお年頃な情報通。
等級はプラチナ。
【朱井 アイン】
高専の教師にしてパラレル理論の第一人者の一人。
若さと青春をこよなく愛す科学者。
口癖は「これも若さか__」
あらすじ
ついにお披露目される一の力、それは本人も制御不能なオーバースペックであった。
一歩駆け出せば体が投げ出され、攻撃を回避すれば踏ん張る間もなく転がり飛んでいく。強い弱い以前にまるで闘いにならない状況が続く。
どうにか力の制御のヒントを知るべく彼らは指導を受ける為適任を探し始めるが___
一が自身を場外ホームランしてから4日が経っていた。
「...はぁ」
一のため息が教室に響く。
一達は放課後の教室に集まっていた。雨はいつになく機嫌が悪そうに一のため息に睨みを効かせる。
「随分な態度ね...人のこと吹っ飛ばしておいて何か不満でもあったのかしら」
「え?...ぁあ、うん」
「...」
雨は間の抜けた返事に怒りで上げた腕をから振るように黙ってしまった...。
結論から言うと、一の戦績は初日の場外以外は完勝であった。
結果だけ聞いていた華が不思議そうに問いかける。
「んー、何かあったの?一回しか負けてないんでしょ?凄いんだよね?」
「それについてはこの私、阿瀬がお答えしましょう!」
3人の横に並んでいた阿瀬が声を上げる、華は少し驚きながら話を聞く姿勢になる。
「結論から言うと内容に納得いってないって事ですね」
「内容?」
「はい、 結果だけを見れば初日以外は無敗ですが。勝ち方はどれも場外、しかも当の本人の動きがそれはもう凄くて...」
華はその説明にほえー、と間の抜けた返事をする。
「まず2回目の対戦では相手の攻撃が全て弾かれ疲弊した相手を片手で吹き飛ばし、3回目4回目は場内をギリギリで移動してる最中に肩がぶつかって相手をホームランしてます」
華はよく分からず首を傾げてへぇ?ととりあえず返事をする。
「そして今日、雨さんの猛攻を吹き飛ばした上で、ゆっくり歩き近づいて、シールドを上から殴りつけてもろとも壁まで吹き飛ばしての勝利...いやぁバケモノですね!」
「ご説明どうもありがとう、で誰お前」
一は今日漸くまともに言葉を発した、阿瀬はその言葉に唖然とする。
「いやクラスメイト!あんたの初日の相手!!もう忘れたのかよ!?お前に唯一勝った男だよ!?!」
「...あぁ、そうだっけ?えっと悪いな紫蘇くん」
「阿瀬だっての!2文字の名前くらい覚えろよ?!」
雨が舌打ちを打ちながら話に割り込む。
「勝ったって、一が自爆したラッキーパンチでしょ?あんなの勝ったうちに入らないわよ。調子に乗らないでもらえる?えっと...佐世保?」
「あ!ぜ!で!す!...もはや文字数まで違うし...」
阿瀬の慟哭を2人はうるさそうに横目で眺める、華は不思議そうに眺めていたが、ふと口を開く。
「そういえば初めましてだね?まだ自己紹介もしてなかったのに色々聞いてごめんなさい」
華の言葉に阿瀬は唖然とする。
「そ、そんな...一昨日から既に3人と話していたというのに...?」
「そうだったか?記憶にないな」
「私は気が付いてたけどスルーしたわよ?」
「そうだったの!?全然気が付かなかったよ〜...」
三者三様のここ3日間のスルーを目の当たりにして阿瀬は愕然と目を点にする。
しかしならもう仕方がないと不屈の闘志を燃やし再び声高らかに自己紹介を始める。
「____んんッ、ならいいでしょう!今一度私の紹介を致しましょうとも!」
ばばっ!と態とらしくポーズを取りながら自己紹介を続ける。
「一年A組阿瀬レイド!好きなものは可愛い女の子!嫌いなものはむさ苦しい男共ッ...以後、お見知り置きを____」
嫌に様になっている仕草とポーズに横目ですら見ずに一と雨はスルーし、華は「わー」と楽しそうに拍手をした。
「なんだかカッコいいね?あ、私は__」
「風見華さん、一年E組の一般科。ですよね?」
えっ、と華は驚いた様子で首を傾げる。
「もう自己紹介したっけ?...はじめましてだったはずだけど___」
「なんだ?ストーカーか?」
「なるほど、通りで顔がいやらしかったのね。とりあえず二度と軽口が効かないように____」
殺意が溢れ出す2人に慌てて阿瀬は弁明を開始する。
「ちょっと待て待て!違うから!ストーカーじゃなくて情報通なんだよ俺!華さんだけじゃなくてとりあえずこの学年の生徒情報は大体頭に入れてんの!!!」
「ふーん、随分大きく出たわね。どっちにしろ気持ち悪いことに変わらないけど。」
雨は怪訝な顔をしたまま少しも心を許してないと言わんばかりに距離を取る。
華はそんな様子もお構いなしに感心したように声を出す。
「へぇ〜すごいね!なんか映画で見たことある、情報屋?って言うんだよね」
いつしか見た洋画に出てきたキーマンになる情報通を思い浮かべて目を輝かせる。
「そ、そうですそうです!まさしくそれ!ストーカーなんかと一緒にしてほしくないですよほんと。華さんは可憐な上に思慮深さまであるとは...」
「それで?そろそろ自分の力に慣れる目処はついたの?」
阿瀬の感動を無視して雨が話を本題に戻す。
「全くだ...、まるで勝手が効かない。一歩駆け出したら景色が一瞬で切り替わる、距離感も加減も何もあったもんじゃない____」
一は机に突っ伏して意気消沈と言った様子。
本人としてはここ数日の間にあれこれと試しては見たものの、まるで効果がない。
自身の体の筈なのに何処か違和感を感じ続けている状況である。
そんな様子を見て華は心配そうに質問をする。
「どんな感じなの?ふわふわーって無重力みたいな感じ?」
「いや、身体はむしろ重くなってると思う。強めに踏ん張っただけで地面にヒビが入ってたし...」
一は少し考えた後、感覚の例えを話し出す。
「例えるなら...ゲームでキャラがバグって10倍速で動いてる、みたいな。」
「なるほど、確かにそれなら簡単に動き回れはしないわね。通りで歩くだけでもすんごい顔してると思った...」
雨は今日や先日の戦闘シーンを想起しながら頷く。
余裕そうなゆったりとした歩みを進める最中すら、一は凄まじい深刻そうな顔を浮かべながら迫ってきて相手に不気味な圧をかけていた。
「しかしそこは流石プリズムクラスと言うか、ゴールドやプラチナクラスでも確かに身体強化時の感覚のズレは良くあるものらしいけど。俺も少し慣れるのに時間かかったかな。」
「自慢か?...アセロラ?」
「阿瀬だって。まぁとにかく慣れるしかないけど...そうだな、何かいい手があれば良いけど...」
4人ともがうーん、と思案に耽って各々唸っていたところに聞き覚えのある声、ないしセリフが聞こえる。
「青春してるね若人たちよ、苦悩するのもまた若さ...か」
「青春ジャンキーが来たわね」
「朱井先生!」
雨と華は対極的な反応を示す。朱井はタハッと吹き出すように笑いながら彼女らの対面の席に座り込む。
「いやはや元気がいいね、若返るような気分だ。それで何を悩んでいるのかな?...あー、なるほど。出本だな?」
朱井は少し彼彼女らを眺めてから事を推察する。
「まぁ、初日からずっとあの調子なら仕方ないな...。で、解決策も思いつかないって感じか?」
誰からも何も効かないまま事情を推察する様子に華は感嘆の声をあげる。
「流石先生、何も効かずに全部当てちゃった...!」
「いや私らの担任だしそんなに難しいかしら?」
華のよいしょぶりに雨は苦言を呈しつつ話を戻す。
「まぁでもそうね、解決の出口どころか入口も見当たらないってのが正直だし...ここは一つ専門家の意見を聞きましょう?」
「......ふむ、スマン分からん!」
ズコォ!と全員がコメディの様に滑りコケる。
「なによ、自信満々な顔だったじゃない...」
期待を返せと睨みを効かされ朱井は肩をすくませながら申し開きをする。
「いや、私自身は変身した事あんまりないし。出本レベルのやつなんて史上的にも初めてすぎてアドバイスのしようもないからな...」
「専門家も匙を投げるのか...クソ、いよいよどうしようもないか...」
「あ、諦めたらダメだよ!せっかくこんなに強くなれるんだから...こう、何か方法がある筈!」
「例えば?」
項垂れる一を慰める華に、雨は案を聞く。
少し唸ったのち、華はいくつか案を絞り出してみる。
「か、体におもりをつけるとか?」
その案に朱井が意見を口にする。
「普通ならそれもありだがな、出本の場合おもりすら強化対象になってしまう。軽すぎれば意味はないし、少しでも重ければ動けないどころか立てなくなるだろうな」
華は眉を下げながらしかし諦めない。
「それじゃあゆっくり動くとか!摺り足...それこそ格闘家みたいな!!」
「雑魚や動きが遅い相手なら良いかもしれないけど...そんなの少数派だもの。そのうち動きの早いやつにリンチにされるのがオチね。」
今度は雨からマジレスをくらい少し口を閉ざす......、とハッと顔を上げて華は天啓と言わんばかりに口を開く。
「専門家に聞けば良いんだ!」
「...さっきのさ専門家が匙を投げたけれど?」
ウッカリにも程があるわよ、と呆れる雨にチガウヨと華は首を横に振る。
「先生は確かに変身の専門家だけど、戦闘に関しては素人。だから____」
一は漸く華の言いたいことに気がつき、口を開く。
「そうか、戦闘の専門家。機動力が高い、あるいはそう言う能力を持ってる生徒に聞くのか...!」
「いえす!」
華は一に親指を立ててサムズアップする。雨もその様子に腕を組んで感心する。
「なるほど、確かにそれが1番近道ね。それで?その専門家はどこにいるの?」
「それは____...」
華は押し黙る。それも当然、彼女らはつい先日入学したばかりである、当然校内の実力者なんか片手の指ほど知らない____
「あ」
華は振り返る、そこにはドヤ顔で待ってましたと言わんばかりの阿瀬が微笑みを浮かべていた。
「ようやく私の出番というわけですね、良いでしょう!私と貴方たちの中です。秘蔵の人物プロファイリングメモ帳の力をとくとお見せしましょう!」
自分の出番に鼻息を荒くフルスロットルな阿瀬の様子に一と雨は少しげんなりとする。
「なんか釈然としないわね、他当たらない?」
「まぁそういうな、今は貴重な情報源だ。背に腹は変えられないだろ...?」
「なんでこう君たちは人の鼻を折ることしか言えないんだ...助けてもらう側の態度かよそれは。」
阿瀬は呆れた怒りで溜息が出てしまう、それを見かけた雨が助け舟を出すように口を開く。
「そーだよ、せっかく阿瀬君が色々教えてくれるって言うんだから。ありがとうってちゃんと感謝しなきゃ、ごめんね阿瀬くん?」
「ハハ、気になんかしていませんよ。私は紳士ですからね、こんな事で臍を曲げたりはしませんよ。」
ドヤァ、と効果音が付いていると錯覚するほどのキメ顔で阿瀬は懐から取り出したメモ帳を取り出して校内の勢力図を説明し始める。
「今、この学校では大まかに勢力が3つあります。それぞれ、『生徒会執行部』『武活連合』『二天組』。それぞれに特徴があり情勢はほぼ拮抗していると言えます。」
「生徒会はなんとなくわかるが...その部活連合?とニテン組ってのはなんだ?」
聞きなれない響きの名前に一は首を傾げる。阿瀬は質問を受けて説明を追加していく。
「先ずは武活連合からですね。前提としてこの学校には運動部は基本武道や格闘技系の部活しかありません。そしてそれらの武道部活の連合...略して武活連合、因みに文化系の部活もあるにはありますが連合には含まれていません。」
「なるほど...聞いた感じそこが1番強そうだが」
「確かに、間違いなく実力者集団ではある。ボクシング部や空手、柔道に拳法部、果ては古武術部なんていう武器を扱う部活もあってなんでもありな武闘派集団になる。」
そして阿瀬は真剣な眼差しで極め付けは、と付け足す。
「剣道部、ここの部長にして連合の総長も務めているのが____丁度あそこにいる『アルリア・レオンハート』。前年全国大会のベスト4、この高専のNo.2だ」
そう紹介をしながら窓から外を歩く女性を指差す。
そこには青眼でブロンドのいかにもな英国人の風体をした少女とそれを取り囲む男女の集団がまさしく凱旋とでも言わんばかりの行進を行っていた。
周りの生徒はそのアルリアに見惚れ、黄色い声をかけ、手を振る。正しくアイドルのような扱いである。
彼女はそれを受けて爽やかな笑顔で手を振りかえし優雅に返事をする、その姿はさながら____
「通称『騎士王子』、実力も人気もあの生徒会長に負けない...いや人気だけなら間違いなくトップだろうな」
「ふーん、気取っててなんかいけすかない...王子?」
雨はアルリアの姿を凝視する、短髪に凛とした立ち姿は確かに王子様のようではあるが、確かに彼女の服装は女子生徒用の制服である。
「いやスカート履いてるじゃない、身も心も女でしょアレ」
「いわゆる王子様系ってやつだよ。本人は王子様呼びに少し困ってるみたいだが...まぁあのナチュラルな紳士さじゃあ仕方なしかな」
「それよりNo.2って事は、やっぱりNo. 1は生徒会長って事になるのか」
一は話を元に戻す、雨も入学式のことを思い返しながら一の予測に同意するが、阿瀬は首を横に張る。
「会長の花司は、前年の校内大会でベスト4。現状実力はNo.3だ」
「団体戦で優勝してるのにか...まぁ個人と団体戦で結果が変わる方自体は珍しくないが。という事は...」
一は三大勢力の残りの一つを思い出す。
「そう、この高専の最強...No.1は____『二天組』総長、天道零爾」
「じゃあ決まりだな、その人に相談に__」
「ちょっと待った、それはお勧めできない。というか多分教えを乞いに行けない」
立ちあがろうとした一を制止するように阿瀬は説明を続ける。
「理由は3つ、一つは単純に日頃天道が何処に居るのか誰も知らない。」
「...お前が知らないっていうんなら確かに誰も知らないんだろうな」
「二天組の人にも何人か聞いたが秘密にされるどころか本当に知らない...と言うより神出鬼没って言われたよ」
「?、どう言う事?魔法使いか何かなの?」
雨が首を傾げながら不思議がる。
「いや、それがなんと言うか...例えば昼ごはんを食べにいくと言って食堂の方に行ったと思えば食堂に姿を現さないままいつの間に教室に居たり」
阿瀬は説明が難しいと言った顔で唸りながら言葉を捻りだす。
「同じクラスメイトに聞いても気がついたらフラッと消えて気がついたら戻ってる、と。」
「つまり会いにいくのも難しいのか...と言うか、そもそもその二天組は何なんだ?何の集まりなんだよ」
生徒会、武活連、それらの組織と並ぶ集団の素性が分からず阿瀬に問いかける。
「あぁ、簡単に言えばチンピラの集まりだよ。血の気の多さは他の二つと比べてもずば抜けている。」
メモを眺めながら阿瀬はさらに詳しく内情を語り始める。
「もともと他の二大勢力が毎年派閥争いをしてたんだが、どちらにも属さないあぶれ者達が一定数居たんだが、去年の新人戦前に天道がそのチンピラ達を片っ端から叩きのめしていって結果子分が集まるような形で纏められたのが『二天組』だ。」
「ヤンキー漫画みたいだな...」
「聞く限り1番パッとしない連中ね、所詮はチンピラなんでしょ?」
2人の反応に分かっていないな、と指を横に振りながら阿瀬は腹の立つドヤ顔を浮かべ、2人は静かに苛立ちを募らせる。
「血の気が多い、つまり最も武闘派なのが二天組だ。他の勢力と比べても経験値も実力も確かで、個人ランクの上位50位内の60%は二天組が占めてる」
一はその説明にすぐさま違和感を覚えて口を開く。
「いやまてよ、それはおかしい。団体戦の優勝は生徒会なんだろ?チームワークがないとかなんだとしても武活連には最低限勝っていないと辻褄が合わない、何位なんだよ」
「出ていない」
「え?」
予想外の答えに一は呆けてしまう。
「団体戦には天道どころか二天組すら出ていない、理由はわからないが...」
「なんと言うか、よく分からない力関係ね」
結局どこが1番なのか、話が低迷し始めた所で阿瀬がまとめる。
「えー、簡単に言えば統率力の生徒会、人気と人数の武活連、超個人主義でチンピラの集まり二天組。三すくみってのがいまの校内の勢力図だ」
「...分かった、ありがとう。じゃあ行くか」
「ん?どこに行くか決めたの?」
華の問いかけに一は立ち上がりざまに答える。
「あぁ、生徒会室にいくよ」
「そっか...じゃあ私も行こうかな」
迷いの晴れた一の表情を見ては華は微笑みながら同行する事にした。
「なら私も同行しましょう!道案内はお任せください...!」
「別にいらないんだが。」
「まぁそう言わずに、阿瀬くんがせっかく助けてくれるんだから、ね?」
華の言葉に渋々と言った様子で一は頷く。
それを見ていた雨も立ち上がる。
「やることは決まったみたいね、珍しく時間がかかったじゃない?」
「じゃあ早速行こうか、善は急げー!」
雨はその言葉に待ったをかける。
「私はやることあるから、3人で行ってきてくれる?」
「えっ、一緒に行かないの?」
「えぇ、別に私が言っても行かなくても問題ないでしょ?私は秘密の特訓があるから...ほら行くわよ。」
雨はすっかり蚊帳の外で聞き専になっていた朱井の首根っこを持っては引っ張って行く。
「んぇ!もう終わり!?せっかく青春の波動を堪能してたのに〜」
「気持ち悪こと言ってないでさっさと行くわよ、時間がないんだから...!」
ズルズルと朱井を引き摺りながら雨は教室を後にしようとして、ふと振り返る。
一に向かって軽く微笑みながら一言。
「じゃ、私は先に行くから。」
「バカ言え、さっさと追いついてこい」
二人のやりとりに阿瀬は不思議そうにしながら、華は逆に安心する様に笑っていた____
一たちが生徒会室に向かう途中、華が口を開く。
「それで...結局何しに行くんだっけ?」
「えぇ!?...今のさっきの話だったのでは...」
「華はそう言う話は興味がないからな、いつもそんな感じだ」
驚く阿瀬に一はいつものことだと説明する。はぁ、と間の抜けた返事をしつつでは、と阿瀬はこれまでの話をようやくし始める。
「まず、大元の問題は出本が変身状態の力がとてつもないせいで自身ですら制御できない状態にある事です。」
「すごい!一が最強って事だ!」
「ま、まぁ今の所クラス内ではそうかもしれませんね...それはさておき、とにかくこのままでは勝つ負ける以前に勝負すらまともに出来ない訳です。そこで力の制御に必要な訓練やコツなどのヒントを得るため生徒会会長、花司継に相談へ行こうと言うのが今からの目的です。」
華は分かりやすかった、と手を叩きながら納得する。
「ありがとう、阿瀬さんはしっかり者さんだね...2人もこうだったらなぁ...」
「いやぁそれほどでも、それで初デートはどこにいだだだだだ!!!!」
言い終わる前に阿瀬の腕を一が関節技でキメながら押さえ込んでいた。
「正体を表したなストーカー、俺がいる前で華をナンパするとはいい度胸っんが!?」
さらにその一の頭を後ろからチョップで華が諫める。
「痛いな...なんでだよ華あいだっ!」
言い終わる前にさらにおでこにチョップを喰らわせては華は手を腰に当てて叱るようなポーズになる。
「せっかくよくしてくれてる人に向かって取る態度じゃ有りません、私を心配してくれるのは嬉しいけど、今の流行りすぎです。謝ってください」
「で、でもだな__」
「謝りなさい」
おおよそ人が感じるであろう恐怖の中でも最上位の物が一どころか阿瀬にも伝わる、殺意や根源的な恐怖とは似つかないがそれと同じほどの危険信号が反応を刺激する。
それはまさに____
「わ、悪かった...やりすぎた。」
「いや、俺の方こそ無遠慮だった...悪い癖だ、気をつけるよ」
2人が謝り合ったところで場を支配していた恐怖がふっと霧散して行く。
「うん!これで仲直りだね...まったくすーぐ喧嘩を始める癖は昔から治らないんだから2人とも。ごめんね阿瀬くん?」
「い、いやいや!!ほんとに自分が悪かったので、華さんがいい人すぎてついつい紳士的な行動が...!ハハッ!」
阿瀬は確信していた、あの3人の中で1番の、真の意味での強者とはこの娘なのだと____
そんな一悶着がありながらも3人は生徒会室にたどり着いた。
大きな両開きの扉の上に『生徒会本部室』と刻まれた看板がデカデカと飾られている、雰囲気もまさしくと言った感じで一以外は緊張で少し身をすくめてしまう。
「な、なんだか緊張するね」
「そうですね...貫禄と言うんでしょうか、なんと言うか圧がありますよね」
そんな2人を他所に一は躊躇いなく扉を3回をノックする。
「「ッ!」」
2人が同時に息を呑んでは何かを言おうとするが、そんな暇もなく扉が開く。
扉が人一人分ほどひらけばそこから目つきの悪い青年が顔を出した。
「何?なんか用?今公務中なんだけど...?」
「花司会長に用がありまして、今いますか?」
会長の名前を聞いてその青年はさらに不機嫌そうに目つきを鋭くする。
「会長にお前如き一年生が何の用だよ、役員でもなければ会長の知り合いですらないお前がさ...?」
「いえ、会長とは入学式で少しばかり会話をしたのですが__」
「会話ぁ?...ハッ!面白いこと言うじゃないか、お前みたいな一般生徒と会長が会話なんかする訳ないだろ、どうせ一方的に声をかけただけが演説を話しかけられたと勘違いしたとか___」
「いいえ、違います。」
一が引かずに食いつくような返事をしてはその青年はさらに扉から体を前に出して一の顔面の前まで迫る。
「人が話してる時に割り込んでくるなんていい度胸じゃないか、特別に名前を聞いてやる...覚える必要はなさそうだけどな?」
「出本一です。それで、会長はいるんですか?」
「いーぃ妥協してるじゃないか、やっぱり名前は覚えなくてよさそうだな。会長が相手する必要もない。今ここで___」
「儀久、それくらいに...彼の話は本当だよ。」
儀久と呼ばれた彼の言葉を静止するように部屋から声がする。
一は声に確信する、入学式に聞いた声。花司の声だと。
「すまないね、彼は警戒心が人一倍強い。それに今の時期は色々と公務が立て込んじゃってね、取り敢えず入ってくれ。そんなところじゃ会話も大変だしね。」
その言葉に儀久は渋々と言った感じで扉を開いては3人は中へ入って行く。
途端に3人は突き刺すような複数の視線を感じる。
いや、より正確に言うなら2人の前に立つ一に集中的に視線が注がれている。
ある種の値踏みのような、はたまた縄張りを踏み越えられた獣のような。とてもではないが歓迎されていない、2人は居心地が悪そうに身をすくめた。
「こ、これが生徒会執行部...なんて圧だ」
「な、何だか怖いねみんな...」
「いやぁ、本当にごめんね。改めて僕が生徒会長の...って自己紹介は入学式でしたね。それじゃあ早速で悪いけど話を聞こうか、ご用件は何かな?」
緊張で震えている後ろの2人を他所に迷いなく一は口を開く。
「力の使い方を教わりに来ました」
ぷっ___
「「くすくす___」」
「「ふっ、ふふ...」」
室内に失笑がこだまする、まるで心の声すら聞こえてきそうなほど冷たい空気が部屋を満たしていく。
「何かと思えばそんな初歩的な話でここに来たのか?わざわざ会長にそんなことで手を煩わせようって?」
アッハハハハハハ______!!
堪らずと言った具合に部屋に笑い声がこだまする。儀久は続ける。
「巫山戯るなよルーキー、お前のそんなちっっぽけな悩みのために会長を煩わせていい時間なんて一瞬たりともないんだよ。」
ほら出ていけと、儀久が手を払うジェスチャーをしたところで後ろから花司が口を挟む。
「儀久、それくらいに。それに話を聞くと言ったのは僕だよ、僕を嘘つきにするつもり?」
「会長!しかし普段ならこんなルーキーは相手にしないはずです!どうせヒーローショー的なイメージでここに来ただけのボンボンが力の強さにビビってるだけです、どうせ階級もシルバー程度___」
「彼はプリズムだよ」
「なっ!?___」
部屋の空気が変わる。一瞬の沈黙の後独特な緊張感が部屋の空気を重くする。
「なるほど、つまり『自分の力が強すぎて困ってますー』とそういう事か。ここまで来て自慢とはその図太さだけは評価してやる。」
儀久が一の前に立ちはだかり啖呵を切るように迫る。
「だが階級など所詮は指標の一つに過ぎない。それを俺が教えてやるよ、表に出ろ。力の使い方を知りたいだったな、僕が嫌ってほど教えて___」
「なーに?また新入生イジメてる感じ...?偉くなったね〜ギーク」
入口の方から軽快な明るい声が響いてくる。
「そんな事してる暇があるならトレーニングしなよ、そんなだからいつまでたっても『弱虫ギーク』なんじゃん?」
「ッ...ふ、副会長」
3人が振り返るとそこには艶めく赤茶げた長髪を靡かせながら軽快な歩みでこちらに歩いてくる、正しく『ギャル』と言った風体の女性が現れた。
「お〜、君が噂の新入生っしょ?今の所1年の中で唯一のプリズム!...名前なんだっけ?」
彼女は一の隣に来ては顔を覗き込みながら首を傾げる、一は顔だけをそちらへ向けながら端的に答える。
「出本一です。」
「一...はじめ、、、じゃあはじめっちで!」
「はじめっち...」
反論の隙間もないあだ名確定の流れに一は呟くしか出来ない。
「はじめっち、可愛いあだ名だ、私も今度からそう呼ぼうかな」
「やめてくれ」
華の呟きに一は冷や汗をかいて否定する。
「えー?あーしも可愛いし良いと思うけどなぁ?」
「・・・」
一が気まずそうにしている所に花司が口を開いた。
「うん、出本くんの相談だけど...彼女が適任そうだね。」
ザワッ、と部屋が一瞬騒然とする。当の本人である彼女は少しキョトンとした後質問を繰り出す。
「ごめーん、今来たばっかだけどどんな話だったカンジ?」
「そうだね、簡単に言えば彼自身、自分の力に振り回されてまともに動けないそうだ。だから彼の指導役を買ってもらいたい」
ほーん、と再び一の顔を覗き込んで少し凝視した後、うんと小さくつぶやいては彼女は笑った。
「面白そーじゃん、OK〜。てかどうせ会長命令なんでしょ?」
「その通りだ、でも恐らく...いや間違いなく彼は君を飽きさせないと思うよ。私が保証するよ。」
花司が微笑みながらそう言えば、彼女はワクワクと顔に書かれているような表情で3人に向かって向き直した。
「じゃあ改めてよろしくね!あーしは生徒会副会長の獅子堂アカリ、尊敬の念ってヤツを持ってあーちゃん先輩と呼びなさいっ」
ふんす!と凛々しめなポーズを取りながら息巻く獅子堂の明るさと勢いに3人とも押し黙ってしまう。
その沈黙でようやく儀久がハッと慌てて口を開く。
「い、いやいや!副会長がそんな奴相手にする必要ありません!大体生徒1人に生徒会役員が時間をかけて指導するなんてどう考えてもあり得ませんッ、僕がさっさと痛い目を見せて__」
「文句あるならじゃあ、あーしと闘る?」
獅子堂が儀久を一瞥すると彼は押し黙ってしまう。
「いつも言ってるじゃん、生徒会で意見を通したいなら実力で、君があーしに勝てたら何の文句もないよ。はじめっちに教育しようが何しようが自由...それがルールなの忘れちゃった?」
「いえ...失礼しました」
「はぁ、つまんないの。ここで根性出さないから弱いままなんだよ?」
儀久は苦虫を噛み締めるようにワナワナと小刻みに震えている。
見かねた花司が擁護をしようと口を挟む。
「それくらいにしてやってくれ、アカリに正面からぶつかっていける奴はこの高専内でも指折りだ。それを今の儀久に求めるのは酷ってものさ」
「けいちゃんの言い方のほうが酷な気もするけど?ま、いいや。時間もアレだしさっさと行こうかはじめっち〜?」
レッツゴー!と息巻きながら一の背中を押しながら部屋を後にしようとする。
少し唸りながら困惑気味に一は移動しつつ、ふと振り返った。
「儀久先輩、俺は構いませんよ。」
「...は?」
「先輩に指導してもらえるなら願ってもない話です、いつでもお相手させてもらいます。」
真っ直ぐな目線と表情に、それがパフォーマンスや演技の類ではないと儀久は理解してしまい摘まれたような表情になってしまう。
「だってさ?...でも今は私が先だもんねー!ほら進んだ進んだ♪」
微妙な雰囲気の生徒会室を背に4人は部屋を後にした。
先行する獅子堂について行くと、教室棟や大体育館からさらに離れた校内でも隅の方の少し古びた道場のような場所に辿り着く。
「とうちゃーく!ここはあーしが役員権限で借りてる貸切道場。ここなら思いっきり暴れてオッケー♪便利っしょ?」
「でも何だか...」
「え、えぇ...言葉を選ばずに言えば、ボロいですね。」
少しムッとしながら獅子堂は言い返す。
「あー、副会長の割にはしょぼい権限だとか思ったっしょ?」
「いやいや!そんな事はっ」
「そうですよ、これはこれで雰囲気がありますしね...!」
「別にボロいのはその通りだから、わたしは敢・え・てこのボロ目の道場借りてるの。そりゃガーデニングとかネイルやるってんならもっと綺麗な部屋借りるし、ってか借りてるし。」
でも、と腰に手を当てながら獅子堂は続ける。
「あーしらがするのは殴り合い、小綺麗な部屋なんかよりよっぽどやりやすいしどっちにしろすぐに汚れたらボロくなるんだから。はじめっちは分かるんじゃない?」
「はい、何というか...懐かしいというか。しっくり来ます。」
一は少しだけ郷愁に似た感情の目を向けながら微笑んでいた、それを見た獅子堂はフハッと笑ってしまう。
「見立て通りだね〜。まっ取り敢えず中に入っちゃおう、時間は有限なんだぞー?」
変わらぬテンションの高さのままの彼女に3人は中へ連れて行かれる。
2階まであるうちの1階へ入っては、そこは木床にコンクリートの壁と神棚だけと言ったシンプルながらどこか厳かな雰囲気がある部屋であった。
無論外装に抱いた印象と同じく中も同じくらい年季と劣化を感じるものであり、所々が補修跡のある正しく『ボロい』と言った感じである。
「じゃあ早速始めようか...、てかそう言えば」
ふ、と一の後ろについてきた2人に目を向ける。
2人は独特な緊張感に急に襲われて息を呑む。
「__何でついてきたの?てか君ら誰だっけ?」
ガクッと、2人とも一気に力が抜けてしまう。
「い、いやそれはなんか3人とも行こー!みたいな勢いでそのまま...」
「うん、それに私は一が心配だったから」
「あー、いやアレはなんかノリでつい...みたいな?それで名前はなんていうんだっけ?」
気を取り直して2人が自己紹介を始める。
「なるほどなるほど...ちゃんはなと...あさせくんね」
「チャンハナ...中国人みたい」
「だから阿瀬ですって、何ですかその私がそこの浅い人間みたいな。」
「違うのか?」
「違う!」
一の呟きに喰いかかる阿瀬を他所に、よろしくねーと獅子堂は華に握手をしていた。
「さ、気を取り直して早速特訓!...って行きたいんだけど、その前に少しいいかなはじめっち」
「はい」
よろしい、とニコニコ顔だった彼女がスッと微笑みながらも真剣な眼差しを彼に向ける。
「君がここにきた理由を教えてくれる?」
「...強くなるためです、具体的なことを言うなら取り敢えず高専の頂点を取りに来ました。」
獅子堂はそれを受け続けて質問で返す。
「そこまでして強さを求める理由はなに?強くなってどうしたいの?」
「夢を叶えるためです。それには最低限強さが必要なんです、どれだけあっても足らないかもしれないくらいに」
「夢って?カット戦のチャンピョンって事?」
一は首を横に振って、少し考えてから口を開いた。
「父の背中を追うためです。いつか父が見ていた景色を...いやその先を見るために。」
「やっぱりかぁ...、出本、国防軍第四隊『金剛石隊』隊長、出本元。君のお父さんだよね?」
一は久々の反応だ、と慣れたようなハッとしたような顔をした後に頷く。
「出本元...!あの伝説の兵士がお父さん?!」
阿瀬は驚きながら一の方を目を見開きながら見つめる。
「阿瀬くん知ってるんだね?詳しいの?」
「いっ、いやいや私どころかミリタリー史に軽く触れている奴やカット戦に精通する奴は一度は名前を目にします。」
阿瀬はそのまま続けて喋り続ける。
「北海道侵略防衛戦に始まり数々の戦績とその生存率によってつけられた二つ名は『不沈の元』。で、確か5年前に失踪したって言う...」
興奮していた阿瀬もそこでようやくハッとして口を閉じる、少しの静寂の後一は気にするなと前置きをして話し始める。
「そう、父...いや親父がなにを求めて戦場に立っていたのか。なにを追いかけて消えたのか。それを知るためにも『金剛石』へ行く、その為に強くなる必要があるんです。」
正しく誰もが欲しがるような、そんな強さを。と一は獅子堂を見つめながら答えた。
それにうん、と彼女は頷いて嬉しそうに微笑んだ。
「OK〜、はじめっちの熱意はよーく分かった。安心して、あーしが鍛える以上ソッコー成果を出させてあげる。」
「はい、よろしくお願い___」
「ただしっ!」
一の言葉を遮り獅子堂は一つの条件を提示する。
「あーしが君を強くする代わりに、今度の新人戦で結果を残せたら。はじめっちはあーしとデートしてもらいます!」
「......?、はい?」
「「えぇ!?」」
道場内に声が響く。彼の波瀾万丈な高専生活はまだ始まったばかり、その道は今の所蛇行に寄り道回り道、真っ直ぐとは程遠く...。
明かされ始める高専内の情勢、派閥、力関係。
一は生徒会へ力の制御を得るべく師事を乞う、そして副会長である獅子堂から提示された条件は「デートをしろ」。
どうしてこうなった!?
特訓はいつ始まるのか!?
彼女は一体なにを考えているのか!?
次回「今度こそ特訓開始!?【速さ】を手に入れろ!」




