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君が心に住み着いた。

ゴリゴリゴリ、ゴリ……ゴリ


ミルの取っ手を回してコーヒー豆を砕き、砕いた豆をドリッパーに入れる。

そしてマーアンが出会って二日目には置いていった、ビーカーに水を入れて、アルコールランプで沸かした。

こうして出来たお湯をドリッパー内のコーヒー豆の粉末に注ぐと、たちまち泡立ち、独特の香りと、特有の不思議な音が鳴る。

こうして抽出されるコーヒーを飲んで、毎朝決まったように溜息を吐くと、いつもコーヒーの美味しさが鼻を抜けていった。


「……はぁ」


毎日の様に勝手にやってきては、此処でお茶を楽しんでいたマーアンが来なくなり3日目。

コーヒーの度に、今日も来なかったな……と思う。

この3日コーヒーを淹れた木のカップを、両手で包み込みながら、考えるのはマーアンの事ばかりだ。

そして戸棚に目を向けると『これ私の専用で良い?』と言って、彼女が勝手に強奪していった、茶色い陶器製のカップが、朝日の中で鈍く輝くのが見える。


「…………」


誰も訪ねて来ない、寂しい部屋の中で、自分はたまらなく孤独を感じ、そしてマーアン以外に友達をつくらなかった事を後悔する。

そう思った次の瞬間、じゃあ他の人が来て欲しいのか?と考えたら、違うな……と、思った。

クラスメートや、ルカスが来て飲んでいくことも考えてはみたが、それでは心に空いた空洞は埋まらない。

これまで出会った事も無いタイプで、出会うなりズケズケとこの部屋に踏み入れて来た、マーアンに来てほしかった。


「こんな事は、初めてだ……どうしたんだろう?」


胸の疼き、痛み、そして悲しみがその心の空洞から漏れていく。

涙が溢れて、そして自分が泣いている事に驚いた。

鼻をすすり、そして流れた涙を指で拭う。

どんな強敵と向き合っても恐怖は越えた自分だが、あの日以来、彼女に声を掛ける事を、自分は恐れていた。

教室で見かけた時、いつも傍に行って声を掛けようとするのだが、マーアンは振り向く事も微笑みかける事も無い。

……拒絶されているのが分かる。

母親とはまた違った拒絶だ。

まるで怒っているよう。あまりにも理不尽でこちらも腹が立つ。

……そして彼女の姿が見えないと、寂しくてそんな不愉快の対象を探し始めていた。

自分はどうしてしまったのだろう?

クラスメートの女の子達が、興味深げに自分とマーアンを見比べていく。

いつも控えめにチロ、チロ……と見ていく目線が痛い。


◇◇◇◇


―同日放課後、第6応接室。


「アハハハハ!ケーシー、それは絶対恋だよッ」


そんな自分の疑問をズバリと言ったのは、賢いヴィクタである。


「そうなんでしょうか?

もう、でも……こんな事初めてで」

「え、なに?君は初恋をしたのか!

そうかそうか、面白いなぁ」


苦しむ自分を見て面白いと楽しむあたり、コイツは絶対性格が悪い。

とは言え、自分のボスなので、目線をそらして不満を見せない様にしていると、珍しくルカスが調子に乗る。


「お前ウブだなぁ、アーッハッハッハッ!」

「はぁ……」

「お、怒ったのか?」

「ああ……」

「悪い事をしたな、だけどもなぁ……アーッハッハッ」


クソ、自分はこいつらのオモチャかよ。

何時もの第6応接室で、こいつらと話していると散々にからかわれる。

アルンスロット家に仕える、給仕さん達も自分をキラキラして目で見ているのが悲しい。


「僕らのケーシーが……恐怖のケーシーが恋に恐れているのは新鮮だよ」


そう言ってさらにからかうヴィクタ。

自分は「そうですか」と言いながら、相談を持ち掛けた事を悔いていた。


「お、今日は可愛くないな」

「…………」


思わず黙って口を尖らす、するとルカスが途端に不機嫌になっていくのが空気感で判る。

……思わず、自分は目から涙を流した。

そして外の風景に目線を向ける。


「泣くな、泣くなよケーシー‼

そんな事で傷ついたのか?」


ヴィクタはそんなルカスと、自分の事を目に収めながら、ニヤニヤと笑った。

その様子がまた、腹立たしいやら、悲しいやら……


「……真面目に相談したのに、なんでそんなにからかう」

「ああ、悪かった。

だけどもケーシーがそんな奴だったなんて、皆も意外だったからさ。そうだろ?」


そう言うとヴィクタは、ルカスにも、そして珍しく給仕にも自分の意見に同意を求めた。

すると皆が笑いながら頷く。


「君も、ケーシーのこんな姿が意外だろ?」


ヴィクタはそう言って、給仕の女性に同意を求めた。

すると、その子は「でも、とても素敵だと思います!」と楽しげに言う。


「ふふ、女性はこういうのが好きなのか……」

「いや……うーん、私は好きです!

戦うときの男らしさから、想像もできないのが、良いギャップです」

「なるほど、確かに戦っている時のケーシーとは想像もできないな」

「素敵だと思います」

「素敵だって、2回も言われちゃったよケーシー。良かったね、おめでとう」


おめでたくは無いだろう、そう思った自分は「自分は真面目に悩んでるのに……」と、その胸の痛みを吐きだした。

すると、さすがにこれ以上からかうのはまずいと思ったのか、道楽貴族二人は目を合わせて、まじめな口調で言った。


「ケーシー悪かったよ、今回君は本気であのマーアンって子が好きなんだな?」

「ヴィクタ様も悪気があったわけじゃない。

な?」


その軽い感じがさらに心をささくれ立たせ、黙ったまま涙がさらに一つ二つと頬を伝う。

するとヴィクタが「これは重傷だ」と言って、次にルカスが口を開いた。


「分かったよ、俺達が助けてやるよ」


こいつ等が自分を助けると言った時は、常にオチが付く様な手段で助けるので、警戒を露にする。


「そんな目で見るなよ、俺とヴィクタ様でお前に色々してやっただろ?

それで実際に助けられてきたじゃないか」

「確かにそうだけど……

そんな事一言も言ってないのに、アルバルヴェ人にさせられたり、暴れ馬に乗せられたり……

いや、まぁ感謝してますよ、二人には。

……結果だけを見たら」


途中経過を良くしてくれたら、もっと良かったのに。

そうしてくれたら今日(こんにち)、自分はどれだけ二人に感謝しているやら……

とにかくこの二人組の悪貴族は、褒めるところが多いが、その反面……悪いのである。

かつて二人が同世代の武官候補を欲しがっていたのは、イタズラに巻き込める家臣が欲しかったからだ。

年が離れていたり、べアンハート様に仕えている武官候補なら、こういう扱いはしない。

まぁ、だから自分は公爵家に仕官できたのだから、税金の様に諦めるしかない。

未来を望み、そして生活が出来るのは二人のおかげだ。

そう思っているとルカスが、言葉を続ける。


「実はケーシー、俺は君に言ってなかった事があってな」

「……ああ」


はて、マーアンに関係する事なんだろうか?


「この前ケーシーが連れて来た、ピアケスコー家の女の子覚えているか?

ヴィクタ様に庇護を求めてきた子だ」

「確かフライアだっけ?」

「ああ、実はあの子と付き合う事にしたんだ」

『!』


驚く自分と、ヴィクタ。


「ちょっと待ってよ、それは僕も聞いて無いぞ!」


ヴィクタがそう言うとルカスは「すみません、昨日デートの約束をしたので」と釈明した。


「どう言う事だよ……」


そんなヴィクタの言葉に、ルカスが威厳に満ちた表情で言った。


「あの後、図書室を利用するのが怖いと彼女が言ったので、それなら自分と一緒に図書室を利用しようと提案したんです。

またアイツ等が彼女にちょっかいを出さないとも限らないですから。

それで、図書室で彼女と芸術論を話し合ったら、同じ作品が好きだったのですね。

それでもう少し話そうと提案したら、ケーシーがマーアンと行った喫茶店の話になり、それでコーヒーを体験する事にしました」


それって、付き合ったという事なのか?

そう言う疑問は浮かぶが、自信に満ちた表情で『眼鏡を取ったら、美しい顔をしていたので流石ピアケスコー家の女性だ』と言うルカスに、それを言える筈も無い。

それならば……と思い。自分もマーアンと付き合っているのだろうか?と、女友達の日常を思い返した。

……何か違う気がする。


「そうか、僕は妃候補の子が居るから、自由に振る舞えない……残念だ」


ヴィクタはそう言って溜息を吐いた。


「僕の恋は家の事情が絡んでくるのさ」

「隠れて遊ぶ貴族も多いのに、立派です」


そう言っておだてる自分にヴィクタは、一瞬鋭い目線を投げ、その強さにびっくりする。


「ケーシー、僕は立派な人間じゃないよ。

君も良く知る様にね……」


ここで“そうですね”と、言えないのが家臣の辛い所だ。

そこで愛想笑いを浮かべた後「ご用命があれば、奉仕いたします」と、答えるにとどめる。

……つまり将来、浮気の手伝いをするという事だ。

ヴィクタは何度か頷くと「何を手伝うと言うのやら……」と呟く。


「いや、将来遊びたいと言うなら、その時は……」


そうハッキリ言うとヴィクタは悪い笑みを浮かべて「バカだなぁ」と……

そう来たか。それなら、おだてに素直に乗って欲しかったよ、ボス。

そんなヴィクタはルカスに「それで、これがケーシーとどんな関係があるんだ?」と尋ねた。


「ええ、そこで自分の方からフライアに言って、マーアンにどうしてケーシーを避けるのか聞いてみましょう。

二人は親戚で、しかも仲が良い友人ですから、きっと教えてくれると思います」

「なるほど、それを抑えてから作戦を立てた方が良いという訳だね」

「そう言う事です」


悩むしか能がなかった自分では思いもつかない、アイデアだ。これは良い気がする。


「それじゃあ、ケーシー。

これで一旦話を進めて良いか?」

「はい、ヴィクタ様。

是非ともよろしくお願いいたします」


するとヴィクタは立ち上がり「それじゃあ早速フライアの所に行こう、僕は待つのが嫌いなんだ」と言った。

こうして二人はこの第6応接室を出て行く。

相談してよかった、闇の中から一筋の光が見えた様だ。

そう思って思わず笑みを浮かべてソファの背もたれに深く沈みこむと、ヴィクタの声で歌が聞こえた。


「♪きーみがスキィ―、きーみをースキィ―……

アーッハッハッハッ!」


聞いた瞬間、恥ずかしさで悶絶する。

そして思った、やはりこいつ等に相談したのは間違いだったと……


◇◇◇◇


放課後も何事もなく終わり、アルンスロット公爵家の豪邸である、白銀宮殿(スールヴパレズ)で訓練と倉庫管理の仕事をしてから帰宅した。

今日は、他に行く場所がないので、此処に逃げ込んだ格好だが、それでも一時マーアンの事を忘れて忙しく過ごす。

寄宿舎に帰れたのは、夜になるかならないか……と言った時間だった。

冬も近いのかこの時間はめっぽう冷える。


「うう……寒い」


寒い地方に生まれ育ったからなのか、自分は寒くなり始めたら、エルドマルク人よりも寒く感じる。

エルドマルクは、ナシュドミルよりもはるかに温かい国なのだが、だからなのかこの国の連中は自分の寒さ嫌いを、良く笑いものにする。

ここよりも寒い国で、本当に過ごしていたのか?……と。

連中は、自分達ナシュドミル人が持ってる寒さへの恐れが分からないのだ。

焚火を燃やしながら、身を切るような寒い風の中、ソリの上で寝なければこの気持ちは分からない。


「駄目だ。入ったらコーヒーにしよう」


寒いせいか、もうコーヒーの事しか考えられなくなった自分は急ぎ部屋の中に入る。


「ああ、コーヒー、コーヒーコーヒー、コ……」


入った瞬間、言葉を失う。

何故なら暗い室内のテーブルの椅子に腰掛け、マーアンが睨むような目でこちらを見ていたからだ。


「ま、マーアン……」

「マーアンじゃないよ。

ヴィクタ様からケーシーが泣いていたと聞いたから来たのに、コーヒーコーヒー……って。

私、絶対今日のこと忘れないから」


なんという間の悪さだ……


「いや、今日すっごい寒いから、耐えきれなくてさ」

「ナシュドミルはもっと寒いよね?

それに別にこんなの寒いうちに入らないよ、来月はもっと寒くなるんだから」

「もっと寒いとか、寒くないとかそう言うモンじゃないんだって!寒いのは辛いんだ」


自分がそう弁明すると、彼女は呆れたように溜息を吐く。

……なんでこんなに彼女は不機嫌なのか?


「じゃあ、コーヒー淹れなよ」


不機嫌そうにコーヒーミルを指さすマーアン。

自分も黙ってコーヒーミルに、コーヒー豆を入れる。

一瞬二人分作るんだろうか?と思ったが、話しかけずらいマーアンに『飲むだろ?』と尋ねてよいのか分からない。

……そこで勝手に二人分、豆を挽く事にした。

この判断は“当たり”だったようで、マーアンは「コーヒーだけは上手いよね」と、相変わらず当たりの強い事を言って、コーヒーを飲む。

「うん、コーヒーだけはお金を掛けてるからね」

そう言って当たり障りのない相槌を打つ自分。


「…………」

「…………」


ついこの前まで、あんなに話が弾んでいた相手なのに、沈黙が重く漂う。

何とかしなければと思って、学校の事とか、今日何をしていたのか?とか、当たり障りのない話題を振る。

……全部、ブツブツと切れた話となり、盛り上がる事も、沈黙の解消にもならなかった。


「……はぁ」


そして溜息を吐かれた時、どうして自分はこの女にこれほど気を使わなければならないのか?と、逆に怒りを覚える。

だったら聞きずらかった話題に踏み込んでやる!


「マーアン」


なんでそんなに、お前は不機嫌なんだよ!と言おうと思ったその瞬間、悪い予感がした。


「なんで、あの日自分から逃げ出したんだ?」


そこで質問内容を瞬時に変える。


「…………」


マーアンは、そんな自分の目を今日初めて直視した。


「あれから自分、君の事が気になって仕方がないんだ。

理由を教えてくれないか?」

「それだけ?」


それだけ……なんだろ、ガツンと来る一言だ。

胸の内を見透かされている様に感じる。


ヴィクタの言葉が頭を過ぎる“それは恋だよ”と。

頭が痺れ、思考能力が低下した。

何時もの冷静さは消え失せ、知らず知らずの内に追い詰められていく。

自分は白旗を上げるように「君は特別なんだ、すごく気になる、お父様が死んだとか、色々聞いたし」と、たどたどしく告げた。

すると彼女は、何かが氷解したような表情を浮かべ、そして知らず知らずに上がっていた肩を下に降ろす。

そして口を開いてこう言った。


「私も君の事が気になるよ、だって私達は親友なんだから?」

「…………」


あ、うん。友達?あ、うん……


「他に今、気になる人がいるんだ?」


聞くのが怖い事をぽろっと尋ねると、彼女は「今?居ないよ。親戚以外ではケーシーが一番仲が良いから」と……


どう言う事ですか?

あれ、それとなくかもしれないけど、自分は確かに君が特別だって言ったよね?

ハッキリ言ってないかもしれないけど、分かったよね?

て、言うか。あの謎が全てわかった的な表情とか、緊張が解けたらしい肩の落ち方とかは何だったんだ?

あれ、自分の気持ちは分かったからそうしたんじゃないの?

他に好きな人もいないって言ってるけど、本当はどうなの?

混乱する自分の様子は、かなり滑稽だったらしく、彼女は自分が優位に立ったと感じたのか自信に満ちた表情で笑う。


「…………」


自分は今、どんな表情で彼女の顔を見ているんだろう……

濡れそぼる、子犬のような目をしているのではなかろうか?

と、言うか、完全に負け犬にまで、身を落とした気がしてしょうがない。

そう思っていると、マーアンは「やっぱりケーシーは面白いよね」と、お褒めの言葉を自分に授け……

この女、勝った気でいる?


「……そうかなぁ」


ソレに屈して、しょうも無い相槌を打った自分……

ケーシー・トールスカン。どうした?

お前は17歳で何十人も斬った、若い従士待遇の武官の中では、それなりに名前の知られた剣士だっただろう?

どうして、この女の前でこんなに弱弱しい男でいるんだ!

奮い立て、ケーシーッ!


「……あのさぁ」

「なに?」


何か企んだかのように、子リスみたいな目をくりくり動かして、微笑んで見つめるマーアンと目が合った。


「……いや、お父さんの事聞いても良い?」


この瞬間、もっと気の利いた事を言えない自分に、失望した。

彼女の目からも笑みが消える。

すると彼女は「また今度、話そう。今日はごちそうさま」と言って立ち上がった。


「まだ、終わらせてない宿題があるんだ、ケーシーは終わった?」


ここから急ぎ立ち去る為の、理由付けらしき一言がこの場に残る。

それを聞きながら自分は、腑抜けた様に「え、ああ……あの採取の準備レポートならもう書き上げたよ」と答えた。


「そうなんだ、明日ソレ見せて貰ってもいい?参考にしたいから」

「うん、明日用意してる……送ろうか?」

「いや、悪いから明日来るよ。

持つべきものは友達だよね」


そう言うとマーアンはこの部屋を出て行った。

マーアンが居なくなった部屋で自分は、仲直りしたんだろうか?と、ひたすら考える。


◇◇◇◇


―その夜。


「アハハ、もっとぉ、もっとぉー」


自分の右手を掴む、可愛い男の子が自分に笑いかけていた。


「よーし、それ!」


自分は不思議な場所に居て、その子が望むままにその手を引っ張って宙に浮かせた。

ナシュドミルの様に幾つもの入り江が連なった美しくしい入り江の村、そしてその村にある、エルドマルクの様に色とりどりの花が咲き乱れる丘の上……

子供は「お父様、もっと、もっとぉ―」と言って自分に宙に浮く刺激を求めた。


……なんて可愛いのだろう。

自分にこんな宝物が授かるだなんて……


村は、自分の領地だった。

ヴィクタから貰った騎士爵と、馬を養うための領地だ。

そんな自分の子供の左手を自分は掴んでいるのだが、その子の右手は別の手が掴んでいる。

子供は自分の右手を掴む、女性を見上げて言った。


「お母さまも手を引っ張って!」


するとマーアンが嬉しそうに笑って、子供の手を引っ張った。

自分とマーアンが子供の望むままに手を引き、そして宙にその子の足を浮かせる。

無邪気に笑うその子を見て、自分とは違う人生を、この子には歩いて欲しいと思っていた。


◇◇◇◇


「…………」


朝、目が覚めると、自分は今しがた見ていたものが、夢なのだ知った。

……なんという夢を見たのか。


「…………」


幸福だった……すごく、幸福な気持ちが胸に満ちていた。

目覚めるのが惜しい夢。

自分の子供の頃、本当は母親から貰いたかった愛を自分が与える夢。

代わりにエラーコンが自分に授けようとしてくれ、そして実際に遊んでくれた思い出が蘇る。

……深い溜息を零した。


「マーアンと、連れ添う人生……かぁ」


彼女がそれを喜ぶとは限らないが、きっと自分は幸せになれるだろう。

彼女なら、自分をあの冷酷だった母親のような目で、見ないだろう。

そんな人と、人生を歩めたら……


「…………」


出会って、2週間ぐらいが経ち、自分の心が変わり始める。

それが自分を追い込む、きっかけとなるとは知らずに……


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