11-2 叶えてよ。
「エディーさん。今からすごーく失礼な質問をしてもいいですか?」
さて、どうやって話を切り出そう。
エディーが噂通りの女たらしかどうかを確認するには…って、いろいろ考えたけど思い浮かばなかった。ここはもう単刀直入に聞いてみることにする。
「いいけど、何?」
紅茶を飲んでいたエディーが頷いたのを確認してから、私はさっそく質問をしてみる。
「エディーさんって女たらしなんですよね?」
「―――ヴフッ!!」
やっぱりストレートに聞き過ぎてしまったかもしれない。エディーは飲んでいた紅茶を吹き出してしまった。
「ま、待ってよアンナちゃん。俺が女たらし?」
手の甲で口元を拭きながら、エディーは驚いたように目を丸くしている。
「すみません。いきなりこんなこと言って。でも、エディーさんのあまりよくない噂を耳にしたので気になってしまって」
「噂?俺の?」
「はい…。エディーさんが女の人を次から次へと変えて遊んでいるって」
「俺が?」
「はい」
「………」
するとエディーはしばらく黙り込んでしまい、やがて大きく息を吐いてから口を開いた。
「アンナちゃんさぁ、さっきまでの俺の話聞いてた?」
「話…?」
「俺が好きなのはアンナちゃんだけ。例えばもし仮に俺が女たらしだとして、女には不自由していないとする。だったらなにも同じ団の団長の彼女のことなんて好きにならないし、好きになっても告白なんてしないって」
そう告げるエディーの瞳は真っ直ぐに私のことを見つめていて、嘘をついているようには見えなかった。
「ということはエディーさんは女たらしではないんですか?」
「当たり前」
やっぱりそうか。私の勘は当たっていた。やっぱりエディーはそんな人じゃなかった。でもだとしたら…
「キャリーの言っていたことは間違いってことかぁ」
うっかり小さな声でそう呟いてしまった私の言葉をエディーは聞き流しはしなかった。
「ねぇ、今キャリーって言った?」
「え?…あ、はい」
「もしかしてその噂ってキャリーから聞いた?」
真実なので私はゆっくりと頷く。
するとエディーは頭を抱え「やっぱりあいつかぁ~」と小さく叫んだ。それから顔を上げて私を見る。
「アンナちゃん。もしかしてキャリーに俺から告白されたこと話した?」
「いいえ。そのことは話してません。けど、会話の流れでエディーさんの話題になってそのときにその噂を聞きました」
「なるほどねぇ…」
そこまで聞いたエディーは、うんうんと何度か頷いて見せる。
「アンナちゃん、見事にキャリーに騙されたね」
「騙された?」
「二人の会話の中に俺の話題が出たんでしょ?どんな話をしていたのか分からないけど、たぶんそのときにアンナちゃんの口から俺の名前が出たから、キャリーはきっとそんな嘘を言ったんだろうな」
「私の口から?」
どうして私の口からエディーの名前が出たからって、キャリーはエディーのことを【女たらし】だと嘘をついたのだろう。よく分からないで首を傾げると、エディーが教えてくれた。
「キャリーは俺が好きなんだよ」
「え?………えぇぇ!!!」
「意外って顔してる」
「はい。だって…」
今朝のことを思い出す。
ノックもしないで部屋に入ってきたエディーのことをキャリーはすごく嫌がっているように見えた。それに、エディーのことは大嫌いだと言ったのに。まさかキャリーがエディーのことを好きだなんて。
でも、待てよ。そういえばゲームでヒロインとキャリーが恋話をするエピーソードがあった気がする。ヒロインがいつものようにキャリーにオリバーとのことを相談すると、その日はキャリーもまた自分の恋愛を語るのだ。
思い出した!
たしかそのときにキャリーは、自分にも好きな人がいると言っていた。それが誰なのかは教えてくれないのだけれど、その人は兄である【オリバーの近くにいる人】で【好きなのに反対の態度をとってしまう】と言っていたような気がする。となると、エディーはそれにあてはまる。
キャリーの好きな人はエディーだったのか。……でも、だったらどうして好きな人のことを女たらしなんて言って嘘をつくのだろう。
「キャリーは、俺がアンナちゃんのことを好きなことを知っているんだ。キャリーに言ったつもりないのに気付かれちゃって。で、アンナちゃんの口から俺の名前が出たから焦ったんじゃないかな。だから、俺のイメージを悪くして俺をアンナちゃんに取られないようにした。しっかりしているように見えて、あいつもまだまだ15歳のガキだからなぁ」
なるほど、そういうことか。あのとき、私がエディーのことをもっと知りたいと言ったときのキャリーの反応は、今から思えば少しおかしかったように思う。
エディーは絶対にダメだと何回も言っていたっけ。そのダメの意味は、エディーのことを取らないで、という意味だったのかもしれない。そう思ったら、キャリーのことがなんだかすごく可愛らしく思えてしまった。
「キャリーの恋、叶えてあげないんですか?」
キャリーの気持ちを知った私は、エディーと幸せになってほしいなと純粋に思った。それにキャリーの気持ちを知っているエディーにはそれに応えてあげてほしいと思う。そう思ってたずねてみればエディーが小さく息を吐いた。
「アンナちゃん、やっぱり俺の話聞いてなかったでしょ?」
「え?」
「俺が好きなのはアンナちゃんなんだって!今朝の告白ももう忘れる気?」
「…………」
そうだった。この人は私のことが好きなんだ。
ということはこれはつまり三角関係というものになってしまう。キャリーはエディーのことが好きで、エディーは私のことが好き。でも、私はエディーのことをたぶん好きじゃない。私が好きなのはオリバーだから。そうなるとこれは四角関係?うーん、ややこしい……。
「まぁでも俺の恋も叶わないんだろうけどさ」
そう呟いたエディーはマグカップを手に持つと、残りの紅茶を一気に飲み干した。
「ごちそうさま」
エディーが席を立ち玄関へと向かって歩いていく。どうやら帰るらしい。その背中を追いかけ玄関で見送る。扉を開けたエディーが帰り際にもう一度だけ私を振り返った。
「アンナちゃんは俺の恋、叶えてくれる?」
「え…?」
どう返せばいいのか迷っていると「冗談だよ」とエディーが小さく笑った。




