第594話 喜び駆け回るあなたは兎
「さて、今日も色々と試してみるか」
「お前のその言葉を聞いただけで、嫌な予感しかしねえんだけどぉ……」
「大丈夫。今日はそういうのじゃないから」
「そ、そうかぁ?」
今日の色々とは、罠やモンスターの適切な組み合わせのことではない。
目指しているのは、あくまでもダンジョンマスターさんとの対話だ。
なので、彼女に色々と聞きながら、再びあの声を聞いてみたいと考えている。
ということで、ダンジョンマスターさん。
ここはひとつ、岩を超強化した罠とか作れませんか?
……惜しくはなっているんだよなあ。思念のようなものは、もうかなりの頻度で感じ取れているし。
ただ、残念なのが無理という反応だったということくらいか。
「岩の強化は無理そうか……」
「お前ぇ! さっき、大丈夫って言ったの嘘だったのかよぉ!?」
「大丈夫。今日はそういうのじゃないから」
「さっき同じセリフ聞いたからなぁ!?」
もしかして、アナンタが否定的だから、ダンジョンマスターさんが委縮しているのでは?
大丈夫、アナンタなら最悪なんとかなるから。
だから、ダンジョンマスターさんは、気にせずのびのびと力を発揮してくれても……。
あ、無理そうですか。
「岩の強化は、まだ無理そうだ」
「だろうなぁ。え、まだ? いつかは強化する気なの?」
「四天王にダメージを与えるくらいを目標としたい」
「四天王の分体である俺には、すでに大ダメージを与えているけどなぁ!」
なんと、作る前からダメージを与えるまでに昇華したのか、俺の岩は。
ダンジョンマスターさん、これって……。
そうですか。無関係ですか。じゃあ、アナンタの気のせいだな。
◇
「まだ無理か……」
「お前の執念が怖いよ……」
残念ながら、まだまだダンジョンマスターさんとの対話は難しいようだ。
だが、今日もたくさん話しかけることはできた。
そして、思念らしきものを返してもらえた。
なら、この行為もきっと無駄ではない。これからも、毎日続けていくよう心がけよう。
「あ、レイさんとアナンタさん。お仕事帰りですか?」
「こいつの奇行を監視してたところだぁ」
「岩の可能性を追及していた」
「レイさん、岩好きですよね~」
無骨な感じが良いよな。それにコストパフォーマンスも良いし、今ではバリエーションも豊富だ。
火の球と岩は初期の罠なので、どうしても使い勝手が良いのだ。
「まあ、今回はうまくいかなかったけどな」
「レイさんでも、そういうことってあるんですねえ」
「むしろ俺は、基本的にトライアンドエラーを繰り返すタイプだ」
だから失敗しても別に良い。
何度も試せば、いずれ成功するだろうからな。
「つまり、無茶なお願いでも聞いてくれるということですね!」
「叶えられるかは別だけどな」
だから、そんな期待した目で見ないでくれ。
今度は何を思い付いたんだ。こいつ。
最近の時任の要望は、どんどんとんでもないスケールになっているからな。
「え~と、カラオケ、遊園地」
ほらみろ。すでに不穏な施設が口にされている。
無理だからな。試すことは試すけど、成功するビジョンが見えないからな。
「あ、スキー場とかどうですか? 冬ですし」
「ほう……」
スキー場。坂道は作れる。氷の床は作れる。
そこから雪に派生させれば、なんとかなるか?
少なくとも、先の二つよりは突破口がありそうな選択肢だ。
どうですか? ダンジョンマスターさん。
スキー場ってできますか? ……なんかいけそうだな。
「芹香、あまり無茶言っちゃ駄目でしょ。レイさんが困ってるじゃない」
「大丈夫! レイさんすごいから!」
「とりあえず、色々と試してみるか」
「ほら!」
「すみません。芹香が無茶ぶりをして……」
試すだけなら俺の魔力が減るだけだからな。
時任の無茶な要求を気にしていないとわかったためか、奥居はほっと安心した様子で息をついていた。
アナンタは、なんかもっと安心していた。
こういう施設を作る分には、アナンタって口うるさくないからなあ。
◇
「おや、今回のダンジョンは坂道ですか。氷の道でもありますし、登りにくそうですねえ」
「いえ、新しい施設を作ろうとしています」
「……アスレチックですか?」
「スキー場です」
たしかに、今の状態ならダンジョンをフルに使ったアスレチックみたいだ。
楽しめるのは、オーガやリピアネムみたいなパワータイプだけだろう。
しかし、雪がうまくいかないんだよなあ。
「天候を自在に操れるようになりたいです」
「わりととんでもない要求してるよね。レイくん」
「いえ、レイ様が太陽と雨さえも操れるようになれば、私の畑もさらに理想に近づけます」
「プリミラさん、畑に関しては理想高いよねぇ」
「風なら私が操れるぞ。頑張れば竜巻もいけるはずだ」
「けっこうです」
ごめんプリミラ。太陽と雨のことは全く考えていない。
今は、あくまでも雪をコントロールする方法を模索中だ。
ええと、今の氷だと大きすぎるのが問題か? なら、もっと小さい氷を作ってみるか。
そもそも、ベースとなるのが氷の床と氷の壁なのも問題だよな。もっと、雪っぽい形の何かを……。
「よし、氷の岩を作ろう」
「え、誰かを潰して凍らせて殺すの?」
「さすがレイ様です! 異なる攻撃方法で、敵を苦しめるんですね!」
違う。そうじゃないんだ。
まずは巨大な丸い氷を作って、それを小さくすれば氷の結晶みたいになるかと思っただけなんだ。
だからアナンタ、そんな目で俺を見るな。
氷岩作成:消費魔力 10
そうこうしているうちに、ダンジョンマスターさんは新たなメニューを提示してくれた。
そうそう、こういうのから進めていきたかったんだ。さすがはダンジョンマスターさんだ。今日も頼りになる。
「無言で氷の岩を落としてるよ。アナンタへの抗議じゃない?」
「お、俺かぁ!? 俺、悪くないだろ。今のは!」
岩のサイズはいつもと同じ。標準サイズの人間を潰せるくらいだな。
そして予想通り、岩という名前だけど完全に氷そのものだ。
氷岩というよりは氷塊。岩という名前なのは、俺への配慮だろうか?
ともあれ、これならば大きさを変更してしまえば、ただの氷になるよな。
「飲み物に使えそう。レイくんって、便利だね~」
使えなくはないと思うけど、たぶんコスパは悪いと思う。
マギレマさんが望むほど、これは便利に使えないだろうな。
ただ、まだ大きい。コップに入れるていどのサイズにはなったが、これよりさらに極小の氷を作らないと。
「あ、雪!」
「いけそうか」
時任の嬉しそうな声とともに、小さな氷の塊が雪のように降ってきた。
そしてここまでくればなんとなくわかる。
確信を持ってメニューを見ると、そこにはやはり一つの項目が追加されていた。
人工雪作成:消費魔力 8
氷岩よりも消費魔力がやや少ないな。
小さくしたことで、魔力効率が上がったか?
それにしてはわずかにしか減っていないが、これは量がその分増えているからだろうな。
試しに選択してみると、大方の予想通りに雪が降り始めた。
「あとは、坂道と人工雪を組み合わせれば、スキー場に……」
スキー場作成:消費魔力 60
コストはだいぶ重いが、まあ仕方ないだろう。
試しに生成してみると、人工海同様にかなりの広さの施設が出来上がった。
これだけの施設なのだから、そりゃあ魔力も食うよな。
「レイさんすごい! よし、さっそくスキーで遊びましょう!」
時任がはしゃぎながら雪山を駆けていく。
だけど、あいつ一つ大事なことを忘れていないか?
時任は雪山を登り切ってから、それに気が付いたらしくきょろきょろと周りを見ている。
「ス、スキー板もストックもありません!」
「だろうな」
俺が作ったのはあくまでもスキー場だけだ。
そこで遊ぶための道具はまだ何もない。というか、さっさと戻ってこないと風邪ひくぞ。
なんせ、防寒具さえないのだから。
「う~……雪だるまでも作って遊びます」
「めげないな、お前」
時任がハルカと一緒に雪だるまを作って満足しているうちに、今後はスキー用品も準備しないとなあ。
それに、リフトもなければ遊ぶのにも一苦労だ。
テクニティス班には、思う存分働いてもらうとしよう。




