【第二部】 第52話 新たな牙
「こいつが今のわしから託せる最大火力。お前さんの戦闘の妨げにならない現実的な選択肢じゃ。ソードオフの火力を引き継ぎながら、継戦能力を高めた銃器……M1887レバーアクションショットガン【黒渦】」
ガンドはバックヤードの奥に保管された鋼鉄のガンケースを開くと、カウンター上に静かに置いた。
重厚感ある鋼鉄のケース内には中・近距離戦に特化した銃器が収まっている。銃身から銃床まで全て黒一色に統一された慎ましい彩色に、シロウは好感を持った。
シロウの愛銃デザートイーグル.50AE【白鯨】は、まるで美術品の如く彫刻と鋭い純銀の閃きを放っている。しかし、その破壊力と同様に見た目も際立ちすぎていた。
引き金を引けば弾が出る。動作不良を起こさない銃器であれば、さほどこだわりがなかったシロウにとって、【白鯨】は人間を相手するには過剰すぎる火力があった。
そしてシロウは内心、ガンドを性能=外見の武器職人だと決めつけていた。その予想が覆されたことに率直に驚いた。
「ガンドのおっちゃんにしては随分とまともな改造だな! 俺はてっきり、とっておきの武器は、黄金に輝いた美術品を渡されるんじゃねぇかと心配していたんだ」
「ガハハ! そんなわけないじゃろ! こいつは一癖も二癖もあるショットガンじゃ、まずは撃ってみろ。銃身のバレルは特別な加工を施したソードバレル、銃床も近接戦闘を想定して取り回しやすいハンドグリップに調整してある」
ガンドはシロウにM1887レバーアクションショットガン【黒渦】を手渡すと、地下空間に備わる射撃場にシロウとナナを案内した。
簡素ながら無駄のない設備は、ガンド自身が試射を幾度も行った痕跡がある。分厚い鉄板を撃ち砕いた大穴が、壁中にいくつも点在していた。
「まずはリロードから説明するぞ。このM1887は通常の仕様とは全く異なるからな」
ガンドの指示に従い、装填作業を行うシロウはあることに気が付く。
「このM1887……垂直二連式か!」
「ご名答! レバーを下げて装填口を覗くがいい。この銃器の異様さが理解できるはずじゃ」
シロウは【黒渦】のレバーを下げてみる。ガシャンと耳障りの良い機械音とともに内部の装填口が露出する。
そこには本来のマガジンチューブに繋がる装填口とは異なり、垂直に連なる二つの装填口が窺えた。
「ダブルバレルの破壊力に連射を加えるなんて脳みそがぶっ飛んでるぜ。こいつは洒落にならねぇ」
シロウは引き攣った口調で口角を広げた。
「常識外れの銃器じゃよ。マガジンチューブは変異性生物レベル2『ドラゴ』の胃袋・腸を加工して使用しておる。弾詰まりの起きにくい柔軟な伸縮と耐久性に優れた有機チューブはわしのオリジナルじゃ。次弾装填と同時に排莢される機構は、大型化されて頑強に作ってある。本来の上方排莢口に加え、下方にも追加排莢口を増設、つまり上下から薬莢が弾き出されるわけじゃな」
「……少しばかし派手すぎねぇか? 俺は目立ちたがり屋じゃないぞ」
「冒険者が何を言っとる。それに守る対象が多いなら、自分が目立たんとな」
「それは……ごもっともだな」
シロウはナナを一瞥する。ナナは気恥ずかしそうな表情を最初こそ浮かべたが、力強い返答で応えてくれた。
「わたしもパーティの一員です。だから、守られるだけじゃありません」
ガンドはそんなナナの面持ちに感心する。シロウも言葉は発さなかったが、認めているようにナナの成長を感じた。
「シロウ、お前さんは良い仲間に出会ったな」
「そうだろ? こんなんでも善を積んでいるんだぜ」
「絶対この子を守ってやるんじゃぞ」
「マスターみたいなことを言うんじゃねぇよ。それに、俺たちパーティの切り札は、ナナ、お前だ。期待してるぜ」
「はい! 任せてください!」
ナナは際立った双眸を一層に煌めかせて頷く。自信満々な表情に曇りはない。
「ガンドのおっちゃん。次回はナナの装備も見繕ってくれ。扱いやすいので頼むぜ」
「あぁ、もちろんじゃ。小柄でも取り回しの良い銃器を提案しよう。シロウ、お前さんは早くその銃の性能を味わえ。慣れは必要じゃ」
「ありがとよ。じゃあこのゲテモノ銃を隅々まで味わうか」
シロウはそう返事をすると、装填口へ試しに二発のシェルを滑り込ませた。
有機チューブが生き物のように脈打ち、弾を呑み込む感触が掌に伝わる。ナナの息を飲み込む音が、無機質な装填音に混ざって微かに聞こえた。
「12ゲージシェルは上下に三発ずつ、合わせて六発内蔵できる。ボルトは一体型じゃ、引き金を弾けば垂直二連のバレルが火を吹かす。破壊力は本来のM1887の二倍じゃ、ソードオフの代替として文句はないな?」
「ガンドのおっちゃん、反動も二倍以上だってことを言い忘れているぜ」
「ガハハ! そうじゃった! こいつは下手に反動を堪える代物じゃない。受け流し、利用するんじゃ。長めに調整したソードオフのバレルが、射撃時の反動で遠心力を生む。次弾を装填、排莢、そして次の獲物に引き金を引け」
「どうせこの銃器もアダマンタイトやオリハルコンを使用してるんだろ? 特殊弾は撃てるのか?」
「アホめ! お前さんの【白鯨】のような小型銃器ならまだしも、希少で高価な素材を大型銃器に全て使用できる余裕などないわ! 大抵の地鍛人の鍛冶屋職人は代用素材を使う」
「じゃあこの得物には何が使われているんだ?」
「この【黒渦】には特殊な鉱石、火蓮石を使っておる。高温に燃えるほど強度が増す性質じゃ。アダマンタイトほど通常時は強度は高くはないが、銃身が爛れるほどの高温にも耐え、より頑強になりおる。その燃え盛る銃身なら理論上……わしの特殊弾を二発同時に撃ち放てる」
「……だから、ぶっ放した反動の説明を忘れてるぜ」
「ふむ。シロウ──お前さんの上半身は跡形もなく捻じれ吹き飛ぶ」
「アホはあんただろ!」
シロウは喉元から溢れ出た感想をガンドに吐き出した。それは躊躇いなど一切ない、正直な答えだった。
読者の皆様、ご愛読ありがとうございます! 今回の52話でストック分が無くなりました。次回からは不定期更新になります。本業との兼ね合いで毎日更新はできないですが……皆さんのコメントや評価をもらえたら死ぬほど作者は頑張るつもりです。
ぜひブックマークなどして頂ければ【MAD DEAD RIDERS】の最新話の知らせが届きますので、この機会にどうぞ応援よろしくお願いします!




