虫除け
遠征から戻ってきました。
街が少し騒がしくなっています。
この騒がしさは、賑やかというのです。ごすじんに教わっていますよ。
お祭りの準備で、いろんな物や人が、街に集まってきているのだそうです。
でも、こういう時は気を付けないといけません。
たくさんの匂いが、いろんな場所から漂ってきます。
特に、嗅いだことのない匂いは、確かめるまで警戒しておくべきなのです。
ごすじんの歩幅もそう言っているのです。たぶん。
あとは……
「おいおい、アタシを置いて行くんじゃないよ。おかしな歩き方しやがって」
やっぱり、角の人が付いてきています。
この人は置いて行ってもいいと思うのですが、ごすじんは速度を合わせてあげています。
なので、人が多いところでは進むのが遅くなってしまうのです。
そういうときに新しい匂いが漂ってくるとなれば……
「よう、アプロ。会いたかったぜえ」
「……ダウルかい、アタシは会いたくなかったね」
角の人が増えました。
「そろそろ俺の子を産む気になったか?」
「会いたくなかった、つってんだろ」
角の人一と角の人二は知り合いのようですね。
「相変わらず素っ気ねえな」
「悪いね、コレは私の客……というより、寄って来る虫みたいなもんだ」
「いや、用事があるのはそっちのハンターさんだ」
「アンタまさか……」
「お前、そこのハンターに負けたそうじゃねえか?なら、そいつに勝てば俺の方が上ってことだよな?」
「そんな理屈が通るわけないだろ。アタシが欲しけりゃアタシより強いことを示してみせろってんだ」
「だから今から、それを証明してやろうっつってんだよ」
ああ、コイツはごすじんを狙っているのですね。
なら敵です。
「ぐるる」
「何だぁ?俺の前に立つってことは、それなりの覚悟はしてるんだろうな?」
覚悟?お前の方が、覚悟ができてないように見えますよ。
「怪我しねえうちに、そこを――」
ゆっくり手を伸ばしてきたので指をバツンと噛み千切ってやります。
「あがっ!」
意外と骨太だったので、噛み千切ることはできませんでした。
でも、顎にボキボキした感触が残っているので目的は果たせています。
角の人二は、驚いた顔をして自分の指を確認しています。
全然だめですね。
指が取れてないのを見て安心しましたか?でも、それは今することですか?棒立ちになっていますよ。
足が真っ直ぐになっているので、踏みます。
ヤギやイノシシにやる、前を踏むやつです。
「ぐあぁぁ!」
転んだので次は喉……というところで、ごすじんから「まて」がかかります。
ケーラ?とかいう人が来たので、ごすじんが説明をしました。
お祭りの前にはよくあることなので、気を付けるよう言われました。
外からやって来た人が、住民に迷惑なことをするのは、完全に防げないそうです。
困ったものですね。
まあ、私がいる限り、ごすじんに手出しはできません。させません。
「悪かったね、対外的にはアンタはアタシに勝ったことになってるからさ。
さっきみたいな馬鹿が寄ってきたら、アタシが対処するつもりだったんだ」
そういえば、ごすじんの前に割り込んでくることが、何度もありましたね。
あれは邪魔していたのではなく、追い払っていたのですね。
「勝負したつもりはないって言うんだろ?でもね、当のアタシが負けを認めちまってるんだ」
どうやら、角の人もごすじんのすごさがわかっているみたいですね。
まあ、私の方がもっともっとわかっているのです。
「ただまあ、さっきのを見る限りじゃ、要らぬ世話ってヤツだったみたいだね」
む?ごすじんを守るなら、手は多い方がいいのですよ。
「あとアンタ、アタシのことも守ってくれたってワケだ」
おや?ごすじんが、お得意の苦笑いです。
「あの時、ソイツとやりあってたら……勝ち負けはともかく、以後戦えない体になってたかもしれねえ」
なんですか?やるなら容赦はしませんよ?
「へ?アタシを守ったんじゃなくて、そいつに咎を負わせないため?」
咎というのはよくわかりませんが、私のためということはわかるのです。
ごすじんはやっぱり、ごすじんなのです。
「咎っていう考え方はピンと来ねえが……やっぱり、アンタはおもしれえヤツだな」




