始業式後HR ―だから言ったじゃん、一人増えるって―
書ける時に書く。
そして慎太郎のハーレムに加わるであろう人間が一人増えました。そうは書いても終わりを考えていないので何とも言えませんが。
あと前の話で校舎と体育館の位置関係を間違えて書いていたり、前園美也の前園をひらがなにした上でルビ打っていたようなので、何度か修正、更新していました。すみません。
修正に伴う更新は今後も細かに入っていく可能性があるので、ご了承下さい。
【追記】
重ねてすみません、ブックマークありがとうございます。本来遅く言うものでは無いのに申し訳ない…。
新任教師の登場による1-Bの男子を中心とした興奮と、1-B以外の男子が抱く悔しさを残したまま入学式が終わる。
教室に戻って始業式前にいた席にまた座って暫く慎太郎と話をしたり美也の視線をスルーしていると、教室の前の引き戸が開き、担任でもある如月セーラが入ってくる。
「皆さん、入学おめでとう。改めまして、今年このクラスの担任になる如月セーラです。よろしくね」
入学式という場所を弁えていたのか、教室での第一声は少し砕けた話し方をしていた。
「せんせぇー! 日本語上手なんですね!」
「先生は何の教科担当なんですか? オレ真面目に出るから教えて!」
「好きな人いますか?」
近寄りやすそうな雰囲気と大人の中に可愛さを感じさせる笑顔を合図に、男子生徒から質問の嵐が飛び交う。女子達はそんな男子を冷ややかな目で見るが、当人達は気にも止めていない。いや、気付いていないだけか。
セーラ先生はロシアで生まれ、高校生の時に日本人でもある父親の仕事の都合で日本にやって来たらしい。
ロシアにいた時から父親から日本語を学んでいたのもあって、こちらへ溶け込むのも早かったそうだ。
担当は英語を教えてくれるらしく、好きな人は今はいない。
そう、今はいないのだ。
「…やっぱり立ったかー…」
ハーレムの一員になるフラグが立ってしまっている。小さな声で呟いたが、当然誰も返してこない。
そうなると間違い無く、慎太郎と先生を繋ぐ何かが発生するはずだ…。やっぱりクラス委員か。日直だと大体が入れ替わりだから繋がりが薄いし…。
「それじゃあ、出席番号順に名前を言っていくから返事と自己紹介をお願いするわね? えっと出席番号1番は…アイザワ、マサヤ…君? で良いのかしら? お願いね」
「あ」
ハーレム対策を気にするあまり自己紹介とかすっかり忘れていたな…。というより何も考えていないな、どうしようか。
まあ、何とかなるか。頭を掻きながら立ち上がって自己紹介を始める。
「えっと…藍沢雅也です。鏑木中学校から来ました…。この流れだと趣味かな…」
質問のつもりでは無かったが、セーラ先生はウンウンと頷く。
「趣味は色々かな…読書もすれば映画も観るし音楽も聴く。外で体を動かしたり休みの日に走ったりもすればゲームもやるし漫画も読みます。昔からまあ大体のことは出来るかな。器用貧乏とも言うけど。まあゆっくりしたいのが一番強いので、どうぞよろしく」
そう言って席に着くとお決まりのように拍手が起き、一部からは小さな笑いが起きる。まあ出だしは悪くないか。
同じ様に出席番号順に名前を呼ばれた奴の自己紹介が進む。美也は思った通りの受け答えで、男子から熱い視線を受けていた。
女子はそれぞれの視線に好き嫌いがはっきりと分かれている。まあ美也なら上手くやれるだろう。あれで結構神経が図太い。
「それじゃあ最後に…ムカイ、シンタロウ君? 読みはこれで良いかな? お願いね」
「ああーどうしよう、何も考えてないな」
俺と同じように頭を掻いてから立ち上がって自己紹介を始める慎太郎。割と緊張しいだから大丈夫だろうか。
「ええっとー…、初めヴァッ!」
変な声を上げて口を押える。緊張して舌噛んだな。
「ちょっと、大丈夫? 向井君」
心配になったのかセーラ先生が慎太郎に近寄って来たと思うと両手で慎太郎の頬を押さえて自分の顔の目の前に持ってくる。
「ちょっと見せてみて? ホラ、舌出して? エーッて…」
そう言ってセーラ先生は自分の舌を出す。男子からはより一層大きな歓喜の声が聞こえ、女子は顔を赤くしたり、恥ずかしがるような声を上げていた。
「あ…あろ…へんへぇ…かお…ひかいれふ…」
先生顔近いです、と言っているのだろう。それを聞いてハッとしたセーラ先生は両手を突き出すようにして慎太郎と顔の距離を離した。
「うわっちょっ!」
思った以上に突き放してしまったようで、いきなり後ろに押される形になった慎太郎はバランスを崩して椅子ごと倒れる。
大きな音を立てて倒れた慎太郎に驚いたセーラ先生は「ごめんなさい!」と謝ってから慎太郎に近づく。
「大丈夫!? 頭打ってない? 怪我してない?」
そう言って立ち膝になってから慎太郎の上半身を起こすと、頭にコブが出来ていないかを確認している。パッと見頭を撫でているようにも見える。男子の視線が慎太郎に対して嫉妬を帯びているのが分かる。
あと、頭のコブを探る流れで顔の向きを変えたりしていると、慎太郎の顔が時々先生の大きな胸に当たっているのが分かった。
二人の体の向きから俺はその様子が見えたが、俺の近くに座っていた一部の男子からは「クゥー…」と悔しそうな声が漏れていた。どうやら彼にも見えていたらしい。
だが先生は一生懸命に生徒を心配していただけなので、あまりどうこう言える訳もなく、その怨嗟の声を上げるだけに留まった。
「せ、先生…もう、大丈夫ですから…」
「そう? 何かあったらすぐに言ってね? 保健室に連れて行くから」
慎太郎に特に問題が無いことにホッとし、先生は立ち上がり黒板の前に戻った。
慎太郎もすぐに席に座ったが、両手で顔を覆っていた。周囲の男子からと美也から発せられる負の感情の視線を受けていることなど、知る由も無い。
「えっと…次は…」
「へんへぇー! おへもひはかんが!」
「おへも! いはい、ふんげぇいはい!」
俺も舌噛んだ。俺も、痛い、すんげぇ痛い。と言っているらしい。自分達も診てもらおうとわざと噛んだ訳だ。高校初日からよくやるなこいつら。
だがそれを皮切りに何人もの男子が合唱のように舌を噛んで痛いと訴える。初日から女子がドン引きしているが、それもお構い無しだ。
先生がどうしましょうと困った顔をしていると、女子の一人が立ち上がる。
「先生、先に進めてもらって大丈夫です! みんな先生に診てもらいたいだけですから!」
怒気を孕んだ声で進行を促した。
「…そう? みんなごめんなさいね。あんまり痛むようだったら保健室に行ってね?」
と、先に進めることを選んだ。それを合図に舌を痛めていたはずの男子が痛みを訴える声に変わり文句と舌打ちを発した。演技をするならもっとちゃんとやれ。
それに対して進行を促した女子は「フン」と正面を見据えていた。お陰で話が進む。
「さて、と…向井君はもう自己紹介の必要は無いわね。先生覚えちゃった。ありがとう」
「ど、どういたひまひて…」
にこやかに笑う先生にまだ痛みが取れていない慎太郎が言葉足らずな返しをする。
「それじゃあ、色々とお手伝いをしてもらうことになるクラス委員を決めましょうか」
「む…胸が…」
そう呟いて胸が当たったであろう右の頬を撫でている慎太郎。
「…………」
ここかぁぁぁぁ…。
クラス委員とかは予想していたが、まさか自己紹介の段階で早速来たかぁ…。
慎太郎は、ラノベとかで言う「ラッキースケベ」がよく起きる。そしてそれを始まりとして女子と関わることも多い。
これも一応は気にしてはいたが、まさかこんなに早いかぁ…。
初日からこれか…。この流れだと、明日辺りに転校生とかありそうなんだよな…。
こうして、一人の男子が痛みと幸せを得、多くの男子が女子からの不信感を買い、そして一人の男子…つまり俺がひどく狼狽してHRは終了した。
ああ、因みにクラス委員はくじ引きの結果予想通り慎太郎になった。