ゆるか☆スピードスター その①
小さいちょっとした冒険。。。のハズが、全く違う方向に話は展開します!
ノキがキスしてた。
ノキがキスしてたんだ。
この屋上で。昼休み。ノキが鍵を開けてくれた扉。ワタシは何も考えず、とことこあの場所に向かい、鍵が開いてたから、そのままドアを開けたんだ。
ノキがいると思って。
ノキは居た。
けど、知らないノキがそこに居たんだ。ワタシの知らないノキ。見慣れたノキのいつもの背中は知らない女の子を抱きしめていたんだ。
女の子は少し背伸びして、顔をノキに近づけていた。
ノキの背中。間違える筈が無い。間違えられる筈がない。
ワタシはゆっくりドアを閉めた。ノキは向こう向いてた。このまま閉めれば気づかれない…、と思う。たぶん。
心臓が動物みたいに動く。ワタシの "落ち着け" という命令を無視して。
意思を持つ別の生き物みたいに。ドンドンドンッと下から突き上げるように心臓が鳴る。そして不安という紫色な感情が、足元から脳の裏側に向かってせり上がってくる。
不安、漠然とした不安。
心臓が胸を破りそうなぐらいドクドクと動く。動く。止まらない。止めようとしてるのに。足が震えてる。震えてる。何故??足の裏から地面の感触が消える。空洞の上に浮いてるような感覚が不安を強くする。体の芯が抜ける。力が抜ける。だけど頭の中だけは鮮明に何かを明確にしようと、活動をしている。
落ち着け、とりあえず落ち着け…。。。ワタシは閉めたドアを背にし、少し考える。
そもそも状況が理解出来ない。
あの背中は間違いなくノキだ。ノキの背中だ。そのノキが何故屋上で他のコとキスする?
ワタシが来るって考えもしなかったのか?何故わざわざあの場所でする?あの場所はワタシとノキの秘密の場所じゃないのか?
それなのに何故?
どうして?
ノキはバカだけど、それほどにバカなのか?それよりもなによりも、ノキに唇を許す他の女子が居たってことか?ワタシの知らないところでノキを好きなコなんて居たってことか?
ワタシの知らない時に、
ワタシの知らない間に、
なのにノキは、今まで通り、普通にワタシに、何も変わらずに接し、普通に喋って、牛乳もらって。。。
ノキはそうだったんだ。
ノキの気持ちは全く別のところにあったんだ。
そして今ここの扉の向こう側で、その気持ちを明確に示しているんだ。。。
扉の向こうでガタッと音がしたから、ワタシは逃げるようにその場所を離れた。そのコやノキに向かって何なの!という程、ワタシに度胸は無い。
そもそもそんな関係じゃない。そんな立場じゃない。
それがノキの幸せにつながるのなら、笑って祝福してあげるべきだ。
「よかったね、彼女ができて」って。
ぶわっ、涙がこぼれた。
この目の前にある事実は、中学生のワタシにはあまりにも重すぎた。あまりにも残酷過ぎた。
階段を降りる途中、ワタシはれんげ達のいる教室に戻る前に、なんとか泣き止まなきゃと思った。そればっかり考えてた。
校庭に出て、脇にある水道で顔を洗った。目を冷やさなきゃ。そして普通の顔して教室に戻らなきゃ。そして普通の顔して授業受けなきゃ。。。
教室に戻った。
「タムどーしたっ?髪濡れてっぞ!」とれんげ。
「いやいや、暑かったからサw」と言うとれんげは不思議な顔を見せた。
授業が始まる。普通にしなきゃ。普段通りにしなきゃ。
そしてノキにも。。。普段通りに笑って応えてやらなきゃ。。。
(続きます!)