第582話 きっと親より甘やかす魔の者たち
「やはり、お前の仲間もまた優秀か」
「まあな」
「勧誘したい」
「やめてくれ。作ったばかりのレース場が無意味になる」
「であろうな。では仕方ない。まずは楽しませてもらうとしよう」
とはいえ、すでに結果はわかっている。
俺がカジノに訪れたときには、すでに盛況の声が耳に届いたからな。
モンスターたちを手懐けて、それを戦力にするのではなくレースに使うか。
つくづく、転生者が俺たちとは別の存在なのだと思い知る。
戦いから遠い者たちの発想だ。争いというものに、これまで縁がなかったかのような平和な発想。
だが、俺はそれを嫌っていない。
この世界の成人たちならば、誰もがモンスターや他種族や魔王軍の脅威に怯えている。
常に戦闘は頭の片隅にある。戦える、戦えないなど無関係に。
「女神は、全てが終わった後の平和な世界にこそ、転生者を送り込むべきだった」
いや、そもそも平和な世を作るための転生者だとはわかっている。
だが、それにしては戦いとは無縁の者ばかりか……。
申し訳なくなる。俺たちが不甲斐ないせいで、異世界の者に迷惑をかけているのだからな。
「俺の国に招くよりも、ここにいるほうが安全なのかもしれんな」
……ええい、やめだ!
今の俺はただのリズワンだ。王として考えるのは玉座の上だけで良い。
「さて、さすがに別室とは言っていたが、こうもたやすくダンジョンを拡張できるのも、やはりとんでもないな」
おそらくはロペスたちの仲間の一人の力だろう。
つくづく平和に力を使うもので感心する。
その結果が、これか……。
「またダンジョンクロウラーかよ!」
「転がったら曲がれないって言ったの誰だよ!」
「曲がれなかったじゃねえか!」
「最後の直線で転がるんだから、曲がれなくても関係ないだろ!」
なんというか、カジノとは別の熱気だな。
大声で叫ぶ者たちばかりで、実に活気があり賑やかだ。
賭け札を捨てている者がいるが、さすがにあれはマナーが悪くないか?
……いや、周囲の者たちも、それどころか従業員らしき者たちも、誰も咎めてはいない。
であれば、あれがここでのルールなのだろう。
「ここにもスクリーンか……」
魔導映写館ほどの大きさではないが、魔力による映像はここにも採用されていた。
次のレースの出場モンスターや、それらのステータスが記載されており、賭けた際の倍率までもが一目でわかる。
なるほど、あれは便利だ。
どれ、次のレースの出場モンスターは……。
「ゴブリンソルジャー。グレムリン。ピクシー……」
やはり、低位モンスターばかりだな。
だから戦いに利用しなかった。というわけではないのだろう。
彼らはきっと上位モンスターを使役できたとしても、こうして興行のためにモンスターを使ったに違いない。
さて、ならば楽しませてもらおう。俺が賭けるべきは……。
◇
「あの魔道具は反則ではないか!?」
「残念だったな、旦那。グレムリンたちを甘く見たのが敗因だ」
リズワンの旦那は、すっかりとモンスターレースにもハマってくれたらしい。
まあ、なんとなく予想はついていた。
しっかりと負けるのも予想通りだが、そのうちまたドカンと勝つんだろうなあ。
「グレムリン……。まさか、あそこまで技術力が高いとは」
「魔力を噴出してとんでもない速度になっていたな」
あいつら、有能なくせにいたずらにしか能力を使わねえんだよなあ。
ボスに指示されれば従うけど、それ以外ではいたずら第一だ。
だから、今回のレースもいたずらの範疇なのだろう。
自分たちの掛け率が低いのを見て、客たちに嫌がらせをするために本気で挑んだってわけだ。
「くそぉ……。グレムリン、優秀じゃないか。勧誘するか?」
「見境なしだな。王様」
「有能ならば誰でも歓迎だ……いや、誰でもとは言えんか」
その唯一の例外は、きっと魔族だな。あるいは魔王軍か。
まあいいさ。いずれ王様と敵対することになるかもしれないが、今はうちの太客だ。
しっかりと俺たちのために、金を払っていってくれ。
◇
「モンスターレースは、今のところ盛況だな」
「盛況というか、熱狂って感じですねえ」
前の世界の競技を思い出す。
カジノはわりと静かに楽しんでいたが、モンスターレースは力の限り楽しんでいるって感じだな。
みんなストレスを発散しているんだろうか?
「私もやってみますか!」
「泣き叫ぶことになりそうですね」
「わ、私にいったい何が待ち受けているのでしょうか……」
単に悲しみが待ち受けているだけです。
だいたい、あなたはもっと静かに楽しむほうが好きでしょうが。
お茶会とか読書とか、どちらかというとおしとやかな趣味が……。
本人はおしとやかじゃないけどな。
「馬鹿にしました?」
「馬鹿にしました」
「せめて誤魔化そうとか考えないんですか!?」
だって、誤魔化すだけ時間の無駄じゃないですか。
頭をこすりつけてこないでください。マーキングじゃあるまいし。
「ところで、あの従業員たちは、ナルカミが連れてきた者たちですね?」
「ええ。賭け札が捨てられるので掃除したり、食べ物の露店の店員をしてもらったりしています」
「食べ物」
「お腹すきましたか?」
「ち、違いますよ? 食い意地が張っているとかではなく、ああいう場所での買い食いって、なんというか別じゃないですか!」
「まあ、わからなくはないですけど」
俺の言葉にフィオナ様はほっと胸をなでおろした。
空腹とかではなく、なんとなく食べてみたいっていうのはわかる。
まして、仕込みはマギレマさんや彼女の部下たちが行っているのだ。
そんじょそこらの露店の食べ物とはわけが違う。
当然、レース場の客たちも大いに利用してくれているため、こちらはこちらで良い稼ぎになりそうだな。
「……」
よし、その考えは今度で良い。
今は隣でぐーぐーとお腹を鳴らしている魔王様のためにも、食堂に向かうとしよう。
「ち、違うんですけど~!?」
「いえ、鳴ってますから」
「こういうときは聞こえなかった振りをするのが、男の甲斐性じゃないんですかねえ!」
「部下としては、空腹の魔王様のために食事にするほうを優先しました」
「ぐう……」
今のはお腹の音ではなく、ぐうの音だ。
そもそも、隣でぐーぐーとお腹が鳴らされている俺の身にもなってください。
「こ、こんなもの押さえておけば、ほら!」
「余計になりましたね」
「う~……」
「なんですかその目は」
「手伝いなさい」
「え~……」
手伝えって言われても……。お腹を押さえるのを?
さすがにそれはと思っていると、フィオナ様は俺の手をつかんで自分のお腹にあててきた。
……うわあ。ぐーぐーいうたびに振動が伝わる。
「もっと押し込んだら」
「駄目ですねえ」
いっそなでてあげよう。
「きゃっ! さ、触り方がやらしかったです!」
「そんなこと言うなら、もう触りませんけど!」
「い、いえ続けなさい!」
あ、これまたムキになっている。
変なところで負けず嫌いなんだよなあ。この魔王様は。
仕方ない。無心で魔王様のお腹を触り続けるとするか……。
◇
「ということが……あったの」
「なるほど、それで気絶したんですね」
「魔王様のお腹を……愛しそうにさするレイ様……」
「……もしかして、ついにお世継ぎが?」
「それは本当ですか?」
「え、魔王様とレイくんついに?」
「ふむ……魔王様とレイの子か。役割を考えると、やはり私が教育を」
「ずるいぞ。ダスカロス」
◇
……なんか、後日フィオナ様に子供ができたとかいう噂が流れていた。
魔王軍、もしかしてそんな噂を流すほどに暇なのか?




