第595話 体温を分け合いたいお年頃
「さすがは、テクニティスさんとカールさんたちです!」
「まあ、このくらいなら魔力も使ってないからな」
「ラプティキさんたちもすごいです!」
「レイさんに部下を蘇生してもらえたし、防寒具くらいなら簡単よ」
時任がぴょんぴょんと喜んでいる。
あいつ、たまにウサギらしさをみせるよなあ。
ともあれ、これでスキーの道具と衣装も準備できた。
リフト代わりに、魔力で動く移動床も設置したし、問題なく遊べることだろう。
「ふむふむ……。要するに、この板で坂を下れば良いんですね」
「そうですね。うまく速く滑ることを楽しんでください」
「私の方が速いぞ」
「あ、私もですね」
「じゃあ、速さよりもうまく滑ることを楽しんでください」
これだから、うちのフィジカルエリートたちは。
そりゃあ、フィオナ様やリピアネムが走ったほうが速いだろうけど、せっかく道具を作ってもらったのだから、そっちで楽しんでもらわないと。
「ボク、寒いからここにいるね」
「まあ、それも雪遊びの一つだから良いんだろうけど」
スキーやスノーボードで楽しむつもりがないものたちは、かまくらや雪だるまを作っている。
ピルカヤもそのうちの一人のようで、かまくらの中に入ってゆったりとくつろいでいた。
内部から熱で溶けないあたり、うまくコントロールしているんだろうな。
なんだかとても暖かそうだ。
とりあえず、俺も一度滑って下までいってみるか。
なんせ、坂道と雪を組み合わせただけだから、コースとしては初心者用もいいところだ。
ここから調整するためには、実際に体感してみないといけない。
「こぶ付きのコースを考えると、やはり岩を……」
あるいはもっと急勾配なコースのほうが良いかもしれない。
隣を見ても、すでにすいすいと滑っていく者たちばかりだし、魔王軍の住人たちの身体能力を考えると、このコースではすぐに飽きてしまうだろう。
「なるほど、だいたいわかりました」
「プリミラも簡単に滑っているな」
「はい。今は、いかに速度を出すかに挑戦しています」
となると、やはり傾斜を増やすべきだな。
坂道の角度を調整すれば、そのあたりは比較的容易に実現できるだろう。
そして、道の途中に岩を配置しておけば、ちょうどいい凸凹も再現できる。
「ん? なんだあれ」
そんなことを考えていると、銀色の円盤が高速で滑り落ちてくる。
この色、どこかで見た覚えがあるな……。
「あ~。滑った滑った」
「リグマか」
リグマはスライムの姿に戻り、目一杯体を薄くしてから、そのまま滑り落ちたらしい。
こいつ、遊ぶ時まで楽している……。
「なるほど、その手が」
「いや、プリミラには無理だよな?」
感心しているが、リグマの真似をできる者なんて他にいないだろ。
そう思っていると、プリミラは円盤状になったリグマを掴み、リフトへと向かっていった。
「リグマ様、乗せてください」
「え、テクニティスが用意した板があるでしょ? プリミラ? プリミラさん!?」
「リグマ様の方が速そうです」
「まじか~……。ま、良いけど」
頂上までたどり着いたプリミラは、重さがあればよりスピードが出ると判断したのか、いつもの大槌を構えてリグマに乗っていた。
……重そうだな。頑張れリグマ。
◇
「それにしても、ゴブリンたちは器用だな」
前々から思っていたが、あいつら下手な人間よりよほど器用だ。
ステータスを見る限りでは、そこまで器用そうに見えないんだけどなあ。
やっぱり、このステータスの値って、主に戦闘に関する力の可視化なんだろうか。
そうでなければ、あんなにすいすいとスキーを楽しむゴブリンのステータスが低いのは納得できない。
「お前たちは、さすがにゴブリンたちみたいにはいかないか」
ソウルイーターやケルベロスは、雪で楽しむこともなくいつもと同じく俺にじゃれついてきている。
このサイズと形状だと、スキーなんてできないだろうからなあ。
なら、この子たちのために、しばらく休憩がてら遊んであげよう。
「なんで、真っ先にあなたが抱きついてくるんですか」
「スキー自体は楽しめましたが、レイが隣にいないのはマイナスポイントです!」
「まあ、わりと個人で楽しむものですからね」
「なので、こうしてレイに抱きつけるときに抱きついておこうと思ったわけです。あ、みんなの邪魔をする気はないので、私に気にせずにどうぞ」
後ろからフィオナ様、前からモンスターたちに抱きつかれる。
これ、見る人が見れば、魔王が羽交い絞めにしてモンスターたちに襲わせているように見えそうだなあ。
実際は、前も後ろも柔らかいんだけど。
ケルベロス……。寒い場所だからか、いつも以上にふかふかと温かい気がする。
逆にソウルイーターは、ひんやりと冷え込んでいて少し心配になってきた。
「おや、寒いからおしくらまんじゅうですね!」
「いや、寒くなくても定期的に似たようなことになる」
最終的には、スキーよりもみんなで固まってぽかぽかとすることを優先したらしい。
うちのモンスターたちとフィオナ様は、俺に引っ付いたまま遊ぶのをやめてしまった。
スキー場を作った意味……。まあ、楽しんでいる者たちもいるから良いか。
◇
「氷も侮れませんね」
「氷というか雪ですけどね」
「そうでした。雪も侮れませんね」
「そもそも、あなた途中から俺に引っ付いて、遊ぶのやめていたじゃないですか」
「いつもより、レイがあったかかったです」
「そうですか」
フィオナ様はフィオナ様で楽しんでいたらしい。
……楽しんでいたと言って良いのかわからないが、まあ気にしないほうが良いな。
「氷といえば攻撃という印象が強かったので、氷で遊ぶのがなかなか面白かったのは本当ですよ?」
「物騒ですねえ」
「人類と戦っていましたからね」
「というと、氷を使う敵が……。ああ、リウィナですか?」
「ええ、なかなか厄介ですよ。寒さで動きが制限される者もいましたからね」
たしかに、体温を奪われると身体能力の機能が低下しそうだな。
魔族であっても、そこは変わらないらしい。
「ドリュとか急に動けなくなって、そのまま殺されそうになってたわよね」
「あれは、本当に焦った。痛みとかを感じないせいで、気付いたら急に動けなかったからな」
なるほど……。気付きにくいというのが良いな。
うちの罠も、気付いたときには手遅れみたいにしたい。
「以前と違って、今来られると非常に厄介な相手になるでしょうね」
「やっぱり、今の地底魔界では、以前と比べて守りが薄いか?」
「いえ。レイ様が作られているダンジョンは、すでに非常に頼れる場所となっております」
だとしたら、以前と違うというのはどういう意味だろう。
そんな俺の疑問を察したのか、プリミラはそれに答えるように話を続けてくれた。
「今リウィナに攻められると、私の畑と植物園が寒さで全滅する可能性が……」
「なるほど。それは脅威だ」
寒さ対策として、ピルカヤを置いておくか?
いや、彼は見張りの仕事が忙しいし、あまり負担をかけたくない。
テクニティスは……同じく、開発の仕事が忙しいな。
「よし、プリミラの畑と植物園に、火の球の罠を仕掛けておこう」
「レイ様!?」
そうすれば、リウィナの攻撃で温度が下がったとしても、多少温かくなるはずだ。
さっそく、畑と植物園に行って……なんか、プリミラが袖をつかんで離してくれない。
「お気持ちだけで大丈夫です」
「そうか? 遠慮しなくても」
「お気持ちだけで大丈夫です」
俺が諦めるまで、プリミラは俺の袖をつかんだまま離すことはなかった。
遠慮しがちだなあ。もっと俺をこき使ってくれて良いのに。




