こうして女で狂った人生……
―五日後
「今年はまだ雪が降るんだね」
マーアンは、自分の部屋にやってくるなり、そう言って肩の雪を払った。
自分は?と言うと暖炉の前から動くつもりもなかったので、褒美の毛皮を体にまとわせながら、暖炉の前に座っていた。
「マーアン、早く閉めて!
扉から暖かい空気が抜けちゃうから!」
「せっかく来てあげて早速それ?
本当にケーシーは寒いの嫌いだよね」
呆れたマーアンは、ぶつくさ言いながら扉を閉め、そしてコーヒーミルにコーヒー豆を注ぎ入れながら、こちらに来た。
「はい、コーヒー豆担当。
丁寧に挽いてね」
自分は「ん……」と返すと、コーヒー豆をゴリゴリと挽いた。
やがてマーアンは勝手知ったる、といった様子でビーカーの水を沸かすと、自分に「ミルと一緒にこっちに……」来いと言った。
言いなりになった自分は、テーブルにつき、何も言われないままドリッパーに挽いた豆を入れると、お湯を注ぎ入れる。
マーアンはカスタードパイを持ってきたようで、それをテーブルに並べた。
「すごい、今日は豪華だね」
思わず感嘆の声を上げると、マーアンは子リスの様な顔を綻ばせた。
「凄いでしょう?
実はお母様が、私にお砂糖を一壺くれてね。
だから贅沢にも、カスタードを作ってもらったんだ」
砂糖は南方からの輸入に頼っているので、とっても高い。
コーヒーとそんなに値段は変わらない。
ささやかな贅沢に心を躍らせながら、自分はコップを二つ用意し始める。
そしてこの時、ふと昨日の事を思い出していた。
◇◇◇◇
―昨日
チーノを倒し、手柄を焦って独断専行した自分は多少叱られたが、多くの手柄を立てたとして褒美をもらった。
そのうちの一つが鹿の毛皮で、先程暖炉の前で羽織っていたものである。
バルブロ警部からも、部下の仇を取ってくれたと言われ感謝される。
そして自分はその足で、高級ホテルの一室に向かった。
いつものようにその部屋の扉をドンと一回叩くと、三回返され、もう一回返す。
そして扉が開くと、そこに晴れやかな顔をした情報屋のフリットが居た。
「やぁ、全てが終わった。
その報告と報償を払いに来たよ」
そう告げると彼は、自分を中に招き入れる。
「ケーシー、あんたは見込んだ通りだった。
これで弟も浮かばれる。
本当にありがとう」
「いや、こちらこそありがとう。
これが最後の報奨金だ、受け取ってくれ」
そう言うと自分は銀貨と幾許かの金貨が詰まった袋を渡す。
「銀でくれるのはありがたい。
最近じゃ両替商のレートが高くてな……」
「ああ、事情は分かっている。
……今回は本当に助かった、おかげでチーノはこの手で始末で来たよ。
あとはヤルンヴォルケだけだ。
こちらはまだまだ時間がかかりそうだね」
もう両公爵家の激しい争いは、公然のモノとなりつつある。
女王の寵愛を新たに受けて躍進し始める、アルンスロット家。
それに対抗するのは旧来貴族の中心であるヤルンヴォルケ家。
チーノの死は、それを抑えるのではなく、より激しく対立させる方向になった。
おそらくこれからもっと激しくなる。
アルンスロット家もまた、ヴィクタの命を狙ったと思われる、ヤルンヴォルケを許すつもりはない。
水面下では、すでに抗争は始まっていた。
「今回の件で情報屋がどれだけ有用なのかがわかった。
これからもいろいろと仕事を頼むつもりだ。
頑張ればもっと多くの報償が用意できるだろう。
これからも頼むよ」
そう自分が言うと、フリットは少し躊躇した表情を浮かべた。
「ああ……実はその事なんだがな、ケーシー。
実は今度、仕えている主の元に帰ろうとしているんだ」
「つまり、もう協力はできないのか?」
「いや、出来ると言えば出来るんだが、その……
もっと公の立場で協力しそうなんだ。
前にもいったろ?俺は王党派貴族の家に仕えているって」
「そう言えば主が居ると言っていたね……」
「……ああ、うん。よし、決めた!
正直に言うぞ、ケーシー。
今から言う事は他言無用で頼む。
俺の主は、アニーネ・ピアケスコー様なんだ」
「……何?」
「もう、皆まで言わなくていいな?
だから俺は、お嬢様の事も含め皆知っていた。
お前が何を考えているのも、お嬢様に伝えた。
つまり……まぁ、恋の天使って奴だ」
アニーネ・ピアケスコー……つまりそれはマーアンの母親の偽名である。
「お、おまえ!」
「ついでに言うとだ、お前と仲が良い先輩居るよな。
パーティの日に、おまえの代わりにヴィクタ様を警護していたあいつだ。
……あれも俺の情報提供者だ」
驚きのあまり、何も言えずにフリットの顔を凝視した。
フリットは語る。
「お前はバルブロ警部の依頼で俺に逢ったと思っているよな?
それは半分当たって、半分は外れだ。
実は警部は俺を通じて、アニーネ様の意を汲んで動く、警察内部のエージェント。
だから、これまでヤルンヴォルケ家にあそこまで非協力的でも、彼は身分を脅かされずに済んだ。
だから、その……上手く言い難い。
話がずれたが……
お前は警部の推薦があったにせよ、どちらにせよ俺と逢うように仕組まれていた。
それがアニーネ様の御意志なんだ」
「な、な……」
「あと、もう一つ教えてやろうか。
お嬢様に、安楽死できる毒薬の存在を教えたのも俺だ。
わかってくれ、ケーシー。
俺はピアケスコー家に恩義がある。
彼らの為になる事ならば何でもする。
俺は知っているんだ、おまえがロソスを襲ったあの日、顧客名簿からお嬢様の名前を消したのを」
『!』
「アニーネ様は知らない、お前はその事を誰にも言わなかった。
お前は信用ができる奴だ……
だからお嬢様の気持ちを汲んだ。
分かってくれ、俺はお前の敵じゃない。
お前がお嬢様に誠実な限り、俺はお前の味方だ」
俺は道化師だった。
全部コイツの手の中で踊っていたのだ。
その事実に、血が上りかけたその時、奴が言った。
「お前、お嬢様に手を出したんだろ?
つまり誰にも明かせない秘密をもった」
『!?』
「バレたら不味い、そうだよなぁ?
なぁ、お互いに腹を割ろう。
こんなことがアニーネ様に知られたらどうなると思う?
お前は破滅だ。アルンスロット公爵だってお前をお許しはしないだろう」
恋に浮かれ、忘れていた事実を突き付けられた時、自分が嵌められ、気がついたら逃れられない運命に絡め取られた事に気がついた。
一瞬にして、恐怖で顔が青ざめる
「あ、ああ……」
「大丈夫だケーシー。
俺は口が堅いんだ、お嬢様に対して誠実であり、そしてピアケスコー家に対して多少融通してくれれば、なぁ?
俺達は、ずっと友人だ、そうだろ?ケーシー」
「……な、なんてことを」
「ずっと友人だ……ずっとな。
互いに協力しようじゃないか。
俺はアニーネ様たちの幸福を願っている。
そこはお前も同じだろ?
きっと上手くやれる、俺はお前に色々手をの差し伸べる事が出来るだろう。
だから、お前も俺を助けろ、そうだろ?」
「自分に、スパイをやれというのか!?」
「そんなことを言っていない。
友達、そう……年齢の離れた友人で居ようというのさ。
お前、女と離れ離れになりたいか?
なりたくないだろ?
それなら、きっと俺達は分かり合える、お嬢様を大事にしろよ。
互いに協力し合おう、な?」
「な、なんてことを……」
「身分差なんて、越える方法なんか幾らでもある。
……アニーネ様に認められる騎士になればな。
それは俺が保証しよう、俺は知っているんだ、カスパル・ピアケスコー様が爵位を授けられたのをね。
何せ目の前で見ていたんだ、間違いないだろ?」
「そんな……」
「覚悟を決めろよ、ケーシー。
アニーネ様は誠実な者にお優しい。
別にアルンスロット公爵家を裏切れと言っているんじゃない、陛下に誠実であれと言っているのさ。
なぁ、分かるだろ?」
「…………」
自分の兄弟子だった男は、死んだその日に、こう忠告した。
『……俺は酷い目にあった、マルティール(同盟)の連中は揃いも揃って皆クソだ。
この国の王族はどうしようもないゴミ揃いだ、気をつけろよ。
アルンスロットだって、例外じゃないからな』
気がついたら自分は、怪物に抱きすくめられたのか……
この国の王族は皆、化け物じみた力を持っている。
アルンスロットも、きっと……
◇◇◇◇
―現在
「これ、凄く美味しい!」
マーアンが嬉しそうにそう言うのを聞き、自分も大きく頷いた。
「これは上品な味だ、本当に美味しい」
そう返しながら、自分は結局誰かの手の上で踊っていただけなんだと、再び思った。
早く大人になりたい、経験も豊富な賢い大人に……
「ねぇ、マーアン。
いつか自分が領地を貰ったら、君は来てくれるか?」
無謀な事をカスタードパイ片手に頬張る彼女に尋ねた。
するとマーアンは、少し考えると誤魔化すように小首を傾げてこう返した。
「ケーシー、私達はずっと仲の良い友達でいましょうね。
そうしないと離れ離れになるから……」
これを聞いた時、コイツは何を言っているのか?と思った。
……ああ女神フィーリア。
この何を考えているのか分からない、この女の本当の思いを教えてください。
そうでないと自分はどうにかなってしまいそうです。
お願いします、女神フィーリア……
(了)
最後まで読んで頂きありがとうございます!
宜しければ『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけますと次回作品への励みとなります
皆様の応援が作者のモチベーションとなりますので、是非よろしくお願いいたします!
長い中断を経てこれにて終了です。
作品世界に没頭してほしかったので、後書きに何も書かずに来ましたが、やはりポイント貰えませんですね。
おねだりするべきだったというのが正直な感想です
いや、つまらないから評価されないのが本当なんですけどね……ソコは分かっています
やはりポイント、ブックマークと言った評価を頂けないとモチベーションが保てないのが実情で
たまたま入院したのでまとまった時間が取れ、それで完成させる事が出来ました
伏線は全部回収されませんが、打ち切りエンドと言う事で、ソコは大目に見て貰えればと思います
次はもっとまじめに更新しようと思います
ああ、人気がある作家になりたいよ
これが偽らざる本音です、そんな訳で次回作頑張ろう




