一徹おやじどん
けったいな客が訪ねて来た。
この通りに店を構えて十七年、今まで接したことのねえタイプだ。
猟獣会の取り成しで来たっていうからには、ハンターだろう。
だが、どうにも荒事をやるような体格じゃねえ。
どこぞのご嫡楽が、酔狂でおこころざしなすったにしちゃあ薹が立ってる。
もう一人は……獣人か、光り物にはあまり興味がなさそうだ。
家業が立ち行かなくなって、転身でもしたか?
……始めはそんな風に考えてた。
素人は見た目で武器を選びがちだ。
過不足なく振るうことよりも、とにかく仰々しい得物を持ちたがる。
睨んだ通り、ヴィンセントを持ってよたよたしていやがる。
店頭に並べてる武器には刃を入れてねえが、それでも危なっかしいたらありゃしねえ。
そう思っていたが、自分で使うわけじゃねえようだ。
獣人に手渡して、取り回しを確認させてる。
次はチャールズとロザンナに目を付けたようだが、やっぱり自分用じゃねえ。
二本とも獣人に渡してるな。
対になってることを分かってるってことは、毛が生えた素人か。
オイオイ、チャーリーをロジーに当てるんじゃねえよ。
そいつらは戦場の花婿と幼妻をイメージしたもんだぞ。
元鞘に収まるどころか、決別しちまうよ。
そろそろ、お楽しみの一喝でも入れてやるかと手ぐすね引いてたら、向こうから寄ってきた。
コイツ……ただ者じゃねえ……
俺の張ってる結解を、こともなげにすり抜けてきやがった。
ここいらは計算し尽くした配置がしてある。
何かを避ければ別の何かにぶつかって派手に音を立てるよう、倒れる方向まで設計済みだ。
俺の少ない娯楽の一つ、客を怒鳴りつける建前をこさえるための仕掛けだな。
なのにこいつは、踏む場所と上半身の傾きだけですべて捌き切った。
目論見がバレてる?俺をどうしようって腹積もりだ?
話を聞いてみると、ますます訳が分からねえ。
右の手のひらを真っ直ぐ立てて何度も頭を下げているが、それは何かの符牒なのか?
おめーは何もしてねえだろうが、何をそんなに謝るんだ。
俺に罪悪感でも植え付けようてハラか?
しかし、こいつの話は大いに俺の……俺の中の職人の魂を揺さぶって来やがる。
オイオイ、そんなモン俺に任せようって言うのか?
俺が作っちまっても……いいのか?
看板を掲げる前に師匠から贈られた言葉が、今更ながら思い浮かんだ。
鉄を叩くばかりじゃ見逃すモンもあるってな。
たまには肉でも水でも叩いてみろってのは、きっとこういうことなんだ。
俺は、よそ見してたら折角の鉄が冷えちまう、絶対に見逃さねえなんて意気込んでたが……
ホントは解釈の仕方が分からねぇで、悩んでた頃もあった。
ああクソ!これだから鍛冶屋ってのはやめられねえんだ!
飯はさっき食ったから……そうだな、二日だ、二日くれ。
あん?まずは試作品だぁ?焦らしてくれるじゃねえか、この野郎……
形を見るだけならすぐ用意できらぁ。茶でも飲んでろ。
どうだ、これでいいか?なら、もう作り始めていいよな、な?
じゃあ今日は、もう帰ってくれ。
邪魔だなんて思っちゃいねえが、俺はまだまだ半人前だ。
雑念が混じらないとも限らねえからよ。
どうせ眠れるわけがねえんだ。さっき言った通り二日でやる。
やるったらやるんだよ。




