第613話 反抗的忠誠心
「せっかく、鍛える気になったのに~」
「それは良いことなんですけど、あれじゃあ、フィオナ様も四天王たちも訓練になりませんって」
「わかってますけど~」
ベッドの上に二人で座っていると、フィオナ様はぐいぐいと後頭部を押しつけながら、俺にもたれかかってきた。
もう、完全にだらけモードだな。
う~ん。せっかくやる気になっていたのに、このままでは良くない。
「よし、俺が一肌脱ぎますか」
「ほほう? つまり、ついにレイがガシャを回すということですね」
「いえ、フィオナ様を全力で倒そうと思います」
「謀反!? あなただけは、永遠に私の味方だって約束したじゃないですか~!」
「それは、その通りです」
だから、すがりついてこないでください。
俺が悪いことしているみたいじゃないですか。
「フィオナ様の気分転換というか訓練として、対フィオナ様用の本気ダンジョンでも作ろうかと思っただけです」
「な、なんだ。焦らせないでくださいよ」
「すみません」
でも、勝手に焦ったというほうが、正しい気がしなくもない。
相変わらず、変なところで心配性だな。
俺があなたを裏切るなんて、この先も永遠にあり得るはずがないというのに。
「しかし、レイの本気ですか。たしかに、これまでは自重してきましたからね。偉いですよ」
「はい。日々、我慢しています」
頭をなでて褒めてくれるが、そんなことを言ってくれるのはフィオナ様くらいだ。
アナンタとか、もっと自重しろって言うからな。
「わかりました。それでは、レイの今の全力を受け止めてあげましょう」
「ええ、思いっきり倒します」
「今、倒すって言いませんでした?」
「そのくらいの意気込みじゃないと、フィオナ様を満足させられないので」
「わ、わからなくはありませんけど、複雑ですねえ……」
ということで、さっそく色々と考えよう。
ダンジョン魔力を稼がないといけないので、こんなことしているのは無駄遣いにすぎないが、行き詰まってきているので楽しみも必要だ。
「ちょっと、イピレティスとディキティスに相談してきます」
「アナンタとダスカロスじゃないあたり、本気で私を撃破しようとしてますねえ……」
遠い目をしながらフィオナ様は、俺を見送ってくれた。
さすがに、作っているところを見られるわけにはいかないからな。
ダンジョン作りの間は、フィオナ様とは別行動にしよう。
◇
「ということで、フィオナ様を倒すつもりで作る」
「……謀反か?」
「いや、忠義だ」
「そうなんだろうな。宰相殿たちの関係は、私には理解できない……」
さっそくディキティスに相談すると、なんだかとても悩み始めてしまった。
「魔王様を倒せるほどのダンジョンですか~」
「イピレティスも、気が乗らないか?」
「まさか! そういうの大好きです!」
だよな。イピレティスってそういう魔族だし。
強い相手が好きなので、全力で殺しにいったうえで負けたいんだ。こいつは。
「場所は?」
「地底魔界の本拠地のほうだな。せっかくだし、作り終わったダンジョンは、対勇者用としても再利用したい」
「そのほうが、無駄はなくて良いだろう」
ということで、まずは構造からだ。
部屋と道。それらをどう組み合わせるか。
侵入者であるフィオナ様が、なるべく疲弊するようなダンジョン作りにしたい。
「侵入者に有効だった、同じ間取りの部屋をいくつか作って、迷わせるのは?」
「いいかもしれないな。ぐるぐると同じところを回るようにしたい」
「それなら、迷路とかもですかねえ。魔王様、そういうの苦手そうですし」
力押しが得意だからなあ。
獣人に近いんじゃないか、と思えるときも少なくはない。
ただ、そうなると、最悪の場合迷路を破壊しながら進めそうなんだよな。
あの方なら、ちょっと疲れるくらいの感覚で、壁など破壊できるだろう。
……だけど、それは勇者も同じか。
なら、それを前提に罠でも組み込むか?
「適度にモンスターを仕向けたいな」
「モンスターか……。フィオナ様が相手となると、超位が複数とかでも、心もとないよな」
「ちょっかいを出す程度の効果に終わるだろう」
だよなあ。
集中力を阻害するくらいの役割か。
であれば、その前に集中が必要な場所を用意して、邪魔されたら困るギミックでも作るべきか?
「罠はどうします? 魔王様に効く罠とかあるんですか?」
「どうだろうな……。なんか、何をされても無傷な姿しか想像できない」
「……」
三人揃って黙ってしまう。
なるほど、あまりにも難敵だ。
最初は乗り気だったものの、今ではかなり無茶な挑戦なのでは? と思えてしまう。
いいさ。だからこそ、やりがいもある。
それにしても、味方の俺達ですらこれなのだから、人類って大変だよなあ。
テンユウとか、フィオナ様を倒そうなんて、よくもそんな無茶なこと考えられるな。
あいつなら、もうとっくに力量差は理解していそうなものだけど。
「いっそ、力を振るえなくするために狭い道と部屋だけにするか?」
「どうだろう……。フィオナ様の場合、リピアネムの本気と違ってあのサイズだからなあ。戦場の狭さは不利にならない気がする」
俺たちの魔王様が強すぎる。
なんだこの無理ゲーは。考えれば考えるほどに対処できる気がしない。
なるほど、これがルナティックアビスか。
ラスボスが強すぎて無理ゲーと言われるのにも納得しかしない。
「これは、手に負えそうもないな」
何を考えても力技で突破される未来しか見えない。
だが、規模は違えど勇者だって同じこと。ならば、その予行演習としてフィオナ様を撃退できれば、憂いはないということじゃないか。
「協力者を募ってくる」
「それは良いのだが、誰か協力してくれるか?」
難しいか? まあ、ものは試しだ。三人で足りないなら、色々と相談してみればいい。駄目で元々じゃないか。
◇
「とりあえず、ダンジョン全部燃やしておこうよ。そうすれば、どこからでもボクが向かえるし」
「それだと、お前以外行動できなくなるだろ。いくらピルカヤ一人を強化しても、魔王様には敵わない。なら、連携できるようにしておかないと」
「戦場は、むしろ拡げておいてもらいたい。せめて、私も全力を出せないと、魔王様には到底及ばないからな」
「私が部屋ごと水で沈めるのは、いかがでしょうか?」
「事前に言ってもらえたら、耐熱も耐水も可能ですよ。私のアンデッドたちは」
「この際だ。オーガたちも一斉に襲いかからせよう」
なんか、いっぱい集まった。
思い思いに、対フィオナ様の策を考えてくれている。
なんか、一見すると、魔王様が大層不満を持たれているかのようだな。
「しかし、これだけ集まってなお、勝てる気がしないんだから、すごい魔王様だよなあ」
「当然です。魔王様は、最強の魔王様ですので」
「先代魔王様超えてるからなあ」
「目指す高みではあるが、いまだに麓にすらたどり着ける気がしない。凄い方だ」
よかった。ちゃんと忠義はある。
そのうえで、本気で挑もうというのであれば、きっと良いことに違いない。
これは、俺もボケっとしていられないな。なんとか頭をひねって、フィオナ様を本気で倒せるようなダンジョンを考えよう。
「とりあえず、案は全てまとめておこう。精査はその後でいいな? レイ」
「ああ、頼んだ。ダスカロス」
◇
「……」
「あれ、魔王様どうしたんですか? なんか困ってます?」
「トキトウですか。いえ、ちょっと思ってたのと違くって……」
「そういえば、今日は魔族の方たち見ねえな。それ関係かい? ビッグボス」
「それ関係ですねえ……。なんですか? なんで、そんな本気で私を倒そうと白熱しているんですか? 影冠樹の件、やっぱりまだ怒っています!? ええい! やってやりますよ! 完膚なきまでに、あなたたち全員の策を打ち破ってやりますからね!」
「なんかよくわからないけど、がんばってください!」
「がんばります!」




