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嘘つき……

―翌日、王立スターハーヴェン学校


自分はこの学校には魔薬学部、と言う魔法道具の材料の製造や、材料の採取管理等を学ぶ学部の学生と言う名目で入学した。

別に興味を持って入った学部では無かったが、ここ最近は勉強が面白い。


「ええ、此処にあるアンブロイト(加熱して一度溶かした琥珀)製の護符ですが……」


ようやく馴れた並んだ机と、女性多めの同級生たちが居る光景。

そして彼女達の視線を集める、初老の教師。

彼は今日もいつもの様に、生徒たちに向けて神秘の秘密を解き明かしている。


「この護符を見てください。

良く見ると中にその性質を決めるサンダーバードの骨、そして深い海に()つて居た、鉄の殻を持つ貝の化石が入ってます。

これらをアンブロイトで一つの護符に閉じ込めた事で、この護符は鉄の性質と雷の性質を有する護符になる訳です。

そしてその性質を引出し、どう発現させるのか?

その命令と言うか、約束を示したものが、アンブロイトの表面に描かれた、古代文字なのです。

ですから魔薬学とは、材質の事もそうですし、そこに描かれる文字の意味や歴史も知らないといけません」


カラーン、カラーン……


「おや、終業の鐘が鳴りましたね。

それでは今日の授業はここまでにします。

明日から実際に護符の組み立てをしますので、その為の素材費を明日徴収します。

払えない者は、今日中に学校に援助を願い出てください。

成績優秀と判断されたものは援助を受けられますし、その(せん)に漏れた人も、融資と言う形で学校は相談に乗れます」


教師はそう言うと、教材を持ってこの部屋を出て行った。

直後ガヤガヤと賑わいだす教室内。

立ち上がる生徒、早速隣と話し出す同級生たち……


「はぁ……」


その中で、自分は軽くため息を吐いていた。

授業が面白いのは良いのだが……この学校は貴族の子弟がたくさん通うからなのか、何かにつけてお金がかかるのだ。

例えばこれ……


「ふぅ、エルドマルクでまさか琥珀(アンバー)を買うとあんなに高いとは……」


授業の前に貰った、ペラ紙一枚のパンフレットを見ながら自分はそう呟いた。

そこに記された原材料の値段に、頭痛を覚える。

特にビックリしたのが、琥珀の値段だ……

琥珀なんて物は、ナシュドミルでは鉱山の手伝いをすれば低級なモノならタダで貰える。

ところがエルドマルクでは琥珀が、宝石の一種として扱われており、非常に高価なのだ。

驚く事にナシュドミルの10倍の値段がする。

……ナシュドミルじゃあ、原材料扱いなのに、だ。

そんな、地面を掘れば勝手に出てくる故郷の琥珀に、高い金額を要求されるのが納得できない。


「護符製作の授業を受けるだけで、毎回これだけのお金を取られたら、破産するぞ……

これなら故郷に居るルティアに、送ってもらうようにお願いした方が安上がりだな……」


タッタッタッタッタッタッ……


この時教室の外の廊下から、勢いよく走り込む足音が響き渡った。

この学校で廊下を走る人はめったにいないので、音がする方に目線を向けると、勢いよく給仕姿の女性が走り込んでくる。


「はぁ、はぁはぁ、はぁはぁ…はぁ」


息を荒げ、顔を床に向ける給仕の女性。

しかもその服装には見覚えがあったので、大いに驚く。

……いつも第6応接室に居る、アルンスロット家の給仕の女性だ。


「はぁ、はぁ……すみません。

ヤークセン・トールスカン、居ますか?」


彼女がそう声を上げたので、急ぎ自分は立ち上がり、彼女の傍に向かう。


「ああケーシー、大変です!」

「どうしたの?」

「だ、旦那様が……公爵殿下が、今応接室に来て、ヴィクタ様を御呼びです」

「⁉」


これは一大事だった。

と、言うのもヴィクタが呼ばれたという事は、彼の家臣であるルカスや自分もそこに居なければ話にならない。


「分かった、直ぐに応接室に向かう」


自分は急ぎ荷物をまとめると、何はともあれ第2図書室に付属している、第6応接室に向かう。

応接室に入るためにはアルンスロット公領資料室を抜けなければならないのだが、今日はそこに、公爵であるべアンハート様の直臣の人間がたむろっていた。

飛び込むようにアルンスロット公領資料室に入ると、そんな直臣たちの中の先輩武官に話しかける。


「ご苦労様です、ヴィクタ様はもうお入りになられましたか?」

「いや、まだ来ていない。

使いの者は出している、もうしばらくしたら来るだろう」


とりあえず遅れてはいない様だ。

そして、余裕がある内に早速彼に色々聞いてみた。


「公爵様のご機嫌は如何(いかが)ですか?」

「ああ、とても良い。

どうやら怒られることはなさそうだな。

ただどう言う事なのかは、こちらとしても良く分からない」

「そうですか、機嫌が良いと言うのならば、まぁ……」


ヴィクタは色々と、(くわだ)てるので公爵様が時折雷(ときおりかみなり)を落とす。

そしてその度に自分やルカスもまた(しか)られるのだ。

……怒りに満ちたべアンハート様は恐ろしく、自分はその時のご様子を想像して(おび)えた。

今は詳細(しょうさい)が分からないので、黙ってウチのボスが来るのを待ってから、殿下の元に赴くしかない。

こうしてしばらくこの資料室で待つと、ルカスを伴ってヴィクタが現れた。


「ケーシー、どうしてお父様がここに来たのか知ってるか?」


入って来るなり自分にそう尋ねた。ヴィクタ。


「分かりません、先輩の話だと殿下の機嫌はよろしい様子だと(うかが)ってますが。

(くわ)しいことは知らないと、言ってました」


ヴィクタはそれを聞くと、少し考えて「はぁ……」と溜息を吐いた。

そしてルカスや自分の顔を見回すと「それじゃあ行こうか……」と、死神の前に進み出るような表情で呟く。

自分達はその声に導かれて、第6応接室の扉を叩いた。


「失礼します、ルカスです。

ヴィクタ様をお連れしました」


扉を叩いたルカスが声を掛けると、機嫌のよさそうな声で、重臣の一人が「ああ、入りなさい」と部屋の中から声を上げる。

その声音を聞き(大丈夫そうだ!)と、目線で伝え合った、ボスと自分達。

少し安心しながら扉を開けた。


「ああ、ヴィクタ。

悪かったな、学校にまで来てしまって」


べアンハート様は、実に上機嫌でそう自分達に声を上げた。


「いえ、お父様の来訪を皆喜んでおります。

いつでも歓迎いたしますよ」


そう言って100万フローリンの笑顔を浮かべる、悪貴公子ヴィクタ。

……出来る男だ。


「ははは、そうかそうか!

お前に歓迎されると嬉しいな」

「あはは、いつでもお待ちしております!

そして、今日はどうしてこちらに?」

「うむ、実は昨日パーティでピアケスコー伯爵に、お前が学校で活躍していると聞かされてな」

「なるほど……」


爽やかな笑みを浮かべ続ける、ヴィクタの傍で、自分とルカスは引きつった笑みを浮かべていた。

自分達は、もうすでに何度もトラブルを起こしているからだ。

ところがべアンハート様はそれを咎める事もせず、逆に誇らしげな表情でこう言った。


「お前達は、つい先日ピアケスコー家のフライア嬢の窮地(きゅうち)を救ったそうじゃないか。

とても男らしく、それでいて優しく困っている生徒を救ったと、評判だったぞ」


……ああそうか、あの件か!

ヴィクタが手下を増やし、色々な情報を集める為に、彼女を庇護した一件である。

ヴィクタは、べアンハート様からそれを聞くなり、こう答えた。


「当然です、お父様。

私は公族アルンスロット家の一人として、正義と公正の名に恥じぬよう行動したまでです。

大した事などしていません。

むしろ当たり前の事ですよ」


……ボス、あなた同盟者ならいらない、自分の庇護を求めた時だけ助けるって言いませんでしたか?

手下を増やそうとしてたでしょ?

そんなヴィクタがかつて思っていた思惑をよそに、べアンハート様は誇らしげに頷くと「良い男になったなぁ……」と褒めた。


「お前にも良い所があるのは分かっていた。

それを発揮して、立場の弱い者を庇護した事を私は嬉しく思うぞ。

……実はな、フライア嬢の叔父にあたる伯爵が私に感謝してな、話す機会が持てた。

お互いに政治などをして見て、どうやら協力が出来そうだと言う話になったのだ」

「そう言えば、昨日のパーティでは親しげに談笑されていましたね」


自分はその場に居合わせなかったので、今初めて聞く話である。


「それで改めて、本日話す約束をしたのだが、驚け……陛下とその側近の方がいる部屋へと通されたのだ!」

『!』


自分達3人は目を見開いて驚く。


「これまで陛下と直接お会いする機会は無かった。

そこで同盟議員たちと話し合っていた、法務大臣をヤルンヴォルケ公爵が推す、ラーセン・ロドスティンではなく、ターヴィ・シニスタロキア伯爵を推したのだ」


……ラーセン・ロドスティンと言うのは、スターハーヴェンにある、スターハーヴェン法科大学の教授である。

しかし教授となるのに、ヤルンヴォルケ公爵の協力を得たともっぱらの評判だ。

つまり、ヤルンヴォルケの支配下にある。

そして、べアンハート様が推したターヴィ・シニスタロキア伯爵は、マルティ―ル同盟の議員にしてナシュドミル王国の伯爵だ。

この方は、非常に公正な統治で有名な貴族である。


「ヤルンヴォルケ公爵の悪口を言う訳にはいかぬからな……

そこでこれまで圧倒的な力の差で、マルティ―ル同盟を無視してきた、エルドマルク王国への不満をそれとなく言ってみた。

そしてそれを是正するために、エルドマルク王国の貴族以外からも、内閣を構成する人物の登用が必要なのだと、提言させていただいたのだ」

「昔からお父様はおっしゃってましたね。

広い世界に賢人は多い、ただ生まれたのがエルドマルクでは無かっただけで、こんな田舎で世に出る事がままならないのはおかしいと」

「うむ、シニスタロキア伯爵は。同盟法はもちろんの事、ナシュドミル、ハルアーナ、エルドマルクの法律にも精通している。

勿論法学者として詳しいわけではないが、逆に実際に統治者として、どのような法の運用が必要なのか理解が深い。

同盟議員にしかその才能が伝わっていないのは、同盟全体の損失だと、かねがね考えていた。

勿論エルドマルク王国の臣下では無いので、そこに問題があると言う者も居る。

何せ今回の話は、エルドマルク王国の法務大臣を誰にするのか?と言う話なのだからな。

当然ナシュドミル王国のシニスタロキア伯を、登用するのはおかしいと言う人間が多い。

そこで私はこう説明したのだ……

『シニスタロキア伯は、エルドマルク王国の家臣では無いと言うのが、その理由でございましょう。

だが考えてみれば“ヤルンヴォルケ公爵殿が推す”ラーセン・ロドスティンに至っては大学の教授であり、そもそも女王陛下に忠誠を誓った事がございません。

……つまり彼はエルドマルク人ではあるが、陛下の臣下だった事は無いのです。

だとしたら、ナシュドミル王国の臣下で、女王に忠誠を誓ったシニスタロキア伯の方が、ロドスティンよりも相応しいと、私は思います。

もしエルドマルクの家臣でないことが問題ならば、その職にある間だけでも、エルドマルク王国の家臣にしてはいけないのでしょうか?

仮にも大臣に任命された暁には、ロドスティンは、家臣の一人になるのでございましょう?

シニスタロキア伯も同様にすれば良い。

そもそもかつて我が国には、亡命していたヴァンツェル人貴族の末裔を、宰相として起用した事が歴史に記録してあります。

だとしたら同じ同盟国内の、貴族を登用しない理由は無いはず。

……ぜひ彼に会って、彼の人となりを確かめて貰えないでしょうか?

それから改めて、組閣の件を考えて貰いたい……』そのように私は申し上げた」


この話を聞いて、ヴィクタや自分、そしてルカスもあの日の事が大きな話になったと驚いた。

そんな若い僕らに目を向けるべアンハート様は、次に自分に目を向けた。


「そしてケーシー、昨日お前は警部に会い、スターハーヴェン内で麻薬が蔓延している、と報告したな」


昨日、夜が遅くなったが、マーアンと別れた後、自分は白銀宮殿に赴き、あの出来事を報告した。

マーアンと、それと(おぼ)しき事柄を除いて……


「はい、まだ確認はできていませんのが、警部とその情報提供者はその様に申していました」

「うむ、その事も含めて陛下に申し上げた。

すると陛下はその事を存じておられた。

そして、どのように対処をするべきなのか、悩んでおられていたのだ。

そしたらなんと、ピアケスコー伯爵が『大胆な人事も含めて、ご検討なされるのも良いかもしれません』と援護したのだ!」


これを聞いた瞬間、聞いた自分の背中が感動でブルッ!と震えた。

べアンハート様も、嬉しそうに微笑む。


「それを聞いて、その場にいた他の側近たちも『それは()い』と賛同した。

どうやら王党派貴族も、同じ問題を共有していたのだろう。

それを見て陛下は私にこう申した『では公爵に尋ねるが、同盟の仕事につかれている他の貴族もそれを望んでいるのですか?』とな。

そこでエルドマルク王国や、ナシュドミル王国に居る同盟議員の多くはそれを望んでいる事を伝えた。

もしお知りになりたいようなら、ハルアーナ王国の意見についてはこれから私が確認してくる、ともな。

聞いた陛下は『それなら(意見を)取りまとめて再度謁見をするように』と、私に直接仰せられた。

……忙しくなるな、これから」


そう言うと、彼は黙って嬉しそうにヴィクタの顔を見、そして身を乗り出すと彼の頭を撫でる。


『!』


こんなに分かりやすく親愛の情を、ヴィクタに示したのを見たのは初めてだったので驚く自分達。

そんな自分達に彼は身支度(みじたく)を整えながら言った。


「ヴィクタ……お前の気高(けだか)い精神が、私に新しい友人や、幸運を招いてくれた。

その……良くやった。

それだけだ……それだけを伝えに来た」


そう言うとべアンハート様は気恥ずかしそうに、いそいそと立ち上がり、側近を伴って出口に向かう。


「あの、お父様!」


ヴィクタが上ずった声で、父親を呼び止める。


「その……私はお父様のお役に立ったのでしょうか?」

「ああ……そうだ」

「それなら、僕も光栄に思います」

「うん……ふ、ふふ」


べアンハート様はこれまで見せたことも無い笑顔を浮かべると、言葉数少なくこの場を側近と共に出て行った。

たくさんの足音も又、彼について出て行く。

残されたヴィクタも、嬉しそうに微笑み、そして何故か笑いながら涙を零した。

喜びの涙だ……それを見て自分も嬉しくなって涙を流し、ルカスもまた涙を流す。

こうしてあの、フライア嬢の事件は意外な成果を我々にもたらした。


◇◇◇◇


―同日夕方


昨日終わった祭りの賑わいが少し残ったヴィスボー橋。

その上には、たくさんの露店が並ぶ。

そんな橋の上のマーケットに、自分とマーアンは昨日の約束通り、口紅を買いに来た。

そして、ついでに他の化粧品も買おうと、自分は提案した。


「これ下さい!」


嬉しそうなマーアンは、自分の隣ではしゃいだ声で口紅を買う。

そして、キラキラした目で自分を見上げると「本当に良いの?」と尋ねた。


「良いよ、昨日の約束だし。

それにアイシャドーも欲しかったんだろ?

今日は君の手柄だから……」


彼女の喜ぶ顔を見ると、胸が温かい。心臓が跳ねあがりそうだ。

そして、良くないかもしれないが、何でも買い与えたくなってくる。


「どれにしようかな?」

「これにしたら?真珠貝の成分が入っているんだって」


そう言って自分は、効能も聞かず、一番高いアイシャドーを指さした。


「ええっ!良いの?」

「良いよ、今日は特別だ」

「ヤッターッ、フライアに後で差し入れを贈らなきゃ」


喜ぶマーアンを見ると、ワクワクしてくる。

そんな彼女を連れ立って、買い物を終えた自分達は帰路に着いた。

雑踏の中マーアンは、昨日買ったと言う化粧箱を取り出すと、そこに買ったばかりの化粧品を入れる。

化粧箱は赤い花の模様が描かれていた。

それを自分に見せながら、彼女は自慢げに言う。


「良いでしょ、スクンヘン・グディニング商会の化粧箱。

きちんと本物だから、シリアルナンバーもあるんだよ」

「へぇ、それは高いの?」

「アハハハ、ケーシーおしゃれに興味ないんだ。

これね、結構高いんだよ」

「幾ら?」

「15000フローリン」


高っ!こんな小さな木の箱が15000?


「ビックリするよね。

偽物も多いから、本物はシリアルナンバーが必ず入っているんだよ」

「この、SG26789ってやつ?」

「ちょっと見ないでよぉ」

「ああゴメンゴメン」


謝ると、彼女はケラケラと笑い、そして自分に肩を寄せて歩き始めた。


「でも驚いた、まさかケーシーを学園追放から救うと、こんな感じでフライアがヴィクタ様たちの運命に絡んでくるんだね」

「うん?……もしかして未来が分かる的な奴?」

「そう……いつも見る夢の中だとね。

ケーシーが居なかったら、フライアは学校に行くのが怖くなって、女神の祭りの後、学校を辞めちゃうんだ。

彼女の為に誰も口を開かず、そして誰も彼女を助けなかった。

だから今回は助けたくてね。

無理をケーシーに言ったんだけど……まさかこうなるなんて」

「…………」

「これから先は、私の知らない未来だ。

今回どうなるんだろう?」


彼女が時折、未来について変な事を言うのは、これまで何回も聞いていた。

その度に不安を感じた。

そこで意を決して今、昨日の事も含めて、それとなく聞いてみる。


「あのさ、マーアン」

「うん?」

「自分はコーヒーが好きだろ?

つまりコーヒー中毒だって、何時も君は笑う」

「アハハハ、私が君にコーヒーを紹介したんだけどね!」

「うん、それでふと思ったんだけどさ。

マーアンも、自分にとってのコーヒーみたいな物が有るのかな?

実は……お酒が好きとか、変な薬が好きとか」


マーアンはそれを聞くと特に表情を変える事も無く、苦笑いを浮かべて「私お酒も薬もやらないよ?」と言った。


「何、君はこれまで私をそんな女だと思ったのか?」

「いや、そうじゃないけど」

「歯切れが悪いな、なんで私を疑ったの?」

「いや……疑ってない」


とっさに嘘をつく。

自分は「ただ聞きたかっただけだよ、別に他の理由は無い」と、更に嘘に嘘を重ねた。

彼女はそれを聞くと「それならいいけど……」と答えた。

そして自分達は肩を並べて雑踏を歩く。

言葉も無く、ただ歩くのは何か違和感と、焦燥を自分に与え続けた。

……耐えかねて口を開いてしまう。


「やけに詳しい夢だったからさ、幻覚剤か何か使ったのかな?って……思ったんだ。

自分達は魔法の薬も調合するだろ?

マーアンやけに詳しいから、それかな?って思った」


更に、嘘で塗り固めた言葉が口から零れる。

……いい気持ちはしない。

不味い事を言ったと、言葉を漏らした瞬間に分かった。

そして自分は、世界一の愚か者に、なりおおせる。

彼女はかすかに鼻で息を吐くと「失礼だよ……」と言って、再び黙った。

聞いたマーアンの気持ちがいい筈はないのだ。

それを示すように、その日マーアンは、もう口を開いてはくれなかった。


◇◇◇◇


その夜、今日の事を思い出すと自分は、つまらないことを言ったと、寝床で反省をしていた。

なんで自分はあんな馬鹿な事を言ってしまったのか?……と。

そして思う。最近、上手く行ってない。

自分と彼女は、心が掛け違っているようだ……


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