14.5
◇◆エレオノーラ◇◆
王立学校には獣人の特待生制度で九歳で入学した。けれど早く正式な騎士になりたいわたしには一年でも少ないくらいだった。
焦るけれど王族が規則を破る訳にはいかない。
その分、王宮でも鍛錬する。
入学して最初は基礎の訓練だ。これは毎朝こなしているものよりも軽くて全然物足りない。
だけど王族が集団行動を乱す訳にはいかない。
基礎は大事だと大人しく皆と同じに訓練をする。王族は色々我慢が多いのだ。
一月もたつと、やっと手合わせが始まった。
最初は女子と組まされていたけれど、力の差を見た教官が、わたしを男子の方に移した。
十歳くらいの子供では男女でそう体力差はない。それより獣人と人との差の方があるだろうに…。
しかも女子の方と同じく、いや男子の方がより遠慮しているように思われる、皆全力でこないのだ。
全力できたっておまえたちに後れを取るような鍛え方はしていない。しっかり向かってきなさい!
「手加減は無用。授業です。本気で向き合いなさい」
「はい!」
皆、はいと返事をするだけだった。
仕方ないと思うしかないのか…。
貴族は縦社会だ。王族であるわたしに本気で向かう者はいないのかもしれない。
ガッカリしていたら、庶民クラスから本気で打ってくる者が現れた。
貴族の意識より平民が王族を敬う意識の方が高いだろうに、授業では一切手を抜かなかった。
それがウィルとリアンだった。
銀狼か…。
雪豹のわたしと同じく、希少種の銀狼は強く気高い。
希少種なのに二人もいる事に、同じ年に生まれた幸運を感謝した。
わたしは三番目の王女として生を受けた。
下に妹が一人、二人の姉の上に三人の兄がいる。
アケルは獣人族と人族が共存している国だ。
比率的には獣人族と人族が四対五くらいだろうか。残りの一割にはその他の種族がいる。
アケルの王は代々獣人族と人族から一人ずつ伴侶を得る。
生まれた子はどちらの種族でも上から王位継承権があたえられる。一番上が女性なら女王になる。そうやって国の平和を守ってきた。
わたしと妹は獣人族の母から生まれた。姉二人は人族の王妃から生まれた。
王妃や王配の地位は同列で、身分や後先で正妃や則妃という風にはならない。
王位を狙う物騒な事も、この制度になってからおきてないと聞く。
王族には珍しいかもしれないけれど、家族仲はいいと思う。
わたしと妹は、姉二人をお守りするために護衛騎士になろうと誓いあっている。
だからわたしは半端な気持ちで騎士になろうとしているのではないのだ。
この五年間で、しっかり騎士団に入れるだけの実力をつけるつもりだし、そうできるだけの力もあると自負している。
それなのに皆、わたしを姫扱いして本気でかかってこない。
わたしが王子だったら違ったのだろうか?
そう思うと悔しかったけれど、そんな事は表に出さず、何事もないように授業を受ける。
王族は本当に我慢が多い。
諦めずにいれば道は拓けると、前騎士団長が言っていた。
その言葉は本当になった。
きっかけはウィルとリアンだ。彼らが力を抜かず打ってくるのを見て、だんだんと他の者も力を抜かず向かってくるようになったから。
誰だろうと負けぬがな!
強く美しいウィルとリアンはいい。
銀狼の血のせいか、必要以上にへりくだる事がないのもいい。
我ながら子供っぽいと思うけれど、一番のお気に入りにしたいと思うようになっていた。
わたしにはそれが許される身分があったし、皆はそれを望んでいた。
望んでないのは、わたしがそうしたいと思ったウィルとリアンだ。
皆が望む王族の側近という地位に、なんの魅力も感じていないようだった。
それから、話の中によく出てくるサラという女の子に嫉妬した。
どんな平民なのか見に行くと……
今まで周りにはいないタイプだった。
一言でいうと、脱力させられるタイプだ。
真っ向勝負にならず、これは挑むだけムダだと思う頃には惹かれていた。
面白い子だ。毒気がないのもいい。歌もいい。
幸いあちらもわたしを好きなようだ。
不本意ながら、生涯の友となった。
サラの双子の妹のミアとも。
ついでにいうと、リアンとも。リアンはちょっと違うか。
でもまぁ、そんな風にして平民の友が出来たのは、学校に入って一番良かった事だと思う。
ついでに。後の伴侶も得られた事も。
◇◆庶民クラス魔法科の男子◇◆
庶民クラスから魔法科男子は二人しかいなかった。女子は三人。しかもクラスのミアがいる。
俺たちは五年間馬車馬のように働かされた。
まぁ、おかげで魔法使いとして十分すぎる力を持つに至れたんだけど。
俺たち魔法科の五人はとても仲が良かった。
元々クラスの仲もいい。
サラと同じ魔法科になれた事は密かに嬉しかった。ミアが一緒だったとしても。
二人は同じ顔なのに纏う雰囲気は全然違っていた。
サラは優しくて可愛い。
クラスのほとんどの男子がサラをいいと思っていたと思う。
ミアの名誉のために言うと、ミアもとても綺麗な子だ。モテ具合でいうならミアの方がモテていたと思う。ただし庶民クラス以外で。
そんなサラだけど、俺たち男子を異性と思ってない感があった。
俺には姉ちゃんが三人いたからわかる。あれは弟や子供を見る目だ。告白してもまったく取り合ってもらえないだろう。
玉砕間違いなしの賭けに出る程神経は図太くなかった。
俺は、いいなぁと思っている何人かの男子の一人として五年間を過ごした。
俺が告白しなかったのには、もうひとつ理由がある。
魔法科のもう一人の男子、ギルがサラを大好きだったからだ。
馬車馬のように働かされたとはいったけど、まさにギルはわき見をしないよう目にカバーをかけられた馬のようにサラだけを見ていた。
ギルを応援する気持ちもあったけど、まったく脈のない感じに、やんわり諦めさせる方向を向かせたりもした。
俺にはあの熱量はない。
俺はサラに親切にされたり、優しくされたりするのを受け取って、ほんのり温かい気持ちになるくらいで満足だった。
庶民クラスもだけど、魔法科はすごく充実していた。
王立の学校に入る事は庶民にとって一獲千金の成功物語だ。優秀な成績で卒業して国に勤める事が出来たら将来は安泰になる。
王都育ちの俺は、じつは小さい頃から騎士に憧れていた。
なれるものならなりたいと、近所の悪ガキたちと棒を振り回していたものだ。
それなのに、魔力がある事がわかって魔法科の入学になってしまった。
まぁそうだよな。騎士になれるほどの特殊な能力も、獣人のような身体能力もないもんな。
魔法だってよくわからなかったけど。
だけど学んでいくうちに魔法も面白くなっていった。
学校生活での一番の思い出は、二年生からの学祭での魔法発表だ。
俺たちは前代未聞の、二年生で全学年で二位、三年生からは一位の評価をもらっていた。
これはここ何十年で一番優秀といわれていた四つ上の先輩でさえ成し遂げなかった快挙だ。
この思い出だけで一生美味い酒が飲める。と思う。
他は知らないけど、このメンバーでよかった。
できない事をがんばってできるようになったり、知らない事を知ったり、教え合ったり、五人で助け合って、認め合って、競い合った。
最後の学祭では、打ち上げ花火というものをやりとげた。大げさでなく、やりとげた。
終わった後は魔力がごっそりなくなって、しばらく動けない程だった。
まったく、サラはどこからあんなものを知ったんだ?
魔法は想像力と技術だけど、俺とギルの火力のすべてを出し切った。
おかげで奇跡のような美しい大輪の火の花を咲かす事が出来た。これはかなり自慢だ。
毎年聞くサラの歌は、何を歌っているかはわからないけれど、いつも勇気や元気をくれる。
今年は二曲目が特に身に沁みた。
何を言っているかわからないっていうのにな。
でもそれで花火をやりきれたんだ。
何故かその時の思いがずっと残っていて、国境沿いの砦勤務の内定をもらった時も不思議とやる気になった。
自分でもわからない、答えがわかりそうでわからないこの気持ち。
それは卒業してそれぞれの道に進む時に、サラに言われてわかった。
「ずっと諦めてなかったでしょ?手を握ればわかるよ、ウィルと同じだもん。
魔法剣士なんてカッコいいじゃん♪」
そうか!騎士として足りない部分は魔法で補えばいいのか!
諦めきれずに毎日体力づくりと素振りをしていたのを知られたのは恥ずかしかったけど、道が拓けた。
ありがとう、サラ。
俺は魔法剣士と呼ばれるようになったぜ。




