こと、終わった次の日の事
―翌日
「よぉケーシー、相変わらず活躍していたんだってな」
白銀宮殿の練兵場で、昨日ヴィクタの護衛を引き受けてもらった先輩が、実に機嫌よく声を掛けてきた。
「ええ、だいぶ血生臭い事になりましたが、帳簿類にお金等を回収し、殿下に差し出せました」
あの後ロサスは拷問官に引き渡す前に、全部自白をすると言った。
次に待遇の改善を求めたので、自分は事務所で“自分がやった事”を黙る代わりに、待遇の改善を約束する。
なので奴は今頃、比較的快適な独房と、美味い差し入れを食っている筈だった。
「噂だと、中々な内容の自白調書が出来ているそうじゃないか。
驚いたぜ……まさかマルティ―ル同盟全土を跨いで、超巨大犯罪組織が暗躍していたなんてな。
アレは元々お前らが追っていた案件なんだろ?
アルンスロット公領でも、お前とヴィクタ様にルカス達が、暴れていたってのは聞いたが……」
「はは、ヴィクタ様は領民の事をお考えですから」
自分はここ2年の、血生臭い日々を思い出した。
「で、もう少しその話を聞かせろよ。
俺も昨日のパーティの事を話すからさ。
あの子リスみたいな可愛い女の子、あれお前の女なんだろ?
へへ、アレを狙う奴がちょろちょろ居たんだぜ」
「え?」
「気になるか?それならば教えてやるから、その話を詳しく聞かせろよ」
くっ、フリットと言いロサスと言い、最近取引を持ち掛けられては、貪られている。
だが、あんな思いをしてまで、守ったマーアンに対し、執着心があり、それに唆される。
「……分かりました。
ただ全部の供述に裏付けが出来ている訳ではないので、全部が真実だとは思わないで下さい」
「ああ」
先輩に話した内容を説明しよう。
チーノ一家……その本当のオーナーはヤルンヴォルケ公爵である。
ヤルンヴォルケは弱小貴族を貶めて奪った、ハルアーナ王国や、ナシュドミル王国に点在する自身の所領を使って犯罪ネットワークを作っていた。
奴等は、主にハルアーナで栽培した、ケシから採取した乾燥果汁をナシュドミルに持ち込み、次に誰も居ないナシュドミルの奥地で精製する。
こうしてできた真っ白なアヘンを、マルティ―ル同盟外の諸国に販売していたのだ。
しかもその為の労働者を、全員外国から連れて来たと言うから驚きである。
管理者だけが、マルティ―ル同盟の臣民だった。
この麻薬の密輸で上がる利益は莫大で、なんとマルティ―ル同盟全体から上がる税収に匹敵していたと言う。
成る程、ヤルンヴォルケ公爵が無尽蔵に金を使う訳だ……
だが、麻薬の被害に激怒した、アヘンの最大の輸入国ヴァンツェル・オストフィリア国皇帝が激怒した事で、これが国際問題になった。
その為輸出の出来なくなったアヘン在庫が大量にダブつき、困ったヤルンヴォルケ公爵がエルドマルク王国内で捌こうとした。
……それをアルンスロット公爵が、女王と手を組んで、力で抹殺しようとしているのだ。
「……そう言う事です」
「なるほどね、ヴィクタ様がお前と一緒になって、アルンスロット公領で暴れていたのはそれに関連したのか」
「ええ、アイツ等はアルンスロットに手を突っ込みました。
その手は切り落としましたから、次は首を刎ねようという事です」
自分がそう言うと、先輩はわざとらしく笑って言った。
「まぁ、そう言う荒事だったらケーシーの仕事だ。
俺は業務管理の人間だからな」
この人も決して剣が苦手という訳では無い。
引け目を感じているのだろうか……
そう思いながら自分も「で、昨日のパーティはどうでした?」と尋ねる。
「良いパーティだったぜ。
ただ皆の一番人気はやっぱりヴィクタ様だな。
女の子が次々とヴィクタ様の所にやって来てな、俺に目をくれる子はいない……」
「違うよ!マーアンの事だよっ」
そんな事どうでもいいよ!
余りにも見当違いな事を言うと、先輩はニンマリと笑う。
「あれぇ、ケーシー。俺先輩だよ?
可愛くないんじゃない?」
「いや、それは……」
「昨日大量のお金を献金したそうじゃないか、お前もいくらかおこぼれを預かってくすねたんだろ?
現場を踏み込んでもバレないもんなぁ」
「え!いや、そんなことしてない……」
「お詫びが欲しいなぁ……」
最低なクソ野郎だ!
「……はい」
ポケットから、金貨を出して彼に渡す。
「悪いね、強い奴から貰うお金は最高だ」
「……それよりマーアンはどうだったんですか?」
「やっぱりソッチが気になるか?」
当たり前だろ!このカス野郎めっ。
「ええ、まぁ」
「かわいい子だったな、普段あんな感じじゃないんだろ?
大人びて、スラッとしていて。それでいて笑顔が可愛くて」
「ええ、まぁ……」
何故かマーアンが褒められると嬉しかった。
なのに胸がモヤモヤする。
「もう早速色々な男達がやって来ては、マーアンを誘って踊っていたぞ」
「…………」
踊った、踊ったってどういう事?
「まぁ、でもほとんど女友達と一緒に居たかな。
そうでなければヴィクタ様と話していた。
たぶんそうでもしなければ、次々と舞い込むお誘いから距離が取れなかったのかもな」
「は、はぁ……」
「あれ、お前動揺してない?」
そう言ってニヤニヤ笑った先輩。
「いやしてません」
「嫉妬は醜いぞぉー」
「だからしてないって!」
自分の様子を見て「ウヒヒヒヒヒ」と気持ちの悪い笑みを浮かべたこの男。
……クッソ、こんな事でマウント取る気かよ。
「まぁでも、そんな感じだ。
あまり気にする様な話は無かったぞ」
「はぁ……」
「やきもち焼くのも可愛いなぁ、え?
お前にもそんな可愛げがあったんだな、えっ?」
……こいつ、絶対今の話をヴィクタ達に披露するつもりだな。
嬉しそうにしやがって。
「あの子を大事にしろよ、たぶん手を引いたら早速男が寄って来るぞ」
「……ありがとうございます」
「じゃあな、エヘヘヘへ」
小遣いも貰って、機嫌よく帰る彼。
しばらくあいつと話すのはいいや、と思った。
◇◇◇◇
あの襲撃事件と、その後始末がようやく自分の手を離れられることになったので、スターハーヴェンの市内を探索する事にした。
それで……ごく標準的な殺人鬼の様に、スキューゲヴィー区の、昨日自分が襲った古物商の店を見に行く。
店はまるで略奪があったかのような有様だった。
……ここまで荒らした覚えは無い。
そこで興味が湧いたので、近くの雑貨屋に行って、ハンガーやらガラス瓶を買い求めながら尋ねた。
「あ、すみません一つ聞いても良いですか?」
「なんだい?」
「あそこの店、何があったんですか?
まるで皆殺しにでもあったような感じですが」
「ああ、実際皆殺されたんだよ」
分からないふりをして「えッ⁉」と驚く自分に店主は言う。
「4人ぐらい働いていたんだが全員殺された。
まぁ、ココはガラも悪いからね、そこにあそこは良い噂も無かったし」
「ハァ……」
「それで殺人犯が居なくなった後、それを見ていた奴がすぐに入れ替わりで入って行ったんだ。
すると金と帳簿は無かったが、中に大量の麻薬が手つかずのままあってね。
それであとはお決まりの、やってきたチンピラが次々と殺し合いを始めたんだ。
全部自分のモノにしようとしてね」
「…………」
「最初の奴の目的は金と帳簿だった。
次の奴からは目的は麻薬が欲しくて殺し合ったのさ。
ふ、チンピラらしい最後だね。
中には10人を越える死体があったらしいよ」
……なるほど、確かに自分はそう言う心理だったな。
推理するときの根拠として覚えておこう。




