第21話 離巣
まだ落ち着いていなかった。
どこかで枝が折れる。
遠くで声がする。
静まったわけではない。
ただ、動きが散っただけだ。
森本悠真は斜面に伏せたまま、しばらく動かなかった。
視線だけが周囲をなぞる。
枝の位置が合わない。
幹が重なる。
斜面の奥が掴めない。
それぞれの動きは、もう互いを見ていない。
森本は息を整える。
知らない森だ。
ついさっきまで教室にいた。
視界の端に文字が滲む。
ギフト
足元に手を伸ばす。
⸻
ポケットに手を入れる。
モバイルバッテリーを取り出す。
裏蓋を外し、電池を一本抜く。
掌の上で転がす。
重さ。
硬さ。
形。
腕を構える。
電池を挟む。
射出。
【ギフト:射出演算】
運動軌道を読み物体を射出する
電池は一直線に飛ぶ。
木の幹に当たる。
鈍い音。
円柱。
同一形状。
再現性が取れる。
石とは威力が違う。
残りを確かめる。
三。
電池をポケットに戻す。
⸻
視線を上げる。
尾根。
木々の隙間から、斜面の上が見える。
人影。
一人。
革鎧。剣。
その奥に、もう一人。
同じ制服。
一瞬。
制服の男が崩れる。
動かない。
目を細める。
安藤だ。
さっきまで立っていた。
一撃。
迷いがない。
尾根の男はしばらく動かなかった。
それから振り返る。
ここからでは顔は見えない。
だが、体の向き。
重心。
隙がない。理解する。
強い。
男は斜面を降りる。
木々の中へ入る。
消える。
尾根を見上げる。
射線は、もうない。
⸻
安藤が倒れている。
しばらく見る。
起きない。
こういうことか。
視線を下ろす。
あの男はもう見えない。
だが消えてはいない。




