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第1話 侵蝕
南門の内側は、昼でも薄暗い。
石壁が日を遮り、空気は動かない。
通路に立つ兵は無言で男を見た。
名を告げると、道が開く。
奥の部屋。
机に伏した老人がいる。
転移の兆しを告げる者。
男は動かず待つ。
やがて、低い声。
「三日後だ」
顔は上げない。
「場所は」
指が地図の上に落ちる。
西の森。その周辺。
曖昧な円。
男は一度だけ頷いた。
それで足りる。
踵を返す。
⸻
三日後。
森は静かだった。
風は弱い。
湿った土の匂い。
鳥の声はない。
男は風下に立つ。
革鎧がわずかに軋む。
手は剣の柄に置かれている。
待つ。
空気が変わる。
次の瞬間、
世界が歪んだ。
⸻
佐藤茂は、立っていた。
教室の光が消える。
床が消える。
土の匂いが鼻を刺す。
「……え?」
声は森に吸われた。
背後で何かが動く。
振り向く前に、衝撃。
刃が背を割る。
肺の空気が吐き出される。
足が崩れる。
視界の端に文字。
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意味は分からない。
血が地面に広がる。
森は静かだった。
男は剣を引き抜き、血を払った。
その場を離れる。
森の奥を見た。
まだ、いる。




