第718話 天才外科医は精密機械
「どうした? そんな腰が引けていたらまともな攻撃にならないぞ」
テラペイアの攻撃は、こちらに致命傷を与える狙いではない。
あくまでも探るためだけの攻撃だ。
カウンターを決めようにも、あれじゃあかわされてしまうだろう。
「硬いな」
「お前の攻撃が全力じゃないってだけだろ」
だから捨身の一撃でもしてくれよ。
そうしたら俺としてもかなり楽だ。
俺の力は梅宮の不動と同じ系統の防御寄りの加護だからな。
ダメージを受けるまで高倍率のバフを得る装備で底上げしているものの、それだけでは一撃で勝負を決することなんてできない。
なら、無防備な相手へのカウンターというより大きなダメージを狙いたい。
「おっ?」
心臓に爪を突き立てられる。
が、当然俺には何の意味もない。
やっぱりこいつ探ってやがるな?
さっきは頭、その前は眼球。その前は腹部。
どこに攻撃すればいいか探られている。
「なんか、観察されているみたいで不快なんだよなあ」
それは恐らくあの装備のせいだろう。
流動の観測鏡。ゲーム中のテラペイアが目につけていなかったモノクルだから、一目でそれの正体に気がついた。
敵のHPや状態異常の蓄積値を可視化するという便利アイテムだが、テラペイアとの相性はなかなかのものだ。
ルフを行動不能にしたのも、おそらくはあれで麻痺の蓄積値を測りながらのことだろう。
「またそれかよ」
このメスにも、その状態異常が付与されているんだろうな。
いくつかは防ぎきれずに直撃している。かすった数を含めればもうかなり食らっている。
俺の加護でダメージこそないが、状態異常で動きを止めようって腹積もりか。
「そこか」
「おっと」
今度はへそを狙われた。今のは……ちょっと危なかった。
なるほどな。薄々は俺の力に見当がついているってことか。
たしかにお前のやり方は悪くない。
俺の力は弱点設定だ。自身に弱点を設定する一見すると最悪の能力。
だが、弱点以外の部位は無敵になるという防御スキルだ。
弱点さえ攻撃されなければ無敵。梅宮の不動と違ってこちらは動くこともできる。
無敵の体で攻撃を続けられるのだから、お前らからしたらたまったもんじゃないだろうな。
「……違う?」
「残念、そこに攻撃は効かないんだよ」
再度へそを狙われるが、今度は防御するつもりはない。
すべての力を注いで反撃に転じる。
よし、悪くないな。致命傷とまではいかないが、テラペイアはそれなりのダメージを受けたようだ。
「あてが外れたか?」
「さあな? お前の考えなんて知らねえし、正解かどうかも判断できねえよ」
いや、お前の考えは当たっている。
俺の身体は無敵だが、一箇所だけ弱点が存在する。
だけどな、そこまで弱い能力じゃないんだよ。
弱点はいつでも任意の場所に変更できる。
だから弱点はさっきまではへそだった。それだけのことだ。
「ま~たそれか。打つ手がなくなったってことでいいのか?」
メスの投擲。ほんと、無限に湧いてくるな。このメス。
状態異常の蓄積値がどの程度なのかは知らない。
だけどよお。かすり傷一つ付いていない以上は、何千本投げても意味ないだろ。
この手の状態異常を付与する武器やアイテムは、ダメージを与えないと効果を発揮しないからな。
ほんと、テラペイアが相手でよかった。
これがピルカヤやプリミラのような強力な範囲攻撃持ちだったら、どこに弱点を設定しても殺されただろう。
だけど、お前にはそれができない。はっきり言ってカモなんだよ、お前は。
「そんじゃあ、お前は完全に無害だってわかったことだし、そろそろ反撃といくか」
決まりだ。こいつの手の内はゲーム中とほとんど変わらない。
メスの状態異常こそこの世界特有だったが、それも俺には無意味。
負ける理由がないのであれば、ここでテラペイアは殺しておこう。
「ほらよ。今度は俺の番だ」
もはやメスの牽制など気にも留めない。
いや、さすがに弱点に届きそうなら防ぐけどな。
それ以外は全て無視していい攻撃だ。
もしかしたら、そうして防御した箇所を弱点だと認識されるかもしれないが、そのたびに別の場所を弱点として設定し直すだけだ。
「ほんと学ばねえな」
俺が唯一防いだ箇所。そこを狙ってメスの集中砲火を受ける。
馬鹿が。そこが弱点だったのはさっきまでだ。
「おらよ!」
槍で敵の肩を貫く。
駄目か。心臓狙いだったが、さすがにかわされてしまった。
だが威力は十分だな。さすがノーダメなら高火力を発揮する武器だ。
俺の場合、常時最大火力という最高の武器へと変化する。
「ははっ、ここまで思い通りなら、四天王たちも倒せるかもな」
貫く。敵の攻撃を無視してひたすらに貫き続ける。
相手のHPは確実に減っていることだろう。
よし、このまま攻撃を続け……。
あ? なんだ……これ。
「……動け……ない?」
麻痺? いや、そんなはずはない。
メスの攻撃は全て無効化したぞ。麻痺なんてまるで蓄積していなかったはずだ。
「やはり、武器に付与した麻痺は通じないが、ガスは効くようだな」
ああ? ガスだと?
そんな攻撃いつしたっていうんだ。
それらしい動作なんて……いや、罠か?
ボス部屋にも罠が仕掛けられていた?
それにしたって、ガスの罠なんて道中にも存在しなかったじゃねえか。
ああ、くそっ!
つまんないことしやがって!
せっかく気持ちよく倒そうとしていたのにケチをつけられた。
くだらねえ。本当にくだらねえ。
そんなことしても俺を倒せるはずないだろうが。
「はあ……うざっ。いいよ、やれ。どうせお前の攻撃なんて無駄なんだからよ」
なんならこちらが動けるときよりもやりづらいだろうな。
弱点部位を防ぐという動作を見せない以上は、お前は俺の弱点を見抜けない。
まぐれで弱点へ攻撃されそうになったら、そのたびに別の場所を弱点にするだけだ。
動けるようになるまで、お前の無意味な攻撃に付き合ってやるよ。
「……」
今度は俺が観察する番だ。お前の攻撃をしっかりと観察してやる。
……っ! あぶねっ!
お前、一発目から弱点狙いとか、どれだけ運がいいんだよ。
右目に設定していた弱点をすぐに左膝に変更する。
「なるほどな」
……何がなるほどだ、だよ。
何もわかっていないくせに知ったかぶりしやがって。
運良く弱点を攻撃したようだが、もうあんな幸運が続くことは……。
ありえないっ!
なんなんだお前! なんで的確に弱点ばかりを狙える!
見抜かれた!? いや、それにしたって、俺が次にどこを弱点に設定するかなんて、心でも読まなければわからないはずだろ!
やばい。やばい! はやく動けるようになってくれ!
このままこいつの前で無防備でいることは、何かがまずい!
解剖でもされるかのような恐怖が俺に襲いかかる。
「理解した。では終わらせよう」
「……」
メスが時間差で様々な部位へと投擲される。
デタラメに狙っているわけではない。
その一本一本が全て俺の弱点を狙っている!
弱点を再設定してもそのたびに追い詰められるかのようだ……。
う、嘘だろ……。なんで……なんで、こんな正確に見抜けるんだよ……。
絶え間なく襲いかかるメスについに最悪の噛み合いをしてしまった。
背中にしたはずなのに……なんで、そんな場所まで攻撃を……。
あの凶悪な爪により、俺の背はいともたやすく切り裂かれ抉られた。
駄目だ……。意識が……。
そりゃあそうだよな……。弱点を攻撃されたんだ。
一撃でやられても……仕方ないか……。
◇
「ふむ……。興味深い力だったな」
あえて弱点を集中させることで、他の部位を頑強にするという力か。
……エピクレシのゾンビに似たようなことはできないものか。
彼女の戦いが終わっていたら、提案してみるのも悪くはないだろう。
絶命した転生者を見下ろしながら、そんな事を考える。
だが、まずは帰還して報告だな。
まったくもって恐ろしいものだ……。
この力をダンジョンで見極め、相手を油断させながら確実に仕留められるように十魔将を采配するとは。




