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 長谷川がやられたか――カフネは銃弾を避けながら、傍目で螺旋階段の下を見る。螺旋階段特有のうねりと柵のせいではっきりとは見えないが、下の方で長谷川が横たわっているのが見えた。


 恐らくこの銃弾を避けきれなくて死んだのだろう。長谷川なら避けられると踏んでついてくるのを止めなかったのだが――死んだ後で何を言っても遅い。


 もし長谷川がこの銃弾の雨の中、螺旋階段を上り切ったらどうだっただろうか。遊戯場にたどり着き、あの光景を目の当たりにしたら何を思っただろうか。惨い、そう思うのだとしたら、ここで死んだほうがましだろう。


 心配するな。私もすぐ後を追う。


 戦う理由はない。だが、この胸の奥に(つか)えた痛みを投げつけてもいい理由ならある。


 無自覚だろうと君主だろうと、それが被疑者の宿命だ。


 また一人、また一人、と階段にいる黒ジャンパーを手套で気絶させ、尚且つ銃弾を避けながら駆け上った。


 ちらりと上を見た。黒ジャンパーが下に向かってマシンガンを撃っている。


 ゴールが近い。


 螺旋階段の四分の三付近まで来ていた。あともう少し、そう足に力を入れたときだった。咄嗟の反応だった。避けられたのは反射神経がよかったとしか言いようがない。頬にピリッとした痛みが走る。何かがカフネの頬をかすめた。それは下からものすごい勢いで上がってきた。もしかして……気絶しきっていなかった黒ジャンパーが銃を放ったのだろうか。その問いはすぐに解決される。カフネの右上に短刀が浮いていた。驚きはしなかった。逆に納得した。長谷川がやられた理由。


 右上空から勢いよく向かってくる短刀。心なしか、キャハハハハ、と叫んでいるようにも聞こえた。

カフネは動きを止めた。銃弾が雨のように降っている。その一つが右肩をかすめる。左の脹脛をかすめる。しかし致命傷にはならない。まるでカフネが超能力でも使って自分の身体に当たらないようにと退()けているかのようだった。それでも頬に腕にとかすめた。それでもカフネはピクリとも動かなかった。ただ一直線に自分に向かってくる短刀に注視していた。


 短刀とカフネの距離が一メートルに入った瞬間、カフネの右腕が動いた。


 短刀が止まった。


 カフネの眉と眉の間から、血が一筋流れた。


 カフネの右手は、短刀の柄を握っていた。


「馬鹿な。人間の分際でこの俺のスピードを目で追えるヤツなんて……」

「それだけあなたがショボいってことじゃない? こう見えて私、お大臣様の愛人だったのよ。彼の欲求を満たすだけのね」


 カフネはゆっくりと短刀を自分から引き離し、逆手に持って床に刃先を向けて勢いよく叩きつけた。一回、二回。「やめろ! 馬鹿! そんなことしたら……」


 三回目だった。勢いよく叩きつけると、柄の部分からぱっきりと刃が割れた。割れた刃と柄を手すりの向こうに投げた。断末魔が聞こえた気がした。


 いい気味だ。味方にする人間を間違えたようだ。


 どちらにせよ私を邪魔する奴に容赦はしない。どの道皆死ぬのだ。死ぬんだとしてもやらなければならない。欲を言えば、長谷川……。あいつがあんな腐った短刀に殺されなければ……。


 目の前に黒ジャンパーが迫っていた。カフネは右腕を勢い良く突き出した。彼の首を手套が刺す。喉の骨の形を指先が感じる。黒ジャンパーが崩れ落ちるよりも先にカフネは階段を駆け上がった。


 上り切ったとき、そこにいた二人の黒ジャンパーを左右の手で突いた。背中に気配を感じた。気絶しきっていなかった黒ジャンパーが下から這い上がって来たのだろう。馬鹿だ。マシンガンで背中を撃てば殺せていたかもしれないのに。


 ノールックで背中に迫った黒ジャンパーの右手首を掴み、そのまま背負い投げの要領で地面に叩きつけた。


 右手を放し、髪をかき上げた。汗で髪がかさばっていた。額もぐっしょりとしていた。


 息を深く吐いた。


「よし、いくか」


 左右どちらに進むか悩んだ結果、左に進んだ。右も左も見た感じはコンクリートが打ちっぱなしの部屋が続いているように見えた。これを一つひとつ見ていたのでは日が暮れてしまいそうだ。


 それでもやらなければならない。


 先は長いな。


 静寂が降っている。灰色のコンクリートの上に汗が落ちる。ぽたっぽたっ、と黒い水玉を作る。足の裏がひんやりとする。そこでカフネは自分が裸足だったということを思い出した。


 冷たいコンクリートの上を、一人、ひたひたと歩いた。


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