騎士カレスケイドを襲った悲劇
「公爵様に感謝を……
屋敷の中にある財産や、食料を失えば、私の家族やココの農民も、この冬を越す事が出来ません。
館を奪われた私の為にご支援を賜れると聞き、どれほど感謝しているやら」
カレスケイドはそう言うと、支援の約束を明記したべアンハート・アルンスロット様の手紙に、恭しく頭を下げた。
部隊を指揮してここまでやってきた重臣は、大きく頷く。
「これも(公爵)殿下と、騎士殿の苦労を慮った(女王)陛下の情け深いお気持ちが成された事です」
「はは、お二方のご恩に深く深く感謝いたします。
何なりと私にお申し付けください、何でもする所存です」
重臣の傍に控え、怪しげなモノや音を探り続ける護衛者の自分。
二人の会話が耳に入る……
「それにしてもカレスケイド災難であったな。
一体何が起きたのか説明して貰えまいか?」
「はい、3日前の事ですが……
これまでブラムスターヴェンに林檎を売っていた農民から報告があり、街道を封鎖されてブラムスターヴェンに行けないと知りました。
そこで街道を封鎖しました、(ヤルンヴォルケ)公爵家の方々に尋ねたところ、理由は明かせないが、しばらく街道は通行できないと言われました。
(ヤルンヴォルケ)公爵様に言われては仕方がないと諦めたのですが、その日の夕方にブラムスターヴェンに向かう旅人が何組もこの村に宿を求めました。
そこでブラムスターヴェンに行けないという事を知らせたところ、奴等一様に『そうか……』と呟いたそうです。
ただし一団のボスであるらしい老人は『旅は終わりかな?』と、笑っていたと聞いてます。
そしてその日の夜です、突如我が館は奴等の襲撃を受けました。
そして私の末息子を人質にとり、私達に館を退去するよう求めたのです。
まだ7歳の老いてからの子です、目に入れても痛くない程、私には可愛いのです。
愚かだと分かってはいますが……私はその子を失う訳にもいかず、奴らの要求を呑んでしまいました。
そしてその様子を知ったヤルンヴォルケ公爵が、突如私の荘園に侵入し、館を包囲しました。
そして私の館を焼き払おうとしたのです!
必死になって止めましたが、聞き入れてはもらえず、館の一部は燃え落ちました。
焼け残った部分に逃げ込んだ奴等は、ついに報復だと称して、奴等は私の息子を窓から下に投げ……」
そう告げた後、カレスケイドはもう何も言えなくなって、大粒の涙と嗚咽の声を漏らし始める。
「なんと……」
「むごいことを……」
思わず上がった、方々の声。
「あの子は母親と、私に助けを泣きながら求めたのです!
泣き叫んでいた!
あの悪魔どもはそれを無視して……」
そう言って言葉も無く立ち尽くした老騎士、瞳から涙がこぼれ、それを覆った袖口の隙間からすすり泣きの音が漏れる。
その様子に皆言葉を失った。
その時である、村の老神官を連れて、一人の妙齢の婦人が、悲しそうではあるが毅然とした様子でコチラ近付いた
何処か声をかけるのを躊躇う様子だったが、ソレに感づいたカレスケイドが「何しに来た?」と、押さえつけるように尋ねる。
「失礼します、お話ししなければならない事がありまして……」
「今か?」
「はい」
この様子に、思わず驚いて顔を見回すアルンスロット家の人間たち。
この様子を見てカレスケイドは溜息を吐くと「私の妻です」と声を上げた。
「突然参上いたしまして申し訳ございません、カレスケイドの妻であるカルナと申します」
「…………」
準爵もどう答えたらよいのか当惑し、カレスケイドへと顔を向けた。
その様子に慌てたカレスケイドが、強めの声で妻に尋ねる
「一体何があったというのだ?」
「実は急ぎ申し上げたい事が」
「なんだ?」
「……死んだのはブラールフではありません」
「なに⁉」
「ストアアンラです……」
『…………』
それを聞くと、カレスケイドは老いた両目を見開き、呆けたような表情を浮かべると「そうか……」と呻き、次に準爵の方に顔を向ける
「準爵様、先程の報告が誤りだったようです。
妻が言うには、息子では無くその身代わりとなった者が死んだそうです」
準爵は「そうか……」と答える。
「は、はい……」
「ご確認されてはどうですか、私はしばらくここで待つので」
「よろしいので?」
準爵は答える代わりに不機嫌そうな、溜息を一つ吐いた。
「そ、それでは急ぎ確認してきます、少々お待ちを……」
そう言って出て行った騎士の夫妻。
後にはアルンスロット家の人間だけが残った。
「お前等、この後どうする?
策があればこの場で述べろ」
準爵の言葉が、議論を呼ぶ。
「カレスケイドの息子が生きているなら、その命を守るのが優先です。
館を強襲するのは避けたいと……」
「ふむ、で。どうする?」
「館の見取り図があるかカレスケイドに聞きましょう。
忍び込めれば、人質確保の可能性はあります」
「夜襲の準備をしましょう、カレスケイドに見取り図の用意をさせるまで、進めるところまでやりたいと思います、閣下」
その他色々案は出たが、概ねこの意見で纏まる。
「……ケーシー、お前は何か無いか?」
そう尋ねられたので「私は忍び込むのに賛成です」と答えた。
「フム」と頷く彼に言葉を続ける。
「タダ天候が悪く月明りは期待できません。
夜襲よりも、夜の内に接近し夜明けを待って忍び込むべきか、と……」
「……尤もな事だ
忍び込む者は夜……寒さに強い者は?」
立候補の為に手を挙げる。
準爵はソレを見て「さすがケーシー……」と笑った。
意を決して、自分は彼の笑顔に誘われるように口を開く。
「閣下、出来れば一番手強い者が良そうな場所のいる場所に忍び込ませてください」
居るとすれば……そこに、マーアンの秘密を知る男が居るだろう。
「手柄が欲しいのです、どうか……」
チーノ……お前が居そうな場所に赴いてやるよ。
自分が女の為にと思って吐いた言葉に、準爵は感動を覚えた様だ。
彼は目を潤ませ、そして嬉しそうに笑う。
「そうか、分かった。相応しい場所を選んでやろう」
「ありがとうございます、閣下!」
「手柄を立てろ!」
「ハッ!」
自分がそう言った後は、この過酷な任務に、多くの同僚達が志願をする。
手柄を競うつもりの者は、自分を睨みつけもした。
自分に負けてたまるかと思ったのだ。
部隊の士気が、この瞬間から高まる。
◇◇◇◇
しばらくして確認を終えたカレスケイドが戻った。
遅くなった事を謝罪した彼は、準爵に話し始める。
死んだのは、従者の息子であったこと。
どうやら服を交換し、身代わりになったようだという事。
館の中から石を包んだ、紙が投げ込まれ、その紙に、自分達が地下牢に閉じ込められている事等が書いてあった事等を話す。
カレスケイドの妻はその紙を見て驚き、急ぎ報告の為あの場にやって来たのだ。
「地下牢に閉じ込められているのに、何故紙を投げて寄越せたのか?」
「分かりません、その事までは書いて無かったので。
何らかの事情で外に出られ、そしてこの紙を石に包んで、外に投げ飛ばしたのだと思うのですが、そこまでは……」
「フム……」
「タダ筆跡は、子供のモノです
紙に煤で文字を書いたようですから、筆記用具は無かったと思うのです。
だとしたら間違いはないのか?と」
「信じているのですね」
「はい……」
「ならば、我々が何とかしよう。
時間をかけられまい……」
「ありがとうございます、ありがとうございます!」
「感謝の言葉なら私ではなく殿下(アルンスロット公爵)に申し上げよ」
「はい、なんと言ったらよいか!
感謝に耐えません。
息子を……なにとぞ息子の命をっ!」
◇◇◇◇
準爵は突入する人間に休憩を命じ、それを受けて俺と他13名は別の行動をする事になった。
そんな我々の為に、カレスケイドは荘園内の家を、幾つか休憩所として提供した。
それらの家に3人ずつ割り当てられ、眠りにつく。
まだ、夜になる前……
鎖帷子に身を包み、外套にくるまれ、暖炉の前に横になった若者達。
瞼を閉じる、闇と揺れる暖炉の炎の赤い光、まどろみに誘う穏やかな温もり。
爆ぜる薪のパチパチと鳴る音、燃える木の匂い……
ゆっくりと立てた寝息が、ココにある種の違和感を加えた。
瞼の奥に広がる闇を見ていると、ココが戦場だと忘れてしまいそうになる……




