ノキと遊園地 その⑥
とりあえずノキとタムは結果として遊園地に行きます。タムは嫌々なんですがw
未央と七尾君の二人が戻ってきた。
二人が戻ってきたら、ノキはまたいつものノキに戻った。そして、お化け屋敷とか、ミラーハウスとか、フライングパイレーツとか。お化け屋敷ではノキ、ほんっっ気で怖がっていた。あいつお化け屋敷だけは昔から苦手なんだよなぁ…。"暗闇" と"突然飛び出してくるもの" に滅法弱いノキ。
つまり怖がりなんだ!
未央の横でひぃぃぃぃ・・・・・・・っ!とか、うへぇぇぇっぇぇぇっ!とか本気で怯えまくってて。いやいやイカンだろ、男としてソレは…w
その後しばらくして、「用事あるから先帰るね。」と言って未央は先に帰る事になってしまった。
へ?もう帰るの?日はまだ傾いてもいないのに!
ノキの現実に引いた???いやいや、そういうコでもないよーな気がするし。なんかホントに用事があるみたい。「ごめんねー」「大田くんもまたね!」と言って、遊園地を後にしていった。
しかもそのちょっとあと、七尾君までも「オレも用事が…」とか言って!
私今日、まだあんまり七尾君と話してない!こんなチャンス滅多に無かったのに!!!まぁ、話すチャンスはいっぱいあったハズなんだけどね。話が続かなかっただけで。。
久しぶりに来た遊園地。懐かしい場所。私としてはもう少しここにいたかった。だけど、まぁ二人が帰るんなら、帰るしかないね。また来ればいいか。
ただ、誰と来ればいいんだ?この微妙な年齢で家族で来るのもヘンな感じするし。あ、れんげとかと来ればいいのか。
ただ、出来れば・・というか、本音だけど、私はここにはノキと来たいと思った。思ってしまった。思い出を共有出来る人、嬉しさを共有出来る人、この場所では今のところ、私にはノキしかいない。いないんだ。
その時ノキが「あー、わりぃ、オレもー少しここにいるわ」と言った。
え…
正直なところ、、ちょっと嬉しいんスけど…。。
「オレ今日、カギ持ってなくてサ、親が帰る夜中まで家入れないんだw」とノキ。
ちょっと嬉しい。実はすごく嬉しい。理由は何にせよ。
とりあえず自分は、まぁ、さすがにノキを一人にするのもかわいそうだからって理由がついたので、ここに残る事にした。口実が出来た。
七尾君は「じゃ、またね。」と言って、小走りに出口へ向かって行った。
七尾君が去ってゆく…。。いろんな意味で・・w
まぁ、正直七尾君に対しては、ワタシがどんなにがんばったって、ダメだっただろうけどね。
そしてこれも正直な気持ちだけど・・、
七尾くん、ちょっっ・・とイメージと違ってたんだよね。。なんかあんまり面白くないとゆーか、一緒に居て落ち着けないとゆーか。。
勝手に落ち着かなかったのは自分かもしれないけど。
普段ノキみたいなバカ面に慣れてるから、美形は見てて緊張してしまうのかなぁ…w
つか、ノキ!カギ忘れたって、ノキの親って帰るのいつも夜中じゃん!どーすんだよ!
「カギなら持ってるよ」とノキ。
へ?
どういう事???
- - -
「残る理由をつけたかっただけでサ。」とノキ。
もしワタシも帰るって言ったらどうするつもりだったんだノキ?
「タムも残りたかっただろ?」とノキ。
あたり。間違ってない。
とりあえず何か食おうぜ!って事で、ノキとワタシは売店に向かった。
ノキはバカだから何食っても美味いと思うタイプ。
好物はドンタコス。「アレは宇宙人からの贈り物だ」とワケの分からない事をいつも言ってる。(こんな美味いもの地球人が開発出来るハズが無く、宇宙人が密かに開発したものに違いないとゆーのが、ノキの持論)
ノキはラーメンを注文。こういう売店で売ってるよーなラーメンの安っぽい味がたまらなく好きみたいで、幸せそーに箸を運んでいた。
ああ、麺がみるみるノキの口に吸い込まれてゆく…w
なんかノキが食べてる姿見るの好きなんだなぁ。ワタシは買ってきたチュロスをカリカリかじりながら、ノキの姿を見つめていた。
何食っても美味しそうに食べるノキ。
見てて落ち着く。
「ちょっとくれ」とワタシ。
ノキの食うラーメンってやたらと美味そうに見えるんだよ!
「ちょっとだけな!」とノキ。もったいぶりやがって!
「食べさせてやろっか?」とノキ。「はい、あーん!」とか言い始めたから、「いーよバカ!」と言って、箸とどんぶりをふんだくって食べた。
ツルンと。
あー、懐かしい味。。なんか落ち着く…。。
「あんま食うなよな!オレの食う分がなくなるw」とノキ。
「ワタシのチュロスやるから黙れ」とワタシ。スープまでかなり飲んでやった。
ざまぁみろw
気がつけば、日はずいぶんと傾いていた。ちょっとだけ肌寒い。
そうだもう秋なんだなぁ…
「最後、あれ乗ってこっか?」とノキ。残りのラーメンをずるずるすすりながら。
「あれって?」
「メリーゴーランド」ノキは言った。
指さした先に、メリーゴーランドが見えた。
朱色に薄く色づいた秋の夕暮れの中、電飾に彩られ輝くメリーゴーランドが、光の城のように見えた。現実世界に顔を出した非現実の空間。
何かの入り口のように。何かの始まりのように。
- - -
「王子がオレじゃ不服?」
「うん、不服!」
「足短いから?」
「白タイツ履いてないから」
「今度履いてくるよっ」
「つか、おまえ今日、ヒョウ柄じゃん!」
「21世紀の王子はヒョウ柄履くモンさ!」
メリーゴーランドの白い木製の馬上、ノキは後ろでそんな事言って。ワタシが白い馬に乗り上がると、ノキまでそのままヒョイと後ろに乗り上がってきた。
「今日は逆だねw」
なんて言って。
いつもの逆。自転車の時はノキが前、ワタシが後ろ。
今日はノキの声が後ろから聞こえる。ワタシの耳の裏側から。すごく近い距離から。やめろよなー、ちょっとドキドキするじゃないか…。。
ノキはそうして、ワタシのおなかにそっと手を回した。
ノキの手の温もりが柔らかく私の身体へと伝わる。そこに心臓があるように、トクン、トクンと波打つように。ノキが触れてる場所から。
おかしいなぁ…。。いつもなら「触るんじゃねぇよボケ!」とか反射的に言ってるのに…。
夜が近づいた夕方の遊園地。ほんのり朱色に染まる。優しく灯る柔かな光が、いつもの私を何か少し狂わせてるのかもしれない。足もとには本物の小人や妖精がいそう。つか、何メルヘンな事思ってんだワタシ?
身体全体が波打つ。トクントクン、心臓だけじゃない。ふんわりと重力のスイッチをちょっとだけゆるめたみたい。カカトを上げればそのまま宙に浮けそうなぐらいに。
そのあとノキは、いたずらっぽく手のひらをすこし上に上げてきて、「おっぱい触っていい?」とか、いつものバカっぽい声で聞いてきたから、「死ねボケ!」とワタシは返しておいた。いつもより強めに。
よかった、いつものノキだw
何かネジがズレてしまってるワタシ。いつものノキ。いつもの笑顔。ちょっとほっとした。
心臓の音、聞かれてないよな?なんて思った。
聞かれる筈ないか。
聞こえる筈ないか。
ガコンッという音とブザーと共に、木馬全体が回り始めた。普段静かに回ってる地球。今度はワタシ達が回る番だ。ぐんぐん光の線が高速に流れる。時空を風に変えるように。光の渦の中に吸い込まれるような感覚。
「ノキーっ!」私は声をかけた。
「何?」とノキ。
ワタシは少しだけ後ろを向いた。ノキの顔、すごく近い。もうちょっとだけ揺れたら、唇にだって届きそうな距離。無防備な距離。
ワタシはそのぎりぎりの距離を保ちながら、ノキに話しかけた。
「未央はどうだった?」
いかん、ワタシ、何聞いてるんだろう…。。
「未央はねぇ、ノキの事好きなんだよ!」とワタシは言った。
言ってしまった。
まだ言っちゃダメだって言われてたのに。言ってしまうのはルール違反なのに。
ワタシはその次に出てくるノキの言葉に気持ちを固くしていた。ノキの言葉が出るまでの一瞬、細かく依り合った糸のような複雑な気持ちを自分でも感じていた。説明ができない感情。
単純化できない感情。
ノキが別の場所へ行ってしまう事への抵抗。ノキが遠くへ行ってしまう事への葛藤。その気持をワタシは上手く説明が出来ない。出来る筈がない。ワタシはまだ、そんなに大人になれてないのだから。
「んー、なんか違うかなぁ…」とノキ。
トクンと大きく揺れ動いた心臓が、別の脈動へと変わる。今度は深く、自分の心象を確認するようなリズムで。
「ちょっと疲れるよね、正直w」とノキ。ちょっと笑って。
その笑顔で、ワタシは少しだけほっとしてしまった。安心してしまった。何だろう、この感覚…。。
それにしても、鈍いノキでもさすがに今日の未央には何か感じ取るものがあったみたい。そりゃそーだ!他の誰ともほとんど話さずに、自分だけに話しかけられていりゃー、アホなノキでもさすがに気づくわな!
「けど、楽しそうだったじゃん今日」とワタシ。
う…、なんだこの嫉妬めいた言い方…。。
「緊張してたから話まくってたんだよ。無理してただけ!」とノキ。ノキでも緊張なんてするんだ。ちょっと意外。
「いつもとそんな変わらなかったと思うけど」とワタシ。これは本音。だってホントにいつもと大差ねーしw
「タムの方がラクでいいやw」と、ノキ。
って、おいおいおいおい、ラクって何スか!?!? モロに恋愛対象外の意味なんじゃないのか?????
どっちでもいいやw
こうしてノキとメリーゴーランドに乗れただけで、今は十分。
純粋に嬉しいんだ。幸せなんだ。
回転終了のブザーが鳴った。
電気じかけの木馬達による小さい小さい冒険は、こうして幕を閉じた。現実へ引き戻すブザーの音と共に。
そういえばこのメリーゴーランドも、ノキと乗った事あったっけ。
あの頃のノキは、隣の木馬に飛び移ろうとして、係員にこっぴどく怒られてたなぁ…w
今日ワタシの中に流れていた小さな気持ちの風。ちょっと乱れて、また元のそよ風に戻った。
日は完全に暮れ、出口へと続く道は明かり灯され、お城へ続く光の道のように見えた。
ま、この先にあるのは駅なんだけどねw
「久しぶりにあれやろっか?」とノキ。
「何?」とワタシ。
「じゃんけんで勝った方が先に進めるって遊び!グ~リ~コッ!って!」とノキ。
ははっw 覚えてる!覚えてる!
- - -
(後日談)
「アレってガセ?」とノキ。
「そう、ガセ!ガゼ!」ワタシは答えた。
あの日、未央がノキの事好きだってワタシは言ってしまったのだが、未央はあっけなく別の人とつきあい始めて。
分かるよーな気もするけど、相手は七尾君なんだw
もともとあの二人つきあってたらしいのね。ただいろいろあって、一時的に別れてたみたいで。
そこで未央は何をどう血迷ったのか、ノキの事なんて好きになっちゃって、それを聞いた七尾くんが、ノキと未央が遊園地行くってどっかから聞いて、(たぶんれんげの彼氏、津栗からだと思われる ←あいつは口が軽い)居ても立ってもいられなくなって、無理矢理参加してきたとゆーワケ。
まぁ、そんなことだろうかと思っていたけど…。。
帰り際、またヨリを戻せたらしい。まぁお似合いだよあの二人はw
「畜生!チチぐらい揉んどけば良かったぜ!」とノキ。
やっぱバカだなぁコイツ…。。
ノキは未央に彼氏が出来たって事までは聞いたけど、相手が七尾くんだとは知らされてない。こいつも口が軽いしw 未央が七尾くんの彼女だなんて知れ渡ったら、未央の身が危ない!女子全体から半殺しだw
「一瞬でも未央さんオレの事好きだったんでしょ?」とノキ。しつこい。つかウゼェ!
「お化け屋敷でヒーキャー言ってたから愛想つかされたんだよ!」とワタシ。ま、未央本人じゃないとその真意は分からないけどね。
もともと、あの二人は付き合う運命だったんだと思う。ノキなんて似合わなさすぎだもん。あんな水玉ヒョウ柄野郎はw
「今度オレを好きになったコがいたら、一瞬で押し倒してやるぜ!」とノキ。
はいはい、そーですかw そーですかw
<続きます!>