第614話 ちゃんと反省してくださいね
「……」
歩みを進める。薄暗いダンジョンの中、揺らめく松明はやけに不気味で、先行きの不安を演出しているかのようだった。
広く先の見えない道が続いている。おそらく、かなりの広さであることは間違いない。
だというのに、やけに静まり返っており、その静寂はさらなる不安を掻き立てる。
ダンジョンは、私が最も安心できる居場所だというのに、心持ち一つでこうも恐ろしくなるとは……。
いえ、かつての私もこんな気持ちでしたね。
一人切りのダンジョンは、広いだけで不気味に思えましたから。
「あの子、やるときは本気でやりますからね……」
さて、何が出てくるというのか。
岩とか大爆発する火球とか、あるいは吊り天井や壁から飛び出す槍程度なら、私なら無傷なんですけど……。
ただ、びっくりするのでやめてほしいですねえ。
まずは一本道ですか。ですが、単なる一本道と侮っていると、大変なことになりそうですね。
慎重に進んで行きましょう。といいますか、足元にいくつもスイッチがありますし……。
「ふっ。私くらいになると、この程度のスイッチ簡単に見抜けますとも」
悠々とスイッチを避けて歩みを進め――カチッって音が聞こえましたね。
足元を見ると、そこには小さな石が……。えっ、これ?
目の前から巨大な丸い石が転がっているので、これがスイッチっぽいですねえ……。
おのれ、レイ! 魔王を罠にはめるなんて、帰ったらお仕置きとして一日中抱き枕です!
「まあ、この程度なら問題ありませんけど」
質量攻撃は有効な場合も多いですが、私くらいになると受け止めることなんて造作もありません。
ということで、手のひらをかざして岩を受け止め――なんですか!?
なんか、直前で岩が大爆発したんですけど!
「な、なるほど……やるじゃないですか」
容易に対処できる罠と見せかけて、爆発で一網打尽にしようということですね。
ですが、この威力では私に傷一つつけられませんし、全く問題ありません。
勇者の場合も同じですね。ということは、あいさつ程度の罠ということでしょう。
それか、勇者とそのパーティ以外を狙ったのでしょうか?
「まあ良いです。レイも本気ということがわかりましたし、さくさくと進んでしまいましょう」
開き直って一直線です。どうせスイッチを確認しても、見落とすということがわかりましたからね!
なので、こうしてカチカチと音がなっても、その都度対処するのみです!
「む! 床が動いているということは、上昇床ですね」
天井に挟まれても、別に何の問題もありません。
では、床がせり上がるのを待って……せり上がりませんね。
「なにをぅ!?」
ゆ、床が……ばねのようにびよ~んってなりましたけど!?
飛ばされた先にあるのは、剣山のような針だらけの落とし穴ですか。
「私どころか、私の服さえも無傷です。ですが、レイはお仕置きします」
二日連続で抱き枕ですね。魔王の決定なので、文句は言わせません。
さあ、どんどん進んで行きましょう。また床が動いています。
ということは、飛ばされる。思わず身構えると、今度は床が斜めになって滑り台のように……。
「え~……」
やけに角度がきつい坂道となった床は、容赦なく私を滑り落としました。
踏ん張ろうとしたのですが、油の道の要領で坂道にも油を流しましたよね!?
あれでは咄嗟にしがみつくこともできません。
「でしょうね!」
そして坂道ならば当然、転がる岩も降ってくるでしょうとも!
あれ? なんかあの岩燃えてません?
ということは、この坂道の油に引火して……。
「ふっ。厄介な油を勝手に使い切ってくれるとは、策に溺れましたね!」
急に炎が燃え広がって驚きましたけど、それだけです。
ええ。驚いただけです!
服とかは燃えていませんし、私は全然問題ありません。
……勇者も、まあ問題ないでしょうね。
「ただの岩にしておくべきですね。後でアドバイスしておきましょう」
様々な罠を受け止めながら進むと、ようやく生き物の気配を感じました。
なるほど、ここから先はモンスターもいるということですか。
あの子たちも本気で戦ってほしいみたいですし、魔王の力を見せてあげましょう。
……ちょっとかわいそうですかね? いえ、死を前提に今回のダンジョンに参加しているようなので、手加減なんかしたほうが後で抗議されそうですね。
良いでしょう。レイも私を本気で仕留めようとしていることですし、私もモンスター相手に本気で挑みます。
「シャドウスネークですね。状態異常は効きません」
効くことは効くのでしょうが、私と実力差がありすぎる場合は無意味です。
なので、私に状態異常を付与できる者は、それこそ転生者という特別な力を持ったものくらいでしょうね。
教会の者たちの奇跡であろうと、今の私に通じるとは思えませんし。
「超位モンスターですか。良いでしょう。さくっと倒してあげます」
開けた場所に出ると、そこには大量の超位モンスターが待ち受けていました。
まあ、問題ありませんね。軽くひねって……妨害がすごい!
超位モンスターと戦おうにも、犬系のモンスターたちがすごい勢いで邪魔してくるんですけど!?
さすがの私も、そっちに気を取られて集中できません。
いいえ、それは集中力が欠けている証でしょう。無視して、超位モンスターを……すっごい噛みついてくる!
「ええい! まとめて相手してやりますとも!」
全体攻撃です。それで一掃するのが一番楽です。
ということで、さくっと魔力を込めて……きゃっ! び、びっくりしました……。
なるほど、プラスモンスターでしたか。急にスピードが上がるものだから、驚いてしまいました。
あ、魔力が暴発して、そのままモンスターたちが全滅しましたね。
……ま、まあ、結果は変わりませんし、問題ないでしょう。
「道がない……? いえ、透明床ですか」
なるほど、わかりやすい透明床とわかりにくい透明床、さらに透明な壁まであるということですね。
ですが、もう理解しました。こうして進んでしまっても問題ありません。
なんせ、見えにくいだけで透明の床が……ないんですけど!?
「お、おのれ……」
結局落下して、湖の中の超位モンスターたちに襲われました。
問題ありません。問題はありませんけど……かなり鬱陶しい罠とモンスターの数々が……。
「なるほど、イドが怒るのも納得してきました」
とにかくめんどくさい! それに尽きます。
これがレイの強さなんでしょうねえ。ここに戦闘可能な者が組み合わさったら、とても面倒なダンジョンになるでしょう。
今回は、十魔将も四天王もいませんけど、レイのダンジョンと彼ら彼女らが組み合わせられたそのときは、勇者ともいい勝負をできるかもしれません。
「ふふっ、頼もしいですねえ」
かつて、私以外の全てが奪われた。
ですが、今ならみんなに任せても、きっとあのときのようにはならない。
「……本当に、頼もしい宰相ですよ!!」
まったく同じ内装のフロアをいくつも組み合わせたエリアで、私は迷子になりながらそう叫びました。
どこですか、ここは! さっきも通ったような……いえ、新しい場所ですか?
同じ見た目なので、まったくわからないんですけど!?
あと、毎回毎回温泉が配置されているのはなんなんですか!?
入りませんよ!? どう見ても、毒が混ぜられていますからね!
そうして散々迷子になりながら、なんとか私はダンジョンを踏破しました。
……はあ、今までで一番骨が折れるダンジョンでした。
まったく、この疲労を回復するためにも、レイには七日ほど連続で抱き枕になってもらわないといけませんね。
そう決定した私は、とりあえず今日一日は、レイを抱きしめ続けることを決意するのでした。
◇
やっぱりおかしいよあの魔王。
さすがに大ダメージとかは期待していなかったけれど、完全に無傷で突破してるじゃないか。
しかも魔力と肉体の強さによるごり押しだけ……。
「やっぱり、モンスターだけじゃなくてボクたちも戦ったほうが良かったんじゃない?」
「さすがにモンスターだけでは荷が重いな。私が現場で指揮したほうが……。いや、それでも魔王様にとっては誤差程度か」
「犬系のモンスターがやたらと邪魔するのは、わりと効いてそうだね。アタシも行ったほうが良かった?」
ピルカヤを介して見ていたみんなからも、そんな声が上がるのは仕方がないことなのかもしれない。
だけど、四天王も十魔将も、それ以外の魔王軍だって派遣するのはちょっと気が引ける。
なにもフィオナ様を気遣ってというわけではない。あの様子だと気遣う必要ないし。
「四天王との訓練を張り切って、加減を間違えていたっぽいからなあ」
「ああ。あのときの魔王様は強かった」
「死んでいないどころか大きな怪我もしていないので、加減自体はしていてくれていたのでしょうが……」
「それでも魔王様の気分次第というか、下手に動揺させて加減を違えさせたら死人が出るからなあ……」
だよな。
あのとき被害に遭った四天王たちがそう言うのだから間違いない。
ダンジョンで不意を突いて冷静さを崩したら、加減ができなくなってよりパワーアップする。
なんだこの怪物は。まるで昔のリピアネムじゃないか。
結局のところ、俺たちではまだまだフィオナ様を撃退するダンジョンなんて作れないってことだな。
仕方ない。それがわかっただけでも収穫としよう。
「次回は蘇生薬確定宝箱という看板と宝箱を置いて、魔力をほとんど削るところから始めようかな」
「それ、レイくんが後で文句言われそうだね」
「それが動力源となって今以上のスピードでダンジョンを進みそうだな」
リグマもダスカロスも怖いことを言わないでくれ。
そんなこと……あり得そうだな。あの魔族、どうやったら止まるんだろう。
本当に、頼もしい魔族で何よりだよ……。




