少年商人、王都から“逃げる”ことを決める
数日後の朝。
村の入り口に見慣れぬ騎士が姿を現した。
「ポーション販売に不正の疑いあり。商人カイに“出頭命令”を伝える!」
村人たちがざわつく。
「不正!? カイくんが!?」
「そんなわけないじゃろうが!!」
(……効き目のないポーション?)
私は騎士の話の内容を聞き、頭を抱えた。
騎士の説明はこうだった。
「王都で販売されたポーションの一部が“全く効かなかった”その出所が、お前の村であるとの通報が入った」
(ありえない……!)
リオもすぐに口を開いた。
「カイのポーションが効かない? そんな馬鹿な話があるか」
本当にその通りだ。
質の悪い薬草でも、最低限の効果は出る。
全く効かないなんて、どう考えてもおかしい。
騎士が去った後、豪華馬車の商人が走ってやってきた。
「カイ!! お前、狙われてる!!」
「えっ!?」
「王都の貴族が……お前のポーションを“中抜き”してたんだ。薬草を安く買って、効果なしの偽物にすり替えて売りに出したらしい!」
「…………やっぱり」
すべて合点がいった。
(本物の薬草を取り、偽物と混ぜて売る……利益は全部自分のもの……そして“責任はカイ”ってわけか)
リオは拳を強く握りしめた。
「王城の腐敗……またか」
小さな村は、思っていた以上に王都の闇に近づいていた。
「……出頭したら?」
私は口にしてみた。
「殺される」
「……ですよね」
リオは淡々と言ったが、その声の奥には、王都への深い失望があった。
このままでは村にも迷惑がかかる。
契約を破ることにもなる。
(どうしよう……本当に……どうすれば……)
すると村の老人がぽつりと言った。
「ほんなら……ダンジョンに住めばええんじゃないか?」
「……え?」
「ほれ、あんたらが作った柵の中は安全なんじゃろ? スライムも人を襲わんし。あそこに住めば、王都の連中も入ってこれんわい」
「なるほど……そういう手もある!」
他の村人も次々に声を上げた。
「2階層なら誰も来ない!」
「寝床ならわしらが作ったる!」
「カイくんとリオくんなら守る!」
村人たちは総出で2階層に仮拠点を作り始めた。
木の板、毛皮、スライム避けの柵。
手際も早い。
(……本当に、いい村だ……)
―――
「……カイ」
準備の合間、リオが静かに言った。
「この村に居続けても、いずれ兵が押しかける。いくらダンジョンが安全でも、村の人間が巻き込まれる」
「……そうですよね」
「だったら、逃げよう。行商の旅をしながら……安全地帯を探す」
(逃げるしか……ないんだ)
私も覚悟を決めた。
「行きましょう。リオと一緒に」
リオは小さく頷いた。
―――
荷物を馬車に積み込む。
・乾燥薬草
・加工前のウリボア毛皮
・緑地化できる“ダンジョンの土”
・毛皮の毛布
・食料
・鍋一式
そして――
「ぷるるっ!」
「……ついてくる気だな?」
スライムが一匹、ずっと馬車の横を離れなかった。
リオは眉をひそめたが、私は笑った。
「連れていきましょうよ」
「……まぁ、害はないが」
「ぷるるる!!!」
(かわいい……)
馬車を引き出すと、村人全員が道に並んでいた。
「カイくん!!また来てくれ!」
「リオくんも気をつけるんじゃぞ!」
「村の薬草は任せとけ!」
「販売はわしらにまかせろ!」
商人たちも大声で叫んだ。
「お前らの名は絶対に残す! 薬草の販売は任せろ! 後で大商会にしてやるからな!」
私は胸がいっぱいになった。
「皆さん……ありがとうございます!」
「必ず戻れよ!!」
「うん!」
リオも深く頭を下げた。
「……恩は忘れない」
―――
馬車は王都とは逆方向へと走り出した。
揺れる荷台。
カタカタ鳴る薬草。
ぷるぷる震えるスライム。
(行く場所は……まだ決まってない。でも、商売はどこでもできる)
リオが小さく呟いた。
「カイ……行商人になったな」
「はい! 行き場のない行商です! たのしいですよ!」
リオは苦笑しながらも、どこか嬉しそうに笑った。
「……そうだな」
少年商人と元王子、新たな旅路へ出発!




