第584話 魔界に君臨する二首の竜
「ほう、黒幕がいると」
「あくまでも、そうかもしれないという話です。ですが、いくらなんでも、変異したモンスターたちが多すぎます」
そうなのか?
そもそも変異したモンスターとはいうが、うちには似たようなモンスターがもっといるぞ。
だが、地底魔界以外では異常事態ということらしい。
「ふむ……。では、これも焼け石に水ということか」
俺は、足元に転がるモンスターたちの死体を見つめた。
そうか。お前たちも、何者かに利用されている被害者だったか……。
こいつらとは、正義も悪もない戦いの末に勝利したと思っていた。
だが、そこに何者かの悪意が含まれていたというのであれば、俺が討つべきはその何者かということになる。
「ですが、ナルカミ様たちがいなければ、この村も大きな被害に遭っていました」
「今回は、間に合ったということだな!」
「はい。さすがはひーろーです」
それがせめてもの救いか。
とはいえ、モンスターたちは今後も無尽蔵に襲ってくるだろう。
それも本人たちの意思ではなく、何者かに凶暴化させられてだ。
いかん! ヒーローとして、その何者かを倒すことは必要不可欠だろう!
「よし、黒幕の居場所を教えてくれ。アルメナ!」
「い、いえ。私もわかりませんし、そもそも本当に黒幕がいるか証拠もありません」
「なに? お前の言葉だ。俺はお前を信じているぞ。アルメナ」
「あ、ありがとうございます」
だが、俺たちでは下手人を見つけることはできないか……。
であれば、俺たち以外を頼れば良い。なんだ、簡単な話ではないか。
「作戦タイムだ。少し一人にさせてくれ」
「わかりました。では、私たちは退室を」
「いや、俺が出ていく!」
シリウスフォルムに変身し、村の一軒家から外に出る。
その勢いで、ひと際大きな木に登ってしまえば、周囲に会話の声は漏れないな。
よし、では頼ろう。
「ピルカヤ様。宰相様につないでくれ」
枝の先に火をつけると、炎は木に燃え広がるよりも早く、木から離れて俺の前に漂った。
よし。ピルカヤ様の分体になったな。
「なんかあったの?」
「モンスターの騒動には首謀者がいるらしい。俺には見当がつかんから、知恵を貸してくれ」
「ふ~ん。じゃあ、呼んでみるよ」
そうして燃え盛っていた炎が弱々しいものへと変化した。
だが消えたわけではない。単にピルカヤ様の意識が離れたというだけだろう。
その証拠に、戻ってきたら再び炎は強く輝いたからな。
「はい。レイには伝えるから、話していいよ」
「うむ。アルメナの話では、変異したモンスターの数が多すぎる。頻度もだ。ということで、何者かが操っている可能性を疑っている」
「黒幕の見当は? だって」
「ない! だから助けてくれ。俺は誰を倒せば良いんだ?」
「うん。でもまあ無理だと思うよ。うん。やってみる~」
ピルカヤ様が独り言を返しているが、これは俺にではなく宰相様と話しているのだろう。
しばらく会話をしてから、ピルカヤ様の声はこちらにも向けられた。
「ちょっと探ってみるよ。でも、きっと無理だと思う。ボクが見落としているというよりは、どうせボクの対策をしてこそこそしているだろうからね」
「む……。だとすると、やはり敵を探し出すのは難しいか」
「敵自体の目星はついてるよ」
「なに!? さすがはピルカヤ様だ」
「あ、こんな場所でそんな風に前のめりになったら」
「ぬおっ!? おお~!!?」
落下したが問題ない。ヒーローとは、高いところからの着地も完璧にこなすものだからな!
◇
「黒幕がいるとしたら、ドワーフかエルフだな」
「ああ。モンスターの被害に遭っていない国は、その二種族だからな」
「ただ、ドワーフたちの場合、そもそも住処が堅牢だから、モンスターに襲撃されにくいだけだと思う」
村というよりは一つに国でまとまって暮らしているし、その国自体が堅固に守られている。
本人たちは戦うのが不得手かもしれないが、そういう防衛手段はしっかりと用意しているのだ。
それに比べてエルフたちはどうか。
たしかに、ロマーナたちのように戦える者たちも少なくない。
だが、拠点が守られているといっても、あくまでも重要な拠点に結界を張っているくらいだ。
であれば、被害がゼロというのはおかしい。
「もしかしたら、エルフのせいにするために、あえてエルフを襲わせていない可能性もあるけれど、一応疑ってもいいよな?」
「そうだな。それにエルフならば、ピルカヤの対策も比較的容易に行える」
状況証拠にすぎないが、まずはエルフのしわざと疑って探ってみるとするか。
「ピルカヤ」
「別に良いけど、ボクが探してもこそこそと隠れちゃうと思うよ?」
「ああ。だから、ピルカヤの存在はばれないように、それでいてエルフたちが警戒するように探してくれ」
「難しいこと言うねぇ。ま、ボク優秀だからできるけど」
そう言い残してピルカヤが去ると、炎の揺らぎは安定して声を発さなくなった。
まあ、あいつのことだから上手くやるだろうな。
探せなくても警戒してもらえばそれで良い。ただし、本当にピルカヤがいるとバレてはいけない。
「ピルカヤに探させるか?」
「それで発見できるのが一番だけど、せっかくだから、蘇生した子たちにもしっかりと働いてもらおう」
魔王軍は、何もピルカヤだけに頼って情報を収集していたわけではない。
彼らもまた、優秀な偵察部隊なのだから、これを活かさない手はないだろう。
「イピレティス。部下と一緒に探ってくれるか?」
「は~い。その間の護衛はどうします?」
「適当にフィオナ様に引っ付いておく」
「あはは。それなら世界一安全ですね~」
そもそも俺は外に出ないから、むしろ鳴神やピルカヤやイピレティスたちのほうが心配なくらいだ。
だけど、俺よりはずっと強いやつばかりなので、きっと上手くやってくれることだろう。
「じゃあ行くよ~。みんな~。魔王軍兎部隊しゅっぱ~つ!」
「は~い」
なんか、随分と気軽に出ていくなあ。
そもそも、兎部隊というわりには、ウサギ以外の魔族も多いし。
兎部隊と言われたせいで、時任がついていこうとしているけど、君には無理だからやめておきなさいね。
というか、兎部隊にせよ選択肢にせよ、誰か止めてあげてくれ。
「ところで、黒幕とやらが本当にいるとして、見つけたらどうするんだ?」
「モンスターを強化できるのなら、うちに勧誘かな」
「抵抗するようなら?」
「迷惑だから殺したほうが良いと思う」
「ああ、それが良い。エルフだとしたら、素直に従わない者も多いだろう。ロマーナのようなエルフばかりではないからな」
「だよなあ」
クララがものすごい勢いで悪口言うような相手だし、今のところロマーナの部隊以外は他種族を見下していた。
モンスターで他種族に損害を与えていることからも、きっとエルフ至上主義のようなやつらのしわざなのだろう。
となると、やはりイピレティスたちに任せて正解だったのかもしれない。
「ふむ。レイもなかなか部下の采配が上手くなってきましたねえ」
「聞いていたんですか」
「私と一緒にいたい、と言っていたところから聞いていました!」
「じゃあ、何も聞いていないってことですね」
だって、そんな発言した覚えないし。
「なにをぅ!? イピレティスが不在の今、あなたを守れるのは私だけですよ!?」
「じゃあ、ダスカロスに頼むんで」
「私を頼ってほしいんです~!」
すごい。
守る側が駄々をこねているとか、どういう状況なんだ。
俺と目が合ったダスカロスは、フィオナ様のほうに目で促すとそのまま立ち去ってしまった。
ええ……。相手をしろってこと?
まあいいか。元々フィオナ様に引っ付く予定だったし、ピルカヤやイピレティスの報告も後になるだろうからな。
「仕方ない。守られてあげますよ」
「わかれば良いのです!」
「ねえねえ江梨子ちゃん。レイさんと魔王様って、どっちが主でどっちが従なんだっけ?」
「難しいのよ。あのお二人は」
取り残された転生者組には、思う存分情けない姿を見られているのは良いとして、時任の疑問は俺にも答えがわからないな……。




