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アケルに戻った私は、ジェイダさんと相談しながら、私にできる事、やりたい事を企画書にして上に提出した。
私にできる事、やりたい事とは、結婚をする二人に祝福の歌を贈る事だ。
ショーンさんとソフィの結婚パーティーの時に味わった、あの場の祝福の空気、みんなが「おめでとう!」と言ってくれる、あの思い。
おめでとうと言われる人も言う人も、嬉しい気持ちになって、私はずっと忘れていた事を思い出した。
ウィルのママさんが病気で弱っている時に、少しでも元気になってもらいたくて歌った事。
ママさんを心配して元気のないウィルのために歌った事。
二人は私の歌を聞いて少し元気になってくれた事。
私は歌を仕事にするとなった時、私の歌で元気になったり楽しくなったり、そうできたらいいなぁと思ったんだった。
この世界には挙式披露宴というものはない。
結婚は教会に届け出をするだけで終了。それがこの大陸で共通している一般的な結婚だ。
みんなそれになんの不満もないし、当たり前の事なんだけど、一生に一度、愛する人と結ばれる日に祝福されてもいいじゃない?
祝福は一番のお祝いになると思う。
そして私には、それを贈れる歌がある。
そんなこの企画、結果からいうと通った♪
大陸の北にある小国のアケルは、あまり豊かな国とは言えない。
この世界にも国別幸福度ランキングなんてもんがあったなら、アケルは下位かもしれない。
宮廷は私の歌を、国民からの好感度を上げるのによさそうだと判断したらしい。
国の祭事は優先という事で、それ以外は日を決めて王都で三ヶ所~四ヶ所の教会を巡る事になった。
もともと私は月の半分以上閑職だったからねぇ。(笑)
教会で結婚する二人のために祝福の歌を歌うようになって一年ほどが経った頃、ショーンさんとソフィのあの結婚パーティーが、吟遊詩人によって大陸中に広がっていた。
アケルでも、その夢のような物語は大流行になっている。
私がその時の歌姫と知られているから、教会での仕事はますます増えていったよ。
結婚する二人を祝福する以外にも、私は生まれた赤ちゃんを祝福する事も始めた。
教会って、結婚の届け出もそうだけど、出生届とか、死亡届とか、戸籍を管理しているんだよ。
教会で歌っていると、そういった届け出をする人にも会うようになる。
結婚はめでたい!赤ちゃんの誕生もめでたい!
おめでたい事は祝福しよう♪
生まれたての赤ちゃんは教会に来られないから、私がその家に行く。
誕生の祝福と、健康に育つよう願いを込めて元気な歌を歌う。
これもすこぶる好評だった。
国民からの好感度がますます上がるから、宮廷も魔法省もほくほくだ。
もっと出来る事はないかな。
後はどんなお祝い事があるだろう?
そんな風に考えていたある日、ガツンと殴られたような衝撃を受けた。
その日も、教会で若い二人の結婚を祝福していた。
歌い終わるのを待っていたように、小さな声に話しかけられる。
「歌姫さま、どうかおねがいです。わたしのお母さんのために歌ってください」
見ると泣きはらした顔の、十歳くらいの女の子がいた。
「あなたひとり?泣いているけど、どうしたの?」
小さな女の子の目線に合わせてしゃがんで話しかけると、女の子は真っ赤な目から大粒の涙を零して言った。
「わたしのお母さんがなくなりました。歌姫さま、なくなった人のためにも歌ってくれますか?」
歌は…
祝い事だけじゃなかったよね。
哀しみを癒すためにもあるじゃない。
私はママさんが亡くなった時に、ウィルに歌った事を思い出した。
「もちろん!お母さんのところに案内してくれる?」
やりきったなぁ…。
私は今までの人生を振り返る。
まだまだ歌の可能性はあったかもしれないけど、頼みのジェイダさんはお先に逝かれてしまったし、私は私にできる事を精一杯やった!
仕事以外もめいっぱい楽しんだしね!
ウィルと結婚をして、息子と娘を授かって、家族仲よく幸せな毎日を過ごした。
憧れのウエディングドレスも着たしね♪
優愛たちとの友情も続いて、結婚パーティー以外にも、元の世界の楽しいイベントをたくさん企画したり♪
リアンもエレナ様もずっと仲睦まじいままだ。
驚いた事に、二人は今でも騎士を続けている。さすが半獣人。(私もだけど)
残念だったのは、ミアの花嫁姿が見られなかった事だ。
ミアは生涯独身を貫いてアケルの農業に人生を捧げた。
本人は、そんな大層なもんじゃないと言っていたけど、この五十年で農作物の生産量は二倍から三倍は増えたんだよ!
すごい事だよ!私の妹偉い!!
研究はどこででもできると言って、老いた両親と一緒に暮らしてくれたしね。
おかげで私もリアンも心配しないで自分の仕事ができた。
ありがとう、ミア。
だから、いよいよとなった今は、ミアとベッドを並べている。
物思いから戻って、私はひとつ息をついた。
さて、最後の時がきたようだ。
私は娘に呼びかけた。
「メリッサ、私がいなくなったら大変と思うけど父さんを頼むわね」
「大丈夫よ。母さんが亡くなったら、きっとすぐに父さんは後を追うから!」
「そうだ、サラに淋しい思いはさせない。すぐに逝くからまっていてくれ」
「そうなるわね」
獣人の愛情は深い。生涯を共に過ごした伴侶が亡くなれば、残された方も間を置かず後を追う様に死んでしまう。
私たちは半分だけど獣人の血が流れている。
やっぱりとても愛情深い。
私を失ったら、そう日が経たないうちにウィルも天に召されるだろう。
「心配しなくても大丈夫よ。あんたがくるまで私が一緒にいるから」
隣のベッドに寝かされているミアが言う。
もう命の火が消えそうだというのに声はしっかりしていて、こんな時でもミアらしいなぁと笑みがこぼれた。
双子だからといって死ぬ時まで一緒じゃなくてもいいと思うけど、どうやら神様は同時に迎えられるらしい。
「そりゃあ安心だ。不埒なヤツがいたら埋めといてくれ!すぐに俺が片付けるから!」
「埋める土があるかしら」
「急がなくていいわよ。ずっとサラをとられてたんだから、死んだ時くらい返してもらうわよ。あんたは少しゆっくりきなさい」
「ムリだー!」
ウィルが言葉を続けようとした時、乱暴にドアが開いた。
「サラ!ミア!」
「「リアン、来てくれたのね」来られたんだ」
「遅くなってごめん!だけどなんでこんな急に?」
メリッサがすまなそうに言う。
「急でもないの。母さんたちに、心配かけるからおじさんに知らせるなって言われてたの。ごめんなさい」
「ごめんリアン、元気になる予定だったから」
「うん」
基本獣人は丈夫で、人族より寿命も長い。
私とミアも、リアンと同じ両親から生まれているから条件は同じじゃないかと思うけど、より強く獣人の血が出ているリアンの方が私たちより丈夫だし長生きできるようだ。
すでに両親はなく姉二人も先立ってしまうけど、リアンには獣人の伴侶がいるから大丈夫だろう。
「リアンいっぱいありがとね」
「エレナ様と仲良くね」
リアンは力なく首を振りながら、静かに涙を零した。
えぇぇ!!
そういえば、冷静沈着、出来る男と呼ばれているリアンも、小さい頃はよく泣いていたっけ。
こういう時って、子供の頃の思い出があざやかによみがえるのかもしれない。
「哀しくないよ。私たちは先に逝ってるだけだから」
「お姉ちゃんなんだから当たり前でしょ!」
「エレナ様と幸せに過ごしてから、ゆっくりおいで」
「しょうがないわね!」
ミアがリアンと手を繋いだ。
「ウィル」
「うん…」
私はウィルと手を繋ぐ。
あいている方はミアと繋いだ。
「メリッサ、後はよろしくね。
あー、楽しかった!みんなのおかげだよ。ありがとう!」
最後に声を張ってそう言うと、私は目を閉じた。
疲れたぁ!
疲れる程精一杯生きたぞ!やりたい事をやりつくして天寿を全うしたぞ!
私は心地よい疲労感で、眠りについた。
◇◆◇◆◇◆
母さんたら満足そうな顔をしちゃって…。
母らしいなとその顔を見ていると、突然小さな歌声が聞こえた。
父さん?!
一瞬色んな事を心配したけど、声はしっかりと綺麗な曲を紡いでいる。
「綺麗なメロディーだね」
歌を邪魔しないように小さく言うと、歌い終わった父さんも小さく答えた。
歌といっても歌詞のない、鼻歌みたいな音だけどね。
「俺が子供の頃、母さんが…、おまえたちにとってはお婆ちゃんだな。が、亡くなった時に、サラが歌ってくれた歌だ。言葉は分からなかったけど、ずっと忘れられない大切な曲だよ」
「そうなんだ。とてもいい曲だね」
メリッサ…
母さんの声が聞こえた気がした。
父さんを頼むわね
任せてよ!たぶん短い間だろうけど、母さんのところに行くまでは私がしっかりお世話するからさ!
心の中で返事をすると、思わず微笑んでしまった。
眠っているような顔は、今にも歌いだしそうだったから。
数多ある物語の中から、目を止め読んでくださってありがとうございます。
このお話は途中から難産でした。何度お休みしようと思ったか。
でも休載してしまったら書けなくなる予感があったので頑張りました><
作者的には、何とか合格の作品になったと思ってます。
皆さまにもそうであったら嬉しいです^^
ブックマークがついた時はいつもとても嬉しいです!
誤字報告もありがとうございます!
もしも気に入ってくださったなら、次回作でまたお会いしましょう。




