第611話 祠を壊したくらいの罪状
「そもそも俺がいないのに、どうやって宝箱を開けたんですか」
「えっと……レイにバレるといけないので、トキトウやオクイやカザマたちに少しずつ……」
以前、俺以外に宝箱を開けさせないと言っていたのはなんだったのか。
いや、それだけ熱くなってしまったんだろうけど。
「転生者まで巻き込まないでください」
「す、すみません。つい魔が差してしまって……魔王だけに」
余裕ありやがるなこの魔王。
だが、今後も似たようなことが起こらないように、転生者どころか各人類にも周知しておこう。
フィオナ様が宝箱を持ってきても、決してふたをあけないようにと。
「反省してください」
「このたびは、大変ご迷惑をおかけしております……」
素直だな。
よほど、プリミラの説教が堪えたのか。それとも、カッとなってやってしまい、今になって後悔していたのか。
普段おどおどしているプネヴマのほうがまだ堂々としているレベルで、フィオナ様は落ち込んでしまっている。
「ま、魔王様……。あの……えっと……」
「頭をあげてください。プネヴマが困っています」
「はぁい……」
う~ん。調子が狂うな。
本人も反省していることだし、いつものフィオナ様に戻ってもらいたいものだ。
「って、また!」
フィオナ様の上に落石が。
しかし、フィオナ様はゆっくりと手のひらを上に向けると、それを易々と受け止めた。
なんか、やる気が無くてダウナーな感じなのにとんでもない強さ。出会ったころを思い出す。
「本当に運が悪いといいますか。呪われてますねえ」
「う~……。どうもすみませんでした」
フィオナ様は、俺と影冠樹に向かって再び頭を下げた。
しかし、影冠樹からは当然反応がない。
「プネヴマ。呪いの類って本当?」
「えっと……。え~と……。あ……いっぱいついてる」
「何がですか!?」
あ、元気なフィオナ様に戻った。
でかしたプネヴマ。やはり、フィオナ様はこうでないといけない。
「ええと……澱んだ……魔力です。それが……魔王様にまとわり……ついて、すごいことに……なってます」
「へえ、呪いってそんな感じなんだ」
「感心してないで助けてくださ~い……」
フィオナ様は、ついに両手を地面につき落胆した様子でうずくまってしまった。
とりあえず、背中でもさすっておこう。
「あ……レイ様……。近づいたら、危険……かもしれません……」
あ、そっか。俺もこの呪いに巻き込まれる可能性があるのか。
……でもなあ。いいか。呪いくらい、フィオナ様と一緒に受けておこう。
「ほら、立ってください。魔王なら、呪い程度跳ね返すくらいの気概でいてくださいよ」
「いえ、今回はさすがに馬鹿な暴走をしたと反省していまして……」
「それはそうです」
「ですよねえ……。つい、熱くなってしまい……」
「まあ、宝箱の作り置きをした俺も悪いので、これからは都度作って一緒に開けていきましょう」
魔族以外に開けないように通達するだけでは、まだ抜け道があるかもしれないな……。
だが、宝箱がなければ、さすがのフィオナ様も無駄遣いなんてしないからな。
ある意味では、俺も学習していなかったといえよう。
玉座の魔力のときにそれを学べていたら、今回のようなことにはならなかったのだから。
「……あれ? 呪い……収まっていますね……」
「え、あれ? 本当ですね。数秒おきに岩が降るか、転ぶか、穴が開いて落ちるかしていましたが、収まっています」
波乱万丈ですね。
それでいて、怪我をするどころか服も体も汚れていないので、フィジカルで全部解決したんだろうなあ。この魔族。
呪いもたまったもんじゃないだろう。こんなのを相手にしていたんじゃ。
「つまり、許されたということですかね? いやあ、反省しているんですよ? 本当にすみませんでしたね」
呪いが解けたためか、フィオナ様もようやく調子を取り戻してきた。
影冠樹に向かって歩み寄り、幹に触れようとする。
そして、地面が急に陥没した。
「また!」
ああ、穴が開くってあんな感じなんだ。
どういう原理だ? 天井と同じか? 影冠樹がフィオナ様の周囲の魔力を吸い取り、その結果地面が維持できなくなって穴が開いたのか?
「澱んだ魔力とかいうのも、あの現象に関係しているの?」
「は、はい……。魔王様の周囲に……影冠樹が、澱んだ魔力……呪いを……まとわせ、その魔力が……魔王様の周囲の……様々なものの魔力を……吸って、います……」
「なるほど。それで魔力を失いすぎたものが、ああやって壊れているんだ」
「はい……」
「解呪とかってできるの?」
「ええと……。影冠樹に許してもらうのが……一番、早いです……」
呪っている相手に許しを請うのか。
たしかに、それが手っ取り早そうだな。
「ごめんなさい。ごめんなさい。もう、勝手に取りすぎませんから~」
だけど、あの様子ではそれも簡単ではなさそうだな。
フィオナ様の頭上に葉っぱがぱらぱらと落ちている。
その光景は、なんかもう呪いが効かないので、やけになって嫌がらせをしているようにも見えた。
ほんとごめんな。うちの魔王様が強すぎて呪いも全然堪えていなくて。
木の呪いかあ……。ご神木を切ったというわけではないが、それに近しいものから生命力を奪ったような所業だ。
ここはやはり、呪いを解くためのお祓いとかを……できる魔族はいないな。
あとは……そうか。
「鳥居でも作ります?」
もうちょっと、本格的に影冠樹を敬ったほうが良いのかもな。
本当に意思を持っている木なのだとしたら、俺たちがかつて住んでいた土地よりもはるかに呪いの強度は強そうだ。
というか、フィオナ様が無事だからわりと平和に思っているけれど、指向性がはっきりした呪いの時点でやばい。
「トリイ……?」
ああ、そっか。こっちにはないのか。
だとしたら、さすがのダンジョンマスターさんにも、そんなものは作れそうもないな。
「要するに、この木をもっとしっかりと祀りましょうか? ということです」
「なるほど……そうですね。ちょっと敬意が足りませんでしたね。すみません」
フィオナ様は再び影冠樹に頭を下げた。
そんなフィオナ様の態度に影冠樹もさすがに……。
「ですよね~」
呪いを以て答えるのだった。
もう完全に意思あるじゃん……。
「とりあえず、フィオナ様は影冠樹から離れたほうが良いかもしれませんね」
さすがに、こう何度も事故みたいなことが起きていたら危険かもしれない。
俺はフィオナ様を抱き寄せるように、影冠樹から引きはがした。
「怒られてますねえ……。なんなら、プリミラやダスカロスのお説教よりも堪えます」
「反省して、ちゃんと謝ってあげてください」
フィオナ様は、少し離れた位置から再び頭を下げていた。
……今度は何もないな。距離を取ったからか? それとも本当に許してもらえたのか?
「あ、あの……魔王様。レイ様」
「どうした? プネヴマ」
「呪いが……やわらいで……います」
「え、本当に? 良かったですね。フィオナ様。影冠樹が許してくれるみたいですよ」
「そ、そうですか。いえ、本当にすみません。さすがに反省しました」
フィオナ様は再び影冠樹に近寄り頭を下げ……えぇ? また落石だ。
俺は思わずプネヴマのほうを見ると、彼女は慌てて手を振って否定していた。
「ち、違うんです……。さっきまでは本当に……呪いが……やわらいで……いまして」
「さっきまでということは、今もまた?」
「はい……。最初と同じ……強さに……」
「許してくれませ~ん!」
「許してもらうまで、何度も通って謝りましょう」
駆け寄ってきたフィオナ様をなだめると、呪いは一旦落ち着いたようだった。
そういえば、俺たちには被害がないな。完全にフィオナ様が単独のときに狙うことで、周囲に影響がないようにしているのか。
「……あの、レイ様に……近づいたときだけ……呪いが弱まって……います」
「え? 俺だけ? 影冠樹が、フィオナ様以外を巻き込まないようにしているだけじゃないの?」
「いえ……ここに来るまで……私も巻き込まれ……そうでしたから……」
なんでだ? 俺と他の者たちの違いは……。
もしかして、俺がダンジョン魔力を大量に注いだから?
「……」
試しに影冠樹にダンジョン魔力を注ぐ。
どの道この木を放置するつもりもないし、ある程度は俺が魔力を与える予定だったからな。
さて、反応は……。
「プネヴマ。影冠樹の様子わかるか?」
「ええと……魔王様への呪いは……やわらいでいます……」
なるほど、つまり腹が減って気が立っているのか?
ということであれば、魔力を注いでしまうとしよう。
◇
「すみません。到着が遅れました」
影冠樹を治そうとしていると、プリミラもこちらに来たみたいだ。
両手にはなにか薬のような物を持っているな。
「何か準備をしていたのか?」
「はい。ピルカヤ様に影冠樹の姿は見せてもらったので、こうして魔力補給の準備をしていました」
「ってことは、それも魔力回復薬?」
「はい。それに植物の成長を促すエキス等を混ぜております」
それで色が違うのか。
それなら、しっかりと効果がありそうだな。
「ですが、すでにレイ様が解決してくださっていたようですね。お手数をおかけしました」
「いや、適当に魔力を注いだだけだから、ちゃんとした方法があるなら、そっちに任せておきたい」
「では、こちらの薬も与えましょう」
そうしてプリミラが木の幹に薬をかけると、心なしか影冠樹の魔力が穏やかで温かいものへ変わったような気がする。
機嫌は直ったかな? フィオナ様のほうも今のところは呪いに襲われている様子もないし、きっと大丈夫なはず。
「それにしても、影冠樹はレイ様に懐いていますね」
「え、モンスターとかならわかるけど、影冠樹まで?」
「はい。そのおかげで魔王様への怒りも鎮め、こうして周囲に危害を及ぼさなくなったようです」
そういうものなのかな?
だとしたら、これからもせいぜい飢えさせないように魔力を注いであげるとするか。
俺の主人があれだからな……。その不始末は部下の俺がフォローせねば。
「まあ、フィオナ様が何かしでかして大変だろうけど、これからもよろしくな」
幹に触れながら話しかけると、影冠樹は葉を揺らして答えてくれたような気がした。




