第651話 図書室のしおりはネコ科の魔族
「ビブリオンの姐御~。アルマセグシアで新しい本を仕入れてきたぜ~」
「ありがとうございます~」
ロペスくんとクララちゃんはこうして定期的に本を入荷してくれます。
クララちゃんは相変わらず魔法関係の本が多いですね。
ダークエルフだけでなくテクニティスさんたちにも参考になる内容のようで、さすがはダークエルフだなあと思います。
それに最近では魔法を学ぼうとする人類のため、専門的ではない比較的簡単な本も選んでくれているのがいいですねえ。
ロペスくんのほうは少し難しめといいますかお固めの物語が多いですね。
あとは殺伐としたお話も多いので、子供向けというよりは大人が楽しむための本を選定してくれているようです。
魔王様とレイ様が好む本ということで、そういう本を選ぶ傾向なんでしょうか?
「おや~?」
「ん? なんか問題でもあったか? ビブリオンの姐御」
「いえいえ~。なんだか珍しい本が交ざっていると思いまして」
「魔本でもあったかい?」
魔本はありませんね~。あくまでも普通の本です。
ただ、ロペスくんがあまり選ばない本が複数交ざっているので、ちょっと珍しいと思ってしまいました。
「これとかこれですかね。珍しいです」
「ああ。……まあ、たまにはな」
「素直じゃないねえ君。シノのために子供向けの物語を選んであげたんだろ」
「そんなこと言ったら女王様だって、かなり簡単な子供向けの魔法の勉強用の本選んでるじゃねえか」
「私はほら……。あれだよ」
ふむ……。長くなりそうですね~。
というわけで、お二人から本を受け取っておきましょう。
ついでに二人に向いた本を渡しておきます。
「どうぞ~」
「ビブリオンの姐御。これなんだい?」
「……少女向けの歯の浮くような恋愛小説に見えますが?」
「素直じゃないお二人のために、素直な恋愛小説を貸しておきま~す」
二人は何か言いたそうにしていましたが、私はもう預かった本の整理で忙しいのです。
というわけで、痴話喧嘩は騒いでもいい場所でお願いしますね~。
そんな二人と入れ違いに、他の転生者たちも続々と帰ってきました。
今日はみんなでお散歩する日だったみたいですね~。
ついでに本も入荷してくれるのは助かります。
「ビブリオンさ~……ん」
トキトウちゃんは大声を出したらまずいと思ったのか、途中で声量を落としてくれていますね。
ならば今の大きな声は聞かなかったことにしておきましょう。
「時任プレゼンツです。どうぞ」
「ありがとうございます~」
「あれ、プレゼンツ? プレゼント?」
「プレゼンツで合ってると思うわよ。ビブリオンさん、私たちの本もどうぞ」
ええと、トキトウちゃんが少女向けの物語が多め。
オクイちゃんは比較的文学系の本が多いですねえ。
ハラちゃんはファッション系の資料ですねえ。これは。
セラちゃんは風景画とかが多め。読むというよりは見て楽しむイラスト系の本が多いです。
「うん、いいですね~。……あれ? ハラさんとセラさんがカザマくんと一緒じゃないのは珍しいですねえ」
「武巳くん、タイラーさんを手伝うために別行動中なんです」
「鳴神くんにアルメナさんも加わったから、タイラーさんたちだけじゃ止められないからねえ……」
「ああ、そういうことですか。あの子元気ですからね~」
ですが彼が選ぶ本はわりといいものばかりです。
カザマくんが別行動ということは、きっと新たな本を一緒に選んでくれているということでしょう。
楽しみですね~。今日は様々な本と出会えそうです。
そうして本の整理を進めていると、少し遠くから騒がしい音が聞こえてきました。
ですが、こちらに近づくにつれてその喧騒もやんでいるようで、図書室にたどり着いたころにはすっかりと静かです。
「ビブリオンさん。新たな本を購入してきたぞ」
「地底魔界の娯楽ということで、私たちも全力で選びました」
「全力すぎるんだよねえ……。タイラーさんたちの苦労がわかったよ……」
カザマくんお疲れですねえ。
ですがしっかりと手綱を握っているあたり、彼は人をまとめて前に立つのに向いていそうです。
「ビブリオンさん、どうぞ。みんなで買ってきた本です。魔王様とレイさんの検閲はすんでいます」
「ありがとうございます~」
ええと、また変な本買ってますねえ。
やけに仰々しい正義の味方が悪を倒したり挫折したり、ときには悪に堕ちたり……。
ナルカミくんの買う本は毎回善悪に関する何かですねえ。
アルメナちゃんのほうは……絵本ばかりですね。
これは、地底魔界に住む子供も増えてきたから、その子たちに向けた本というところでしょうか。
カザマくんは……鉱石? 技術系の本? あとは石の加工ですね。
なるほど。物語系は他の者たちとかぶるので、こういう本を選んでくれたということですか。
そういえば、彼自身もその手の技術を学んでいますからね。
カールくんの弟子として、なんだかんだでかわいがってもらっているみたいですし。
◇
「さて、今日もたくさんの本が増えて嬉しいですね~」
入荷したタイトルはこちらで記しておきました。
あとは昆虫兵に頼んで、私が定めた本棚に運んでもらえばひとまずお仕事完了です。
「ビブリオン。お邪魔しますね」
「おや、魔王様にレイ様~」
ちょうど一息ついたあたりで、レイ様の腕に抱きついた魔王様がやってきました。
レイ様、相変わらずまったく気にしていないですね~。
といいますか、別のことに集中しているような気がします。
「レイ。つきましたよ~?」
「では腕を離してください」
「なんでですか。私が腕にくっついて何か問題でもあるんですか? 図書室でなければ叫んでいたところですよ」
「問題は……いえ、なんでもありません」
仲がいいですね~。
それにしても、魔王様はレイ様が相手だと本当に無防備ですねえ。
レイ様が別のことを考えていた理由が、なんとなくわかったような気がします。
「魔王様~。新しい本が入荷してありますよ~」
「みんなが買ってくれた本ですね。実はいくつか気になる本があったので、他の者に読まれる前に借りに来たのです」
「そんなことしなくても、魔王様を最優先にできますけど~?」
「いえ、それでは公平ではありません。魔王としての権力を振るってしまうと、図書室に来る者が減るかもしれませんからね」
なるほど~。でも、それは……。
私と同じ疑問をレイ様も浮かべたらしく、レイ様は魔王様へ向けて言葉を投げました。
「公平云々を言うのであれば、みんなが仕事中に本を借りるのはどうなんでしょうね?」
「……魔王の特権ですね」
「言っていることがさっきと違いますけど」
「なにをぅ!?」
「魔王様~。お静かにお願いします~」
レイ様と一緒だと、魔王様も気が緩むんでしょうね~。
すぐに小声になってお互いに責任を押し付け合っています。
それだけを抜き出すと仲が悪そうですが、本当に仲がいい二人ですよね~。
「あ、ビブリオン」
「どうしました~? レイ様」
「深淵の書はちゃんと封印されている?」
「ええ、ばっちりです。あれはさすがに厳重に管理する必要がありますからねえ」
レイ様は私に会うたびにそれを尋ねます。
それだけ危機管理がしっかりとしているということなのでしょう。
それに応えるためにも、私も司書としてしっかりとあの本は封印しています。
「深淵の書は、神もどきと交信しちゃって面倒ですからねえ」
「神様とは別なんでしたっけ?」
「力ある何かしらの存在ではあるのでしょうけど、そもそも使用者の精神が汚染されて正体もわかりませんからねえ」
「あの女神、案外それで精神が汚染されているんじゃないですか?」
「い~え、あれは根っからの性根と見ましたね。私は」
私も魔王様と同じ意見です。さすがに深淵の書の神に女神ほどの力はなさそうですからねえ。
ただ、それはそれで厄介そうですね~。
あの女神が深淵の書の神なるものを取り込みでもしたら、さらに悪辣で強力な力をもつ何かになるのではないでしょうか?
「ということで、色々な意味であの本は危険ですからね。これからも頼みましたよビブリオン」
「は~い」
さて、魔王様とレイ様も本を持って席に移ろうとしていますね。
私としては~それ以外にもちょっとお勧めしておきましょうか。
「お二人ともこれどうですか~? お二人に合っていると思うんですけど~」
そう言いながら、私は魔王様とレイ様にとある小説を渡しました。
ロペスくんやクララちゃんに渡したような、正統派の恋愛小説です。
それを受け取った二人の反応はというと……。
「へえ、あまりこういう本は読まないけど、ビブリオンのお勧めなら読んでみるよ。ありがとう」
「私はそれなりに読みますが、これはまだ読んだことがありませんね。きっとビブリオンのお勧めなら楽しめるはずです。ありがとうございます」
「……」
「ビブリオン?」
思っていた反応と違いますね~。
しかも、そうして固まった私を呼ぶ声も二人同時でしたし。
本当に、これだけ仲がいいのになんなんでしょうねえ……。
ロペスくんとクララちゃんと違って、この手の本をおすすめしてもこんな反応ですもんねえ。
「いえ、おかまいなく~。お二人とも楽しんでくださいね~」
これは、相当な長期戦になるんでしょうねえ。
そもそも、お二人とも戦っていることにさえ気付いていないんですから。
その点においてはロペスくんとクララちゃんのほうがまだマシなんでしょうか。




